第一話 神如き大英雄と老いた勇者
常磐津和真は凡人だった。
少なくとも、自分のような人間は日本中に沢山居て、特別なものなど何もない……普通の人間だと自覚していた。
普通に学校へ通って、進学して、社会に出て、働いて……。
そんな未来を漠然と考えていて、それが当たり前なんだと思っていた。
転機は……それも、何の変哲もない平日だ。
学校へ行こうとしていた所を、異世界へ召喚された。
今でこそ当たり前の事みたいに受け止めているが、当時は本当に驚いた。
なにせ、通学路を歩いていたらいきなり異世界だ。
事故に巻き込まれるとか不思議な光に飲み込まれるとか何もない。普通に、歩いていたら、次の瞬間には異世界に居た。
白亜の城。映画で見るような外国の絵画や装飾品。鎧兜に身を包んだ兵士に、王冠を被った老人――国の王。
一緒に召喚されたのは二十人。
数が多かった。田舎育ちの僕には、一クラス分の人数だ。
年齢もバラバラ。僕はその時、15歳。一番上は、37歳の冴えないおじさん――聞けば、スーパーの店員だった。
一番年下は14歳。僕より一つ年下の女の子。
そんな二十人に、国の王様は世界を救ってくれと頭を下げた……。
・
それから百年近い時間が流れた。
魔王を倒し、世界を救い――僕は……私は国の王になっていた。
世界を救った英雄で、お姫様と仲が良かったから……そして、異世界の知識で国を豊かにしてほしいと言われたから。
私はそんなに頭が良い方じゃない。
きっと、あの時居た一番年長のおじさんの方が“国造り”という分野を得意としていただろう。
私はただ、意見を出しただけ。
王都の造り、守備、下水道みたいなライフラインの確保。
街道の整備や移動手段の公共化。
魔族との戦いで職を失った人達への仕事の斡旋を優先させ、王都だけに人が集まらないよう地方への支援も増やした。
地方の村々の防衛、開拓、隣国との連携。
魔王を失った魔族を“魔族領”へ押し込めたら、その次は歌劇や酒場のような公共施設を増やし、誰もが娯楽を楽しめるようにした。
この世界はずっと昔から魔族と戦っていて、“遊び”というモノが全くなかったからか、最初はとても反発されたし金持ちの娯楽としか言われなかったけれど。
今では過激派民衆の身近な存在となり、冒険者や兵士、農耕だけでなく
そうして造り上げたのが、今の王都。
百年かかった。
その街並みを、王都よりも高い丘の上に立つ城の、一番高い部屋から見下ろす。
「ここまで長かったな」
夕焼けの照らされた王都は、宝石のように綺麗だと感じた。
ガラス窓に反射した太陽の光が綺麗なだけじゃない。
碁盤の目のように規則正しく並んだ家屋、大通りから枝分かれした細道を歩くたくさんの人々の声、店や露店で声を上げる商人たちの活気、そんな王都を彩る街路樹の緑。
それら全部が一つになって、なんとも精力的な都が眼下にある。
それを見ていると「やった」という気持ちが湧く。
私が作り上げた王都だ。
凡人だった私が成した、一つの形だ。
それだけで十分だ。
息子や孫たちは独り立ちし、妻には先立たれ、もう思い残すことはない。
私は長く伸びた白髭を右手で撫でると、ふう、と深く息を吐いた。
百と二十余年。もう十分に生きた。
昔は軽々と片手で大剣を振っていた腕は枯れ枝のように細くなり、百メートルを数秒で駆けていた足は装飾過多な法衣を纏っただけでまっすぐ立っている事も難しい。
「私も年を取ったものだ。コホ」
なにより、少し体調を崩しただけで体力が落ちたと自覚させられる。
風邪気味だった。
それだけだというのに、周囲はまるで死期が近付いているかのように心配して私を自室へ押し込める。
