第160話「駄菓子屋さんお手伝い」
って、このお店のお客さんのパターン、わかりました。
まずは神社に参拝なんです。
一度はお店の前を通り過ぎるの。
それから、戻ってくる時に立ち寄るんです。
ふふ、もう、駄菓子屋の娘、ばっちりなんだから!
今日もパン屋さんはのんびりした時間が過ぎています。
コンちゃんはテレビを見てポヤンとし、お客さんはお話しながらお茶してるの。
わたしはスケジュールを見ながら、今日のお昼の配達の事を考えています。
学校に配達なんだけど、お昼をゴチになって、ドッチをして帰ってくるか、その後で老人ホームなんて感じでしょうね。
パン屋さんはわたしがいないけど、コンちゃんだけでも大丈夫でしょ。
観光バスが来ないから、今日はのんびりなんですよ。
「ポンちゃん、ポンちゃん」
奥からミコちゃんがパタパタ足音をさせながらやってくるの。
なにかな?
「ポンちゃん、ちょっといいかしら」
「なになに? 配達?」
「うん、いいかしら?」
「今日は観光バスもないからいいんじゃないかな、コンちゃん一人でも」
「コンちゃん……まぁ、そうね」
ポヤンとしているコンちゃん、一瞬こっちを見ましたが、すぐに目を逸らしちゃうの。
「コンちゃんと私でお店をやるから、行ってきて」
「って、どこです?」
配達のバスケットの中を見ると「ドラ焼き」。
でも、たまおちゃんの神社に持って行くにしては少ない……2個です。
「駄菓子屋さんなの」
「駄菓子屋さん……」
おばあちゃんが店番をしているから、2個はわかります。
でもでも、どうしてでしょ。
ミコちゃん、ニコニコしながら、
「駄菓子屋さんの店番をしてほしいらしいのよ」
「はぁ……駄菓子屋さんの店番ですか……」
わたし、駄菓子屋さんのお仕事、思い出してみるの。
レッドやみどり、千代ちゃんと一緒に買い物、行きますからね。
「パン屋さんと一緒で、お菓子の代金いただくだけですよね」
「そうね、できそうかしら?」
「そんなに難しい計算もなさそうだし……お客さん来るのかな?」
そうです、駄菓子屋さんで他の子供を見た事、あんまりないですよ。
大人のお客さんが立ち寄ってるのも、あんまり見ません。
楽チンな気がしてきました。
「あ、ポンちゃん、いらっしゃい」
「配達と店番で来ました」
「ふふ、頼んだよ」
おばあちゃん、座布団を出してくれます。
わたし、座敷席のところに腰を下ろすと、配達のドラ焼きを渡すの。
「ふふ、ありがとうね、で、お店の番をお願いしてるけど、いいかね?」
「あ、ミコちゃんから聞いてます、お代をいただけばいいんですよね?」
「じゃがね、パン屋さんでやってるから大丈夫じゃろ」
「はい、レジは?」
「あれ」
そう、パン屋さんはお金をレジに入れているんです。
でもでも駄菓子屋さんにはそんなものありません。
おばあちゃんが指差すのは、天井から吊るされたザルです。
「お金はココに入れるといいよ、お釣りもここから出すんだがね」
「はぁ……あ、ゴムで伸びるんですね」
「そうじゃよ、八百屋や魚屋でもやってるがね」
「え……わたし知らない」
「ポンちゃんも現代っ子じゃね」
「タヌキですけどね」
おばあちゃん、前掛けを外すと、
「私は床屋に行って来るからね」
「はぁ、床屋さん?」
「髪結いじゃがね」
「ああ、パーマとかですか?」
おばあちゃん、手をヒラヒラさせると行っちゃいました。
さて、一人残されましたよ。
頑張って……お客さん来るのかなぁ。
うわ、思っていた通りです。
お客さん、さっぱり。
わたし、座敷席に座ってぼんやりしているだけなの。
テレビ、つけてますが、あんまり見る気になりません。
座敷にすわって、ちょうど通りが見えるんですが、まぁ、午前中は人、来ませんよね。
でもでも、駄菓子屋さんはたまおちゃんの神社に行く時、前を通る感じです。
そのうち参拝する人が通るんですよ。
そんな事を考えているうちに、足音が聞こえてきました。
