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チート異世界からやって来たのじゃロリ魔皇女がぽんこつ過ぎて俺の嫁ぐらいしか出来ることがありません。  作者: 村岸健太
鮒月村の人々と、チート世界からやって来たのじゃロリ魔皇女
3/38

こんなクソガキと結婚しろだなんて、えっ、俺の人生、不幸過ぎ……?

 暁李が四階の自室で着替え、三階で暮らす尊・朝陽の兄弟が食事と入浴を済ませることになっている二階の清継の部屋に降りて行くと、レヴィルヴィアは食卓で猛然と食べている真っ最中。「貴人」の範疇にとどまらないワイルドな姿だった。飴色の白熱球が照らす部屋の雰囲気は、少女一人の存在があるだけで、なんだか居心地の悪いものと化していた。

「うまい……、うまいのう……、これほど上等な鶏を食べるのは、いつ以来のことか……」

「お代わりあるから、遠慮しないで食べてね」

 いつも暁李がここへ着く時間には食事も風呂も終えている兄弟は、食卓で向き合う清継とレヴィルヴィアのやり取りを興味津々に観察している。

「キヨと申したか。そなたは、麗しいだけではなく料理も上手いのじゃなあ」

「俺一人で作ったんじゃないよ、朝陽も手伝ってくれたんだ。……暁李もお腹空いてるでしょう、座って」

 朝陽が反応よく立ち上がり、暁李の茶碗に飯をよそう。「暁李くんの椅子……」と呟いた少年に、「レヴィルヴィアの隣でいいよ」と清継が促す。本来暁李が座るところを、レヴィルヴィアが占領しているのだ。

 主菜は鶏の照り焼きである。それに、ポチ菜のおひたし、豆腐の味噌汁。レヴィルヴィアが言った通り、清継は料理が上手い。高校時代に尊が「先輩が握ったおにぎりは神の味がした」と評した言葉を羨ましい思いで聴いた暁李は、まさか後年に彼の作った料理を口にする生活を送ることになるなどとは夢にも思わなかった。

 しかし、これは醒めることのない悪い夢である。

「レヴィルヴィアは、……さっき言ってた通り、違う世界からやって来たんだ」

 清継は暁李にいつもと少しも変わらぬ穏やかな声で言った。マジですか、と主に「そんな与太話信じちゃってんですか」という思いを込めて美しい顔をまじまじと見つめてしまった暁李に構わず、「そうだよね?  レヴィルヴィア」彼は暁李の隣に座った少女に訊く。んむ、とレヴィルヴィアは大いに満足げに頷いた。

「暁李が降りてくるまでの間に、簡単にだけど聞かせてもらった。ここではない、どこかとても遠い世界からこの子はやって来た。自分の住む国を守るために、人間の力を借りようと思って。……ごはんお代わり?」

「んむ」

 ソファに座りかけた朝陽がまた立ち上がり、「どれぐらい」と溜め息まじりにレヴィルヴィアに訊く。「はんぶんよりちょっと多いぐらい」という答えに応じて彼女の前に戻って来た茶碗は、よく見れば清継の普段使っているものだ。

 やっと最初の一口を飲み込んで、

「遠い世界って」

 暁李は努めて笑った。「そんなの、あるわけがないでしょう。先輩、だって……」

「そうかな、俺は信じたけど」

 清継はあくまで穏やかさを崩さない。「嘘をついてる顔じゃない。それは見れば何となく判るよ、……俺もたいがい鈍いほうだと思うけどね」

 尊がソファから立ち上がって、ベランダに出た。この部屋のベランダにはサンダルが二つあって、一つは当然部屋の主である清継が洗濯物を干す際に履くものだが、もう一つは尊が煙草を吸うためのもの。「寒ィぞ、お前は中にいろよ」と言われても、朝陽も一緒に出て行く。少年のためにも、二つのサンダルは好都合なのだった。

