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04:そのおっさん、規格外につき

少し前に02話に追記をしています。

……召喚目的を書き忘れるという大ミスでした。すみません。

そして、遅くなってすみません。毎日投稿は厳しいです……

「……ふぁ~あ……」


 郁仁は目が覚めると、ベッドから身体を起こして伸びをする。

 未だに筋肉痛があるが、昨日マッサージしてもらったおかげで少しは楽になったようだ。


 窓の外を見ると、朝日が差し込んでくる。

 時計に目を向けると、午前6時を指しているので、少し早いが十分良い時間だろう。

 首を左右に捻ると、コキコキッという小気味よい音が鳴るのを感じながら考える。


「……いや~、まさか襲われる夢を見るとは……」


 筋肉痛で動けないまま、メイドから襲われる夢。

 いや、悪いものではないのだ。郁仁担当のコーネリアは美人であり、スタイルも良い。

 少なからず郁仁としても見惚れるほどの相手だ。


(溜まってんのかね、まったく……)


 郁仁そんな事を考えつつ、無意識にベッドの上に手をついたのだが。


「あんっ……んぅ…………」


 ……

 うむ、今日は良い天気のようだ。

 小鳥のさえずりが耳に入ってくる。


 今日はやはり訓練だろう。

 どうせ司教からは無視されているので、騎士団の訓練に参加するか、あるいはいい加減出て行くことを考えるか。


 郁仁はそう考えながら、意識して左隣に注意と視線を向けないようにしながらベッドから立ち上がろうとする。

 だが、それはあっさりと阻まれた。


「……らめ……れすぅ……クニヒトさまぁ……………」


 そんな声と同時に、隣から伸びてきた何かに腕を取られ、再度ベッドに引きずり込まれてしまった。

 さらには、足元にも何かが絡みつくのが分かる。


 文面からすれば、なんとも恐ろしいクリーチャーに捕らえられたような雰囲気である。

 だが、あいにくこれはそんな不気味なものではない。

 郁仁はベッドに再度倒れ込むと同時に、何か柔らかいものに突っ込んでしまった。


「ぁうんっ……そんな……はげし……こわれりゅ……」


 聞き覚えのある声。

 それを聞いた瞬間、郁仁は油が切れたロボットのようにゆっくりと顔を上げる。


「すぅ……すぅ……」


 そこに寝ていたのは、コーネリアだった。

 ちなみに郁仁はどうやらコーネリアのその豊満なバストに突っ込んでしまったらしい。

 さらにいうと、郁仁の視界には肌色しか見えない。


「……夢じゃ……ない……」


 おっさん、項垂れる。

 自分の仕出かしたことを思い返し、そして同時にそれが夢ではなかったことによる罪悪感というのは大きかったようだ。

 それから1時間ほどして、ようやく郁仁は動き出したのだが、その背中はえらく煤けていたという……


 * * *


「……大丈夫ですか、コーネリアさん?」

「ええ……ご心配お掛けして申し訳ございません。こちらこそ起きるのが遅くなりまして……」


 郁仁の朝食などは全てメイドであるコーネリアに任されている。

 そのため、コーネリアが起きるまではおっさんは朝食にありつけなかったのだ。

 郁仁としては、顔を合わせづらいという気持ちはあったのだが、それこそ彼女を避けようものなら彼女を傷つけてしまうことが分かっていたため必死で罪悪感を隠して接している。