むむ……若い女性の足音、一人です。
きっと神社に参拝なんだから。
「あ!」
「ポンちゃんであります!」
「シロちゃん、どうしてまた!」
シロちゃんはいつもの「ミニスカポリス」姿です。
その手には配達のバスケットですよ。
「本官、ミコちゃんに配達を頼まれたであります」
「ああ、神社のドラ焼きですね」
「であります……ポンちゃん駄菓子屋で何をやってるでありますか?」
「わたし、今は駄菓子屋の娘なんです」
「店の手伝いでありますね」
「うん、おばあちゃんは床屋さんに髪結いなんだって」
「おばばも、歳をとっても女という事であります」
「いつまでたっても、おしゃれさんって事ですね」
「であります……本官、配達に行くであります」
「いってらっしゃーい」
残念、お客さんじゃなかったです。
でも、ちょっとおしゃべりできてよかったかな。
こう、退屈なのこの上なしです。
わたし、座敷席にいるのもなんだから、表のベンチに移動です。
お客さん、来ないかな。
ヒマです、ヒマ。
って、このお店のお客さんのパターン、わかりました。
まずは神社に参拝なんです。
一度はお店の前を通り過ぎるの。
それから、戻ってくる時に立ち寄るんです。
全員が全員、寄ってくれるわけではないんですけど、年配のお客さん、寄ってくれるみたいです。
ってか、パン屋さんの常連さん、多いですよ、見知った顔。
「あれ、ポンちゃん、どうして?」
ほら、顔見知りです。
「今日はおばあちゃんの交代なんです」
「へぇ、そうなの」
いつも3~4人でやってくるおばちゃん達です。
「いいかね、ポンちゃん」
「はいはい、えっと、なんです?」
「注文、いいかね」
「え? 注文? 駄菓子屋さんで注文?」
おばちゃん達、ニコニコ顔で、
「甘酒、いいかね、冷蔵庫に入ってるよ」
むう、おばちゃん達が冷蔵庫の甘酒を教えてくれます。
冷やしてあるのを……耐熱のコップに注いで……レンジでちょっと温めるそうです。
そんな事をしている間、おばちゃん達は駄菓子を見ています。
思い思いのを手にお会計。
駄菓子の値段はレッドと一緒の時知っていますが、
「え? 甘酒って200円もするんです?」
お金もらってびっくりです。
駄菓子屋さんで高い買い物って、かき氷・100円くらいまでです。
あ、まてまて、お好み焼きも200円くらいしますね。
わたしがびっくりしていると、おばちゃんの一人が一杯手にして、
「そんなもんかねぇ、ここのは粒もたくさんでおいしいよ」
みんな、ベンチに座ってチビチビと舐めています。
「ちょっと熱かったです?」
「別にいいよ、熱いなら熱いで」
「わたし、お好みとかかき氷なら食べた事あるんだけど、甘酒は初めてです」
「ふふ、ポンちゃんも一度飲んだら好きになるよ」
「ふむ、ちょっと飲んでみますね、今度」
おばちゃん達が表のベンチでワイワイやっていると、参拝帰りの人達が覗いていくようになりました。
いそがしくなってきましたよ~
駄菓子屋さんは「子供の社交場」って聞いていたけど、どうしてどうして。
おばちゃんだけじゃなくて、若い人も立ち止まるんです。
ちょっと食べる……のにはいいのかもしれません。
10円とか20円だから……ですね。
でもでも、駄菓子よりも甘酒や焼き芋がどんどん出ます。
おばちゃん達が教えてくれたからよかったようなものの、焼き芋も初めて見ましたよ。
大きな壺のような中にお芋があるんですけど、ホクホクでおいしいみたい。
おばちゃん達は「ぽんた王国」にお豆腐を買いに行くそうです。
ちょっとアレコレ聞いておきましょう。
わたし、いつもレッドと買い物に来てるけど、駄菓子屋さんはいろいろ売っててびっくり。
おばちゃんニコニコ顔で、
「駄菓子屋っていうけど、看板は『商店』だよね」
「むう、びっくりです」
別のおばちゃんが甘酒とセットらしい「たくあん」をつまみながら、
