02:そのおっさん、疎外と発見につき
「クズ……ねぇ……」
郁仁は部屋のベッドに寝そべりながらステータスを見る。
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名前:森浜 郁仁
戦闘クラス:スリンガー
称号:【師父】【達人】
スキル:【五行気功】
【魔法Lv0】【射撃Lv3】【スピードロード】
《成長性》
STR:D
INT:D
DEX:S
CON:D
VIT:D
MEN:S
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ステータスに表示されているのはこのような情報。
神官から説明された内容を思い出しながら、自分のステータスを眺める郁仁。
この世界では、全体的な部分ではレベル制ではないが、武器と魔法についてはレベル制である。
次に【戦闘クラス】。これは戦闘における適性を意味する。
称号は、戦闘クラスに付随するものや、一定の成長やスキルを手に入れた存在に自動で付与されるもの。
そして、スキルレベルはその武器や属性魔法において、どれだけの専用スキルを扱えるかという事と関係するようだ。
スキルの中には【戦闘クラス】に付随する特殊なものも存在し、例えば【罠探知】【ヒール】などがそうである。
なお、【魔法Lv0】というのは、魔力運用はできるが魔法スキルは覚えられないという意味。
魔道具を使うことは出来るものの、魔法スキルは使用できず、精々魔力を体内に循環させる事で出来る【身体強化】しかできないということになる。
ちなみに、この世界の人々は基本、少なくとも1つの属性魔法を使用できる。
もちろんレベルや、成長性に応じて使用できる範囲は異なるらしいが、「0」というのは普通無いそうだ。
つまり、こう見るといまいち……いや、かなりしょぼいステータスなのである。
(DEX値とMEN値の成長性がやたら高い……そしてVITが弱すぎる。しかも謎の【射撃】と【五行気功】……意味分からん。【射撃】って弓と何が違うんだ? 【スピードロード】を考えれば銃があればいい気がするが……)
実は部屋に入る前に他の勇者のものを見せてもらっていたのだが、明らかに郁仁とは大きく異なっていたのである。
(大体、【師父】とか【達人】ってなんだろうな……よく分からん。武道系か?)
格闘でもしたら良いのだろうか。それにしてはSTRが低いし、VITも弱い。
ちなみに他の4人のステータスはこんな感じだった。
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名前:小野 健翔
戦闘クラス:ソルジャーブレイバー
称号:【勇者】【軽戦士】
スキル:【光魔法Lv3】【火魔法Lv3】【長剣Lv3】
【槍Lv3】【弓Lv1】
《成長性》
STR:A
INT:B
DEX:B
CON:A
VIT:A
MEN:A
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いかにも勇者らしいスペックというか、肉体的部分がかなり高い。
もちろん、HPがある世界ではないので一撃死はあり得るだろうが、それにしても防御面だけでなく全体的に高い。
長剣と光魔法適性はLv3であり、中級クラスの武器スキルと魔法スキルが使用できるというかなりの高スペックである。
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名前:枢木 夏凛
戦闘クラス:レンジャーブレイバー
称号:【勇者】【弓士】
スキル:【光魔法Lv3】【風魔法Lv2】【火魔法Lv1】
【弓Lv3】【剣種Lv2】【罠解除】【罠探知】
《成長性》
STR:C
INT:C
DEX:S
CON:S
VIT:A
MEN:A
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夏凛はどうやら弓士のようだ。
STRは高くないが、それでも普通程度にはあり、DEX、CONという制御数値が高い。
さらに武器や魔法も高レベルではないが健翔より広範囲に使用でき、罠探知などのシーフ系技能も与えられているようだ。
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名前:日下部 隆史
戦闘クラス:クレリックブレイバー
称号:【勇者】【聖職者】
スキル:【光魔法Lv3】【水魔法Lv3】【杖Lv3】
【短剣Lv1】【棍棒Lv2】【盾術Lv3】
【ヒールLv1】
《成長性》
STR:C
INT:C
DEX:D
CON:A
VIT:A
MEN:A
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隆史は【聖職者】の称号を持つところからして、回復役なのだろう。
