第164話「お泊り会のきもだめし」
「コンちゃんどうしました?」
「ここここわいのじゃ、行きたくないのじゃ」
「冗談でしょう」
「これを見るのじゃ!」
「ちらしですよね?」
「ポン姉ポン姉~!」
レッドがやってきました。
むう、今日はお帰りが早いです。
お客のいないお店で、わたしのしっぽを引っ張るの。
「ねぇねぇ!」
「はいはい、しっぽを引っ張らないでください」
「これ! これ!」
ふむふむ、プリントですね。
なにかな?
レッドからプリントを受け取ると、レッドと一緒に見るんですよ。
「お泊り会ですか」
「ゆえゆえ」
「ふむ~」
お泊り会の日付と夕飯のメニュー、そしてイベント告知です。
夕飯は焼肉パーティだそうです、わたし、行きます、焼肉たべたいし。
イベント……ちょっと気になりますよ。
「どうしたのじゃ」
コンちゃんもやってきました。
わたし、コンちゃんに目で、
『ちょっとちょっと、これ見てください』
『なんじゃ、テレパシーで』
『これ、これ』
『ふむ……』
コンちゃんの目がキラキラしてます。
プリントを奪うと、
「きゃーん! きもだめし!」
もう獣耳モードに突入してます。体ゆすりまくり。
そんなコンちゃんにレッドが、
「コン姉コン姉!」
「なんじゃ、レッド!」
「きもだめし、なにごと?」
「きもだめしは、こわいものみたさなのじゃ!」
「こ、こわいもの!」
「そうなのじゃ」
って、レッド、なんでわたしを見ますか?
それ、レッドのほっぺをつまんで、ビローンってしちゃうんだから。
「いたいゆえー!」
「痛くしてるんですよ、『こわいもの』でなんでわたしなんですかモウ!」
「ポン姉こわいゆえ」
「それ、ビローン」
「ひたいうえー!」
さて、レッドに天誅したところで、
「コンちゃんコンちゃん」
「なんじゃ」
「コンちゃんにこわいものなんてあるんですか?」
「!」
「きもだめし、コンちゃんには意味なしじゃないですか?」
「!」
コンちゃん、固まっちゃいました。
でも、すぐに復活すると、
「むう、しかしのう」
「しかし?」
「わらわ、ホラー映画、こわいのじゃ」
「へぇ、そうなんだ」
「ホラー映画は作り物とわかっておっても、こわいのじゃ」
「コンちゃんにもこわいもの、あるんですね」
「わらわも今、思ったのじゃ、わらわにもこわいもの、あるのじゃ」
って、お店のドアが開いてカウベルがカラカラ鳴るの。
入ってきたのは花屋の娘です。
「こんにちわー、桃、差し入れ~」
花屋の娘が差し出す桃。
レッドはすぐに飛びつきます。
でもでも、しばらくどうしていいかわからず、モジモジしてばかりです。
ちょっと皮をむいてあげたら、食べ方わかったみたいでしゃぶりついているの。
もう口のまわり、ベロベロです。
でも、食べているレッドは大人しいので、ほっときましょう。
「あ、レッド、桃食べた、その桃100万円」
花屋の娘はお金ばっかりですね。
「この桃、差し入れじゃないんですか?」
「あ、そうだった、差し入れ」
「そっちは?」
そう、花屋の娘は箱入りの桃も持ってます。
「これは売り物」
「レッドの食べているのは?」
「形がイマイチなの」
そうそう、ちょっと聞いてみましょう。
「ねぇねぇ、花屋の娘さん」
「何、ポンちゃん?」
「ぽんた王国にも桃出してるよね?」
「そうよ、出してるわよ」
「50円ですよね」
「何で知ってるの!」
この人は前回の騒動、忘れてますね。
「レッドの食べているのはいくら?」
「一緒よ」
「これは?」
わたしが箱を指差すと、
「これはちゃんと虫がつかないように被せ物したりしてんのよ」
花屋の娘、ふてくされながら、
「この間、桃の値段交渉に『ぽんた王国』行ったら」
あ、思い出したみたいですよ。
「なんだか気を失っちゃったみたいなのよね」
「……」
「頭痛くなったし」
