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03:そのおっさん、調査中につき

「銃……とは?」


 郁仁にエンツォが尋ねてくる。


「銃というのは武器ですが……特に僕たちがいた世界では知られているものです」


 そう言いながら郁仁は銃を弄る。

 形状としては、モーゼルC96やM712が近いだろう。だがそれよりも大型で、グリップやバレル下部の構造が異なるようだ。

 どことなくM16系の趣もある。


 バレル周りにはハンドガードもあり、全体的に金属製であるところからして剣なども受け止められるだろう。

 グリップ付近にもトリガーガードだけでなく、手を覆うレベルのガードが付いている。


 しかし、マガジン部と思わしき部分にはマガジンはあるものの弾が入る形状ではないし、排莢口もない。

 グリップ部分に何か宝石が埋め込まれている事も不思議だ。


(……通常の銃とは異なるようだな。魔力弾を利用するのか?)


 それにしても、エンツォたちからすると不可解なものも郁仁から見れば十分武器だ。いや、十分過ぎると言って良いだろう。


「その、銃……というものは一般的、ということですか?」

「いや、そこまで一般的じゃないかな。僕たちの国は平和でね、武器なんて持っていたら逆に捕まるような国だったから、普通の人には使えないですよ」

「それにしてはその……慣れていますね」

「まあ、模造品は普通にありまして。殺傷力のないものですがね……良く遊んでいたんですよ」

「はあ……」


 ちなみに、エンツォたちには武器の模造品で遊ぶというのが分からないのか、首を捻っている。

 それに対して郁仁は例を挙げてみせる。


「君たちも、小さいころは剣士に憧れて木剣を振って騎士ごっことかしてませんでした?」

「……ああ、なるほど。そう言われると納得できますね」

「ま、いい大人が何をしているんだって言うことなんですが……地味に模造品も値段がしますからねぇ……」


 おっさんはサバゲーが好きだった。

 基本はCQB主体の戦いをしていたが、実は二丁拳銃でヒャッハーしていたこともある。

 ちなみにM9に長めのサプレッサーを付けて、キャソックみたいな服を着て……どこぞのクラリックの真似を仕出かしていた。

 当然髪型はオールバックである。


 そしてそれを見た相手味方どちらも影響されてしまい、次のサバゲーではクラリックが大量発生して、会場がカオスになったとかならなかったとか。

 ちなみに超近接戦をしようとして、皆一瞬のうちに撃たれて終了。

 大人げなく密かに練習していたおっさんが生き残ったという……。


「まあ、それは良いとして……銃とは、高速で金属の小さな礫を飛ばすことで攻撃をする武器。反動はあるけれど、正しい姿勢を取れば女性子供にも簡単に使えてしまう。……どうやらこれは使い手を選びそうだけどね、大きいし」

「そ、それは……しかし、使い手を選ぶ、ですか?」


 騎士の1人が危険性に気付いたのか、少し口ごもりながらも郁仁に聞き返す。


「こういう大きい奴は使いづらいし、さらに言うとああやって放置されていたことからして普通じゃ無さそうだしねぇ」


 実際郁仁の言葉は的を射ている。

 実は神殿でも魔道具と思って保管していたのだが、使える者がおらず、さらには魔力だけでは起動しないというオチだったため騎士団に回って来たのである。


 もちろん郁仁はそんな事は知らない。

 ただ単に心惹かれただけ。


「どうやらこれ1丁だけですかね……奥には、マガジンが5個か……」


 ちなみに箱からはマガジンも出てきた。

 5個あるが、元々取り付けられていたものと同じく弾を込める形ではない。


(気になるのは、マガジンの先端にクリスタルらしきものが取り付けられていることだが……もしかして魔力充填式?)


