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チート異世界からやって来たのじゃロリ魔皇女がぽんこつ過ぎて俺の嫁ぐらいしか出来ることがありません。  作者: 村岸健太
どことも呼べない場所、強いて言うなら虚無への旅
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旅へ

 はて、どうして俺はこのぽんこつを背負って和毛山に分け入っているのだろうか。

 レヴィルヴィアがこの世界にやって来てからというもの、一ノ瀬暁李の身には「なんでこんなことに……」と嘆きたくなるようなことが繰り返し起きてきた。いい加減慣れるべきなのかもしれないのだが、朝陽と同じぐらいの幼女が妻として存在する日々……、字面にしただけで受け入れがたいこと山のごとし、慣れてなんかやるものかという気持ちである。

「がんばれ暁李、もうちょっとじゃ。もうちょっとするとこの森の中にぽっかりと、妾たちの幸せな場所が見えてくるぞ」

 いま判っているのはまず、レヴィルヴィアをおんぶしている理由である。

 この少女は自分から「和毛山(にこげやま)に行くのじゃ」と意気揚々、一昨日、またずいぶんと雪が降ったもので足元が悪い。歩いて十五分ほどという話であったのだが二十分以上経っても着かず、

「妾もう疲れたのじゃ、歩きとうない!」

 レヴィルヴィアは駄々をこね、雪の上に今日も今日とてメイド服でぺたんことへたり込むので仕方なく暁李が背中を貸してやっているという次第なのである。

 本来ならば、ぴしゃりと叱りつける、あるいはこのまま放っておいて来た道を戻るぐらいしてやってもいいのだが、この通り。暁李が背中を貸してやるに当たって表した不快の意思表示はため息が一つと舌打ちが二つ。

「ンフッフーン、暁李の背中はあったかいのじゃ。妾はよき夫を持ったのう」

 暁李の背中にひっつくのが好きなレヴィルヴィアがそれほど重たくないということは救いであった。





 二月最後の日のことである。

 役場前に、既に停まっていた「臨時」の幕を出したバスの後ろに、学校循環路線「1系統」のバスのドアが開く。前部のドアからぴょんと躍り出たメイド服の少女は、「っくちん!」とくしゃみを響かせてから、遅れて出てくる児童たちの定期を「うむ」「うむ」「んむ」「よし」「ん」と(あらた)めて行く。

 この日の通学時間帯のバスは常ならぬ混みかたをしていた。夜に檜垣の公会堂で有名演歌歌手のコンサートがあって、少なからずの鮒月村民が既に出発し始めていたのだ。彼らの帰りの足を確保するために、鮒月バスも通常午後八時の終バスを繰り下げて九時半まで臨時の増発を行うことになっているし、この日に限っては病院方面を循環する「2系統」を減便し、役場前から鮒月駅へのピストン輸送に充てている。増収はありがたいことであるが、せめてこどもたちの通学時間は避けてもらいたいところであった。

 こどもたちが降りてからは、大人たち、多くは六十代後半からの人々が降りてくる。彼らは定期を持っていない。乗って来た停留所もまちまちで、整理券に振られたによって運賃が異なる。

「ん、四番、二百七十円じゃ。千円、ななひゃくー……、三十円のおかえし、じゃな。六番、二百円じゃな、ちょうど。整理券なし、三百四十円、千円じゃな。六百六十円のおかえしじゃ!」

 レヴィルヴィアはてきぱきと整理券を受け取っては差し出される紙幣や硬貨を数え、肩掛け鞄から釣り銭を差し出す。少し前までなら暗算も覚束なかったし、乗客が増えると焦ってしまってミスを連発していたところであるが、前夜は料金表とにらめっこしつつ、朝陽がもう使わなくなったさんすうセットの模擬貨幣を使っての練習が実を結んだか、落ち着いて一つひとつ確実にこなしている。

「……手伝う?」

 そっと訊いたのは、兄がハンドルを握る臨時バスから鞄を持って降りてきた朝陽である。レヴィルヴィアが対応しきれないようならば、整理券を持たせたまま臨時のピストン便にすべて客を乗せてしまって、臨時バスの運賃を上乗せした上で駅で運賃精算を行うことも視野に入れていたのだが、

「ん、だいじょぶじゃ、たぶん。えーと、二番、三百五十円じゃな、……ごっ、五千円、五千円、えーと、しばし待つのじゃ、えーと、えーと、四千、四千……、四千六百五十円のおかえしじゃな! まず、いちにいさんよん、四千円、と、六百、と、五十円!」

「頑張ってるね」

 臨時バスから清継も降りてきて、優しい笑みを浮かべて言った。「朝陽の教えかたがよかったんだ」

 今日のためのレヴィルヴィアの特訓に付き合ってやったのは、朝陽である。朝陽は「そんなたいしたことしてないよ」と肩をすくめたが、清継の左手に髪を撫ぜられるときには、その頬は少し染まったようだ。満員だった「1系統」のバスから臨時便にすべての客が乗り移ったところで、

「じゃあ」

「んむ!」

 朝陽とレヴィルヴィアは、額にまっすぐ指を伸ばした手を当てて敬礼を交わし、それぞれ臨時便と「1系統」に戻る。臨時便のドアが閉まり、先に発車していくフロントガラスの向こうから、尊が「1系統」の運転席に座る暁李に向けて敬礼を向けた。

 暁李もプレートを「2」に変更し、後部のドアを開いた。レヴィルヴィアはぴょんと「特等席」に座り、

「お待たせいたしましたーなのじゃ。今日は皆の衆知っての通り、檜垣でえーと、なか……、なかうち? そうたろう、中内宗太郎とミリオンダラーズ、のコンサートがあるでのう、我ら鮒月バスは限られた人員と車両で何とかやりくりせねばならぬゆえ、少々不便をかけるが、ご協力いただきありがとうなのじゃ。そういうわけで、『臨時2系統』病院回り循環、出発進行じゃ! 次は野田橋ー、降りる者はピンポンを押すのじゃ」

 車掌さんとして声を上げる。車内は混んでいる。そういう場合でも誰からともなく席を譲られて座っていることがほとんどの清継は、運転席のすぐそばで立っていた。野田橋での降車客の精算に車外へ出たレヴィルヴィアが戻ってくるよりも先に「今夜、尊と三人で話する時間あるかな」と清継が言った。

「あの子の言っていた『仕事』について、そろそろ真剣に考えてみよう」

 顔を上げた暁李に、普段通りの微笑みを浮かべて清継は頷く。

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