1、序章
初ハイファンタジーです。お手柔らかに生暖かい目で見てやってください。
〜ローカスの日記〜
前書き
ふと思い付いたが吉、日記を取ろうと思った。この日記帳が埋まったらどこかに遺すかあげるつもりだ。だから誰かに見てもらう為に話し口調で書く。尚、日記は読まれる為に書くものだ。俺はそう思っている。日記という物はどうせ隠しても親とか友達などにバレるし、恥ずかしいから燃やすのならなんで書いたんだって話になる。そんなに見られるのがイヤなら頭の片隅にでも刻み付けておけ。なお異論は大いに認める。
大崩壊から約700年、新構築歴748年9月12日
俺は今、隣国へと続く汽車に乗っている。
窓から見渡す限りの草原と所々せり上がっている地盤が見える。そして雲一つ無い空にポツンと浮かんでいる浮島、そこから滝が流れ落ち、虹を作っていて、。その下に湖が見える。
せっかくだからここにその写真を貼ろう。
話が逸れたな。いや、そこまでは逸れてないな?まあいい、俺はカメラを片手に旅をしている。この美しく幻想的なファンタジーな世界を写真に収め、記録する為に。
...これから行く国の話をしよう。
これから行く国の名前はアルデイル王国、この大陸で3番目くらいに小さい国。大陸の中心に位置しており国の北と南に山脈があり、それに挟まれていることが特徴だ。国全体の標高は高く、平均1000mはあるそうだ。 そして山脈の頂上からが隣国との境界線だ。国境とも言う。
国民の3割が遊牧業を行っており、チーズやラム肉、あとは蒸留酒が美味いそうだ。
先ずはツェアマット駅という駅で降り、市内散歩と行こうか。名物料理にも興味がある。
ツェアマット:標高1600m、人口約2000人。カラマツで建てられた木造建築が独特。ロマンチックで静かな村らしい。観光名所となる山の麓にできている。
その後の予定は...まあ、なんとかなるさ。気ままに旅をしよう。時間はたっぷりあるんだ。
...さて、そろそろ眠たくなって来たから駅に着くまで一眠りするか。
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俺は今日の日付を書き終えノートを閉じ、鍵をかけバックに入れる。
そうこうしていると前の方から子どもの騒ぐ声が聞こえてくる
「ままぁ!見て!あれ!島が浮いてる!!!」
「全く...はしゃいじゃって...あれは浮島って言うのよ」
「へ〜。ねぇねぇ!なんで浮いてるの?」
「さ、さあね...私には分からないわ。ねぇアナタ、なんでか分かる?」
「ん、あれは風のマナクリスタルが島の底に付いててそのまま地面ごと浮かしてしまうからなんだよ。」
「う〜ん。わかんない!」
「おまえもいずれ分かるようになるさ」
と、そんなほのぼのとしたやり取りが聞こえてきた。
浮島、俺はLaputaと呼んでいる。別に太古の超破壊兵器では無いし、大樹が島中に根を這っている訳ではない。別に旅をしてるとそこそこ見れるくらいには珍しくは無い。でもその子の目には珍しく映ったのだろう。確かに滝の様に流れる水が創り出す虹は幻想的で綺麗だ。
隣に座るエルフの女性は持っていた知恵の輪を解き、「なんだか楽しそうだね」と言ってこちらを見た。
まさか回想(?)シーンでいきなり話しかけられるとは思わなかった...っていうか何個解いてるんだ...?10分で違う種類のを7個は解いてるぞ...これで8個目...まじか...
「そうですね、はしゃぐ気持ちは分かりますがもうちょっと音を下げて貰えば...」
と素直な気持ちを伝える。子どもはあまり好きでは無い。
「子どもにそんな難しいこと言っても駄目でしょう。私の子も大きくなってるのにあんな感じですから。」
と言いながら苦笑いをする。それに釣られ、こっちも笑う。
「そうですか...子を持つって大変ですね」
「あら、そうでも無いわよ?小さい頃は本当に可愛いの!分かる?」
いや、そんなこと言われても...
「ハハハ...そうですね...」
取り敢えず愛想笑いで誤魔化した。
ガタンゴトンと揺れている振動と風がが気持ちいい。煙が汽笛から吹き、プーーーと音を立てる。
「それでね、あの子ったら本当にもう!愛想があったのに「ボクはアトリエを持つ錬金術師になって有名になる!」って言って飛び出したの。今では立派なアトリエの店主なのよ!」
アトリエ...優れた錬金術師はアトリエという工房兼店を持つ。規模は大きいのもあるし小さいのもある。中には沢山のアトリエを持ち、弟子に貸し出したりするオーナーみたいな錬金術師も居たりする。...勿論錬金術で作る物は大変危険だったりする物もあるからそれを安心して守れる信頼が師弟に無いと駄目だが...
