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第5話 今日から俺も勇者パーティー

「さぁ、冒険に出かけよう!」


 朝、世間はすでにいそいそと身支度を整え、ある人は満員の箱に詰められ、ある人は夜明けとともに仕事を終え、ある人はヒゲを剃り、ある人は俺のようにトーストを食べている。

 そんな、スズメの鳴く声が似合うこんな時間に寝ぼけたことをいう女が一人、俺の部屋で両手を腰に当てながら意気揚々とそんなことを叫んでいた。


「あっはっはっは! さぁ、冒険に出かけようか!」

「あぁ、人生って冒険の連続だって、確かじいちゃんが言ってた」

「はぁ……転入生A。お前という奴は、そうやってパンにマーガリンを塗るような人生しか送っていないから、素敵な冒険ライフに胸を躍らせることができないのだぞ」

「お前みたいにパンにジャムを瓶一本分ぶちまけて食うのが冒険っていうのなら、俺はごめんだ。どうせならパンに何も塗らないで咥えて走って街角でぶつかってくれるくらいの冒険がいい」

「ほう? 変わった冒険がしたいのだな……ん? それは昨日したではないか。私と」


 ――あー……そうだった。パンは咥えてないけど、街角でエンカウントしたんだった。

 というか、何でこいつはこの街にいるんだ……?

 どこからどう見ても日本の……というより、ファンタジー系の漫画とかアニメで見かける服装なんだが……。


「なぁ、質問していいか?」

「何だ? 私のステータスに関する質問以外だったら答えてやろう」

「ステータスはどうでもいいんだけどさ……ニビキングダムって、どこにあんの?」


 女勇者は頬張っていたパンをモグモグしながら、両目を右上や左上に向けていた。途中、少し咀嚼する動作が止まったかと思いきや、再び咀嚼を始めた。

 口に入れていたものをゆっくり飲み込むと、再びパンにかじりつく。

 今度は両目を瞑って、「ん〜……」と唸りながら咀嚼している。

 それを再び飲み込むと、「わからん」と言ってのけた。


「はぁ? やっぱりデタラメ言ってるんじゃないだろうな?」

「いや、ニビキングダムからきたのは本当だ。だが、どうやってここまで来たのか……それがさっぱり思い出せんのだ。気がついたらこの街の街角でお前とエンカウントしていたのだ」

「それって、まさか次元を超えてここに来たとか、そういうんじゃないだろうな?」

「はっはっは! まさか、おとぎ話じゃあるまいし!」


 ――お前が一番おとぎ話みたいな格好なんだよ!


 そんなわけで、今日は学校も休みということもあり、仕方なく女勇者と冒険という名の散歩に出かけることにした。



  ◇



「それで、行くあてはあるのか?」

「そうだな……先ずは街で薬草とか装備を集めたいな。そのあとは手頃な洞窟にでも行って山賊あたりを懲らしめに――」

「待て待て待て! まずこの街には薬草などというものは売っていない! そんで手頃な洞窟などもない! 山賊なんて何百年前にいなくなってるよ!」

「そんなはずはなかろう! 街といえば道具屋だ。む、あの緑色の看板の店なんかそれっぽいじゃないか」

「いや、あれはコンビニ……」


 勇者は臆面もなく7の数字で有名なコンビニへと足を踏み込んで行った。


「いらっしゃいませ〜」

「すまんが、ちょっと尋ねても良いか?」

「何なりと〜」


 うわー……やっぱり直接店員に話しかけに行くスタイルだ……。

 こいつにはこの世界のルールとか、常識を教えることから始めないと俺まで厄介な目に合いそうで怖い……。

 まぁ、一度は手痛い失敗を味わうのも勉強だよな、うん。

 俺はことの成り行きを見守ることにした。


「この店に置いてある薬草を買いたい」


 やべー……やっぱり店を出ておこうかな……連れだと思われるのも恥ずかしいんだけど……。というか、冷やかしだと思われて警察とか呼ばれないよな……?


「あぁ! お客さん、ちょうど良い薬草が入荷したところだったんですよ!」


 ――な、何ぃ!? 薬草……だと……!?


「おぉ、やっぱり置いてあるのか。今手持ちが少なくて……3つばかりもらえるか?」

「かしこまりました。こちらが、薬草3束でございます」


 ――どう見てもホウレン草じゃねぇか……!


「24ゴールドで足りるか?」

「はい、ちょうどですね〜ありがとうございました〜」


 ――いや、いいのか、それホウレン草だぞ……? というか、何でここの店員はこの不審者勇者に合わせてんの……?


「待たせたな、転入生A。なかなか新鮮な薬草が手に入ったぞ」

「お、おう……よかったな。それ食ったら、回復するのか?」

「当然であろう。本当は茹でたり炒めたりしたほうが美味いのだが、それだと回復効果が落ちてしまうのだ。仕方ないので水洗いして刻んだやつに豆を発酵させて絞り出した汁をかけて食べるしかないのが難点だな」

「いや、それただのお浸し……」


 こいつがどこまで本気でどこまでふざけているのかがさっぱりわからなくなって来たが、冒険はまだ始まったばかりだった。

 とにかく、変なことには巻き込まれないことだけ気をつけよう……。

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