実際、彼は【ヒール】というスキルを持っている。
STR、DEXについては高くないが、彼の方向性からしてタンクも務める役割のようだ。
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名前:神宮寺 結
戦闘クラス:ウィッチブレイバー
称号:【勇者】【魔法使い】
スキル:【光魔法Lv3】【闇魔法Lv3】【火魔法Lv3】
【水魔法Lv3】【風魔法Lv3】【土魔法Lv3】
【杖Lv1】【短剣Lv1】【テレポート】
《成長性》
STR:E
INT:S
DEX:D
CON:S
VIT:A
MEN:A
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結は【魔法使い】。
そのため魔法全ての属性に適性がある。
その代わり武器は杖と短剣だが、十分だろう。
【テレポート】というスキルを持つため、移動役にもなりそうだ。
(しかしこう見ると、【勇者】は皆防御面の成長性が高い。皆VITもMENもAだったな……)
どうやら【勇者】は極力死なないようにさせるためなのか、防御成長値が高いのだ。
受けた説明によると、訓練によってステータスは伸ばせるらしいが、DとAでは伸び幅に差ができるそうだ。
郁仁の場合は、命中率に関係するDEXや、魔法防御に絡むMENの成長率は高いものの、物理防御のVITなどは成長しづらい。
まあ、結のSTRが「E」という成長性からすればマシなのだろうが。
(まあ、彼女は後方支援だしな……)
聞いたところ、明日は座学をして世界の基礎的な部分を学んだ後に武器を選び、実際に戦闘訓練に入るそうだ。
それにしても郁仁からすると、急すぎる気がしている。
(いきなり戦闘訓練とか……常識すら知らない子供に何をさせるつもりかねぇ)
そうは言っても今何かできるわけでもない。
いい加減風呂でも入るか、と考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえる。
「どうぞー」
「……失礼いたします」
そう言って入ってきたのは、黒髪の美しいメイドさん。
黒髪だが瞳は菫色だし、肌も白いので、この世界の人間なのだろう。年齢は20歳前後といったところだろうか。
だが、どうも表情が暗い。
「どうしたんです?」
「本日付でクニヒト様担当となりました、コーネリアと申します」
郁仁が聞くと、どうやら彼女がこれから郁仁の専属になるメイドらしい。
身の回りの世話、風呂など、あらゆる面のサポート要員ということだそうだ。
「……先にお伝えしておかなければいけないのですが、私は【魔法Lv0】のため魔法が使えず……そのため不便をお掛けするかと思いますが、どうか平にご容赦を……」
そう言いながら深く頭を下げるメイド。
しかし、この言葉からすると、恐らく魔法を使えないということは相当問題なようだ。
「いえ、お気になさらず……僕もそうですから。【魔法Lv0】ですし」
「……そうなのですか? てっきり……」
「まぁ、【勇者】ではないですし。いずれは放逐されるでしょうしねぇ……ま、短い間ですが、よろしくお願いいたします、コーネリアさん」
郁仁がそう告げると、コーネリアは少し驚いた表情をした後、「こちらこそ、よろしくお願いいたします」と頭を下げてきた。
「しかし……魔法が使えないというのはかなり深刻に見られるんですか?」
「……ええ、この国では魔法が使えなければ【出来損ない】と言われますので……」
「となると、他の国では違うと?」
「……そうらしい、という情報は聞きますが……」
「ふむ……」
どうもこの国は、魔法至上主義というべき柄なのだろう。
益々この国に居たくない気持ちになってくるおっさん。
(そうなると、さっさとこの国から出た方が良いかもしれないな……地理関係や、常識面を確認したいんだが……ま、追々か)
郁仁が今後の事を考えている間、コーネリアは隣に立ってじっとしている。
その様子に気がつき、郁仁は彼女にお礼を言った。
「あ、コーネリアさんありがとうございます。貴重な情報でした」
「……良かったです。このような事でよろしければ何でもお聞きください」
これで色々教えてもらえそうだな、と郁仁が安心している間に、コーネリアは頬を少し染めつつ、郁仁に流し目を向けながらこんなことを宣った。
「……今ならこの身体を使っていただくことは可能ですので、夜伽でもお申し付けくださいませ、クニヒト様」
「……は?」
「……私の務めの1つは、不自由なく過ごしていただくために力を尽くすことです。ですからどうぞお好きなように……」
「いやっ、それは大丈夫ですから!」
「……大丈夫です、まだ新品ですよ?」
(あ、処女なんだ)
いきなり『夜伽』など言い出すメイド。
慌てて郁仁は断るが、どうもメイドの押しが強い。
(……って、そうじゃないっ!)