 朝の座学で学んだことの1つは魔道具の使い方だった。

 というのも、この世界では魔道具というのはそこそこ一般的なため、様々なところで使われている。

 特に高級な店や宿、王城などではもっぱら魔道具が使われている。


 もちろんそれなりに高いものなので、一般庶民では簡単には手が出せないレベルなのだが。

 しかし、郁仁はともかく他の4人は勇者であるため、かなりの好待遇となる。そのため、座学で早々と教わったのだ。


 さて郁仁がマガジンを持ったまま考えていると、エンツォが声を掛けてきた。


「それは?」

「これも銃の部品の1つ。普通これがないと使えないんですよねぇ。どうも魔道具みたいだし、魔力を込めてみようかと」

「なるほど……確かにそうですね。折角なら、全部装備して見たらどうです? これ、クニヒトさんが持っていって良いと思いますよ」

「……それ、横領にならないよね?」


 少し心配になる郁仁。

 というのも、聞いた話によると勇者の武器というのは「貸し与える」というものらしく、事が済めば返却しなければいけないらしいので。

 それを自分のものにして良いのかと確認したが、エンツォは躊躇わず頷く。


「大丈夫です。団長も『ぜひ持っていって欲しい』と言われていましたし。……それに、クニヒトさんが使えるなら、武器だって使える人に使ってもらいたいはずですよ」

「なるほどねぇ……なら、ありがたくいただくとしますか」


 郁仁は少し顎に手を当てて考えたが、問題ないと断言されたことと、エンツォの言葉に促されて籠手、コート、ホルスターを装備していく。


「……うーん、ワイシャツには似合わないか」


 郁仁は転移させられたときはスーツを着ていた。

 今はワイシャツ姿になっていたが、それにしても白いワイシャツに白いコートのため、いまいち合わない。


「確かに……色がですね……」

「染色とか出来ないかな?」

「あー……なるほど。妹が出来るかも知れませんよ?」

「コーネリアさんが?」


 まさかの驚き。

 どうやら聞くところによるとコーネリアは服飾……特に染色をしていたこともあり、詳しいそうだ。

 彼女は魔法が使えない代わりにできる限り色々な分野を学ぼうとしたとか。


「いい娘ですねぇ……彼女を奥さんに持った人は勝ち組ですよ」

「それが……」


 エンツォが言いよどむ。

 聞くところによるとどうやら、「魔法が使えない」という時点でこの国では結婚することも難しいらしい。

 庶民の生活では、魔道具よりも魔法を使う事が多い。

 というのも属性問わず使用できる、「生活魔法」というものがあるらしく、それがあれば火起こしも、洗濯も、水もどうにかなるそうだ。


(そして、僕では使えない……っと)


 なんとも悲しい郁仁であった。

 生活魔法は、【魔法Lv0】では使用できないのである。

 そのようなわけで、同じ立場であるコーネリアも「使えない」という扱いらしく、結婚は難しいだろうとのことらしい。


「兄としては、幸せになって欲しいんですが……こうなればこの国を出てもらうというのも考えたのですがね……」

「大変だねぇ……時には思い切りが必要かなぁ……なにか、きっかけがあればいいけど」


 何故か銃の話から、家族の結婚の話にまで飛んでしまった謎。

 郁仁も一体何を話していたんだったか、と思いながら首を捻る。


(……ああ、染色の話だったか)


 ともかく、似合わないのは別として今は着るものがない以上、スラックスとワイシャツはそのままに、ブーツを履く。

 コンバットブーツのようだが、紐が緑と黄という、少々派手なもの。

 だが、郁仁は気にしないことにした。


(しかし、やっぱりコレを作った人は色選びが変だ……何で『白、黒、赤、黄、緑』なんだか……)


 そこまで考えた時点で、郁仁に電流が走る……!

 というのも、今思い出していた色というのは、ある思想と関連した意味を持つものなのだ。


 それは『五色』と呼ぶもの。

 そして、西洋ではなく東洋で受け入れられてきた、元素についての思想。


(まさかの『五行』……?)


 木の性質の「緑」。

 火の性質の「赤」。

 土の性質の「黄」。

 金の性質の「白」。

 水の性質の「黒」。


 さらにこれに陰陽の思想を取り込むと、「陰陽五行」となり、四大元素と並びゲームやラノベで取り上げられる属性の考え方だ。

 そして、ここでやっとおっさんは思い出した。


(そういや、ステータスに思いっきり【五行気功】ってあったわ……)