「国を守るって、何ですか」

 照り焼きで飯が進む。しかし朝陽が戻ってくるまでお代わりは控えようと思って、箸のペースを落としつつ暁李は答えをレヴィルヴィアではなく清継に求めた。

「この子の住んでいた国は『異世界』……、つまりこっちの世界からやって来た人間によって征服されたんだって」

 茶碗を空っぽにしたレヴィルヴィアは「さよう」頰に飯粒を付けたまま重々しく頷いた。

「あやつは……、憎たらしい『勇者』めは、突如として妾たちの世界へ姿を現した。妾の国の有能なる戦士たちを打ち倒し、あっと言う間に妾の父である魔皇から皇帝の座を簒奪したのじゃ……」

「この子がメイドさんの格好なのは、その『勇者』に命令されてのことらしい」

 しょんぼりとレヴィルヴィアは俯いた。何かのコスプレだと思っていたのだが。

「勇者めは……、とても、とても感じの悪いやつなのじゃ。顔色ひとつ変えずに妾の兵たちを吹っ飛ばして、『あれ、ぼく今なにかしましたか』みたいな顔をしよって……、妾に給仕の真似事などさせて……、あ、挙句、挙句には、妾を、この妾を、『お嫁さんにしてあげるよ』などとほざきおった……!」

 屈辱が蘇ったか、身に震えを走らせる少女の髪に、テーブルの向こうからひょいと左手を伸ばして清継が撫ぜた。「可哀想な子」と、彼の掌も声も美しい艶と優しさを帯び、自称「魔皇女」つまりは気位も高い態度もでかいレヴィルヴィアも、ごく素直にその指を受け入れていた。

「大丈夫だよ、こっちの世界にはレヴィルヴィアに嫌なことを言った『勇者』はいない」

「んう……。しかし、しかしのう、妾は、こちらの世界へ逃げて来たのではないのじゃ。あやつな対抗しうる有能な人間の戦士を連れて帰って、勇者の圧政に虐げられし民草たちを救い出してやらねばならぬ……」

 レヴィルヴィアの髪から手を離した清継は「君のお父さんは立派な皇帝陛下なんだね」と言った。うむ、と頷いて顔を上げたレヴィルヴィアの目は潤んでいた。

「父上は……、偉大なのじゃ。妾の国はとても小さい島で、……土地も痩せておる、作物もよう育たぬ。それでも、民たちが飢えぬよう、そして他国から虐げられることのないよう、民たちを教え導き、……そんじょそこらの国にはとても真似できぬ平和を築き上げたのじゃ」

 この言葉を下敷きに、……もちろん、言葉の中にひとかけらの嘘も混じっていないという難儀な前提に基づいて考えるならばの話だが、この態度のでかい食いしんぼうの心の中には、案外に無垢で純粋なものが詰まっているらしい。暁李は去年亡くなった父をこの上なく呪わしく思っているが、この少女が思うように父を尊敬出来る人生のほうが随分といいはずだと想像するのは容易かった。

 清継は、きっと暁李の心の中を完全に見通した上で、

「レヴィルヴィアは偉い子だね」

 少女に向けてあくまで優しく微笑むのだ。

 それが本気なのかポーズなのかは判然としないが、清継はレヴィルヴィアの並べた言葉を全面的に本気で捉えているようだった。煙草を吸い終えた兄と、その弟がベランダから戻って来る。暁李が想像するに、彼ら兄弟も戸惑いながらも清継のスタンスに身を沿わせるほかないと考えている。尊はここ十年ほどの習い性として、朝陽はもっと根深く、ほとんど物心ついたときから「あたりまえ」のルールとして。

 暁李自身はどうであるか。

「ねえ暁李、俺はこう思ったんだけど……」

 豊嶋清継という人は、背が低くて、痩せている。先ほどレヴィルヴィアが性別を確かめた通り、男の身体的特徴を間違いなく有している(はずだ)にも関わらず、いい意味でゆるく、滑らかな線で自身の輪郭を描かせている。恐らく、二十九歳の彼の相貌を見ても一目で男であると断定出来る者は少ない。それは彼の声を聴いて初めて定かになる。いや、その声だって男としては高く柔らかく、しっとりと濡れている。