「ゴット・レドル!」くらってましたからね、
花屋の娘、お泊り会のチラシを見て、
「お、なんだ、お泊り会、焼肉パーティ行きたいなぁ」
「花屋の娘もわたしと一緒ですね」
「焼肉おいしいじゃん」
花屋の娘、難しい顔になります。
「むう、でも、私がタダで参加する方法を探さないとな」
ブツブツ言いながら出て行っちゃいました。
「箱入り桃忘れてますよ……配達人に渡せばいいかな」
コンちゃんは食べたそうに見ているけど、これに手を出したらダメでしょう。
タダでくれた差し入れ桃をコンちゃんに押し付けると、今度はたまおちゃんがやって来ました。
「ただいま……みんなでおやつ?」
「はい、花屋さんから桃いただきました」
「じゃあ、遠慮なく……うん?」
たまおちゃん、桃の皮をむきながら……レッドが見ているのに、むいたのをあげると、チラシに気がついたみたいです。
お泊り会のチラシを手にすると、
「お泊り会か……焼肉パーティ、いいですね」
「みんな焼肉パーティ言いますね」
「だって焼肉おいしいし」
「花屋の娘も言ってましたよ」
「ふうん、何かブツブツ言って歩いていたけど、これの事?」
「花屋の娘は参加する理由がないから」
「理由?」
「お泊り会、子供の集りですよ」
「ふむ」
たまおちゃん、マジマジとチラシを見ると、
「子供のイベントねぇ」
なにか考える風な顔ですが、なに考えてるかさっぱりわかりませんでした。
さて、お泊り会、焼肉パーティーも終って、親たちはまったりしています。
子供はというと、それぞれペアになって「きもだめし」待ちです。
村長さんがみんなに説明している最中なんですが、コンちゃん青くなってるの。
「コンちゃんどうしました?」
「ここここわいのじゃ、行きたくないのじゃ」
「冗談でしょう」
「これを見るのじゃ!」
「ちらしですよね?」
って、コンちゃんが指差すのは……
「あ、ゴールは神社なんですね」
「そうなのじゃ、たまおの基地なのじゃ」
「基地って……でも、罠はしかけてあるでしょうね」
「こわいのじゃ」
はて、でも、思います。
たまおちゃんなんですが、わたし達がお泊り会に参加するのに家を出た時、逆に留守番で家にいました。
「だからたまおちゃんは家にいますよ」
「信じられぬ!」
「むう、どうしたもんでしょう」
って、村長さんが携帯電話を手にやってきました。
「コンちゃん電話だけど」
「なにごとじゃ?」
コンちゃん、電話に出ると一言二言話して村長さんに電話を返しました。
その目が大きく見開かれています。
「どうしました?」
「うむ、たまおじゃった、ドラマの録画の話をしたのじゃ」
「ほら、たまおちゃん、家にいましたよね」
「たしかに家におったのじゃ、番号も確認したのじゃ」
信じられないって顔のコンちゃんですが、だんだん顔色よくなってきました。
村長さん、そんなコンちゃんを見て首を傾げながら、
「どうかしたのかしら?」
「コンちゃんはたまおちゃんが苦手なんですよ」
「あら、あの神社の巫女さん、こわいの?」
「そうなんですよ?」
「だってコンちゃん、神さまなんでしょ?」
「神さまだってこわいものあるんですよ」
「じゃあ、こわいものがなくなったところで、ポンちゃんコンちゃんペアにお願いがあるんだけど」
「わたし達ですが?」
「そう、ポンちゃん達に最初に行ってもらいたいのよ」
「はぁ」
「ほら、野犬とか出たらあぶないでしょ」
ふむ、わたしとコンちゃんで先陣を切る事になりました。
って、温泉に行ったりもしてるから、村の夜はあぶなくないんですよ。
らくちんらくちん!
村長さん、クスクス笑いながら、
「それにね」
「なんです? 笑いながら?」
「ポンちゃんには何も準備できなかったけど」
村長さん、チラシを見せてくれます。
なになに、神社には「豪華粗品」あるそうです「豪華」で「粗品」ってなんなんでしょ?
