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停戦宣言

作者: 真浦塚真也
掲載日:2009/01/28

 よう!偶然!何やってんの?えっ、ブラブラ?暇人だねぇー。

 まぁ、ちょうどいいや。ちょっと、俺の話を聞いてくれない?大丈夫、大丈夫。すぐ終わるから、カップラーメン3個分で。

 え?長すぎるって?いいじゃんか。人生80年の10分くらい。別に減るもんじゃないし。あっ余命は減るか。なーんてね。

 いいんだよそんなことは。とりあえず俺はしゃべり始めるから。そこんところ、ヨロシク!


 俺は、サラリーマンが大嫌なんだよ。知ってるだろ?えっ、知らない?じゃあ、今、知って。

 まぁその中でも、終電間近の電車内や、金曜日の居酒屋で、酒を飲んで、グデングデンに酔っ払って、大いびきをかたり、我がもの顔で説教たれたり、世間の悪口ばっかり言ってるサラリーマンのオヤジ達が大嫌いなんだけどね。

 顔を見るのも、実は嫌。お前らの方が、社会のゴミだよと思ったことも、本気であるわけ。

 んで、その中でも、飛び切り大大大大大大嫌いな奴が大野誠。

 川にたまたま現れたアザラシに幼稚園児が心奪われたころよりずっと前で、ノストラダムスの怖い怖い予言が日本中でブームのように取り上げられたころよりは少し前で、原色丸出しのドレスで日本中が踊りくねっていた頃とちょうどくらいの、あたまの先から爪先まで、完璧、無敵のサラリーマン。

 くそがつくほどの能天気ちゃんで、週末には『家族サービス』とか何とか言っちゃって、なんだかんだで一日中家でごろごろしていて、体はトドのようにただでかいだけで、頭の頭皮が、こっそりと、こんにちはしていて、『不景気だ』という割には、晩酌は安い発泡酒に変わっても毎晩続けているんだよ。

 口癖は『まぁ、―』で、上昇志向がまるでなくて、テレビでお金持ちの優雅な生活なんかが放映されても、『こういう生活なんかしてたら、豚になっちまうなぁ』なんて、自分の体型を忘れてほざいちゃったりしながら、その元となっている発泡酒をグイッと一口。 まぁ、そんなことはどうでもいい。やべっ。あいつの口癖とかぶっちった。

 とにかく、一番の問題はそんなことじゃねぇーの。一番の問題は、大野誠が大野学、つまり俺のお父様であるってことなんだよ。

 何?

 どこにでもいる親父と変わらないじゃないかって?

 馬鹿だなー。だからだめなんだって。いい?ちょっと聞いてろよ。

 は?ちげーよ。『馬鹿』つうのは、あれだよ。言葉のあやだよ。 

 って言うか、そんなことはどーでもいいんだよ。いい?聞いて。いい?

 俺は、将来親父みたいな、中の下の生活をなんとなく満足しちゃって、『これでも幸せに暮らしてます。』みたいな大人にはなりたくはないわけ。

 俺は将来、ビックになりたいんだよ。BIG。分かる?意味。好きなときに美味いもんとか食べられて、美人の秘書なんかを雇って、『社長、本日のスケジュールは』なんて言ってもらって、ベンツとかフェラーリとか車庫に入るだけ入れちゃって。そんなビックになりたいわけ。

 だから、そんな俺が、親父みたいな、中年リーマンと一緒に生活してたら、なんかダメなわけ。言ってる意味分かるでしょ。ほら、よく言うじゃん。『人間性は、育った環境で決まる』って。

 だから、今日、親父と喧嘩したときに、とどめの一言で言ってやったの。

 『親父みたいな大人と一緒に生活してたら俺の人間性が腐る。』って。

 そしたら、親父、どうしたと思う?