おっさんがそう考えている間にもコーネリアという名のメイドはどんどん服をはだけていく。
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って! それは駄目でしょ!」
「……構いません。少しでもお役に立ちたいのです」
「お、お茶を入れたり、着替えを手伝ってくれるだけで良いですからっ! っというか、これからお風呂に入るのでっ、その準備をお願いしても?」
「……それは『今晩お前を抱く』という隠語ですね?」
「ちがーーうっ!!」
少々雰囲気が暗めのメイドではあるが、どうにもおちょくられている気のする郁仁であった。
* * *
次の日。
郁仁たち5人は座学の後、会議室に集合させられていた。
座学といっても、最初は召喚の目的に始まり、世界についての話、国々の対立についてなどが話されていくだけのものだった。
なお、勇者を召喚した理由としては簡単である。
『魔王の復活の阻止』
これだそうだ。
というのも、前提としてこの世界には、【魔物】という特殊なモンスターがいるこの世界では、【魔王】という存在が定期的に復活する。
まあ、これは定番だろう。
そして、魔王が復活するという時期には、魔物が活性化するそうだ。
実際ここ数年で、魔物被害が大きくなっているという話である。
そして、その復活に関わるといわれている【魔族】の存在。
魔族はこの世界の北方に住む存在で、どうやらその種族が魔王復活をさせるとか言われている。
勇者は、それら魔物の仲でも強力な個体を討伐し、魔王復活に関わる魔族滅ぼし、最後には魔王を討つというのが使命であるようだ。
さて、座学も終わり少しは落ち着いたのか、彼らの表情は明るい。
しばらくすると会議室には例の司教が数人の神官、そして数名の騎士を伴ってやってきた。
どうやら今日からは司教が色々な事を担当するのだろう。
「ではこれから、勇者の皆様専用の武器をお渡しします。4人はこちらへ」
司教は郁仁を一瞥した後、勇者たちを呼ぶ。
わざわざ「勇者」を強調する辺り、郁仁は呼ばないつもりのようだ。
「ちょ、ちょっと待ってください、郁仁さんはどうするんですか?」
「4名」と言われたことに気付いた健翔が口を開き、司教に尋ねる。
だが、司教は鼻で笑うと、
「あの者は【勇者】ではありません。戦闘クラスもたかが知れておりますのでな。そこいらの武器で事足りましょう」
そうニタニタとした笑みを浮かべながら健翔に告げる。
それに反論しようとする健翔だが、それより先に司教が言葉を続ける。
「おっと、ご安心ください。あなたたちには素晴らしいものをお渡しいたしますから……まさか同じ立場になりたいなどと、思いませんでしょう?」
「ぐっ……」
司教の言葉に対し言葉を詰まらせる健翔。
結局4人は司教に連れられて、他の部屋に移動していった。
残される郁仁。
すると騎士の1人が郁仁に声を掛けてきた。
「クニヒト様は我らに付いて来ていただけますか?」
「ええ、よろしくお願いいたします」
数人の騎士に囲まれながら移動する。
すると、会議室からそれなりに離れたところで、最初に声を掛けてきた騎士とは別の騎士が話しかけてきた。
「あの……クニヒト様……でしたよね?」