 対するコーネリアであるが、起きたすぐは腰に来ていたらしくしばらく立てない状態であったが、しばらくして動けるようになったらしく朝食を準備してくれた。

 ……なんとも歩き方がぎこちなかった、ということはメイドたちの間で噂になったようだが。


「「そ、そのっ!」」


 郁仁もコーネリアも、まったく同タイミングで声を上げた。

 そしてそんな息ぴったりの状態に対して、お互いが赤面して視線を泳がせるまでコンプリート。

 勇者勢がいれば、間違いなく「中学生かっ!」というツッコミが入るであろう雰囲気である。


「あ、や、す、すみません……コーネリアさん、どうされました?」

「い、いえっ、ど、どうぞクニヒト様から……」


 次の話にまったく進まないため、さっさとして欲しい。

 ページ数は無限ではないのだ。

 流石にこのままではまずいと思ったのか、結局郁仁から話を切り出す。


「いや、その……昨日はすみませんでした……まさか……その、何度もお相手していただいて……」

「い、いえ、こちらこそ……最初は私が……ですから……」


 最初も何もあったものではないだろう。

 年齢からすれば十分体力もあり、元々筋肉質な郁仁だ。コーネリアが最初に動いたとはいえ、たとえ筋肉痛だとしても拒んだり抵抗することは容易である。

 それどころか、それ以降は率先して動いていた(暗喩)のはおっさんの方なのである。

 ある意味、お互い体力お化けであった。あるいは、サルなのかもしれない。


「それでも、こういうことは男性側に少なからず責任がありますので……その、あのですね……」

「はい……」


 本当にここに二人だけでよかったと思う。

 誰か他にいようものなら、砂糖を吐き出すマーライオンになるか、嫉妬の嵐が発生することだろう。


 中々次の言葉を言い出さない郁仁と、覚悟を決めたような表情をするコーネリア。

 だがついに、郁仁が口を開く。


「……ご、ご両親はいらっしゃいますかぁ?」

「はい……?」


 おっさん、日和る。

 そして、その瞬間のコーネリアの瞳はまるで虚無のようであったと、後におっさんは語るのであった……


 * * *


「は~ぁ……」


 訓練所のベンチで溜息を吐く郁仁。

 現在郁仁は、気功の使用方法の訓練のために騎士団の訓練所に来ていた。

 ちなみに現状、気功の使い方を掴むことができたため、別に問題があるわけではない。


 郁仁が考えているのは別のこと。

 先程部屋で別れたコーネリアのことである。


『両親は……私が幼いころに死にました。それ以降、教会の修道院で兄と共に孤児として拾われ、その縁あって神殿に』

『そうでしたか……それは大変だったでしょう』


 彼女には両親がいなかった。

 郁仁としては先にご両親への挨拶がいるだろうと考えて聞いたことだったのだが、その計画は頓挫したのである。

 そうなると、彼女の保護者というのは誰かというと……その兄である。


 彼女は聞いたところまだ10代。詳しくは言えないが、かなり若いのだ。

 見た目落ち着いているため気付かなかったが、この世界でもやっと成人扱いの年齢である。

 地球であれば事案だっただろう。


 そのため、早めに彼女の兄であるエンツォには報告した方が良い、と考えている。

 だが、自分があっさり手を出したということを暴露したくないのも事実。


(認めたくないものだな……自分の、男としての過ちというものを……)


 そんな事を考えて茶化しでもしないとやっていられない気分のおっさん。

 郁仁は実のところ碌に女性経験がない。

 そのため、自分が一線をあっさり越えて、さらにはどういうことか彼女に惹かれている気がする事に戸惑いも感じていた。


(身体から惚れるというのは……なんか違う気がするけどなぁ……でも、彼女は頑張ってくれているし……はぁ……)


 おっさんにはチョロインの素質もあるのかもしれない。

 たった2日程度で惚れるというのは、最早一目惚れの域だ。中学、高校生の方がまだまともな恋愛をしている気がする。


 さて、郁仁が頭を抱えているとその様子を見て気遣ってくれる人物がいる。


「大丈夫ですか? クニヒトさん」

「うえっ!? あ、ああ、大丈夫だョ?」


 声をかけてきたのはエンツォ君であった。

 流石イケメン、気遣いができる男である。

 そしておっさんは動揺して語尾が怪しくなっている。


「本当ですか? 何か悩みでも……」

「……あー。うん、ちょっとコーネリアさんと…………あ」


 おっさんは失敗した。

 というのも、エンツォはコーネリアの兄。

 確かに話さなければとは思っていたものの、このタイミングとは思っていなかったのである。


「い、妹が何か……!?」

「あ、いえ、そういうわけではなく……」

「……あー」


 郁仁が言いよどんでいる間に、『あっ、察し……』という表情をするエンツォ。

 流石であるが、おっさんは途端に脇汗がヤバくなった気がした。

 だが、実のところエンツォも結構驚いていた。

 エンツォとしては予想していたことではあったが、まさかここまで早く……というのが内心である。

 そしてその混乱した内心が、このような言葉に繋がってしまった。


「……食べられちゃいましたか」

「ブフォッ!?」


 おっさんは水を吹きだしてしまった。

 同時に霧のように噴き出された水が綺麗なアーチを描く。


「あ、ああっ! すみません、そんなに驚かせるつもりでは……」


 ゲホゲホとむせ返るおっさんと、おっさんの背中を叩いて必死に介抱しようとするエンツォ君。

 郁仁は手で“心配するな”とジェスチャーし落ち着かせると、咳払いをして口を開く。


「……失礼、動揺しましたが大丈夫です……まあ、そういうことです」

「そうですか……妹が……」


 であって2日程度で、妹がオトナになってしまったというのだ。

 多分ショックだろうな……なんて思いつつも、きちんと話しておく必要があると考えて郁仁は言葉を続ける。


「それでですね……最初は彼女からのお誘いだったんですが、まあ、僕も乗り気になって……ただ、神殿にいる方ですし、どうしたものかと思いつつも、手放したくないというか……もちろん彼女のその……スキルについては少々知っていますし、それも含めて一緒にいて欲しいというか……」