 なんとなく、これらの装備を手に入れた事に運命を感じつつも、自分がそのことを今まで気付かなかったということに力が抜けるおっさんであった。


 * * *


 騎士団の訓練場。

 大勢の騎士たちがお互いに鎬を削り、切磋琢磨するアツい場所。


「踏み込みが甘いッ!」

「すみませんっ!」


 こういう場所はどの世界でも変わらないのだろう。

 鬼教官がいて、それに必死に付いていこうとする新人がいる。


 そしてそれを笑いながら眺めつつ、自分たちも訓練をする先輩たち。


「ここが騎士の訓練場です。魔法を撃つことよりも、模擬戦や、陣形の訓練をメインとするのでかなり広いんですよ」

「良い場所ですねぇ。ちょっと暑苦しいけど」


 誰も彼もが必死で訓練をしている。汗と土にまみれて。

 しかもどういうわけか屋内の訓練場なので、熱気がこもってしまっている。


「……窓開けた方がいいんじゃ?」

「あ、大丈夫です。定期的に風魔法で空気の入れ換えをしていますから」

「……そういうものかねぇ」


 そんな事を思いながら、屋内訓練場の隅の方に郁仁は案内された。

 目の前には何体かの案山子があり、それには金属の鎧が掛けられている。


「アレを的にして良いので?」

「ええ、大丈夫です。あれは魔法の練習の的ですし、破損しても問題ありませんから」


 聞くところによるとこれも魔道具らしく、かなりの強化魔法と、修繕用の魔法が掛けられているために破損させて問題ないらしい。

 そう言われると壊したくなるのが男の悪いところだが、郁仁はその気持ちを抑えつつ銃を構える。


 アイソセレススタンスで構えつつ、ターゲットを狙う郁仁。

 既にマガジンには魔力を充填しているので、セーフティを解除しトリガーを引く。


 …………


「……」

「……」

「……出ませんねぇ」

「どういうことでしょう?」


 なんと不発。

 トリガーを引いてもハンマーがある訳ではないので判断しにくいが、どうもこれといって何も起きていない気がする。


(なるほど……確かにこれじゃ神殿も使えるとは思わんわな)


 現実逃避するかのようにそんな事を考える郁仁。

 とはいえ、折角使える武器を見つけたのに使えないということに落胆するのも事実。


 一応、本体自体も魔道具の可能性が高かったために魔力を通して使おうとしたのだが、まったく何も起きず。

 しばらく考えながらその場で立ちすくむ。


「……」

「あ、あの……大丈夫ですか? 一応こちらでも文献など調べますが……」


 おずおずといった風に話しかけてくるエンツォ。

 郁仁は自分が相当険しい顔をしていたことに気付いたのか、郁仁は手を振って苦笑する。


「ああ、いえ、大丈夫です。ちょっと考え事をしていて……」


 少し眉間をほぐしながら考える。


(うーん……何かヒントが欲しいんだけどな。この銃の仕組みとして、何か分かることと言えば……)


 そう思いながら改めて銃を見る。

 ハンドガード部はレールが付いているわけではないが、独特の幾何学模様に似た彫刻が施されている。

 グリップ部は金属を木の板で挟んだ形で、握りやすい。

 そのグリップの中央辺りに、宝石のようなものが埋め込まれているが、握っても気にならないように配慮された造りになっていた。


「この宝石は……おや?」


 この宝石は無色透明のものだったのだが、よく見ると内部に五芒星が描かれていた。


「五芒星……五……あっ、五行の相生図か」


 ひらめくおっさん。

 どうやらこの銃も、五行と関連のあるもののようだ。

 とはいえ、関連があると分かっても、使えるかどうかは別である。


(大体、五行をどうやって使うかすら分からないんだがなぁ……)


 問題はそこである。

 いくらステータスに五行に関係するものが書かれていようと、使い方が分からなければどうしようもない。

 しばらく考えていたが思いつかないので、一旦訓練場を後にするのであった。


 * * *


「エンツォ君、付き合ってくれているけど良いのかい?」

「ええ、クニヒトさんをサポートするのが役目ですから。妹もクニヒトさんの担当ですしね」

「ありがたいですねぇ」


 そんな話をしながら調べるために大図書館に移動する。

 ここは神殿の神官だけでなく、騎士たちや一般市民も使用する場所のため大勢の人が本を探したり、書見台で本を読んだりしている。


 流石に貸し出しは行っていないようだ。

 未だ本というのは、比較的高価な部類に入るため仕方がない。

 改めて地球の恵まれた状態に対し、思いを馳せる郁仁である。


(盗難とか起きたらヤバいよなぁ……それにしたってここまで集めたもんだ)