年寄り扱いをされていると自覚して、もうそんな歳になってしまったのかと溜息が出てしまう。
……もうすぐ陽が沈む。
黄昏色の太陽が王都の東にある山脈の向こうへ沈んでいき、美しかった王都の街並みが蒼に染まっていく。
次は各々の家屋にランプの暖色が灯され、夜空には星が、地上には民家の煌めきが輝きだす。
室内には誰も居ない。
いつもならメイドを数人置いているのだが、今日は……なんとなく、予感があった。
ここ数日、夢を見る。
昔――精霊の力を宿した大剣を片手に、大陸中を旅していた頃の夢。
一緒に召喚されたのは二十人……けれど、それぞれがそれぞれの目的のために旅をした。
僕のような凡人は、困っている異世界の人を助けたいと思って。
他には、有名になりたい、金持ちになりたい――特別な存在になりたい。
そんな感じの目的で。
だから一緒に行動する事が出来なくて、僕の仲間はたったの四人だけだった。
そんな仲間達との記憶。昔の夢。
それを、最近はよく見る……だから、予感があった。
「立っているだけでも疲れるな」
息をゆっくりと吐いて、豪奢な造りのベッドへ腰を下ろす。
「頼むよシルフ、ノーム」
特に意識するでもなく、慣れ親しんだ親友とも言える精霊たちに頼み金銀で編まれた装飾品を外してもらう。
次いで、ウンディーネには部屋の隅にある棚から酒とグラスを取ってもらい、グラスを受け取ると注いでもらう。
シルフは御伽噺で語られるような半透明の妖精のような形で、ノームはこちらも半透明で手の平に載るような大きさの老人の形。
ウンディーネは上半身が女性で下半身が魚――こちらも半透明で、空中を泳ぐように移動する。
これらは私のイメージに合わせてその形を変える。
戦場では巨人のように巨大で雄々しい怪獣のような姿に変わるが、今はもうその姿にしてあげる事も難しい。
あと火を吐くトカゲの姿をしたイフリートも居るが、彼は火の精霊であり、ベッドを発火させる危険があるので建物内ではあまり召喚できない。
そんな精霊たちに介護されていると、ふと、思い出すことがあった。
一緒に旅をした四人。先日、その一人に手紙を送ったのだ。
長く生きた私達の中で、唯一自由に動き回れる友人――戦友、親友。そんな彼に。
「おいおい、王様。城下の皆はお前の病気を心配してるっていうのに、酒なんて飲んでるのか? 悪い王様だな」
声は窓から。
そこには三日月を背にして城の外壁を上ってきたのだろう、若い男が窓の縁を必死に掴みながら顔を出していた。
なんとも間抜けな姿に、悪いと分かっていても笑ってしまう。
「久しぶりです、悠斗さん」
「よう。まだ元気そうで安心したよ、和真」
――ああ、この人は変わらないな。
その姿は記憶にあるずっと昔……百年前のままで。
いや、似合わない無精ひげを伸ばしていて、少し変だ。
「お迎えですか?」
「ばか。縁起でもない事を言うな」
彼はそう言うと、呵々と朗らかに笑った。その笑い声、笑顔も昔のまま。
佐藤悠斗。それが月明かりを背にする青年の名前である。
昔、一緒に旅をしていた人。
姿かたちはまだ若く、二十代の半ば――無精髭のせいで三十代近くには見える。けれど私より年上で、だからこそ年老いた自分が昔に戻れたように錯覚して懐かしい気持ちが胸に沸く。
その悠斗さんは必死に窓をよじ登り、ようやく部屋の中へ。
その様子がおかしくて、クスクスと笑ってしまう。
「城の正面からくればいいのに」
「人前に顔を出すと怖がられるからな」
その声は、どこか悲しんでいるようでもあった。
そんな事はないですと言いたかったけれど、私や……一緒に旅をした仲間たち以外は、みんながこの人を怖がるだろうというのは、なんとなく理解できた。