 しかし、暁李にとっては彼の温和な言葉がとてつもなく怖い。

「この子を、助けてあげようよ」

 暁李の舌は痺れ、異論を唱えるどころか味を感じることさえ出来なくなった。恐らくは、……大いに親身になってレヴィルヴィアの素っ頓狂な物語に耳を傾けているところを暁李より少しだけ長い時間見ていたぶん、清継がそういう判断を下すことを暁李より明確に想像していたはずの尊が、それでも暁李には口に出来ない言葉を発した。「マジっすか……」

「うん、マジで。……想像してごらんよ、知ってる人が一人もいない国に一人ぼっちで、……でもこの子は来なきゃいけなかった。自分の大切な家族や、国の人たちのためにね。朝陽」

 よりによって、彼は朝陽に訊くのだ。自身の促した想像をしたとき、それを最も心細く思うはずの、十二歳の少年に。「朝陽は、尊が大変な病気をしたとして、……一人ぼっちで外国まで薬を買いに行くなんてこと、出来る?」

 言葉に詰まった様子もなく、「出来ません」と少年は首を振った。

 朝陽は粗野な尊の弟とは思えないほど頭のいい子である、そして細やかな気持ちの行き届いた子である。仮に「出来ます」と言い張ったとしても呆気なく言い包められることを想像しただろうし、それが正解なのだ。

 清継はにっこりと嬉しそうな笑みを浮かべて、「自分で言うようなことではないのは判ってるけど、ここにはそう悪い人間はいないよ。尊も朝陽も、君を見付けた暁李も、みんないい子たちだってことは俺が保証するよ。レヴィルヴィアがこの世界に疎いからって、良からぬことを考えるような子は一人もいない」

 清継は、とてもそうは見えないが二十九歳、暁李と尊は二十七であり、清継が朝陽を含め男たちを「この子」と呼ぶのは間違ったことではないのだが、レヴィルヴィアには彼が三人の男の母親のように思われたかも知れない。ただ彼女は清継の言葉を真に受けて目を輝かせ、

「では……、では、手を貸してくれるのじゃな、妾のために、妾の国のために戦ってくれると申すのじゃな……?」

 腰を浮かせ、身を乗り出す。「おお……、なんという僥倖か! これほど早うこの世界の人間の戦士にありつくことが出来るとは、転移魔法の印を結ぶときには夢にも思わぬ、さぞかし長く苦しき旅になろうと覚悟を決めておったが……、恩に着るぞ清継、尊に朝陽に、えーとあと、そなたは何と申すのであったか」

 当然のことながら、「異世界」なるものを、暁李はいまだ現実的には捉えられてはいない。その存在に対しても疑義を唱えたく思うし、まして、よく判らないが「勇者」なるものに対してレヴィルヴィアに求められるままに喧嘩を仕掛けに行くなどと、剣呑な真似をするつもりもない。いや、それは可能性の有無で話をすべきことである。中学の大半と高校のごく一時期を「鮒月の狂犬」の名を(ほしいまま)にしていた尊はどうあれ、暁李はこの歳まで人を殴ったことなんて一度しかない、朝陽に至っては一度もなかろうしそうあって欲しいと暁李は願う。

 清継がそういった点に関して少しも考えていないとも思えなかった。

「でもね、レヴィルヴィア、君に二つ、訊いておきたいことがあるんだ」

 彼の表情は一貫して和やかなままである。「一つ目は、『勇者』という、君の話を聴いた限りでは規格外の強さを持つ人物について。……俺たちは見ての通り、普通の、いや、普通じゃないように見えるかも知れないけどね、『ただの人間』だよ。尊は力持ちだし、空手も剣道もやってたけど」