「ええ……でも、僕はそんな『様』を付けられるような人ではないですから、さん付けで良いですよ?」
「分かりました……その、クニヒトさんは【スリンガー】とお聞きしましたが……」
「ええ、そうなんです。大体なんですかね、【スリンガー】って。良く分からないのですが」
「ああ、それは……」
騎士が説明していくのを、郁仁は歩きながら真剣に聞く。
【スリンガー】というのは中距離専門職で、投石器やスリングショットを利用した攻撃を行う戦闘クラス。
確かに成長性という部分では体力や防御面の伸びが少ないが、それでも技巧の伸びはトップクラスであり、さらには魔法を併用することで長距離や複数のターゲットに攻撃をできるなど、実は便利な戦闘クラスなのである。
しかし、ここ【カートリクス聖教国】において、そのような武器は「野蛮であり、下層民のもの」といって迫害している。
ならば弓はどうなんだと言いたいが、弓については「邪なものを祓う聖なる武器の1つ」と言っている。
「とはいっても、【勇者召喚】で【スリンガー】というのは聞いたことありませんね……」
「ふむ……狩りとかには便利かな? でも、それなら【魔法Lv0】の説明がつきませんねぇ……」
「え、【魔法Lv0】なのですか……?」
「そうなんですよねぇ」
郁仁の言葉に首を傾げる騎士たち。
「変ですね、【魔法Lv0】というのはちょっと……でも、基本的に戦闘クラスに応じた魔法レベルは決まっていますから、【スリンガー】クラスなら、Lv1は持っているはずですけど……」
「え、クラスによって魔法レベルが決まるので? 成長しないんですか?」
「え、ええ……基本的に決まってます。ただ、基本クラスから上位クラスに上がると、レベルも上がるそうですが」
「へぇ~……面白いねぇ……」
騎士の言う通り、魔法や武器のスキルというのはレベルがクラスによって決まっている。
例えばだが、短剣のレベル1スキルに【フラッシュドライブ】という切り払いのスキルがある。
だが、【短剣】スキルを持っていない重戦士の【ウォーリア】クラスが、短剣を装備して【フラッシュドライブ】を使う事はできない。
そして他の装備、例えばウォーリアであれば【斧Lv4】を持つのだが、斧のスキルではない【フラッシュドライブ】は使えない。
確かに斧でも同じような事をする事が、出来なくは無い。
だが、威力面や命中率という面で、スキルには及ばないのである。
……いや、時にはスキルを持っていないが訓練を重ねて、スキルと比べ同等以上の攻撃を繰り出す者もいるのだが、多くの人は習得しやすい【スキル】を選ぶのだ。
話がずれたが、戦闘クラスによって定められたレベルがあるため、本来【スリンガー】であれば魔法レベル1を使えるはずなのだ。
だが、それが出来ないのが郁仁なのである。
「ふーむ……一体どういうことやら。専属になってくれたメイドさんもそうだったしなぁ……」
郁仁がそう呟くと、騎士の1人が声を上げた。
「く、クニヒト……さん。そのメイドとは……名前を聞いても?」
「うん? いいけど……コーネリアさん、だったかな?」
その騎士は郁仁の後ろに立っていたため、質問してきた騎士に返事するために郁仁は振り向いた。
(おや……?)