「ん?お子さんは錬金術師なんです?」
「そうなのよ。意外と名が通ってるって言ってるけど本当かどうか分からないのよね...」
「ハハハ...」
錬金術師の世界は厳しいのだ。特に部位修復薬が出回ったここ10年あたりは...きっと親御さんを傷付けたくないと思ってそれっぽい事を言ったのだろう。錬金術師の端くれとして同情する。可哀想に...強く生きて。
その後他愛の無い会話をしてると道が見えてくる。それに沿って畑や農家の人、山羊を放牧している羊飼いやら、汽車がもっと進むと町が見える。
キィーーーーーーーーー!!!
そのまま汽車に揺られ10分ほどした辺りで大きな音を立て速度が落ちる。
汽車が止まり程無くしてベルからけたたましい音が鳴り響く。
「お降りの方は荷物の取り忘れにご注意ください!本日はジャックス総合交通機関をご利用していただき、ありがとうございました!またのご乗車をお待ちしております!
ご乗車の方は3分で発車します!速やかにお乗りください!」
踏切で駅員と見られる制服を纏った青年が人のざわめきに負けないように大声で叫ぶ。
「...結局寝れなかった。」
あのエルフの女性に挨拶を告げ、汽車から降りる。彼女の目的地は2つ先の駅のようだ。名前も聞けずに挨拶したが...これも一期一会ってな。
歴史の感じられる赤レンガで出来た駅の壁をぼんやり眺めながら歩道橋に向かう。
ふと、かの有名なイギリスファンタジー小説を思い出す。
「...これって走りながら壁に突進すればすり抜けて裏世界に行けるんじゃ?...ハハハ...そんなまさか...え?大丈夫だよな?」
凄く気になる。けどそんな仕掛けを施した所で何が...と思ったがやめておこう...これでただ壁に突進して壁にぶつかるただのやばい人だと思われる。
などとくだらないことを考えながら駅を出る。
蒼い空、高所独特の少し薄いが新鮮な空気と共に屋台から漂ってくる鼻孔をくすぐるベークドポテトの匂い。駅に面している大通りにはレストランやらお土産屋、服屋など...道行く人はポンチョのような物を被っている人、更にファッションなのかは知らないがひし形の独特な民族衣装の模様がある服を着たものも居る。
「号外号外!エルのダンジョンに都市壊滅級スタンピートが発生!ソロ白金プレートの冒険者、ルーク=マルクスが偶然その場に居合わせ被害なしに食い止める!!!これにより金剛石プレートに昇格とグランドマスターが正式発表!!!」
駅を出て直ぐに探偵服(?)を着た少年が新聞を持って売り出していた。商売魂逞しいな...人が駅から沢山出てくる昼頃を狙ってる。コイツ...やるな!
などと勝手に舌を巻いてた。
スタンピート、ダンジョンがある所では数年に一度おきにモンスターがあふれ出ること。規模、期間、モンスターのレベルはダンジョンによって違い、共通して言えることは大災害の一種だと言う事。都市壊滅級をソロで食い止めるとか並みじゃない。相当やばい人だ。
因みに活版印刷は普通にある。大陸全体の文明レベルは19-20世紀の近世ヨーロッパくらいかな?
ただ、ここは地方都市。まだ上下水の管理もされていない様に見える。歩道は整備されているが街灯はまだ立っていないようだ。
モンスターは高山ならあまり出ないと思われるが標高が高いとグリフォンとかヒポグリフとかが偶に出て家畜を拐って行くから必ずしも安全だと言えない。G?あいつらはどこにでも居る。台所の恐怖と共に駆逐するぜヒャッハー。的な狩人ギルドと冒険者ギルドがなんとかしてくれると信じよう。(偏見)うん。探索者ギルド?そもそもこの町にダンジョンは無いから建ってない。
そんな事を考えながら一等地っぽい他より高い所に建っている宿屋にチェックイン。なお値段は少々高かった...
「うぉ...寒い...」
真夜中、読んでいた魔導書を閉じ、備え付けの持ち運びランプとカメラを両手に木製の窓を開け、顔を出し空を見上げる。
ソラは満点の星空。月は2つ、白色の黄色っぽい月、真っ白で幾何学模様が表面にあり、大きく見える月、そして遠くに見える紫色の銀河。ソラ全体を覆い尽くすほどの星々。時々落ちてくる流れ星、それらが視界の周りを囲うような山を明るく照らす。
パシャリ
何も言わず、只々感動し、その光景に酔い痺れながら俺はカメラのシャッターを押した。