 イキナリ、しょぼーんとしちゃったの。

 いやいや、ちょっと待てよ、と。

 ノリじゃん、ノリだよ。本音50%の、ノリ40%で、俺のセンス10%の、ただのノリじゃん。なぁ、分かるじゃん、それくらい。

 て言うか、あれだよ。これくらいのノリを理解してくれなくちゃ、親父、高校生の一日生きていけないよ。イケてないグループ、入団おめでとうございます、決定だよ。

 だから俺、柄にもなくテンパっちゃって。んで、いてもたってもいられなくなって、『ちげーよ!バーカ!!』って怒鳴って、家飛び出してきちゃったんだよ。

 だって、そうだろ。普通こういう時って、『親に向かって、なんだその言い方は!』とか昭和の死語みたいなこと言っちゃって、俺のきれいな頬っぺたでもひっぱたくだろ。そしたら、完璧に親子の喧嘩ができるっていうのにさー。

 それなのに、しょぼーんとしちゃって。何、あの『はい。あなた様の言うとおりです。』みたいな態度。あんな態度とられちゃったらさ、俺が全面的に悪者になっちまうじゃん。マジ、ありえねーわ、ああいう手段。姑息。マジ、姑息だわ。

 本当にもうさ、だから、もうさ。なんつーの。あれだよ。ほら、あれだよ。


 えっ?

 …言われなくても分かってるよ。


 俺は、本当の『お子ちゃま』だよ。

 噛み付くだけ噛み付いて、反抗期丸出しの、本当にだせー、自分でできるなら殴り飛ばしてぇーくらいの、ただのお子ちゃまだよ。

 本当は分かってるんだよ。

 親父はすごいって。マジ、尊敬しちゃうくらいすごいって。

 毎日、毎日、あんなにギュウギュウの満員電車で会社に行ってさ、ちょっと可愛そうなことを隠す事も無く、上司やお得意さんに頭下げてさ、昼飯なんか、カレーか、そばか、ラーメンだけの激安サイクルで、趣味なんか見つける暇もないくらい働いてさ、ブスな女とだせーお子ちゃまを食わせてさ、女からは男として見られてないし、お子ちゃまからは馬鹿にされてるし。

 すげーんだよ。とにかくすげーんだよ。俺には無理だもん。途中で、完璧、サジ投げるもん。マジ、親父みたいな大人にはなれないわ。あっ。言っとくけど、これ、いい意味で使ったからな。

 すげーんだよ。うん、親父はすげーんだよ。


 なーんてね。ウソ、ウソ。そんなふうに思ってねぇって。

 あっ?うっせ、うっせっつぅーの。何騙されてんだよ。ウソだよ。ウソ。お前、そんなんじゃ悪徳商法に引っ掛かっちまうぞ。うっせっつぅーの。照れてなんかねぇーよ、バーカ。


 あー、マジ、お前としゃべって損したわ。いいわ、俺、もう帰るわ。ちょっと寄りてぇートコあるし。

 あっ?ちげーよ。スルメとサラミだよ。俺、高校生やらせてもらってますから。まだ、お酒を買っちゃいけないお年頃なの。

 そこらへんは、ちゃんと親父の遺伝子受け継いでんだから。お前なんかと一緒にするんじゃねぇーよ。

 あっ?うるせーな。仲直りじゃねぇーよ。『ごめんなさい。もう悪口は言いません』って言えってか。俺は幼稚園児か、って。

 え?そういう意味の『お子ちゃま』じゃねぇーよ。あれは、イメージとしてだよ。イメージ。分かる?やだねー、お前、国語勉強したほうがいいんじゃねぇか?


 言ってみれば、停戦だよ。て・い・せ・ん。停戦だからな。終戦じゃないからな。間違うなよ。

 一応、親父も大人なんだからさ、威厳っていうの?そういうの保たせてやらないとさ。うわっ。俺って優しいー。名の通りの『好青年』じゃん。

 え?そういうことに、しておいてやるって?バーカ。大きなお世話だっつぅーの。


 やべっ、もうこんな時間になっちまった。んじゃ、俺もう帰るわ。明日、数学の宿題よろしくな。

 ハッ?俺たち親友だろ?たもっちゃんに怒られる俺見たら、お前、心が傷つくだろ?んじゃ、よろしく!


 じゃあ、また明日な。

 バイバイキーン!




 あっ、お前も親父に優しくしてやれよ!親の心子知らずってね。






 あれ?意味って違ったっけ?

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― 新着の感想 ―
[一言] 企画ではお世話になります、TKと申します。 いくつか拝読致しましたが、こちらの作品が一番好みだったので、僭越ながらこちらに感想付けさせて頂きます。 こういった語り掛けで進んで行くお話は、か…
[一言] 良い。なんというか自分が良く考えることのひとつにぴったりフィットしていて、共感するところがありました。親子仲良く、とまではいかなくても、しっかり育った子供がいる。あたたかい事だと思います。
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