いや、私以外……同郷の仲間、同じく地球から召喚された中まであっても、この人を怖がるだろう。
ずっと、昔のまま。永遠に変わらないこの人を見ると。
「どうだい、調子は。少し痩せたか?」
その様子を隠すためか、悠斗さんは“いつも通り”を装いながらそう話しかけてきた。
少し息が上がっているのが面白い。
いくら人間を止めているこの人でも、白の外壁を上るのは中々に疲れるようだ。
「いつも豪華な服を着ていますからね。それを取ったから痩せたように見えるんじゃないですか?」
「そうか――ならいい。それ、一緒に呑んでいいか?」
「もちろんです」
ウンディーネにもう一つグラスを取ってもらい、悠斗さんにお酌をさせる。
乱れた息を整えてから、悠斗さんは葡萄酒――ワインに口を付けた。
「酸っぱいなあ」
「ワインは苦手ですか?」
「あんまり呑み慣れないや、この味は」
俺は甘い方が良いと言いながら、もう一口。
「ウイスキーか蜂蜜酒もありますよ」
「いや、いいよ。酒を飲みに来たわけじゃないし」
そう言いながらワインを飲み干し、お代わりをする悠斗さん。
文句は言いつつ、それでも結構ワイン好きというのは昔から変わらない。
それとも単に、お酒が好きなだけなのか。
どっちもだろうな、と。
「どうですか、依頼の調子は。……コホ」
「……大丈夫か?」
「ただの風邪ですよ。大丈夫です――周りの皆が心配し過ぎなんです」
「はは。お前ももういい歳なんだ、みんな心配するさ」
「まだまだ現役――前線に出て剣を振るう気力はありますけどね」
「老いてますますお盛んだな、王様は」
その言葉に苦笑する。
「依頼の方はぼちぼちだよ……こっちの案内役がポンコツでなあ」
そう言って悠斗さんが持っていたボロのズタ袋を軽く叩くと、中から「にゃー!」抗議するような声がする。
まあ、その声ではナビとしてポンコツと言われてもしょうがないだろう。
「ユグジェカも久しぶりだな。元気にしていたか?」
「にゃあ」
やはり何を言っているか分からない。
それも当然だ。私がユグジェカと呼んだのは猫。黒猫だ。
「こいつの名前はタンゴだよ。ユグジェカなんて分かり易い名前だと、街中で呼べないからな」
「にゃあっ」
「物凄く嫌がっているように見えますけど?」
「しょうがないだろう、魔王の名前なんて街中で呼べないし」
「それもそうですね」
「にゃー……」
黒猫……ユグジェカ改め、タンゴは力無く鳴くとズタ袋の中へ頭を引っ込めようとしていた。
魔王ユグジェカ。
それが黒猫の名前――正体だ。
僕達は魔王を倒し、それから数年後、魂だけの存在となったソレを黒猫の身体に封印した。
するしかなかった。
神様から授かった聖剣は魔王の肉体を破壊するもので、その魂にはあまり効果が無かったからだ。
そうして悠斗さんはまた魔王が悪さをしないよう、黒猫と旅を続けている――聖剣を使い過ぎて人間としての器が壊れ、永遠を生きることになってしまった自分だからこそ丁度良いと言って。
――魂は人の形をした器だ。
生命力が満ちた、形在る器。
その器が壊れた時、人は人間ではないナニカに変わってしまう――それが、佐藤悠斗。
人間の形をしているナニカ。
人間のように脆く、けれど永遠を生きる“神如き者”。
出逢った時のまま――二十代半ばの年齢から百年経っても年を取らず、肉体も若々しく生気に満ち、全盛期で成長が止まった人。
この人は本当に、昔のまま。
一緒に旅をしていた時のままだ。
一時は年老いていく自分が惨めにも思えたけれど、今ではただ……永遠に取り残されるこの人が、この人を置いて死んでしまう自分が――どう言葉にしていいのか分からないほど、悲しい。