 郁仁は、明らかにコーネリアを意識するようになっている。

 それにエンツォから見ても、まず間違いなく妹を大切にしてくれるであろうということは間違いないと感じられるだけのものがある。

 その様子を見ながら、エンツォは郁仁に話しかけた。


「……クニヒトさん」

「……はい」

「ありがとうございます」

「はい?」


 この反応は流石に郁仁も驚く。

 妹と肉体関係を持ちました → ありがとうと言われる、という状況において、逆に理解できる人はいないはず。


「妹は男性が苦手ですし、スキルの関係で結婚なんてもっての他でしたから……まさかそのような関係にまで発展するとは。しかもクニヒトさんなら大人ですし安心できます……」


 どうやら、そういう理由らしい。

 確かにこの国において魔法が使えないというのは、かなりのマイナスである。

 しかも人付き合いが得意とは言えない彼女が、誰かとくっ付いて、あるいは自力でこの国を出るというのも難しかった。


 そのためエンツォは悩んでいたのである。

 自分は実力で騎士団に入ったが、彼女は伝手で入ったためにどうしても風当たりが強いことを知っていた。

 そして、徐々に心を閉ざしていく妹に対して、自分が何も出来ないことに悩んでもいたのだ。


 そんな妹のことを、最初の状況が何であれ、郁仁が本気で考えてくれているということに安堵したのである。

 安堵したためか、若干鼻声にまでなっている。


「そ、ぞうかぁ……こーねりあ゛が……グスッ……」


 というか、完全に涙目であった。

 結局郁仁の心配はまったく話にならず、それよりもお礼を言われて「これからも妹を末永くお願いします……!」などと言われる始末。

 おっさんはなんとなく諦めの境地に達したらしい……


 * * *


「……それで、自分の心臓ではなく、もっと地面や周りから吸収する感じで……」

「む、難しいですね……」

「そうですねぇ……そうだ、呼吸のイメージをするのも方法かも……」

「なるほど……」


 2週間後。

 郁仁はコーネリアと共に訓練所にいた。

 コーネリアを後ろから支えて、ゆったりとした動きをしながら体操のような動きをしている。


 周りに騎士たちもいるため、最初はやたら囃されたものである。

 しかし、おっさんの「じゃあ、やってみますか?」という言葉につられて同じ動きをしたところ、相当筋肉痛に苛まれたとか。

 いわゆる太極拳の動きではあるが、その全てを行おうとすると相当な運動になる。


 元々は気功だけの訓練のつもりが、なぜかコーネリアの戦闘訓練まで行うおっさん。

 なんだかんだと面倒見が良いのである。


 それに、コーネリアの戦闘クラスとも相性が良いのかも知れない。

 郁仁は知らなかったが、コーネリアのステータスはこのようなものである。


 =====================================

  名前:コーネリア

  戦闘クラス:ニンジャ

  称号:【陰忍】

  スキル:【水行気功】

      【魔法Lv0】【短刀Lv3】【刀Lv5】【射撃Lv1】

      【武術Lv5】【隠形】【俊足】


  《成長性》

  STR():D

  INT(魔力):D

  DEX(技巧):S

  CON(制御力):C

  VIT(防御力):D

  MEN(精神力):D

 =====================================


 スキル性能からして、明らかに強い。

 確かに成長性の面は郁仁と似たり寄ったりではあるが、それでもLv5を使用できるという時点でかなりのものである。


 ただ、このスキル群にも問題があった。

 それが【刀】と【武術】のスキルである。


 というのが、この国において【刀】というものが知られておらず、さらに【武術】というのも知られていないものだった。

 この2つは、遠方の東の島国で伝わるスキルらしい。

 そのため、出現例がこの国では皆無であり、ゆえに可哀想な境遇だったのである。


(『無知は罪』とはよく言ったものだねぇ……)


 コーネリアのステータスを知ってからというものの、郁仁は悩んでいた。

 【武術】については、おっさんの場合少ししか知らない。

 昔、太極拳と空手を齧った程度のため、そこまで当てにならないのだ。


(一応覚えていた四十二式太極拳だが……モノにするのが早い。これもスキルの影響かねぇ……)


 コーネリアはあっさりと四十二式を覚え、しかもそれを元に独自の体捌きを編み出しはじめていた。

 最近の訓練では、武器だけでなく体術にも重きを置いてやっていたのだが、郁仁はコーネリアに負けそうになってきているのである。


 そのため郁仁も必死に戦闘訓練を積んでいる。

 現在は、いわゆる「ガン=カタ」の訓練中だ。


 剣に対して銃身を使って捌き、同時に銃を使って攻撃を当てる。

 ……といっても、実際に発射できるわけではない。


(未だに発射原理が分からないんだよなぁ……)