 流石は国立というべきだろうか。

 かつて郁仁はオーストラリアにある有名な図書館に行ったことがあるが、それはもう莫大な量の本があったため驚いたものである。

 もちろん国立図書館も行ったことがあり、その蔵書量には憧れを持ったものだった。


(流石は国営……)


 そんな事を考えながら、受付カウンターに向かう二人。


「ようこそ、カートリクス大図書館へ。閲覧ですか?」

「ええ、騎士団の仕事です」

「でしたら、こちらに記入を」


 郁仁が答えるまでもなくエンツォがすぐに動いて何かを書いている。

 どうやら、ここでは通常使用の場合は使用料が発生するらしい。


『破損、盗難の場合の保証金として、銀貨1枚申し受けます』


 確かに破損させたら問題である。

 そのために保証金として先に払わせるのだろう。

 だが、神官や騎士が任務で書庫を閲覧する際には、保証金は必要ないようだ。

 その代わり、所属が分かるようにしっかりと書類を書いておくのだろう。


(しかし、銀貨1枚とはこれいかに。多分高いんだろうけど……物価知らんし)


 実は未だに物価については聞いていないのだ。

 本来この世界で生活する上で必要な知識であるのだが、勇者たちにはお金が定期的に与えられるし、神殿側もケチるつもりがないのだろう。

 金銭感覚、というものを教えてもらっていない。


(まあ、いずれ話があるでしょ)


 なんだかんだ考えても自分では分からないことなので、後回しにする郁仁であった。

 そうしているうちにエンツォが書類を書き上げたらしく、声を掛けてきた。


「手続きは終わったので、閲覧してもらって大丈夫ですよ。向こう側のカウンターの司書に聞けば、探してくれるらしいです」

「ほう……それは便利な。ありがとう、エンツォ君」

「いえ、私も一緒に調べますから」


 なんともイケメンである。

 実際見た目もイケメンだが、性格もイケメン。


(こういう人物ってモテるだろうなぁ~)


 万年恋愛氷河期なおっさんには眩しすぎる。

 思わず目の前に手をかざすくらいだ。


「? どうかしましたか?」

「……イヤ、ナンデモ」


 誤魔化すおっさん。

 そしてイケメンはそこを詳しく突かない! そう、突かないのだ!

 郁仁であれば確実に突っ込んで、煙たがられるというオチが付くのだろう。


 こういうところは学ぶところの多い郁仁である。


 * * *


「【五行】……ですか? 聞いたことありませんね」

「うーん……なら、主要四大元素については何かありますか?」


 現在郁仁は相談カウンターで本を探す手伝いをしてもらっていた。

 だが、いまいち芳しくない。


 【五行】については特に知られていないようであり、解決の糸口の1つが潰されてしまっている。

 そうなると今度は地道に、理論的に近い四大元素の話や、魔力運用についての書物を調べる必要が出てくる。


「四大元素? ああ、属性についてですね……それでしたら、このエリアのここに……」

「ふんふん……なるほど……魔力についての理論などは?」

「それでしたら、ここですね……」


 司書は非常に親切で、館内マップを出してきて説明してくれる。

 かなり緻密に書かれており、番号を振って分かりやすくしているようだ。


「ありがとうございました。探してみます」

「また何かあれば、いつでもご相談ください」


 番号の書かれたメモを手にしてカウンターを辞する郁仁。

 するとエンツォが近付いてくる。


「どうでした?」

「流石に【五行】については知らないそうですが、魔力やエレメントについての本がどこにあるかは教えてもらえたかな。……向こうみたいだね」


 カウンターから遠い場所に目的の本は置かれているらしく、少し歩く。

 周囲を見ると、所々に彫刻像やレリーフなどが置いてあるところがいかにも国営の大図書館だ。


 どうやら彫刻像は有名な偉人らしく、プレートに説明が書かれている。


(気にしていなかったが、普通に文字が読めるんだな……)


