第167話「たまおちゃんの作戦2」
オレ、ポン吉!
いつもコン姉と一緒に遊んでいるぜ。
オレ、コン姉、大好きだ!
コン姉見てると、ドキドキしてくるぜ。
ふふふ、コン姉、地獄に落ちろ~っ!
「たまおちゃーん、来たよー」
わたし、神社に配達です。
神社の池に住んでいるヌシにあげる「ドラ焼き」を持って来たんですが……
いつも「なんでポンちゃん」とか言うたまおちゃんがいません。
どうしたのかな?
どこにいるんでしょ?
持って来たドラ焼きを社務所に置いて、ちょっとその辺を探索してみましょう。
ま、わたし、タヌキですから、クンクンすればすぐに発見しちゃいます。
たまおちゃんは……社務所の裏にある滝で修行していました。
滝に打たれてじっとしているたまおちゃん。
これだけ見ていると、すごい修行をしているふうです。
でも、わたし、わかってるの。
これは心を鍛える修行じゃないんです。
きっと「コンちゃんどうやったらゲットできるか」思案中なんですから。
でも、こう、滝に打たれてじっとしている姿は……すごい真面目に見えます。
いつも真面目にやっていれば、わたしもたまおちゃんを尊敬できると思います。
最初に会った時は……いい人だって思ったんですけどね。
その中身は、「コンお姉さま」とか「ミコお姉さま」とか、女の子同士の恋愛らしいです。
わたしは女の子同士なんて、さっぱりわからない、興味なーし!
たまおちゃん、結構美人さんなんだから、普通に男の人と付き合ったらいいと思うの。
どうして「女の子同士」なんだか……
って、それまで閉じられていたたまおちゃんの目が、ゆっくり見開かれるの。
目が合います。
「たまおちゃん、来たよー」
「ポンちゃん……なんでコンお姉さまじゃないの?」
「配達に来たのにその言い方……」
「私、コンお姉さまを指名したのに」
「そんなのないんですよ、神社の配達はわたし専門なんだから」
「がっかり」
「わたしだって、神社の階段キツイから、来たくなーい」
たまおちゃん、滝を出て置いてあったタオルで髪を拭きながら、
「これだけ念じても、お姉さま達は来てくれません」
「嫌われてるんですよ」
ズバリ、言っちゃうんです。
嫌われてるかどうかは、ちょっとわかりませんけど……
いや、嫌われてますね、きっと……
でも、たまおちゃん、顔色一つ変えずに、
「嫌よ嫌よも好きのうちなんです」
「えー! そうかなー!」
「好きの反対は無関心なんですよ」
「えー! そうなのー!」
たまおちゃん、ポジティブですね、わたしも見習おう。
「でも、名案が浮かびました」
「その、みだらな考えが嫌われてるんだと思いますよ」
「ポンちゃんだって、店長さんをモノにしようって思ってますよね」
「そ、それは、そうですけど」
わたし、返事はしましたけど……
最近あんまり考えてないような気がします!
だ、だって店長さんの出番もずいぶん少ないような気が……
パンを焼くロボットでも代用できちゃうかもしれない!