 うむうむ、椅子に座り直し、「キヨはこう申したいのであろう、……そなたたちが勇者と対峙した際に、あれこれと怪我をするやもしれぬ、その責任は誰が取るのか」

「そう……、それもある。ただ、そもそもの話としてさ、俺たちの誰が行っても勇者を追い出すことなんて出来ないんじゃないのかなって」

「それについては心配無用じゃ。……あやつは妾にこう口を滑らせたことがある……」

 ぼくも、元いた世界では何の力もないただの人間だったんだ。こっちへ来るとき、力が欲しいと願って願って、そうして手に入れたのがこの身体なのさ。

「へえ。……『勇者』はレヴィルヴィアにそう言ったの?」

 興味深げに訊いた清継に、レヴィルヴィアはうむと頷く。

「つまりのう、妾と共にあちらへ飛び、強大な力を求めさえさえすれば、きっとそなたたちも強力な戦士となれる。そなたたちが力を合わせれば憎っくき勇者など一捻りじゃ、その点は安心してよいぞ」

 釈然としない話ではある。ただ清継はそこに立ち止まることはしなかった。

「もう一つ。……俺たちは、暇そうに見えるかもしれないけど、こう見えて一応仕事をしてるんだ」

「仕事? ……そこの、えーと、朝陽か、そなたも含めてか?」

「朝陽はこの会社の貴重な戦力だよ」

 ソファに収まりなおした朝陽の表情を窺うまでもない、まだあどけない柔らかさを残す頰に、誇りが紅く灯っているはずだ。

「会社、……というのは、人間が集まって何やら仕事をする場所のことじゃな。そういえばあの勇者も何やら、自分が会社の、……ええ、何じゃったか、いちばん偉い……」

「社長」

 清継の言葉を「確かそんなことを申しておったな」とレヴィルヴィアは認めた。

「『勇者』ってのは、こどもだったんじゃねーのか」

 尊が久し振りに声を上げた。

「そ、それを妾に問われても困る。ただ、妾はちゃんと聴いたぞ、あやつは、そうじゃ、何やらとんでもなく大きな会社の社長をしておったと……。む、む、あれは、何か、あやつの嘘であったのかのう……」

 清継はレヴィルヴィアに明確な答えは返さなかった。

「俺たちはとても小さな会社をやってる。……レヴィルヴィアはバスって判るかな」

「風呂のことじゃな」

「大勢の人をまとめて乗せて運ぶ車のことだ」

「それはつまり……」

「馬の力は借りずにね、……明日の朝になったら見せてあげる。君の隣にいる暁李は、俺たちの会社の社長だ。今日レヴィルヴィアがやってきたこの小さな村で、村の人たちのためにバスを運転してるのが暁李と尊、二人のお手伝いをしてるのが朝陽で、俺はお金の計算とか細かな事務作業とか、あとはこうやって、大切な社員たちのためにごはんを作ってる。……君は『大丈夫』って言ったけど、異世界に行って万が一怪我でもして、誰か一人でも欠けてしまったら、会社の経営は立ち行かなくなる」

 事ここに至って、ようやく暁李は理解に至った。何故清継がこれほどまでに親身になってレヴィルヴィアに応対していたか。無論、最初からこうするつもりではなかったろう。しかるに、この少女が「異世界の住民である」と言い張り、こちらに助力を求めてきた段階で、きっと彼は思い付いたのだ。