 実は転移した際に、自動的に読解力は持たされているらしい。

 これについてはありがたいと感じる郁仁であった。


 色々置いてあるものを脇目に見ながら移動していると、以外とすぐに目的の場所に辿り着いた。

 ここの本棚はかなり背が高い。

 というのも、はしごで上がらなければ上の棚の本は取れないのだ。


「……そして、こういうときに限って上の段というのはお決まりかな」


 図書館の本というのは、基本的には種類ごとやアルファベット順で並んでいるが、ここでは上段にあまり読まれない本が集約され、下の方が良く閲覧されているものになっているようだ。

 郁仁の目的の本はかなり珍しい……というか読まれていない本のようで、最上段にあった。


 仕方ないのではしごで上がり、目的の本を取り出す。


「重っ……」


 サイズが百科事典サイズ。

 しかも補強のためか、金属の板が付いているというオマケ付き。


 その日から数日間、おっさんは筋肉痛に苛まれて移動するのもやっとだったという……

 後から、身体強化をすれば良かった事に気付いたときには手遅れであった。


 * * *


「……【気功】を先に調べれば良かったな」

「大丈夫ですか?」

「ええ、問題ありませ……ん……あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」


 筋肉痛のため、コーネリアにマッサージをしてもらう郁仁。

 図書館でずっと五行について関連する内容があるか調べていたのだが結局見つからず。

 なんとなく【気功】を調べたところ、カウンターの司書が本を見つけてきてくれたのである。

 司書も、本当に偶々本の整理で見かけたという事らしく、偶然に偶然が重なった結果だ。


 本は非常に古いもので、いわゆる羊皮紙を使って書かれたような古代書だった。

 「これ、本当に読みます?」と言われるレベルの古い書物だったのである。


(まさか【気功】があのようなものだとは思わなかったな……)


 この世界での【気功】というのは非常に特殊だった。

 まず【魔法】の定義から話さなければいけないが、通常【魔法】と呼ばれるものは、体内を循環する【マナ】という魔力を使って発動させるもの。

 特定の呪文を唱え、イメージ補完をする事で超常現象たる【魔道】の理に置かれた現象を成し遂げるのだ。


 当然、人が知覚できる現象というのは自然現象であるため、自然現象を元にした超常現象を発現させる。


 だが【気功】は違う。

 自然界を漂う魔力――【エーテル】を術者の【マナ】によってコーティングし、発現させる。

 しかし、【気功】の使い手は非常に稀であり、最早失伝したものとして扱われていたのだ。


(そうなると、自分が【魔法Lv0】というのも納得が出来る)


 なにせ【気功】であれば術者のマナを使用する必要がないのだ。

 外殻であるコーティングだけにしか魔力を使わない。


(ということであれば、魔力――マナを使う感覚とは異なる、エーテルを通す(・・)感覚を覚えなければいけない訳か……)


 少し面倒に感じる郁仁であった。

 だが、使えなくてはどうしようもないし、折角の銃が台無しになる。

 マッサージの心地よさを感じつつ、明日からの訓練の予定を立てる郁仁。

 そんな中ふと気になる事があり、コーネリアに質問を投げかけた。


「コーネリアさん」

「はい?」

「コーネリアさんは……【魔法Lv0】だったとお聞きしましたが……」

「……ええ」


 魔法についてとなると少し抵抗があるのか、少々声のトーンが落ちている。

 そんな様子のコーネリアに対し、出来るだけ優しく話しかける郁仁。


「いや、少し気になる事がありまして……もし良ければ、で構わないのですが、【気功】というスキル持っていませんか?」

「……! 何故それを……?」


 郁仁の言葉に対して、パッと表情が変わるコーネリア。

 それもそのはず、実際にコーネリアは【気功】のスキルを所持しているのだ。


 郁仁は知らなかったが、ステータス……特にスキルというのは個人のみ見られるものであり、祭壇での最初のステータス確認を除いて、他人が把握出来るものではない。

 自分がスキルを他人に告げない限り、自分がどのようなスキルを持つかというのは知られないのである。


 もちろん戦闘クラスからどの程度のレベルのスキルを扱えるかは予測できるものの、実際に物にしているかは分からないし、さらにはクラス専用スキルやその他のスキルというのは分かるはずもない。