「どっちかと言うと、茶店?」
「ああ、はいはい」
他のおばちゃん達も賛成してます。
言われると、大人ばっかりの駄菓子屋さんは、お茶屋さんっぽいでしょうかね。
「あれ、ポンちゃん?」
「たまおちゃん!」
今度はたまおちゃんが現れました。
「神社はいいの?」
「うん、ちょっと退屈だから駄菓子屋さんに」
「サボり……」
「いいの!」
たまおちゃん、ベンチに腰を下ろすと、
「甘酒を一つ、冷で」
「うわ、冷、初めて!」
「冷蔵庫から出すだけよね」
「なるほど、冷で出すために冷蔵庫なんですね」
「温めるのはレンジでやってるでしょ」
「うん、いつも温めてるから、なんで焼き芋みたいにしてないのかな~って」
「あ、聞いたら焼き芋、食べたくなっちゃった、焼き芋も」
「焼き芋、落ち葉で焼けばいいのに」
「いいから」
たまおちゃん、ベンチの腰を下ろすと足をブラブラさせながら言います。
わたし、甘酒の冷と焼き芋をたまおちゃんの横に置くと、
「駄菓子屋さんも、結構忙しいんですね」
「参拝帰りに寄る人多いから、ね」
「ですね~」
わたしは麦茶をいただきます。
今はわたしとたまおちゃんだけです。
「だとしたら、観光バスが来たら大忙し?」
「まぁ、お店、これだけだから、たくさん来てもね」
「確かに、パン屋さんより小さいもんね」
「今は『ぽんた王国』に流れちゃう方が多いと思うよ」
「むう、駄菓子屋さん、ピンチ?」
「おばあちゃん、儲けようってつもりでやってるわけじゃないから、いいんじゃないかしら」
「そうなんですね」
確かにパン屋さんより売り上げないですが……
レッドと買い物に来ているイメージからすると、すごい売り上げです。
「甘酒一杯で200円なんですよ」
わたしが言うと、たまおちゃん考える顔。
飲んでいるコップを見ながら、
「おばあちゃん、カップ酒のコップで出してるから微妙だけど……200円ねぇ」
「わたし、おやつ代100円だから買えません」
「200円、普通と思うけど、100円のところもあるけど、ここの粒がたくさんでおいしいし」
たまおちゃん、たくあんをポリポリやりながら言います。
「わたし、今まで村はなんにもないってばっかり思ってました」
「どうして?」
「だって、老人ホームでも学校でも、静かになったら、音がなくなります」
「そうねぇ、学校の休み時間の声は神社まで聞こえる」
「休み時間が終わったら、授業になったらすごい静かなんです」
「でも、神社、人が来るわよ、ヌシがいるから」
たまおちゃん、難しそうな顔をして、
「ヌシが死んだら、お客さん来なくなるかな?」
「お客さんとか言っちゃってますよ、参拝客くらいにしたらどうです?」
「参拝・客・じゃない!」
「それはそうですけど」
たまおちゃん、お代を置くと、お芋を食べながら、
「じゃあ、ねー」
「はーい、また来てくださいね」
行っちゃいました。
入れ替わりでお客さんです。
さてさて、店番、がんばりましょう。
お昼前、やっと人がいなくなりました。
ってか、お昼の時間だから、おそば屋さんとか、ラーメン屋さんに行ったんでしょう。さもなくばパン屋さんでしょうね。
わたし、お座敷で一息ついていると……カップル現れました。
とはいっても、中年カップル……夫婦でしょうかね、そんな感じ。
店先から中を覗き込んでいる男の人。
女の人はそんな男の人に腕を絡めて、一緒に覗き込んでいます。
そんな女の人と目があっちゃいました。
ってか、見覚えのある顔ですよ、パン屋さんの常連さんです。
「いらっしゃいませ、どうしました?」
「ポンちゃん……パン屋さんはどうしたの?」
女の常連さん、聞いてきます。
「今日は駄菓子屋さんの娘なんですよ、いろいろあって」
「いろいろ……そう」
「どうしました?」
「いや、その、ポンちゃんだし」
「わたしではダメと?」
「えっと、お好み焼き、出せる?」
「うっ!」
「お好み焼き」と来ました!