「子供にはおもちゃとかお菓子なのよ」
「なるほど、駄菓子屋さんがスポンサーですね」
「そうね、綱取興業さんなんだけど」
ですね、駄菓子屋さんに卸しているのはあの目の細い配達人です。
「コンちゃんは嫌がられると面倒くさいから、景品に「いなり寿司」なの」
途端にコンちゃん獣耳モードです。
コンちゃん、わたしの手を引いて、
「ポン、行くぞ、いなり寿司なのじゃ」
コンちゃんがやる気になってくれれば、面倒くさくなくていいです。
ではでは行くとしましょう。
「ふふ、神社と聞いて引いたが、たまおは家なのじゃ」
「電話、携帯からじゃなかったです?」
「家の電話番号だったのじゃ、わらわもすぐにそう思ったのじゃ」
「では、神社は大丈夫ですね」
「ふふ、あやつの罠があったとしても「ゴット・シールド」でへっちゃらじゃ」
そんなわたしとコンちゃんですが、足、止まっちゃいました。
「あわわ、コンちゃん、人魂です」
「おお、人魂なのじゃ」
わたしもコンちゃんも目を細めて見るの。
「人魂……上からワイヤー吊ってますよね?」
「ポンにも見えるかの」
「まぁ、タヌキ、夜行性なんで」
って、いきなり背後から、
「おばけだぞー!」
「「!!」」
わたしもコンちゃんもびっくりです。
いつに間に背後から!
「おばけだぞー!」
クンクン、すぐに正体わかりました。
「花屋の娘ですね」
「ピンポーン、ポンちゃんなんでわかったの?」
「一応タヌキですから、ニオイで」
「でも、びっくりしてたみたいだけど」
「びっくりしました」
花屋の娘、ニコニコ顔で、
「二人をびっくりさせられたなら、子供達もお茶の子かもね」
「これから先はどうなっているんです?」
「うーん、先にシロちゃんいたかな、そんなにたくさん罠、ないよ」
「そうなんですか」
コンちゃん、花屋の娘をクンクンして、
「これ、花屋の娘よ、おぬし、豪華粗品知っておるかの?」
「うん、私が準備したから、紙袋に詰めてあるよ」
「おぬしからいなり寿司のニオイがするがの」
「あ、おやつで一つもらったから、コンちゃん用のもちゃんとあったよ」
「そうかの、楽しみなのじゃ」
「わかるように、ちゃんと「コンちゃん」って書いてあるから」
「ふふ、そこまでせずとも、わらわもニオイでわかるのじゃ」
「一応キツネなんだね」
「ふふ、お稲荷さまなのじゃ、女狐なのじゃ」
「めぎつね……こーゆーときに使う言葉かな」
コンちゃんのテンションもあがったところで出発です。
「さて、問題はココじゃ」
階段を上がったところにある鳥居。
わたし、配達でいつもくぐっています。
でもでも、コンちゃんの足は止まったまま。
「どうしたんです、もうゴールですよ、ほら」
わたし、先に入っちゃうんです、べつにいつもの事ですよ。
でも、コンちゃんが入ろうとしたら、鳥居がバチバチとスパークし始めました。
「ふふ、たまおの術が張ってあるのう、しかしわらわは神、この程度なんでもないわっ!」
コンちゃんが手をかざすと、スパークが収まっちゃいました。
術が解けたところで……コンちゃんクンクンしてニオイを確かめると、祭壇に向かって一直線です。
「ゴールじゃ、いなり寿司じゃ!」
祭壇の、拝殿の、お賽銭箱の前に置かれた長テーブルに紙袋が並んでいるの。
一番端っこのに「コンちゃん」って書かれたのが置いてあります。
「い・な・り・寿・司っ!」
コンちゃん、目がハートになってます。
でも、わたし、背中がゾクゾクします、野生の、タヌキの「カン」が危険を知らせてくれます。
「なにか」が祭壇にいます。
すごい勢いで、コンちゃんに急速接近です。
「コンお姉さ~まっっ!」
「「!!」」
わたしもコンちゃんもびっくりです。
たまおちゃん、登場です。
加速装置もびっくりのダッシュでコンちゃんに取り付きました。
「お姉さま、好き!」
「うわぁ! たまお!」
「むちゅーん!」
「うわぁ!」
キスを迫るたまおちゃん。
コンちゃんのけぞって、一応キスを回避してます。
顔を寄せるたまおちゃん。
押し返すコンちゃん。
「お・ね・え・さ・まぁ~」
「寄るなー!」
「チュウ~」
「させるかー!」
二人の力がつりあったところで、二人の動きはピクピクして固まっちゃうの。
いきなりな登場にびっくりしましたが、ちょっと聞きたい事があります。
「たまおちゃん、たまおちゃん」