 そう考えながら、今日も的に向けて銃の引き金を引く。

 だが、特に魔力弾が出るわけでもなく、消費している感覚もないのだ。


「クニヒト様」

「おや、コーネリアさん。どうしました?」

「折角なので休憩がてら見学を……それが?」

「ええ……」


 郁仁はコーネリアに銃について伝えていた。

 というのも、彼女も【射撃】スキル持ちであるためである。

 いずれもう1丁見つけたときにはコーネリアにあげようと考えているくらいだ。


「……どうやって使うんでしょうかねぇ~」

「? 魔力を流すのでは?」


 コーネリアの疑問も至極真っ当なものだろう。

 魔道具というのは魔力を流して使う。

 それはたとえ【魔法Lv0】であってもできることなのだから。


「こいつはねぇ、魔力を流すだけじゃ動作しないんですよ……」

「……それは珍しいですね」


 そう言いながらも興味深そうに郁仁の銃を見てくる彼女に対し、ふと郁仁は思いついたことがあり口を開いた。


「コーネリアさん、触って見ますか?」

「えっ……よろしいのですか?」

「ええ、折角ですから」


 突如として始まる銃の撃ち方講座。

 安全上の注意に始まり、構造、構え方に至るまで説明していく郁仁。


「――で、こんな風に構えるんです。必ず銃口は向こうですよ?」

「ええ、分かりました……こうですね?」

「ふむ……中々堂に入っていますね……」


 素人とは思えないような安定した構え方をみせるコーネリア。

 コーネリアはセーフティを解除し、的に向けて引き金を引く。


「……出ませんね」

「でしょう?」

「不思議です……」


 やはりコーネリアでも出ない。

 郁仁は、もしかしたら自分では使えないのかも知れないと思いコーネリアに試させたのだが、やはり上手く行かず。


(スキルからしても、心惹かれる感覚からしても、多分武器に間違いはないんだけどなぁ~……)


 とはいえ、使えない武器はただの鈍器にしかならない。

 これでは剣に対して防御はできるが、決め手を持たない人物になってしまう。


 そしてそういうときに限って、不運は続くものである。


「どうですかねクニヒト殿、訓練の調子はいかがですか? あれから既に2週間、少しくらい(・・・・・)は腕を上げられましたかね?」


 訓練所に現れたのは例の司教だった。

 どうやら郁仁が騎士団に出入りしていることを聞きつけて見に来たらしい。


 今頃か、と思われるだろうが、それも仕方のないことかもしれない。

 実は、最初のころに騎士団との手合わせがあった。

 勇者たちはステータス故か、相応の戦闘力を持っており、健翔などは騎士に勝ったほどである。

 対する郁仁は騎士に負けた。

 そのために神官たちから、「使えない男」と見られてしまい、ハブられるということになったのである。


 それ以来、勇者たちは座学だけでなく、お偉いさんたちとのパーティなどにも呼ばれて人脈を作っていく。

 対する郁仁は、呼ばれているのだが断った、という体で完全無視されている。


 それをしているのは、全てこの司教。

 そんな相手を面倒だとは思いつつも、一応礼儀に沿った対応をする事にする郁仁。


「生憎、荒事は苦手でしてねぇ……それでも騎士団の皆さんには助けられてますよ、司教殿。彼らと引き合わせていただき、感謝しています」

「それはそれは……神殿側としても本当はこちらに来ていただきたいのですがね……とはいえ、訓練を疎かにはできませんからな」


 そんな白々しい会話を続ける二人。

 そんな中で、司教はふとコーネリアに目を付けたようだ。


「おや、このメイドがなぜここに?」

「僕の専属ですからねぇ、折角なので一緒にいようかと思いまして」

「それはそれは……仲のよろしいことで。お似合いですな」


 そう述べる司教の目は、間違いなくコーネリアや郁仁に対する軽蔑の目であった。

 明らかに【魔法Lv0】を下に見ているのが分かる。


「……おお、そうだこれを伝えておかねば。数日後、勇者様たちが最初の任務に向かわれます。そしてその段階で――クニヒト殿には旅立っていただきたい」


 * * *


「司教様! まさかクニヒトさんを追い出すのですか!?」


 この言葉を聞いて、まず声を上げたのはエンツォだった。

 司教のいっている事は、単純に出て行くということではない。

 それは、追放と同義であり、最早神殿が郁仁をサポートしない、ということなのである。


「これ、木っ端騎士が何を言うか。別に儂は追い出すとは言っておらん。ただ、この方は神殿に収まる方ではない。である以上、外を広く見ていただくが良いかと思っているのだ」

「ぐっ……」


 下手に司教に逆らう事は、すなわち神殿や騎士団での立場に影響を与えてしまう。

 司教の言葉を直訳するならば、「口を挟むな下っ端! つべこべ言わずにこいつを追い出すぞ!」ということである。

 歯噛みするエンツォだが、それを窘めるように郁仁が肩に手を置いた。


「……クニヒトさん」

「ありがとう、エンツォ君。……司教殿、別に僕は構いませんよ? ですがまあ、身一つでは困りますので……今使わせていただいているもので、持ち出せるものについては、その所有権を僕にいただくということでどうでしょう?」

