Ⅱ 失敗
短めだけど許して......
「あさ」
いつもの習慣で6:30に起きた俺は木で出来た窓を開け放つ。
少々肌寒い風が窓から入り込んでくる。高所特有の薄い空気と植物の青臭い匂い、雪が積もった山から日の出が見れる光景。なんとも素晴らしいんだろう。と思っていたら窓辺に植えられている花の匂いだった......
そりゃあそうだろう。ここ、二階だし。近くに木々も無いのに植物の匂いがする訳がない。赤い花だ。開花時期は過ぎて花びらは萎んでいるが......たしかゼラニウムだっけか?そんな感じの名前だと師匠から教われた。
まあ、そんな勘違いした話は置いておいて、今日はここの冒険者組合に顔を出そう。色々情報も知りたい。
朝食に具たっぷりのホワイトシチューが出てきたから値段が高かったことは赦そう。美味い。
さて、この街の冒険者組合の所まで着た。三階建ての良い雰囲気を醸し出す木製建造物だ。剣とドラゴンが交わっているマーク、冒険者の印が書かれたプレートが吊るされているからとても分かりやすい。
入り口のドアを潜ると広いロビーになっていた。二階が吹き抜けとなっており開放感がある。
まずはカウンターに居る茶色の組合員制服を着た青年に話しかける。
「はじめまして、お求めは近辺の情報ですか?それとも仕事の斡旋ですか?」
彼は俺が迷い無く近づいたのを見て接客(?)を営業スマイルで始めた。
「近辺のモンスター情報と路銀稼ぎをしたい」
路銀はまだ沢山あるから大丈夫そうだがなにせちょっとお高めのホテルに泊まったから懐と心に余裕がない。金の大切さは体に染み付いてるからどうしても焦ってしまう。
そう言って銀プレートをカウンターに置く。彼はそのプレートを持って「少々お待ちください」と言ってカウンターの奥へ行った。
組合内は別に騒がしい訳でも静かな訳でも無い。新人らしき5人パーティが任務表とにらめっこしながら相談している事やそれを酒場で見守る先輩冒険者など、様々でここが治安の悪そうなギルドじゃなくて良かった......と胸を撫で下ろしていると組合員の青年が数枚の羊皮紙を持って戻って来た。
「お待たせいたしました。こちらが付近で活動される金プレート冒険者が書いた地図とモンスターの情報です。そしてこちらが今出ている依頼書です」
資料にざっと目を通す。知らないモンスターはいなさそうだ。そして依頼書を見ると薬草の採取、黒山羊狩り、地層調査等々......
「じゃあ、黒山羊狩りを受注します」
そう言うと青年はニッコリと笑って
「ありがとうございます。最近増えてきて遊牧業をしている方々から困っていると言われたので沢山狩っていただけると幸いです。肉は別で高く買い取りますので沢山お願いします。実力は大丈夫のようですのでお気をつけて。良い冒険を!」
と言った。
冒険者組合を後にする。どうやらルールやら冒険の挨拶やらは他の国の冒険者組合とあまり変わらないようだ。
町を出て草原を歩く。高山だからか木はまばらにしか生えてないし、トレントはもっと標高が低い所に生えるから安心して日向ごっこ出来る。というか現在進行形で誰かが木の下で三角帽子を顔に置いてすやすや寝てる。
そのまま横を通り過ぎ歩く事体感約4km、山の崖の様なところに出た。ところどころ岩が出っぱっていて、その上に草がまばらに生えている崖だ。そしてその出っ張りの非常に狭い足場の上に黒山羊が10匹くらいいた。
黒山羊、見た目は山羊の黒いバージョン。しかし山羊より正確が凶暴で頭に生えている二本の巻き角と山羊より強い脚力で腹を刺してくる。その破壊力は厚さ50ミル(mm)の鉄板をも貫く。はっきり言って体に当たったらマナで強化しても穴が空く、ヤバい奴だ。
......しかしそれも銅プレートまでの話で銀プレートからはただの路銀代だ。
早速黒山羊達が俺を見つけて6匹がメェメェ言いながら突進してくる。
「おいおいまじか。全員掛かってきても良いんだぜ?」
そう言って足から錬成術式を地面に流し込む。まさか慣れ親しんだ自分たちの足場、ある筈の前方の足場がいきなり消えてしまうとはびっくりするだろう。勿論消したわけでは無い。変形させて崖に引っ込まさせたのだ。黒山羊達は纏めて訳もわからず崖の底に落ちていった。
「......あっ。部位証明の角どうしよう。やっちまった」
俺はその場で頭を抱え、うずくまった。