そうです、座敷にはテーブルがあって、鉄板もあるんですよ。
たまにおやつでお好み焼きをいただく事もあるの。
壁には「お好み焼き」「やきそば」「もんじゃ」、どれも200円ですね。
女の常連さん、わたしを見てニコニコしながら、
「ポンちゃん、出来る?」
「うー、わたし、料理はさっぱり」
困りましたね。
「あの、ラーメン屋さんとかはダメなんです?」
「どこもいっぱいだから、こっちに来てみたの」
男の人も頷いています。
「パン屋さんはダメでした?」
「パンはちょっと物足りないかな~って」
「あ、それはちょっとわかります、わたしもごはんの方が食べた感じしますもん」
「ポンちゃん、パン屋の娘がそんな事言っていいの?」
って、わたし、ひらめいちゃいました。
電話をパン屋さんにかけちゃうんです。
すぐに受話器があがって、ミコちゃんの声です。
『はい、山のパン屋です』
「ミコちゃんミコちゃん、わたし、ポンちゃん」
『どうしたの?』
「お好み焼きのお客さんが来ちゃって」
『お好み焼きのお客さん?』
「そう、わたし、料理できないから」
『ああ、なるほど!』
って、そこでちょっと受話器から聞こえてくる音が遠くなりました。
「あの、ミコちゃん」
『あ、ごめんゴメン、今、行くから』
「え! 今行くって!」
電話が切れてしまうと、店先に光の渦が現れるの。
電話の子機を持ったミコちゃんが、その光の渦から登場です。
「はい、到着!」
「到着って……術で来ちゃっていいんですか」
「だって、急ぎなんでしょ?」
ミコちゃん、座敷でポカンとしている男女を見て、
「あ、いつものお客さんですね、今日はこっちですか」
男の人も女の人もびっくりして固まっているの。
『ミコちゃん、術を使って来るからだよ』
『だって常連さんじゃない、今さらびっくりするなんて思ってなかったの』
『肝心な時にうっかり、ミコちゃんもモウ!』
『応援に来たのにそんな事言うの?』
『はいはい、お好み焼きをお願いします』
ミコちゃん、ニコニコしながら奥に引っ込んじゃいました。
わたしは二人にお茶を出しながら、
「あの、そろそろ我に返ってもらえますか?」
お二人、ミコちゃんのテレポートを見てから言葉がないです。
わたしが言うと、お互いを見合って頷くと、女の人が、
「ねぇねぇ、ポンちゃん!」
「なんですか?」
「ミコちゃんも術を使うの!」
「え? 知らなかったんですか?」
「知らないわよ、コンちゃんが飛んだりするのは見た事あるけど」
「ミコちゃんも術が使えるんです」
って、男の人が首を傾げて、
「ミコちゃんってしっぽないけど……」
「ミコちゃんはミコちゃんなんです、すごいんです」
「すごい……はぐらかされてるみたいで……いいか」
人柱で幽霊みたいな……なんて言えません。
でもでも、何か言わないと、男の人、わたしをじっと見つめています。
「そうですね……『仙人』とかでどうでしょう?」
言葉が浮かびませんでした。
でもでも、仙人はなかなかいいでしょう。
そんなわたしの言葉に女の人が、
「とりあえず、ミコちゃんは人間……なのかしら?」
「まぁ、そんな感じでいいです」
「ポンちゃんもいいかげん~」
わたし達が話していると、ミコちゃん奥から出てきて、
「噂してたでしょう~」
ちょっと怒った顔をするミコちゃんに、わたし達は愛想笑いするばかりなの。
ミコちゃん鉄板に火を入れると、脂をひきながら、
「こっちにはよく来るんですか?」
男の人が、
「今日はたまたま…こっちが空いているかなって」
「ふふ、パン屋さんにも来てください、500円でコーヒーサービスですから」
鉄板が湯気をあげるのに、ミコちゃんお好みを焼き始めるの。
わたし、焼いているのを見ながら、
「むう、ホットケーキみたいだから、わたしにも焼けないかな?」
みんなクスクス笑っています。
バカにしていますね!
でもでも、なんだかちょっと難しそうです。
わたしもたまにここでごちそうになるけど、いつもおばあちゃんに焼いてもらってます。
よく考えると、わたしはレッドと一緒に焼くホットケーキだけかもしれません。
「おやおや、ミコちゃんがいるがね」
おばあちゃんが帰ってきました。
わたしすぐに、
「おばあちゃん、わたしお好み、焼けません」
「だったねぇ、ポンちゃんはいつも私が焼くねぇ」
お好み焼いているミコちゃんを見ておばあちゃん、
「むう、今度からミコちゃんを呼ぶかねぇ」
みんな笑ってます。
くっ! くやしいっ!
今度ちょっと、お家でホットプレートで練習しましょう。
え、えっとですね……
くやしいよりも……
なんだか、お好み、自分で焼いた方がおいしそうな気がするんです。
自分で焼けるように、練習、してみましょう。
なんたってパン屋さんに小麦粉はたくさんあるんだから!
テレビは今、ホラー映画をやっているところです。
コワイ映画は正直イヤなんですが……
なんてか、今日のは、度が過ぎて笑える映画です。
ってか、こう、突っ込み所満載な映画なの。
映画の内容なんですが、古代エジプトが舞台だそうです。