 この少女に、自分たちの仕事を手伝わせよう、と。

 非常識である。

「レヴィルヴィアが立派に俺たちの仕事を手伝うことが出来たなら、俺たちもレヴィルヴィアに力を貸してあげるよ」

「無茶ですよ、そんなの……」

 つい、腰を浮かせてしまった。言葉の途中ではもう、元通り暁李の尻は普段朝陽が腰掛ける椅子に収まっていたが。

「ンフフン、無茶なものか。妾を見くびるでないわ」

 レヴィルヴィアは相変わらず態度がでかい。万が一、この少女がストレンジャーであったとして、残りの「ではない」可能性を念頭に置いたならそれがどれほど問題のあることが。清継は表情を動かさず、視線もレヴィルヴィアに当てたまま、「刀根くんはもう寝てるよ」と暁李に向けて駐在の名前を出した。駐在のところへ行くなら明日の朝まで待てということであろうし、彼の元に何か変事の通報があったなら、終バス過ぎの時間であれ、村じゅう大騒ぎになっていよう。つまり、この村の誰一人としてレヴィルヴィアを探してなどいないのだ。

「そも、妾としても何らの見返りもなしにそなたらが戦ってくれるなどととは思うておらぬ。妾はそなたらの誰かを妾の婿にしてやってもよいつもりで来たのじゃ」

 真面目くさった訳知り顔でレヴィルヴィアはそう言うが、その実彼女が何一つとして解っていないことは明白である。ぎし、と兄弟の座るソファが軋んだ。清継はなお常温の微笑みを絶やさずに頷いて、

「じゃあ、暁李のお嫁さんになるといいよ」

 いつもと少しも変わらぬ顔で声でそう言った。

 暁李は声を失い、凍りついた。

「こやつと? ……むう、どうせ婿にするのなら、このような優男ではなくてもう少しばかり強そうな男がいいのう、そのほうが父上も喜びそうに思うたのじゃが」

 レヴィルヴィアの顔に平手打ちの一つでも食らわせてやっても構わないぐらいの権利を、この瞬間暁李は握っていたかも知れない。

「尊はまだ結婚するわけにはいかない、そうだね?」

 尊が頷く音が聴こえた。「尊は朝陽の面倒を見なきゃいけないし、俺には朝陽が必要だ。そして俺は、申し訳ないけど生涯誰かと結婚はしないつもりでいる。……それにね、暁李はとても強い子なんだよ」

 肯定も否定もしがたい言葉を並べた清継が立ち上がる。ほぼその音を聴いただけでソファから朝陽が飛び上がって、レヴィルヴィアと暁李の皿を片付けていく。食事は終わり、そして、この話もこれで終わりということだ。「尊、寝室の押入れに使ってない布団があるから、暁李の部屋に持って行ってあげてくれる?」

 尊も大げさな音を立てて跳ねた。「お、俺が? 先輩の部屋入っていいんすか?」

「ダメな理由がある? あとは……、服だね。レヴィルヴィアは着替えを持ってきてないのかな」

 少女は手ぶらであった。「じゃあ……、朝陽、……朝陽は、自分の着てた服を女の子が着るのはいや?」

 朝陽が台所でどんな表情を浮かべたかは判然としないが、少なくとも清継に対して暁李よりはしっかりと意思表示が出来る朝陽である。

「わかった。……まあ、今夜一晩の話だ、レヴィルヴィア、今夜は俺の服を貸してあげる。ぶかぶかでも文句は言わないで欲しいな」

 結論が出たから、これ以上話をする必要はないと清継は考えているに違いなかった。呆然と座る暁李の、中途半端な位置に浮いた左腕、セーターの袖をレヴィルヴィアがちょいちょいと引っ張って、

「ありがたく思うがよいぞ、深淵の国に咲く花と称される妾を妻に娶るなど、本来であれば異界の人間の身には到底訪れるはずもない幸運なことじゃ。まあ、何じゃ、そなたの仕事か、それについては妾が少々手を貸せば自ずと上手く行くに決まっておるゆえ、早いとこ妾の世界に来て勇者を追い出すため努めるのじゃ」

 にいぃと笑って覗いた犬歯を、……ペンチで抜いてやろうかという思いが去来する。暁李の右耳に、

「仲良くね」

 慈しむがごとき清継の声が届かなければ。

 こんなクソガキと夫婦? 冗談じゃない。俺の人生を何だと思っているのか。

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