質問してきた騎士は、黒髪で、青い瞳のイケメン。
だが、どことなく見覚えのある顔立ちだ。
「えーっと……つかぬ事をお聞きしますが、もしかして……」
「ええ……コーネリアは私の妹……私は【神殿騎士団】のエンツォ、と申します」
まさかのお兄さんであった。
「こ、これはこれは……どうも、昨日からですがお世話になっております」
「いえ……こちらこそ妹を預かっていただき……」
エンツォと郁仁はお互いに頭をペコペコ。
片方が頭を下げると、もう一方も頭を下げるの繰り返しである。
というのも……
「出来た妹なのですが、魔法が使えないために肩身の狭い思いをしていて……その妹が今朝は嬉しそうでしたから……」
「いえいえ……仕事も丁寧ですし、なんで魔法云々でねぇ……見る目がないですよ本当に……」
エンツォとしては、妹が嬉しそうに仕事をしているのを見て喜び、郁仁は彼女の仕事の丁寧さを褒めていた。
内心、あの迫られ方はヤバかった、などと考えているのだが、それはおっさんが理性を飛ばさなければいい話であるので何も言わない。
そんな感じでお互いお辞儀の繰り返しをしていたのだが、流石に見かねた他の騎士たちが2人を引きずって武器庫に連れて行ったのはいうまでも無い。
どうやら周囲の視線が痛かったようである。
* * *
「ほぉ~、ここが武器庫……」
「ええ……といっても、神殿騎士団の武器庫ですが。……勇者様たちは神殿内の宝物庫で、【宝具】を渡されているはずです。……なんか、すみません」
「これが格差社会か……とはいえ、僕は別に気にしてませんのでお気になさらず(大体、宝物庫の宝具なんて、色々面倒な感じがするし、武器なんて使ってなんぼでしょ)」
基本的に武器というのは破損する可能性を考慮するのが当然。
郁仁としては、そんなご大層な武器はお断りなのである。
「見て回って良いですか?」
「ええ、もちろん」
郁仁は武器庫を見て回る。
そこには剣、弓、槍、短剣、曲刀……とにかく色々な武器が置いてあった。
「これ、制式装備なんですか?」
「ええ。どうしても戦闘クラスによって武器は変わりますから……まあ、神殿から古い武器を押しつけられたりする事もありますけど」
「ふむ……神殿側と騎士団はあまり仲が良くないので?」
「そうなんですよ……というか、向こうがひたすらこっちを下に見てくるという感じで……『騎士団は俺たちの部下だ』って、末端の神官まで見下してくる始末ですから」
「うわ……面倒な。何故そんな事に……」
おっさんは顔を顰めた。
確かにカートリクス聖教国において神殿というのは総本山。中枢とも言える場所だろう。
とはいえ、武力として国防に携わる騎士団というのは重要なはずだ。
「……基本的に神官職というのは、【聖職者】の戦闘クラスですから魔法スキルが使えるんです。さらに上位である【聖人】の戦闘クラスであればLv4まで使える。でも、騎士団に配属されるのは魔法をそこまで得意としていない【重戦士】や【騎士】クラスなので……しかも、国柄【聖職者】が上位の階級を占める以上、魔法重視なんですよね……」
「はぁ……分かっていませんねぇ……」
「まあ、神殿騎士団長などは【聖騎士】の称号を持つ戦闘クラスですから、魔法もそこそこ使えるんですけど……数人ですし」
なんとなく騎士たちの背中が煤けているように見える。
どうもこの国では、「魔法>剣、弓、槍>>>(越えられない壁)>>スリンガー」という力関係のようである。
「でも、昔はそうでも無かったらしいんですが、あの司教が司教座についてからというものの、えらく私たちへの当たりがきつくなりまして……」
「あの司教、碌な事しませんね……見た感じからして生臭坊主って感じですが……」
「言い得て妙ですね……」
なんとも鬱になりそうな話をしながら、武器選びをする羽目になった郁仁。
ちなみに自分に適性のある武器というのはスキルから選ぶことが重要だが、その中でも心惹かれるものがあるらしい。
それが自分の得意武器になるそうだ。
ちょっと鬱になりかけの目になっている騎士たちが教えてくれた情報である。