だから私は、ズタ袋に入ろうとしている黒猫に向けて、万感の思いを込めて言葉を紡ぐ。
「この人をよろしく頼む、ユグジェカ」
「にゃあ」
ユグジェカ――タンゴか。その黒猫は、まるで私が言わんとすること全部を理解したように、優しく鳴いた。
「……そんな悠斗さんに朗報です。冒険者の一人が『魔王の遺産』を見つけたんです。これがあれば、ユグジェカが力を取り戻せるんじゃないですか?」
「なんだ、手紙にはそんなこと書いてなかっただろ?」
「見つかったのは昨日なんです。シルフに手紙を持たせようかとも思ったんですが、なんだか悠斗さんがここに来るような気がして待っていました」
私がそう言うと、悠斗さんは少し恥ずかしそうに頬を掻いた。
「そんなに分かり易いかね、俺って?」
「まあ、結構」
そう言いながらノームに『魔王の遺産』……豪華な装飾や彫刻で飾られたテーブルの上にある、魔王の魔力が感じられる指輪を持ってきてもらう。
だが、その力は微々たるものだ。
十数人の異世界人が束になってやっと互角に戦えた全盛期の魔王には遠く及ばない弱々しい魔力。
百年前。
初代魔王ユグジェカは地上にあった七国の内、三つの国を滅ぼして“魔族領”を作り上げた。
そこに魔界へ通じる“門”を建造し、そこから魔族により地上の侵攻が始まった……魔王ユグジェカが亡き後は彼の後を継いだ二代目、三代目の魔王が現れ、今は四代目。
ユグジェカほどの強力な力を持たない彼らは私の息子や孫に討たれ、四代目である魔王シェリエナは初代魔王ユグジェカが遺したとされる『魔王の遺産』を集めて回っている。
私はそれに対抗するため、国王の立場を利用して冒険者たちに『魔王の遺産』探索を依頼し、多額の報酬を用意した。
人と金は使いようである。
その冒険者の一人が目の前にいる佐藤悠斗。
彼は魔王と共に在るというアドバンテージがあるのだが、その魔王が最も魔力が高まる満月の夜にしか満足に喋れない黒猫という事もあり、『魔王の遺産』探しは難航していた。
現魔王シェリエナが四代目を襲名してそろそろ十年。ようやっと一つ目が見つかったのだから。
私は……僕は心配だ。
また息子や孫が危険な戦いに身を投じる事。
そして、またこの人に……無茶をして人間ではなくなってしまった人に頼らなければいけないという事が。
……心苦しい。
・
・
・
「これは……指輪か?」
半透明の小さな小人……老人の姿をしたノームが渡してきたのは指輪だった。
細かな装飾と大きな赤い宝石――ルビーが印象的なそれは、たしかに全盛期の魔王ユグジェカが放っていた魔力に似た力を発しているように思う。
ただ、とても弱々しい。
これではまともな魔法も放つ事が出来ないだろう。
「にゃあっ」
タンゴという名前が気に入らずズタ袋の中で不貞腐れていた黒猫が、勢いよく顔を出した。
「どうした?」
そのままズタ袋の中から這い出てくると、肩を上り、腕を蹴って和真が腰を下ろしているベッドの上へ。
そして、その右手を差し出した。右前足か、この場合。
「なんだ、欲しいのか?」
指輪の魔力など使い道が分からないのでベッドの上に置くと、黒猫がその指輪を転がして遊びだす。
転がして遊ぶ。遊ぶ……遊ぶ。
「にゃああっ!!」
「楽しそうだなあ、お前」
「フギャアッ!!」
めっちゃ威嚇された。
……見ている分には気持ちが癒される光景なのだが、どうやら本人的には納得がいかないらしい。
まあ、多分。猫の内心なんかは分からんが。
「前足に嵌めたいのか?」
「にゃ」
同意するように頷く。
……分かり辛いなあ、猫語。
