02:オーバーメタル・ファイト
02:オーバーメタル・ファイト
『……フン、30年前に消えたロートルが、今更何のつもりダ』
データベースに照合を終えたアイスキュロスが、忌々しげに吐き捨てる。
だがその内面で彼は、運命力が相手に集まりつつあることを感じ取っていた。
これは。特異点で戦う者であれば、誰もが身につく直感である。
『先日、定年を迎えて嘱託になりましてね。休日も増えたし、最近やっと腰の調子が良くなってきたので、この機会に現役へ復帰したのですよ』
アダマリオンは、構えを崩さぬまま答えた。
『グロコッ! 老いぼれは年金でも貰って家で寝ていればいいんダ』
『年金が貰えるまでには、まだあと10年ありますので』
嗚呼、なんたることか! 日本の年金はついに70歳から支給となっていたのである!
『巫山戯た奴ダ……』
『アイスキュロス様! ここは我等にお任せ下さい』
『ベルー! そうです! 四天王筆頭たるアイスキュロス様のお手を煩わせるまでもありません!』
周囲を固めていた部下怪人達が、口々に具申する。
アイスキュロスは短く唸った後、それを承認した。
……一撃の下に怪人を絶命させた相手である。戦術的な見地から言えば、連携をとって一斉に攻撃するべきだろう。
だが、そんな者達を特異点は愛さない。
愛されぬ者に、運命は決して味方しない。
戦闘型幹部級怪人が一般怪人と共に数に任せて襲いかかるなど、この場面では許されないのだ。
「その局面」に持ち込むためには、入念な観察と下準備、そして演出が必要なのである。
つまり彼等の選択は。一見して無意味でありながらも、特異点の運命力を最大限に利用した、極めて状況判断に富んだ行為なのだ。
この作法に則っても勝てぬのであれば……恐らく、いや、間違いなく。一斉に襲いかかっていたとしても、倒すのは不可能だろう。
つまり、勝てるものが勝てなくなるのである。
『よし、行くのダ! クラブオス、スネイクデス、フライティン、スコピニオス!』
『『『『イェアー!』』』』
数名の一般怪人が連携をとることに関しては、運命力の妨げは無い!
先頭を切ったフライティンは背に生えた羽を展開し、滑空。
尋常ならざる速度で、急激で複雑な軌道を描きつつ、アダマリオンの背後へと回り込もうとし。
『メタルオーバー・ナイフハンド!』
顔を向けもせずに放たれた鋭い手刀によって、その羽を断ち切られたのである。
フライティンはそのまま瓦礫の山に高速で衝突し、動かなくなった。
「おお! メタルオーバー・ナイフハンドだ! 見たかい三方ヶ原君! 気配だけで敵を察知し、繰り出される鋭い手刀打ちだよ! 砲弾だって叩き落とすんだぜ!」
「お、オーバーメタル・ナイフハンドですか、課長」
「違う! メタルオーバー・ナイフハンドだ!」
「ふええ、同じじゃないですか……」
「全然違う!」
流星商事の準不倫カップル達が言い争っている間も、戦闘は続く。
『俺様の右ハサミは、鉄柱をも断ち切るのだーっ!』
強力な蟹の腕を持つクラブオスの攻撃を、タックルのような姿勢でくぐり抜けるアダマリオン。
『オーバーメタル・ブリーカー!』
『カニエー!』
そのままクラブオスの身体へと取り付いた超鋼衛兵は、相手を捕らえた両腕の輪を締め付け、勢いよく背骨をへし折る。内臓も潰れているだろう。
良い子の視線があることを考慮した、見た目は残虐度合い低めの必殺技だ!
『オーバーメタル・スクリューナックル!』
攻撃に移る暇も与えず。
蠍型の尾を持つスコピニオスの胸部へ、軸捻転を加えられた鉄拳が叩き込まれる。
心臓を破砕されたスコピニオスは、断末魔を上げる間もなく絶命!
無論、これも良い子への配慮が伺える!
同じ刹那。
残った怪人スネイクデスが、蛇と化した両腕を伸ばして死角からの噛撃を仕掛けてきた。
だがそれも。
『オーバーメタル・ナイフハンド!』
やはり同様に、振り向きもせず一閃した手刀が薙ぎ払ったのである!
「課長課長! 当の本人がオーバーメタル・ナイフハンドって言ってますよ!? メタルオーバー・ナイフハンドじゃないんですかッ!?」
頬を膨らませながら、三方原が小田原課長に食って掛かった。
「はっはっは。たまーにアダマリオン本人も言い間違えるんだよ! 何せ技が多いからね! 子供の頃、私達はそれを【レアメタル】と呼んではしゃいだものさ! 【レアメタル】を見た次の日には、良いことがある、というジンクスまで出来てね! はっはっは!」
「ソ、ソウデスカー」
心底愉快そうに笑う小田原課長。三方原は、完全にドン引きである!
『オーバーメタル・ブリーカー!』
『ヘビャー!』
そうこうしている間にスネイクデスも背骨を折られ、
『オーバーメタル・スタンプ!』
瓦礫に突っ込んだままのフライティンも、背を踏み潰されトドメを刺された。
「アダマリオーーーン!」
「アダマリオォォン!」
見守っていた中年男性達は、狂喜乱舞である。
無理もない。彼等が子供の頃憧れ続けた男が、光景が。今、目の前に蘇ったのだから。
「アダマリオオオーン!」
アダマリオンはその声援に、親指を立てて応えた。
ガキィン!
と小気味良い金属音がショッピングモール内に響き渡る。
何処が鳴っているのかさっぱり分からない、オーバーメタル・サムズアップだ!
かつての良い子達も一斉に親指を立て、それに返す。
オーバーメタル・フレンドシップ・サムズアップである!