「ふむ……それなら構いませんぞ? どうせならそこの不出来なのも引き取っていただけると助かりますな」

「では、そういうことで」


 郁仁の述べた言葉に対し頷く司教。

 実際、持ち出せるものというのは限られているのが事実だ。

 どうせ鞄に入れられるものもそう多くないし、そのくらいなら良いだろうと、司教は頷いて去って行った。


「……さて、こうなると面倒ですねぇ。あと数日……精々3日が限度かな?」

「クニヒト様……あんなに言わせておいて良いのですか?」

「別にいいんですよ。彼らには義理も何もない。それよりも、自由が一番でしょ」


 あまり気にしていない表情の郁仁。

 というより、さっさと出て行きたいというのが本音である。


 実は、手合わせについてもまったくと言って良いほど郁仁は力を出していなかった。

 はっきり言って面倒だったのである。


(迂闊に強いなんて知られちゃ面倒だしなぁ……)


 これが郁仁の本音。

 とはいえ、郁仁としては司教の言葉で少し苛ついた部分があった。


「しかし……『不出来なの』というのは……酷い言い方ですねぇ」

「そうなんですが、この国だと仕方ないんですよ……」

「……」


 司教はコーネリアの事を述べていたのだろう。

 そして、司教はコーネリアも追い出したいというのが本音のようだ。

 郁仁の隣に立っているコーネリアも、少し悲しそうに俯いていた。


「エンツォ君……」

「……はい?」

「もし良ければなんだけど……コーネリアさんを一緒に連れて行っても良いかな」

「えっ? 妹を……ですか?」


 郁仁は思わず、そう口にしていた。

 対するエンツォは、少し驚き顔で固まっている。

 コーネリアも同じように、驚いた表情で少し俯いていた顔を跳ね上げて郁仁を見ていた。


「……まあ、もし良ければだけど」


 照れ隠しか目を逸らして、頭を掻きながらそう告げられた言葉。

 それに対するコーネリアの答えはというと……


「……本当に、良いのですか?」


 おずおずと上目遣いに見上げてくる彼女を見て、郁仁は言葉に詰まる。

 なにせ、コーネリアはかなりの美女であり、どちらかというとクール系だ。

 そんな彼女が、頬を染めて上目遣いという段階で、おっさんにはクリティカルヒットである。


「グフッ……も、もちろん。こんなおじさんで良ければ、ご一緒に」

「クニヒト様……ッ!」


 危うく地と血が出そうになった郁仁だが、取り繕いつつ正面から彼女を見据えて頷く。

 すると、感極まったかのように郁仁に抱きつくコーネリア。


『おぉ~~っ』


 外野はその大胆な様子に声を上げる。

 それを小耳に挟みつつも、郁仁はしっかりとコーネリアを受け止め、一旦身体を離してこう告げる。


「……では、これからもよろしくお願いしますね、コーネリアさん」

「……ええ、クニヒト様」


 どちらともなく顔を寄せていき、二人が目を瞑って……


「……ン、ン゛ンッ!」

「「……あっ」」


 エンツォの咳払いで、二人は現実に戻された。

 お互い慌てて身体を離しつつ、コーネリアは顔を真っ赤にしながら俯き、おっさんは明後日の方向を向く。


「……仲の良いことは素晴らしいですが、周りを考えていただけると」


 そう言われて見渡すと、ニヤニヤしている連中は僅かで、残りの大半の騎士が血涙を流して歯を食いしばっていた。

 郁仁のいるところからは離れているのだが、それでもギリギリ……という歯軋りの音が聞こえてきそうである。


「「……」」

「僕は構いませんが、独身者もいますので……」

「……し、失礼しました」

「……すみません、お兄様」


 大人のクセに怒られるおっさんと、兄に怒られる妹。

 なんとも珍妙な組み合わせであったという……


 * * *


「せ、折角ですからもう少し触っても良いですか?」

「え、ええ、どうぞ」


 なんとも付き合いたての中学生か!とツッコミを入れたくなるようなコーネリアと郁仁。

 おっさんは特に周囲からの視線が痛いため、必死で訓練に思考を割いて耳に入れ内容としているのが丸わかりである。


 今はまだコーネリアが銃を触っている。

 折角なので郁仁は、ベルトとホルスターを渡して、ドローの仕方を教えている。


「こう、ですか?」

「うん、良い感じだねぇ」


 やはり飲み込みの良さはピカイチのコーネリア。

 そして……ドローの際にコーネリアが動く度に、おっさんの視線が無意識にあるところに向いてしまう。


「……クニヒト様」

「……はっ!? これは失礼」

「……今はまだダメです。後で……ゆっくりと」

「グフッ……!?」


 おっさん、再度クリティカル。

 少し鼻の辺りからパッションが噴き出してしまっているようだ。

 さらにはコーネリアの「頬を赤らめる+ジト目」というコンボによって着実にダメージを増やしていく。


(こ、ここまで自分が女性に耐性がなかったとは……ああ、ここはヴァルハラか……)


 生憎おっさんは戦士ではないし、死んでもいないのだが。


 郁仁は魔法使いにはなれない状態だったものの、かといって浮名を流すタイプではない。

 というより、かなり耐性値が低いのである。


 そんななんとも言えないイチャイチャを繰り広げながら訓練を続けていると……


 ――ズバンッ!