そう思いながら指輪を右前足に嵌めようとすると、明らかに猫の前足よりも指輪の方が小さい。
そう困っていると黒猫の魔力に反応したのか、指輪が大きくなった。
それが魔王の魔力の同調なのか、『魔王の遺産』がこの黒猫専用という証明なのか……とにかく、便利なもんだ。
『あーあー、聞こえているか、阿呆』
「あーあー、聞こえているぞ、馬鹿」
「いきなりですね……」
それにしても、喋る前に『あーあー』と口にするのは異世界共通なのだろうか。
和真の呆れ声を聞きながら、黒猫タンゴを見る。
「変な感じだな。頭の中で声がするってのは」
コメカミのあたりを手の平で叩くと、黒猫が「にゃあ」と鳴いた。
『これでようやく普通の会話ができる――お前がどれだけ見当違いの行動をして儂を困らせた事か……』
「その「にゃあ」の一鳴きにそれだけの言葉の意味が詰まっていたのか……奥が深いな、猫語」
『なにが猫語だ、阿呆。お前のせいで三つだ。三つも儂の『遺産』を逃したのだぞ!』
「しょうがないだろ。俺、お前の魔力なんて感じられないし。お前はにゃあにゃあ鳴くだけだし」
『ぐぬぬ……』
そう言いながら悔しそうに黙ったタンゴの首根っこを掴み、ズタ袋の方へ投げる。
猫らしい身体能力で、器用に空中で態勢を整えると、元魔王であるタンゴはズタ袋の中へ納まった。
顔だけを出した状態は、まんま愛玩動物である。魔王の面影が欠片もないな、この黒猫。可愛いけど。
ズタ袋を背負いなおし、よし、と気合を入れる。
「さあて、これから宝探し再開だ」
『そのやる気が二、三年でも続けばいいのだがな』
「人を怠け者みたいに……」
和真の方を見ると、今にも倒れそうなくらい顔を青くしていた。
本人は気付いていないだろう、いつも通りに喋っている。けれどその顔には死期が現れ、今にも倒れてしまいそう。
それでもベッドへ座り、俺に顔を向けているのは王としての、勇者としての胆力か。
「大丈夫、安心しろ」
「すみません」
その謝罪は何に向けたものなのだろうか……安心させるように白髪に染まった頭を軽く、叩くように撫でてやる。
昔、まだこいつ……この子が子供だった頃、慰めてやった時のように。
「大丈夫」
「はい」
そうして、俺は王の寝室、そして王城を後にした。
着た時と同じように外壁を伝い、中庭に埋められた巨木を足場にして、王族も知らない隠し通路を使って。
中庭の目立たない古い銅像を動かすと地下へ通じる道があり、月明かりもない暗闇の中を壁伝いに歩いていく。
銅像は俺が通った後、勝手に元の位置へ戻る仕掛けだ。
明かりは出口側で誰かに見つかると後々面倒だから使わない。
ジメジメとしていて、手を付いている壁に苔が生えているのが分かる。気持ち悪い。
城には知った人は何人も居るが、顔を合わせる事はない。
百年以上も姿形の変わらないバケモノだ。顔を合わせれば怯えられる……そう考えると、とても顔を合わせる気にはなれない。
永遠を生きるバケモノだって、そんな顔を去れたら悲しいもんさ。
『もう永くないな』
「急がないとな」
さあ行こう。
喋る事が出来るようになった相棒が入ったズタ袋を担ぎなおすと、丁度隠し通路を出るところだった。
どこまでも広がる星空は、手を伸ばせば届きそうなほどに近く、輝きが大きい。
綺麗な空。
昼間とは違う、静かで、冷たくて、美しい。その星空と月の明かりを頼りに、勇者が栄えさせた王都を離れる。
死に目には会えないかもしれない。
後ろ髪を引かれる気持ちは確かにあった。
それでも、俺は進みたい。前に、冒険に。
最期の時に、戦友が、友人が、親友が――安心して眠れるように。
「さあ、冒険だ」
『ふ――馬鹿だな』
馬鹿だから、俺はここに居る。