たまおちゃん、さっさと着替えてしまうと、おみくじ売り場に鎮座して、
「ポンちゃん、覚えていますか?」
「?」
たまおちゃん、語り始めましたよ。
「この前の、肝試しです」
「きもだめし……ああ、はい」
そうそう、164話の事ですよ。
「あの時、コンお姉さまをあと一歩のところまで追い詰めました」
「追い詰めた……そういわれればそうなのかなぁ」
「コンお姉さまは、こう、状況が状況だと逃げられないと」
「で、どうするんです?」
「コレ」
「!」
たまおちゃんが指差す先になんとポン吉。
指差されたポン吉、固まって引きつってるの。
「な、なんだよ、あぶらあげの配達なんて初めてだぜ」
ポン吉、あぶらあげの入った手提げをたまおちゃんに手渡しながら、
「なんだよ、たまお姉ちゃんが配達なんて、めずらしいな」
たまおちゃん、手提げの中のあぶらあげを確かめながら、
「この、あぶらあげを使って、コン姉さまをおびき寄せます」
たまおちゃん、自信満々。
わたしポカン。
ポン吉はあきれてるの。
たまおちゃん、わたし達の顔を見てから、
「二人とも、うまくいかなそうな顔」
「いやいや、いかないでしょ、あぶらあげで」
わたし、あきれて笑っちゃいました。
ポン吉も、
「あぶらあげ、うちに来たら食べれるしなぁ~」
たまおちゃん、わたしに、
「ポンちゃん、家にあぶらあげ、ありましたっけ?」
「ないよ、あっても全部お味噌汁に入れちゃうかな」
「なら、ここに来るしかないですね」
たまおちゃん、受話器を手にすると、ダイヤルして、
「あ、パン屋さんですか、コンお姉さま?」
たまおちゃん、あぶらあげを眺めながら、
「コンお姉さま、ここにあぶらあげがあるんです、食べに来ませんか?」
って、わたしにも聞こえるくらいに「ガチャン」って切れちゃうの。
たまおちゃん、一度受話器を見てから、電話に戻すと、
「ふう、ふられてしまいました」
言ってから、あぶらあげ一枚、口にします。
「サクッ」って音がして、もそもそと口が動きます。
あぶらあげは10枚、今、一枚が食べられています。
たまおちゃん、一枚食べ終えると、また電話しています。
お店に電話が繋がるのがわかりました。
かすかに、
『山のパン屋なのじゃ、何用なのじゃ』
コンちゃんの声がしました。
たまおちゃん、受話器をポン吉に渡して、残り9枚のあぶらあげをちらつかせるの。
ポン吉、最初はポカンとしていたましたが、急に悪魔の顔になると、
「あー、コン姉ー!」
『ああん、なんじゃ、ポン吉ではないかの』
「コン姉、あぶらあげ、あと2枚しかないぜ」
言うだけ言うと、ポン吉、ガチャンと受話器を置いちゃうの。
わたし、ついつい、
「ちょ、ちょっと、ポン吉、あと9枚じゃないですか!」
「いいんだよ、ちょっと少ないくらいが、面白くなるんだってば!」
「は?」
「けけけ……コン姉、絶対来るぜ、面白くなるぜ」
「ポン吉はどっちの味方ですか!」
「え? 面白い方かな?」
「モウ!」
って、たまおちゃんポン吉をしげしげと見て、
「ポン吉が味方してくれるとは、思わなかった」
「たまお姉ちゃん、バカだなー、真面目に一枚食わないでいいんだよ」
ポン吉、悪魔の顔で、
「残りの数なんて、テキトー言えばいいんだよ」
ポン吉、悪魔です。
コンちゃんと一緒に釣りに行ったりするから、仲良しと思っていたけど、これはどーゆー事でしょ。
わたし、テレパシーで、
『ちょっとちょっと! コンちゃん裏切っていいんですか! 友達じゃないんですか!』
『別に友達でもなんでもねーし』
ポン吉、ニコニコ顔で、
『今頃、コン姉、悶え苦しんでるぜ、ケケケ!』
あ、それはわかります。
今頃お店で「あぶらあげー」とか悶えているはず。
でもでも、それが本当なら、これから「おそろしい」事が起こるような気がするの。
あのコンちゃんが、悶え苦しむだけでしょうか?
「絶対来ますよ、絶対」
わたしが言うと、ポン吉、ニコニコ顔で、
「ポン姉もそう思うか、オレもそう思うぜ」
たまおちゃん、目がハートマークになって、
「ラブチャンス!」
なにが「ラブチャンス」ですか、コンちゃんは「殺意」をもってやってくるんですよ。
わたしはひきつり、ポン吉はニコニコ、たまおちゃんは夢見心地。
そして、社務所の中央に光の珠が生まれるの。
来ますよ、来ます!
テレポートしてコンちゃん登場!
