第4話 今日からこいつは同居人
「なぁ・・・転入生Aよ」
「どうした、不審者A」
「む・・・不審者というなと言っただろうが! 無礼者! 無礼者Aめ!」
「はぁ・・・わかったよ。で、何?」
一体全体どうしてこうなったのだろうか。
状況は一層混乱を極めているのだが、誰か説明してくれ。
小学生にもわかりやすく、一言で教えて欲しい。
俺は、転入してチヤホヤされたいだけの男だ。
転校することにより新しい出会いを求め、そこから更に転校することによって別れ難い女子からの告白を待つシャイな男だ。
それが、どういうわけかよくある街角でのエンカウントを決めたところまではいいが、こんな変な格好のやつを相手にカップルをしなきゃならなくなってしまったのだ。
・・・いや、しかしこれは逆にいうとチャンスか?
まぁ、見た目は本当に美人に違いはないわけだし、頭の中はちょっと残念だけど、服装から常識からしっかりと教えこめばこいつもまともになるんじゃないか?
「今日はどこの宿屋に泊まりに行くんだ?」
――そんな考えをしていた時期が俺にもありました・・・。
や、宿屋・・・だと・・・?
そ、そ、それってあれか・・・?
つまりあれだよな・・・ホ・・・ホテルってことか・・・?
ヤベェよコイツ・・・まともじゃないと思っていたけどここまでだとは・・・。
「勇者様・・・」
「ん?」
「まともじゃなくて・・・ありがとう」
「は?」
◇
「なんだよ・・・帰る家がないだけならそう言えよ・・・」
「いや、普通宿をとるとはそういうことだぞ? そもそも私は瀕死なのだから、宿屋にいかなければ回復できんだろう愚か者A!」
「そもそも! この世界のどこに宿とかホテルとかに宿泊してHP回復しようって発想があるんだよ! っていうか、お前この世界の人間なの?」
「この世界にいるんだから、この世界の人間に決まっているだろう、馬鹿者A」
「この世界の人間なわけあるか! 普通の人間はHPゲージなんかねぇよ!」
「ふむ? じゃあお前のその上に浮かんでいるのはなんだ?」
「・・・え?」
「え?」
そういえば、いつの間にかコイツのHPケージが見えるようになっているし、俺のHPケージも浮かんでいるのが見えるようになっている・・・!?
っていうか、あれ・・・?
「俺のHPケージ、なんか緑色なんだけど・・・」
「うむ・・・どうやらお前は状態異常にかかっているようだな」
「状態異常!? 俺そんな状況になってたの!?」
「ふーむ・・・どれどれ・・・」
「あ、あの・・・まじまじと見つめられると俺、緊張しちゃう・・・」
「ふむ? 何かよくわからんが、どうやら毒状態のようだな」
「毒!? やばいじゃん俺! やばいじゃん俺!!」
「なーに、心配はいらん。私と共に教会か宿屋に行けば一晩で治るぞ」
「治んねぇよ! 普通病院か医者なんだって!」
「お前の毒は医者では治らんぞ」
「え? なんで?」
「そ、それは・・・だな・・・」
「・・・?」
「こ、孤独という、毒だ・・・独り身で寂しかったのだろう? どれ、私が共に夜を過ごしてやろう。いっぱい語ると良い。あと枕投げな」
「いや、ありがたいような迷惑なような・・・」
「それで、この辺に宿屋はあるのかという質問の返答がまだなのだが?」
「宿屋っていう名称のはねぇよ。あるのはビジネスホテルとかだろうけど?」
「ほう・・・そこは何ゴールドあれば泊まれるのだ?」
「ゴー・・・ルド?」
「あぁ、これだ」
そういって、女勇者は革製の袋を取り出した。
ジャラジャラと音がしているが、そんなに入っているようには思えない。
よくて100ゴールド、少なく見積もっても70ゴールドくらいだった。
・・・っていうか、ゴールドって何?
「いいか、落ち着いて聞け。その金じゃどこのホテルにも泊まれんぞ」
「なんだと!? いや、落ち着け。何も高級なところじゃなくて良いのだ。受付とその奥に扉があって、ベッドが一つでも二つでも並んでいるようなところで良いのだ」
「いや、そんな宿屋この世界に存在しないから。そもそも高級とか安宿とかそんな話じゃなくてだな・・・その金が使えないの」
「な・・・んだと・・・」
女勇者はその場に崩れ落ちた。
その姿は誰の目に見ても落ち込んでいるように見えた。
「あぁぁぁぁぁ!! 私はどうしたら良いのだ!! HPが回復できないなんて、街から出た途端スライムにすらやられてしまうではないかぁぁぁぁぁ!! 」
「落ち着け! 大丈夫! この世界にお前を攻撃してくるスライムはいないからな。それに、街を出てもすぐ隣の街だから。フィールドマップとかないから」
「・・・泊めろ」
「・・・は、はい?」
「転入生A・・・お前の家に泊めるのだ、いや、泊めてくださいお願いします」
「はぁ!? なんで俺の家に泊めないといけねぇんだよ!」
「ふふふ・・・よもや貴様、私が弱みを握っていることを忘れてはいないだろうな? ん?」
「この野郎・・・勇者のくせに生意気な・・・」
「さ、わかったらお前の家に案内しろ! そこでこのHPは回復できるし、お前の寂しがりやのぼっち毒も解毒できるだろうが」
「・・・仕方ねぇな」
とはいえ、俺の心拍数は肋骨を突き破りそうなくらいの勢いであった。
こんな変な奴であるとはいえ、女子を家に招き入れた経験など俺にはなかったからだ。
そして、今は転校を繰り返しているため一人暮らしでもある。
今夜は・・・眠れそうにないぜ・・・!
「じゃあ、これからしばらく厄介になるが、触ったら八つ裂きにするからな」
「え・・・?」