「ちなみに私の場合、【ナイト】というクラスですので長剣も曲刀もLv3まで使えますが、どちらかというと心惹かれるのが長剣でしたね」
エンツォが自分の剣の柄を叩きながらそう告げる。
それに対して他の騎士たちも頷いていた。
「なるほど……適性以外に好みですかね?」
「まあ、そういうことです」
「ふむ……」
エンツォたちの話を聞きながら、郁仁も棚を一つ一つ調べていく。
すると、ふと気になるものを感じたのか、郁仁が視線をある場所に向けた。
「あそこには……何が入っているんです?」
郁仁は隣にいた騎士に話しかけながら、とあるものを指差した。
郁仁が指差したのは、重厚な木箱だった。
というのも、金属補強だけでなく鍵も付けられており、相当厳重な様子だからである。
「あれは……なんだったか。覚えているか、エンツォ?」
「ん? ……ああ、あれは『使えないから』という理由で神殿から押しつけられたものですね。クニヒトさん、見てみますか?」
「そうですねぇ……なんか気になるので」
「分かりました。少し待っていてください」
エンツォは武器庫から出て、どうやら鍵を取りに行ったようである。
郁仁と他の騎士たちはその場に残されたが、特にする事はないので近くにおいてある椅子に座る。
「ふぅ……しかし、これだけの武器の点検も大変ですねぇ」
「まあ、結構ガタが来ているのもありますからね……年に一度、特に新人の騎士をメインで武器の整備をさせるんですよ」
「へえ……それは武器の点検方法の実地訓練ですか?」
「ええ。それに、点検後に私たちが確認するので、問題があったら罰則になるというペナルティ付です」
「そりゃ、真剣にもなりますね……でも、鍛えるには良い方法だ」
郁仁は以前の職場柄、どうしても『実際にやらせて学ばせる』という方向に向くらしい。
郁仁が感心しながら騎士たちの話を聞いていると、彼らは驚いたのか口をぽかんと開けたまま。
「……え? どうしました?」
「い、いえ……私たちの訓練方法の利点を理解しておられるようで、驚きました」
「そうですか? それこそ市井の職人さんたちなんて、そんな物でしょうに」
生産系のスキルなどは、戦闘クラスに関係なく取得できる。
それこそ鍛冶師などは、ひたすら練習して練習して練習しまくって、一人前になっていくのだ。
実際にやらせて覚えさせるというのは、相手にもよるが良い方法だとおっさんは思っている。
「……でも、神殿の上層部は『そんな野蛮なことをして! しっかりと座学で学べば良いのです』などと口を挟んできますからね」
「うわぁ……あまり悪く言いたくはないですけど、最悪ですね……」
「本当に……」
「「「はぁ……」」」
盛大に皆で溜息を吐く。
実は郁仁も経験があるのだ。
まだ現場管理者のころだが、別のセンターから入ってきた上司が、「もっと分かりやすいフローとか、マニュアルを作ってあげなよ! そうしないと人足りないよ?」なんて宣っていたが、結局そうしたところでお客さんの対応が出来ず、新人がもっと辞めたということがあったのだ。
以降、更なる職人を増やすためのブートキャンプを郁仁が考案したのは言うまでもない。
とまあ、話はずれたが、つまり郁仁も心は体育会系に近いのである。
何故か騎士たちと肩を抱き合いながら、今度飲もうという話にまで発展していく。
「戻りました……って……え、何この状況」
鍵をとっても取ってきたエンツォが、状況を理解できずに狼狽したのは言うまでもない。
* * *
「……何があったんです、クニヒトさん?」
「いやぁ、ちょっと職場に関してお互い思うことがありまして……今度呑みに行く話になりました」
「職場の話から何でそうなったんです!? というか、僕も行かせてくださいよ!」
「お……来ますか、エンツォ君も?」
「是非!」
「お、おぉ……」
何故か顔をずずいと近付けてくるエンツォと、引きつり笑いでスウェーバックするおっさん。
おっさんはまるで赤べこのように首を縦に振るしかない。
それだけエンツォの「是非」には迫力が籠もっていた。