「……ん?」


 突然、その音は聞こえた。

 郁仁は周辺を見るが、特に音がした原因は見当たらない。


 ふと隣を見る。

 すると、コーネリアと目が合う郁仁。

 だが、コーネリアの様子がおかしい。

 唇を震わせており、目が明らかに驚きと不安で泳いでいるのがありありと分かる。


「……ク、クニヒト様……何か出ました」

「…………はい?」


 震える唇が、言葉を紡ぐ。

 だが、一瞬何のことを言っているのか、郁仁は理解できなかった。


「……引き金を引いたら……何か的に向かって……」

「…………。……まさか!?」


 郁仁の目が的を見、コーネリアの手元を見、再度的を見る。二度見である。

 銃口からは魔力の残滓が軽く放出されているのが明らか。

 コーネリアが銃を抜いて的に向けた瞬間、どうやら引き金を引いたようだ。

 その時に、どういう理屈かは不明だが、銃から弾が発射されたようである。


 その結果を認識した時、郁仁が黙って俯いた。

 しかも、肩か小刻みに震えている。

 同時に、周囲に莫大な魔力が溢れ出したのだ。


 実は、魔力が多い存在が周囲に魔力を放出すると、それだけで圧力となるというのがこの世界の常識。

 これらは【魔圧】と呼ばれており、例えば熟練者が魔力を放出すると威圧や戦意喪失となるので、相手を制する手段としても知られている。


 さらに、魔力というのは感情に左右されやすい。

 そのため、魔力を多く持つものが怒りや悲しみを抱いた際には、魔力がまるで熱のようになったり、重圧になったり、あるいは寒気を引き起こすようなものへと変わる。

 それこそ心や力の弱い者の場合、魔圧によって死んでしまう、という場合すらあるのだ。


 そして、郁仁も知らなかった事であるが、郁仁の魔力量は実は非常に多かった。

 ステータスに映るのはあくまで成長性。既にどの程度の魔力を持つかの目安にはならないのである。

 そんな彼が魔力を放出させているというのは、それだけで相当な圧力となっている。


「……ク、クニヒト様……も、申し訳――」


 側にいたコーネリアはその圧をもろに受けてしまう。

 通常であれば逃げ出す、あるいは失神するような圧力。

 その中にあって、コーネリアはまず謝ろうとしたのだ。


 自分が何かしたのではないか。

 それによって、郁仁が怒っているのではないか。

 もしかしたら、自分が先に銃を撃てたから?


 死すら覚悟しつつ、コーネリアは郁仁に近付き――


「――スゴイじゃないですか、コーネリアさん!」


 その瞬間、郁仁は顔を跳ね上げた。その勢いはあまりに強く、コーネリアがよろける。


「ええっ!?」


 その突拍子もない反応に、コーネリアは素っ頓狂な声を上げてしまった。

 それもまあ、仕方がない。


 凄まじい魔力放出を一身に浴び、恐怖しながらもどうにかして謝ろう、宥めようと考えていたところにこれである。

 コーネリアの心中をまるで知らないおっさんは、コーネリアの手を握って「凄い! 凄いですよ君は! 流石天才だ!」などと言っている。


「お、怒っていらっしゃらないのですか?」

「はい? 怒る?」

「……え、ええ。私が先に撃ててしまったので……」


 郁仁は首を傾げる。

 だがよく見ると、コーネリアの手や唇が震えているのが分かった。

 さらに周囲を見回すと、一様に騎士たちが動きを止めてこちらに視線を向け、ある者はかなり警戒した様子を見せているのが見て取れる。


(ふむ……どうやら、何かやらかしたかな……?)


 理由は分からないが、彼女を落ち着けるために近くのベンチに座り、コーネリアの手を握りながら、彼女の手の甲をさする郁仁。


「とんでもない。コーネリアさん、君はよくやってくれました。……どうやら、僕は何か仕出かしたようですね」


 そして郁仁は自分が何かしたのだろう、ということも分かっていた。

 コーネリアの目が、自分に対しての恐怖を宿しているのが分かったのである。


「い、いえ……そんなことは――」

「コーネリアさん」


 だが、コーネリアが否定しようとしたため、郁仁は彼女の言葉を遮ってから、彼女の正面に跪く。

 そして、改めて彼女の両手を包み、視線を合わせて話し始める。


「……コーネリアさん。僕は、この世界の常識を知らない。だから、きっと知らずに怖い思いをさせてしまったのでしょう?」

「クニヒト様……」

「僕はね、コーネリアさん……君と対等でありたい。君をパートナーにするということは、そういうことだと思っています。だから、遠慮せずに教えてください。ね?」


 流石に正面からこう言われては、コーネリアも頷くしかなかったのだろう。

 コクン、と頷いて話し始めた。


「……実は、クニヒト様が下を俯かれてから、凄まじい魔力が周囲に放出されていたのです」

「魔力が? ……特に操作したつもりはなかったんですが……」

「ええ……実は――」


 コーネリアから【魔圧】の説明を受ける郁仁。

 自分の魔力量がかなり多いこと、そして魔力が感情によって周囲に放出されると、それが圧力となる事を教えられる。


「――ですから、周囲にかなりの【魔圧】が広がっていたのです」

「……」


 衝撃の事実に固まる郁仁。


(い、いわゆるアレですかね、某死神漫画で、格上が放つ『ドドドドド』とか擬音が付いているアレみたいな……?)