「なんですか~取り込み中です~」
「ここにいないと思ってたんですけど……」
「そうじゃ、そうじゃ」
コンちゃんも知りたいみたいです。
って、コンちゃんの表情がこわばりました。
「も、もしや、たまお、おぬしテレポートかの!」
って、たまおちゃん、ポカンとして、
「さっき電話して、テレビを録画予約して、ダッシュで来ました」
「「!!」」
「普通に毎日、通ってますから」
ですよね~
よくよく考えたら、電話に出てからでも余裕で来れそう。
びっくりして損した。
「さぁ、コンお姉さま、今日こそ一つになりましょう」
「嫌じゃぁ~」
「さぁさぁ!」
コンちゃんなにを嫌がっているんでしょう。
いつもわたしと一緒に寝てるじゃないですか。
たまおちゃんと一緒でも同じでしょ、まったくモウ。
って、わたしの背中をトントンする人がいます。
しっぽをモフモフもしてますね。
振り向けば、レッドと千代ちゃんです。
レッドはすぐにお菓子の袋に行っちゃいましたが、千代ちゃんはコンちゃん達を見て、
「何をやってるの?」
「さぁ」
「コンちゃん嫌がってない」
「ですねぇ」
「止めなくていいの?」
「めんどうくさいし」
ちらっと見れば、子供達どんどん来ますね。
「わたしはどうでもいいかな?」
「あとでミコちゃんに怒られると思うけど」
「むう、では、しょうがないですね」
「携帯、貸そうか?」
「いえいえ、テレパシーで呼んじゃいます」
「べ、便利……」
と、いうことで、テレパシーです。
『ミコちゃんミコちゃん!』
『どうしたの? ポンちゃん?』
『コンちゃんがたまおちゃんにやられてます、わたしどうでもいいけど』
『ほっとけば』
『ですよね~』
わたしがヘラヘラしていると、千代ちゃん苦々しい顔で電話してます。
『子供達が来てるのね』
つぶやくのが聞こえて、暗い神社に光があふれます。
そんな光の中から、おたまと電話の子機を持ったミコちゃん登場。
「ゴット・レドル!」
ミコちゃんの握っているおたまから七色の光がほとばしります。
「えいっ!」
おたま、たまおちゃんの頭にヒット!
☆3つのダメージです。
弾けた☆の一つがコンちゃんにヒットして、コンちゃんもダウンなの。
ミコちゃん、二人が死んだのを確認して、
「子供達が来てるのなら、ほっとけないわね」
やって来た子供達は、紙袋を手にニコニコ。
中のお菓子をトレードしたりしてるの。
別に準備してあった花火も出して、盛り上がってきましたよ。
でもでもその前に、みんなが倒れているコンちゃんたまおちゃんを見るの。
みんな頭上に「?」が浮かんでいます。
千代ちゃんが渋い顔で、
「ねぇ、ポンちゃん、たまおちゃんって百合?」
「あ、千代ちゃん知ってるの? 百合?」
「うわ」
「わたし、女の子同士なんてわかんないよ、どうでもいい」
「うわ」
子供達、倒れているコン・たまおを見て「?」でしたが、ポン吉が「!」になって、
「ポン姉、ポン姉が倒したんだな! 女子プロレスだな!」
「ああ! ポン姉!」
みんなの頭上に「!」とか「笑」が浮かびます。
「笑」はなんでよ?
ポン吉、わたしを捕まえると、
「さすがポン姉、コン姉やっつけるとか、はんぱねぇ!」
「は?」
「あの巫女の姉ちゃんも、なかなか強いんだぜ、チェストとか!」
「は?」
みんなが
「ポン姉強~い!」
声があがるの……倒したのわたしじゃないのに……
「オレ、見たかったなぁ、ポン姉の強いとこ」
ポン吉語ります。
みんなの目も、なにかを期待しているみたいです。
女子プロレスか……でも、相手がいないと、どうしようもないんですけど。
『ねぇねぇ、ミコちゃん、どうしよう』
『たまおちゃん生かしておけばよかったんだけど』
『しょうがないよ』
「ポン姉、さすが、強い、最強!」
さっきから語ってる男が一人います。
ポン吉です。
ちょうどいいでしょ、ポン吉ですよ、ポン吉。
「そーれ、しっぽブラーンの刑です」
ポン吉のしっぽをつかまえて、振り回しちゃうんだから。
「痛いー! 死ぬー!」
「わたしの事、強い強い言うからです!」
みんな笑ってます。
よかったよかった……かな?
朝の配達に出ようかとしていると……
シロちゃんが支度しているのを見かけたんです。
ミコちゃんからお弁当をもらってますよ。
「お弁当、ホットドックなんですね」
「本官、これが好きであります」