 それなのに、自分のスキルの1つを言い当てた郁仁というのは警戒されるには十分なのである。

 もちろんコーネリアとしては、自分が【魔法Lv0】であることを伝えているし、郁仁が同様であることも聞いてはいる。

 だが、それでも【気功】を当てられるとは思わず、狼狽したのである。


「ああ、驚かせるつもりはなかったんですが……僕も持っていましてねぇ。少し大図書館で調べ物をしたら、興味深いことが分かりまして……」

「ッ……」


 あまりにも軽々と自分のスキルを話す郁仁。

 もちろん異世界の人間である以上、詳しいことや常識が異なる事はコーネリアも分かっている。

 だが、無防備な郁仁の姿を見て、どういうわけか彼女はキュンとしてしまったのだ。


(な、なんでしょう、この気持ちは……)


 気恥ずかしさではない、だが顔が火照っているのが分かる。

 同時に心臓の音が早鐘のように打っており、自分の吐息が非常に熱を帯びているのが分かる。


 ちなみに動悸や息切れの場合には、とある漢方のお酒を飲むと良い。


 それは置いておいて。

 現在コーネリアは、郁仁のマッサージをベッドの横に立って行っていたのだが、なんとなく靴を脱いで、なんとなく郁仁のベッドに上がり、なんとなく郁仁に跨がると……そのまま腰を下ろした。


「ぬおっ!? ……コ、コーネリアさん?」

「あ……失礼かとは思いましたが、少しこの方がマッサージに都合が良いので……」


 少し筋肉痛に響いたため顔を顰めた郁仁だったが、彼女がそう言うならと思い直し好きにさせることにした。

 ちなみに現在郁仁はうつ伏せのため、コーネリアの表情は見えていない。


「えっと……どこまで話しましたか」

「え、あ、大図書館での調べ物についてお聞きしましたが……」

「ああ、そうでしたね……」


 郁仁は説明を続ける。

 【気功】の使い方について。

 それがどのように魔法と異なるのか、魔力をどのように使うのか説明していく。


「……と、大層なことを言いましたが、僕もまだ出来ていないんですよねぇ……」

「……そうなのですか?」

「ええ……明日からエンツォ君たちと共に訓練しながら掴んで見せますよ……」


 マッサージの効果なのか、気持ちよくなって語尾が怪しくなってくるおっさん。

 おっさんが蕩けていても、誰も得しない。


「あら、兄が一緒なのですね」

「ああ……そうでしたね~……お、そこそこ……エンツォ君は……コーネリアさんのお兄さん……おっ……でしたね……」


 話の間にもコーネリアのマッサージが続くので、合間合間に何かが挟まる。


(……というか、丁度腰の上に彼女の尻が乗っているわけなのだが、小刻みに動くことでの振動と、尻の適度な弾力が……お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛……)


 誰しもおっさんはムッツリである。

 マッサージを受けながら、ちゃっかり尻の弾力に関して考えていたりする。

 間違いなく「役得、役得♪」と喜んでいるに違いない。


「折角ですから……上手くいけば一緒に……訓練でもどうです、コーネリアさん」

「よろしいのですか?」

「ええ……もちろん。仲間が共に居るのは願ってもないことですよ……」


 コーネリアの見た目というのは、実は郁仁的にかなりツボだったりする。

 身長は適度な160センチほどで、腰のところで絞られた侍女服をみてもくびれがあるのだ。


 そして……そのウエストに対して中々凶悪な胸部。

 おっさんの鑑定では、EからFとのことである。


 そのため、たった2日であるにもかかわらず、郁仁は部屋に戻ると理性を必死にかき集める作業に没頭しなければならない。

 いつ自分がわんわんおしてしまうかが心配なのである。


(とある神父も言っていた……『素数を数えるのだ』……1,3,5、7,11……)


 おっさんは基本的にオタクである。

 故に、言動の至る所に漫画やアニメ(バイブル)の影響が見られてしまう。


「ところで……」

「……どうしました……?」


 マッサージのためふにゃり状態の郁仁。

 そんな彼の背中に、跨がってマッサージをしていたコーネリアが覆い被さってくる。


「ちょっ……!?」

「今日こそは、伽を務めさせていただきます……」

「ちょっ、やめっ! ……アッ……――!」


 その夜、おっさんは牡丹が落ちる幻影を見たとかナントカ。

お読みいただきありがとうございます。

よろしければ、ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。

というより、星が増えると作者も頑張る気になれます(・ω・=)

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