「あぶらあげー!」
呪文のような声で、光珠からコンちゃん、出て来るの。
刹那、たまおちゃんの目からハートマークが消えます。
「ちぇすとー!」
叫んで印を結ぶたまおちゃん。
途端に登場したてのコンちゃんが、バチバチと火花を散らします。
「むおっ! か、身体がっっ!」
なんだか社務所の中に「結界」が準備されていたみたいですね。
いつでもコンちゃんが来たら、捕らえられるように「罠」張ってたんでしょ。
「コンお姉さま、かかりましたね」
「むむむ、たまお、やりおるなっ!」
「これでコンお姉さまと一つになれるっ!」
「このみだら巫女がーっ!」
火花を散らして固まっているコンちゃん。
印を結び続けるたまおちゃん。
わたしとポン吉、固唾を呑んで見守るの。
でもでも、なんとなくだけど、ポン吉に見せていいものでしょうか?
わたし、そっとポン吉の目を手でふさごうとするんですが、
「なにすんだよ、ポン姉、これからが面白いんじゃねーか!」
「むう、でも、なんだか大人な時間の始まる気がするんだけど」
「バーカ、そんな筈ないだろ」
ポン吉、わたしの手をポンポン叩きながら、
「オレの予想だと……すぐにコン姉逆襲するな~」
「えー、今、完璧に捕まってますよね」
たまおちゃん、ジリジリとコンちゃんに接近。
そして手を広げて、
「コンお姉さまっ! 好きっ!」
飛び掛ろうとするたまおちゃん。
でも、コンちゃんに抱きつく前に、何かに弾き飛ばされました。
「ふぎゃっ!」
転がるたまおちゃん……今のは「ゴット・シールド」ですよ。
痛みで床を転がるたまおちゃん。
なぜか自由になったコンちゃんは、そんなたまおちゃんを仁王立ちでにらみつけてるの。
「たまお、コロス!」
コンちゃん、手に光る刀が登場です、あれは「ゴット・ソード」ですね。
「思い残す事はないかの!」
「コンお姉さま!」
「死ねいっ!」
おお、久しぶりにマジなコンちゃん。
ゴット・ソードがたまおちゃんを袈裟切り。
切られた所が光り輝くたまおちゃん……そのまま光に飲まれていきます。
「うわ、本当の殺しちゃった!」
ポン村はコメディなのに、困りました。
って、ポン吉、肩を揺すって笑いながら、
「たまお姉ちゃん、あんなので死ぬわけないじゃんか」
「は?」
わたしとコンちゃん、そんな言葉に「死んだはず」のたまおちゃんを見るの。
光が収まると、そこには巫女服を着た「丸太」です。
途端にわたしとコンちゃんに雷が落ちたような背景が!
ポン吉は笑ってるんですけどね……
って、コンちゃんの背後に裸のたまおちゃん登場。
「コンお姉さまっ!」
背後からタックルを決めました。
もう、しっかりとコンちゃんを抱きしめているの。
「もう逃がしませんっ!」
「うわ、やめ、みだら巫女っ!」
あー、すでにたまおちゃんの手がコンちゃんの胸元を攻めてます。
コンちゃんドン引きなの。
わたしは「どうしようかな?」作戦考えてるところ。
ちらっとポン吉を見たら、床で笑い転げているの。
「ちょっと、ポン吉、なんとかしてよ」
「えー、コン姉困ってるの、見るの楽しい」
「友達じゃないんですか~」
「一緒に遊んでるだけだよ」
「それを友達と言うんだと思うんですよ」
「そうかなぁ~」
「コンちゃんを助けると、いい事あると思いますよ」
「そうかなぁ~」
「コンちゃん助けないと、ひどい目にあいますよ」
「あー、それはあるかも」
「じゃあ、助けてくれるんですね」
「まだ早いだろ、でも、たまお姉、すげーな、『代わり身の術』とか使ったぜ、巫女じゃなくて『くの一』じゃねーのか?」
「関心している場合ですか!」
「いいじゃねーか、なー、たまお姉!」
って、ポン吉、たまおちゃんに声をかけますが、
「なんですか、ポン吉、今、いそがしいです」
コンちゃんが、
「こら、ポン吉、助けんか!」
ポン吉、ニコニコ顔でスルーすると、
「たまお姉、オレ、ちょっと見てみたい」
返事はないです、たまおちゃんはコンちゃんの体をまさぐりまくりです。
ポン吉が、
「たまお姉、こーゆー時は『分身の術』で攻めるのがいいんじゃねーのか?」
途端に青くなるのはコンちゃん。
目がキラキラと輝くのはたまおちゃん。
って、たまおちゃん、コンちゃんから離れると、
「コンお姉さま、覚悟!」
さっきからたまおちゃんは「裸」なんですが、恥ずかしくないんでしょうか?
