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結界の維持者【2】

 

「あの、結界の維持者というのは一人だけですよね。前任が生きていれば新しい人には引き継がれないはずでは? だからこそあなたが此処に入れられたことで結界の維持は出来なくなり、けれど生きてはいるから次の維持者が現れなかったのではないかと考えたんですけど」


 そう問いかけると少し考えこむ彼。

 数度瞬きをして結論を出したのか紙に文字がつらつらと書きこまれた。


『確かにそうだ。ここの空間は向こうの世界との干渉をすべて遮断するから、俺が此処に入れられたことで維持者の力が結界に行かなくなったのだと思う。だが俺が生きているという事実は変わらないから次の維持者は現れない。だから俺も自分から維持者の力が無くなるのは諦めていたのだが、最近何故か力が弱まったので疑問には思っていた』


 無くなるのは諦めていた……まるで維持者の力が無くなるのを願っていたような文章だなと思う。

 彼は私の様に望んでここに入れられたわけでもなく、こうして物を出せるわけでもない。

 気が狂った人間か死体しかないこの空間を結界の恩恵で気を狂わせる事も死ぬ事も出来ずにたった一人で歩き続けるのは、少し想像しただけでもすごく辛い事のように思えた。

 それを百年近く繰り返して来たのならさっきから私の手を握り締めて離さない彼の様子にも納得できる。

 久しぶりの正常な人間、意味の通じる会話、もし私が逆の立場でもきっとこうなるだろう。

 部屋の中にある色々な物を見回していた彼が更に続けて文字を書きだす。


『これは俺の勝手な想像だが、本来なら俺が生きている限り維持者は引き継がれはしないはずだ。ただ次の維持者の君はこの空間にいながらこうして物を取り出せる能力がある。そういった力が関係して本来なら引き継がれないはずの維持者の役割が君に行ったのかもしれない。俺も詳しくはわからないが』


 そこまで説明されて一つ思いついたのだが、この力というよりは私が他の世界で生きた記憶を持って生まれ変わってきたことが関係しているのかもしれないという事だった。

 こう、魂が前の世界の物と混ざっていて純粋なこの世界の住人じゃないから引き継げましたよ、的なものではないかと思う。

 まあこれも勝手な想像で、真実は私にも彼にもわからないのだけれど。

 人知の及ばない事を考えたって仕方ない。

 そもそもこうやって記憶とパソコンを持って転生した事だって原因なんてわからないんだから、とりあえず私が維持者の可能性がかなり高い事だけ覚えておこう。

 そう決めて未だに私の手を握り締めたまま小さくため息を吐いた彼を見る。


「あの、私に結界の力が引き継がれたなら蘇芳さんはもう維持者じゃないんですか?」


 そう聞いてみると彼が自分の体を見下ろして、しばらくしてから首をひねった。


『いや、かなり力は落ちたがまだ維持者に向けられる結界の恩恵は残っているようだ』

「そうすると維持者が二人? ……まあこの空間ならそんな事もありますよねきっと」

『君は受け入れるのが早いな』

「こんなよくわからない空間で細かい事気にしててもどうしようもないですし。あ、その内私にも蘇芳さんみたいに自分が維持者だっていう感覚がわかるようになるんでしょうか?」

『自分が維持者だと気が付いて意識し始めるとだんだんわかるようになると思う。俺がそうだった』


 その自覚をした時、私はあの国に時限爆弾を置いて来たと確信する事になるんだろうか。


「維持者が二人もこの空間にいるなら流石にもうあの国には維持者は出ないような気がしますね」

『俺が此処にいるのに君という維持者が出た事ですらおそらく奇跡のような物だと思うが』

「なら、あの国の結界は……」

『しばらくは持つだろう。俺が此処に入れられてからもしばらくは持ったはずだ。結界に蓄積された維持者の力が補充される事無く徐々に無くなり、やがて機能を停止する事になる』

「……あの子を逃がしておいてよかった」


 おそらく私に良くしてくれた使用人達も続々と国を離れるだろう。

 そうなればあの国とは違って元々結界という守りが無い代わりに自衛がしっかり出来ている他の国の方が安全なはずだ。

 結界の守りが日々薄くなっていく事に気が付いた時、姉とあの男はどうするのだろう。

 あの二人に原因が突き止められるとは思えないが。

 まあ私の大切な人達は無事である可能性は高いし、嫌いな、もしくはどうでもいい人間をいつまでも気にしているほど私は優しくはなれない。

 そもそもここに入れられてしまった時点で私にはどうする事も出来ない事だ。

 そう結論付けた所で、なんだか眠くなってきた気がした。

 元々マッサージチェアで寝そうになったのを、我慢してこちらの部屋に戻って来た所だったのだ。

 彼がいたから眠気は吹き飛んだがまた戻って来てしまった。

 すぐに眠りたいわけではないが、時間的にはもう深夜。

 未だに大きな手に包まれたままの私の手と、少し疲れた様子の彼を見る。


 あれ、そういえばここからどうしたら良いのだろうか。


 もう少し彼と話したいし、ここでお別れなのは嫌だ。

 少なくとも彼がすぐにこの部屋から出ていく事は無いとは思うが、相手は男性。

 同性ならば気軽に泊って行かないか聞く事も出来るが、流石に最推しキャラとはいえ男性を泊りに誘うのはまずい気がする。

 むしろ私が緊張して無理だ。

 だが縋りつくように握られた手の体温を感じてしまっている今、彼を追い出す選択肢は全く無い。

 そのくらいなら泊って行ってもらった方がマシだ。


 眠気混じりの頭の中ではいい考えは全く浮かんできそうになかった。


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