 郁仁の想像の通りである。


「……つ、つまり、下手に感情を動かすとヤバいということでしょうか?」

「……そう、なりますね」

「マジか……」


 おっさん、ショックを受ける。

 まさか、自分がそんなヤバい存在になっているとは考えてもみなかったのである。


(多分、あの時は驚いたのと感動したのがごっちゃになっていて……)


 自分を振り返ってみるが、別に怒った訳ではない。

 ただ単に、「モーレツに感動した」状態だったのである。


「……これ、どうにか抑えられませんか?」

「うーん……」


 コーネリアに聞いてみるが、生憎コーネリアは分からず首を傾げるのみ。

 すると、横から頼れるエンツォがやってきた。


「クニヒトさん、【魔圧】は戦闘時など、身構えた状態の時に発動しやすいんです。多分、普通の生活の中ではそうは起きないと思いますよ?」

「エンツォ君……」


 エンツォ曰く、【魔圧】は戦闘訓練や実際の戦闘など、元々気分が高揚している際に起こりやすいとのこと。

 もちろん、意識して発動することもできるが、無意識のものというのは戦闘が絡むなど、命に関係する際に起こりやすいようである。


「はは……流石にさっきは僕も冷や汗を掻きましたが……凄かったですよ」

「それは悪いことをしたね……すみません」

「いえいえ……妹も落ち着いたようですし、やはりクニヒトさんは良い人だ」


 エンツォはちょくちょくこうやって郁仁を持ち上げる。

 おっさん的には、そんな君の方が良い人過ぎると思うのだが。


 さて、場が落ち着いたところで郁仁はコーネリアに質問する。


「で、結局……どうやって撃ったんです?」

「あっ……」


 悲しいかな、状況が混乱してしまったためになぜ撃てたのかが分からなくなってしまったのである。

 そこから数時間ほど、訓練所にいた全員で頭を捻りながら、皆で議論するのであった……


 理由が分かった時には、既に夕方過ぎて夜になっていたとか。


 * * *


「……結局、【気功】と同じように銃にもエーテルを通せば良いだけだったねぇ」

「……ええ。ふとした思いつきだったんですが、忘れてしまうとは恥ずかしいです」


 夜、コーネリアと郁仁はベッドの中で一日を振り返りながら語り合っていた。

 訓練中のこと、これからしてみたいと思っていること、明日の予定など、取り留めもない話をしながらゆっくりと身体を休めていた。


 郁仁がコーネリアに告げた「対等でありたい」という言葉。

 本来メイドが主と共に寝るというのはない事だ。

 だが、郁仁がこの機会に是非と言いだし、さらに口調も変えてみようということになって今に至る。


 といっても、あまり変わっていない気もするのだが。

 それは言わないお約束なのだろう。


 色々な事を話して話すことも無くなり、そろそろ瞼が重くなってきた頃、ふとコーネリアが口を開いた。


「クニヒトさん……これから、どうするんですか?」

「そうだねぇ……少なくとも仕事を探さなきゃいけないかな。少し冒険者もして見たいけど、危ないからねぇ……」

「私は……それでも良いですよ。クニヒトさんが一緒なら……」


 一体お前ら何歳のカップルだ、と言いたくなるような甘い雰囲気を出しながら寄り添って話す二人。

 郁仁はコーネリアの頭を撫でながら、口を開く。


「……ありがとう、コーネリア」

「クニヒトさん……」


 そうして、二人共に夢の世界へ旅立つために瞼を閉じようとしたところ……


 ――カーン! カーン! カーン!