まぁ、いいんですけどね。
たまおちゃん、いつも三つ編みしている髪がほどけて、ウネウネうねりだしました。
気合、ひしひし感じますよ。
「うわ、たまおちゃんがっっ!」
一人が二人、二人が三人、どんどん増えていくの。
コンちゃんを囲んで増えていくたまおちゃん。
すごい、本当にニンジャアニメみたいになってきました。
「たたたたまおちゃん、スゴ!」
ポン吉も、
「おお、たまお姉、すげー」
でも、ポン吉、笑ってるんですよね「すげー」って言ってるわりに、
囲まれてびびっているのはコンちゃんです。
「う、うわ!」
たまおちゃんの攻めにコンちゃんもいよいよ陥落でしょうか。
よくよく考えたらいい事かもしれません。
わたし、もう、コンちゃんと一緒に寝なくてよくなるからね。
正直言うと、わたし、たまには一人でゆっくり寝たいんですよ。
毎晩「ポンはフニフニなのじゃ」とか言われて抱きつかれるのは、ちょっとうんざり。
「あわわ……」
ああ、コンちゃん、もう固まっちゃってます。
わたし、ポン吉に、
「ねぇ、助けてあげないでいいの?」
「いや、抱きつかれてるの、離れたからいけるだろ」
「包囲されてるじゃないですか」
「いや、分身の術って言ってもコン姉みたいに神さまじゃないから一人なんだぜ」
聞こえたのか、コンちゃん真顔に戻って、目を細めるの。
それから2本指を立てて、左右に振ったりしています。
「ゴット・バット!」
って、コンちゃんの手に金属バット登場。
「えい!」
バットを投げちゃいました、低めに飛んでいくの。
「あっ!」
今まで分身していたたまおちゃん、消えました。
バットにつまずいて、倒れちゃうたまおちゃん本体。
裸で転んだから傷だらけ・血まみれなの。
「痛い……」
ヒクヒク痙攣しているたまおちゃん。
コンちゃんはひっかけたバットを拾い上げると、
「ゴット・ホームランっっ!」
一振りでたまおちゃんは青空に飛んでいくの……天井突き破って。
キラっ!
☆になっちゃいました。
コンちゃん、たまおちゃんの服から「あぶらあげ」を出しながら、
「今回のたまお、なかなかじゃったのじゃ」
「あぶらあげ」をもぐもぐしながら、ポン吉に近付くと、
「ポン吉よ、おぬしは今度、きつく叱らんといかんのう」
「助けてやったの、オレの一言だろー!」
「面白がっておったのじゃ」
とりあえず、一件落着……かな?
今日も神社に配達です。
「たまおちゃん、来たよ~」
「ふう、ポンちゃん、いらっしゃい、なんでコンお姉さまじゃないのかしら」
たまおちゃんはもう、何事もなかったかのように復活、通常営業なの。
社務所でポヤンと空を見ながら、
「ポンちゃん、今度コンお姉さまがここに来たら、今度は……」
「今度……」
たまおちゃん、全然懲りていません。
もう次の作戦を考えてるみたいなの。
「今度は……今度は……」
「うまくいくといいね」
相手するの、疲れました。
山のパン屋さんは、今日ものんびりした時間が過ぎていきます。
って、お客さんもまばらなんですが……
そんなパン屋さんに迫って来る爆音があるの。
「うわ、すごいのが来そうです」
「バイクのようじゃのう」