徐々にスウェーバックが、某映画の救世主様の有名なシーンばりの仰け反りになっていく。
状況にやっと気付いたのか顔を戻して咳払いを1つするエンツォだが、その時にはおっさんの腰から嫌な音が出たころであった。
「……おっと、失礼しました。これが鍵です」
「あ、あぁ、ありがとうエンツォ君……いたた……腰が」
腰を叩きながら鍵を受け取る郁仁と、そんな状況のおっさんを見て見ぬ振りするエンツォ。
エンツォに恨みがましい視線を送る郁仁だが、頑なに目を合わせようとしないエンツォ君なので、溜息を1つ吐いてから鍵を持って木箱に近付いていく。
「これ、普通に開けちゃって良いんですか?」
「ええ、大丈夫です」
一応確認した上で開ける郁仁。
実際、特にトラップなどはないらしく、南京錠を外したらやたら重たい蓋を開けるだけのようだ。
「よっと……くっ……っしょっと……意外と重たかったな」
蓋は一定以上開かないように蝶番が設けられており、さらにはその状態で保持できるようだった。
郁仁は念のために注意しながら中のものを見ていく。
「ほう……これはなんだ……?」
「何が入っているんですか? 見たことはないんですよね……」
「じゃあ、折角なので出してみますか。その机の上に出しますよ?」
「ええ、大丈夫です」
郁仁は箱の中身を出していく。
まず一番上にあったのは、フード付きの白いローブ。
裏地は黒で、袖口や襟の縁、ステッチなどは金……あるいは黄色という不思議な色味だ。
そして、首元に前を止めるための大きな金属製のボタンがあるのだが、中央に翡翠のような石が埋め込まれている。
「不思議な外套だな……」
「確かに」
「なんか派手だよねぇ。じゃあ、次だな……よっと」
騎士たちがその外套のデザインに首を捻っている間に、郁仁は次のものを取り出していた。
今度は籠手らしきものと、ブーツが出てくる。
「これは……なんだろうね、宝石が5個埋め込まれているけど」
郁仁が手に取った籠手には、何故か5つ宝石が埋め込まれていた。
中央が黄色で、それを取り囲むように緑、赤、白、黒
「5つですね……なぜだろうか……」
「ん? どうしたんです?」
郁仁が騎士に手渡している間に、それを見ていたエンツォが首を傾げていた。
気になったおっさんはエンツォに聞いてみる。
「いや……普通、この世界では『火・水・風・土・光・闇』の6属性があるんです。全ての属性に対応する魔道具を作る際にそれを宝石で表すことがあるのですが……これは5個しか宝石がないので、製作ミスかなと」
「製作ミス……?」
そこまで聞いて、郁仁は首を傾げた。
同時に、何か引っかかっている事があるのだが、どうしても思い出せない。
(5個……でも、この世界は6属性……なんだっけ? ま、いっか……)
一旦頭の片隅に追いやって、他のものを取り出す。
次に出てきたのはベルト……そして――
「な……なぜこの世界にこれが……」
その革ベルトは、明らかに特徴があった。
それは、郁仁もあまり見たことがないものであり、さらに言えばこの世界には不似合いなものだった。
革のベルトは太めで、ポーチだけでなく、何か箱形のものを入れるホルダーがある。
さらにベルトの右には、長いものを収めるために、革を直角三角形に近い形になるようにした大きめのホルダーが付いているのだ。
「これ……剣帯ですか? それにしては鞘を入れるのに都合の悪い形ですね……」
「うーん……それはきっと別のものを入れるのさ、うん。……――案の定、あったか」
遂に出てきたその武器。
ボディは金属で出来ており、持ち手の部分は木で出来ている。
全長は30センチほどのものだ。
「……それは……剣、ではないですね。鈍器?」
「……これはそんな生やさしいものじゃないよ」
そう。剣ではない。鈍器でもない。
先端には穴が空いており……そしてグリップの先には、湾曲した、特徴的な形状の――トリガー。
「……――銃、だね」
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