「……ん?」

「……これは」


 何かを知らせる鐘の音に起こされる。

 郁仁はなんとなく良い予感のしない鐘の音を聞き、すぐに頭を覚醒させてフル回転させる。


 コーネリアは起き上がると、すぐさま服を身につけていく。

 それを横目に見ながら、郁仁も服を着替え、銃をホルスターに下げる。


「コーネリア、この鐘の音は?」

「……これは、魔物の襲撃が起きていることの警報です。神殿は安全ですが、念のためすぐに動けるように……大丈夫そうですね」

「流石に、普通じゃない事は分かるよ……武器は持ってる?」

「ええ、短剣を」


 コーネリアは何本か短剣を身につけている。

 それを見つつ、郁仁は少し溜息を吐いた。


「……刀を造っておけば良かったかねぇ」


 というのも、コーネリアは【刀Lv5】の持ち主。

 これだけの時間があったのであれば造れたのではないか、と少し後悔している郁仁。


 だが、今はそれどころではない。

 しばらくすると、誰かが扉を叩く音がする。


『クニヒト殿! クニヒト殿!』

「開いてますよ、入ってください」


 恐らく神官だろうと思った郁仁の予想通り、入ってきたのは丸みを帯びた体型の神官だった。

 例の司教の取り巻きその4くらいだったな……など考えながら、向こうの言葉を待つ。すると……


「クニヒト殿、司教様がお呼びです! すぐに祭壇の間に!」

「はい?」

「早く来ていただきたい! 司教様に逆らうおつもりか!」


 言うことだけ述べてからすぐさま出て行く神官。

 その後ろ姿を見送りながら、郁仁は溜息を吐く。


「……はぁ、仕方ないですねぇ」


 恐らく、外の魔物を狩りに出ろなど言われるのではなかろうかと考えながら、コーネリアを呼ぶ。


「コーネリア、少し司教殿のところに行ってくるよ」

「それは……」


 司教と聞いて、流石にコーネリアは怪しんだ。

 それも当然、例の司教は郁仁やコーネリアを蔑み、目の敵のようにしているのである。

 呼ばれたと聞いて、怪しいと感じても当然だろう。


「……念のため、脱出の準備だけはしておいて」

「――はい」


 実は、郁仁はもしもの場合に備えて、部屋から脱出するための経路を考えていた。

 部屋の窓から出て行ってどのように動き、どこで落ち合うか決めている。

 その際に持ち出すものも決めていたので、その準備をしておくようにとコーネリアに告げると、郁仁は部屋を出て行った。


 * * *


「郁仁です。司教殿は?」

「こちらです」


 祭壇の間。

 ここはかつて郁仁たちが召喚された場所でもある。

 天蓋からの月明かりだけでなく、周囲には魔道具のランプにより明かりが灯されているが、広いためそこまで明るさを感じられないのが残念な状態。


(あれは……もしかして)


 だが、郁仁の目は祭壇の側にいる数人の先客の姿を捉える。

 その影は……4人。


「来たか、クニヒト殿」

「これは司教殿。お呼びと聞きまして」

「うむ」


 鷹揚に頷く司教。

 すると、その影の一つから声がした。


「郁仁さん! お久しぶりです」

「おや……健翔君じゃないですか。ということは……」

「ええ、夏凛も隆史も、結もいます」


 どうやら勇者たちのようだ。

 久しぶりに顔を見せるということもあり、嬉しそうな健翔。

 だが、それを夏凛が突いて止める。


「夏凛、どうしたんだ?」

「あんた馬鹿? 今は交流の場ではないの、司教様に呼ばれてるんだから」

「そうだけど、少しくらい……」


 ――パン、パン!


「はいはい、夏凛さんの言う通り僕たちは呼ばれているんですから、司教殿の話をお聞きしなくては。お話は後ででもできますよ」

「は、はい……」


 郁仁が手を叩いてそう告げると、渋々といった形ではあるが健翔は頷いて黙った。

 夏凛は郁仁に軽く頭を下げて、司教に視線を向ける。

 落ち着いたのを見計らって、1つ咳払いをすると司教が話し出した。


「ゴホン! ――さて、諸君。召喚された【勇者】と、まあ、共に転移してきたクニヒト殿には、実戦訓練ということで外の魔物の討伐の支援をしていただきたい。というのも、基本は騎士団が動くのだが、折角の機会だと思いましてね……どうでしょう、受けていただけますか? もちろん質問してくださって構いませんぞ」


 そう告げる司教。

 だが、夏凛が質問しようとした瞬間、被せるような形で健翔が口を開いた。


「質問――」

「もちろん! 是非お役に立たせてください!」


 覆水盆に返らずとはこういうことだろう。

 まるでその言葉を待っていましたと言わんばかりに、大げさな雰囲気で司教が口を開いた。


「流石は勇者様だ! 素晴らしい自己犠牲の精神ですなぁ! では、是非とも向かっていただきたい、民を守らねばなりませんので!」

「もちろんです!」


 司教の念押しのような言葉に対し、再度頷く健翔。

 これには流石の夏凛もキレたのか、思い切りグーで健翔を殴りつける。


「この馬鹿! 何勝手に安請け合いしてるのよっ!」

「え、だって……」


 そうしている間に司教は動き出していた。


「では、是非とも勇者様たち(・・)には頑張っていただきましょう! さ、案内は彼らに! 私はこの本陣で指揮を執りますので、何かあれば人を寄越していただきましょう」


 最早決定事項となってしまった魔物討伐。

 これから起きる事柄を、まだ彼らのうちの誰も知らない――――。

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