AIと誠 プロローグ 先生の愛娘
体裁は徐々に直していきます
目の前にあるのは数字の羅列、あるいは連続した記号を電子的な媒介を通して私たちの良く知る姿に具現化したものである。
50インチの画面越しに怪訝な顔をしている彼女は、時折瞬きをしながらこちらを見つめている。
「先生、彼女は・・・?」
「私の娘だよ。かわいいだろ。」
「ああ、娘さんですか。失礼ですが、あまり似ていらっしゃらないもので。」
「はは。本当に失礼だな。」
画面に映る先生の娘さんは10代前半、見た感じ小学生から中学生ぐらいの容姿である。
体形は細身で、胸は平らに近い。
身長は・・・比較になるものがないので分からないが、少なくとも高いようには見えない。
髪は水色のボブカットで、顔を動かすたびにさらさらと動いている。
「パパ、このひとだれ?」
「パパのお友達だよ。」
「おともだち?」
「そうだ。パパの好きな人だよ。」
おっさんからいきなりの告白。
いや、そこは「仲がいい人」で良いだろう先生。
一瞬シリアナがキュンとなったぞ。
「ふーん。でもミアはきらい。」
初対面の小娘に振られる。
ふん、いいもん、慣れてるもん・・・。
「ミア、どうしてだい。」
「だってさっきからずっとこっちみてくる。」
「それは、ほら、ミアがかわいいから・・・なぁ?」
「え、あ、はい。」
「え、ミアかわいい?うふふ」
娘さんの顔がパッと明るくなる。満面の笑みである。
「そっかー、ミアかわいいかー。ならしかたないなー。ふふふー」
そう言いながら、画面の向こうで娘さんは嬉しそうにくるくる踊っている。
彼女が纏っている白いふわふわのワンピースも風に舞うようにひらひらとなびく。
「ねーねー、ミアどのくらいかわいい?」
「え、あー、えーと、凄くかわいいよ。」
「えー、すごくじゃわかんない。」
「世界一だミア!!ミアは世界一かわいいぞ!チュッチュ」
「パパうざい、ちね!」
先生がチュッチュしていた画面がパツンと暗くなる。
画面の前で項垂れる先生。哀れである。
「とりあえず、気を取り直して、だ。」
ゆっくりと椅子に座りなおしながら、先生は発言を続ける。
「君には、彼女の映像を撮影して欲しい。」
「何かの記念、とかですか?」
「いや、成長記録としてだ。」
「そうですか。すると、長期の撮影になりますね。」
「そっちの方が有難いだろ?」
「はい。私たちフリーランスには定収入って大切ですから、ホント。」
「なら決まりだな。」
そう言うと、先生は煙草に火をつけながら窓の外を見る。
「しかし、先生に娘さんがいらっしゃったなんて初耳ですよ。」
「まぁ、今まで仕事の話ばかりだったからな。」
「もう5年ほどのつきあいになりますが、一度もそういう話していませんでしたね。」
「ああ、そうだな。」
「娘さんはおいくつなんですか?」
「生まれてからそんなに経ってないよ。」
「見た感じだと、小学生ぐらいには思えましたが。」
「あー、まぁ小学生ぐらいだな。」
「大切な娘さんなんですから、年ぐらいはしっかり覚えていてあげてくださいよ。(笑)」
先生が煙草の火を消すと、こちらに一枚の紙を手渡した。
「とりあえず今年の分の金額は、このくらいで良いかな。」
そこに書かれていた金額は目を疑う額だった。
軽く、マンションかロールスロイスが買える。
「いや、先生、こんなに頂けないですよ。」
「君には撮影以外のこともして欲しいんだ。」
「撮影以外、ですか。」
「成長記録と言ったが、君には彼女を“成長”させて欲しいんだ。」
「家庭教師みたいなものですか。」
「そうだな。まぁ、勉強を教えて欲しい訳ではないが、そうだ。」
「この金額を頂けるのであれば、もちろん何でもやらせて頂きますけど・・・。」
「そしたら、ここに記名と印を頼むよ。」
先生に言われた通り、僕は名前を書き押印する。
契約書の内容に特に不審な点はない。
「そしたら、早速明日から仕事を頼みたいんだが。」
「わかりました。時間と場所を教えてください。」
「場所はこの部屋だ。時間は朝8時で頼む。」
「カメラは私の方で見繕って構いませんか?」
「いや、カメラはいらないよ。明日はとりあえず娘と正式に対面してもらう。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
こんなに割のいい仕事を貰えるなんて!
もうスーパーの総菜を安くなるまで待たなくていい!!
うきうき気分で家に帰った僕は、早めに買った総菜のビーフコロッケに舌鼓を打った。
翌日朝7時50分、先生の家に着いた僕はすぐに仕事場となる部屋に移された。
昨日画面越しに見た彼女は部屋にはいない。
まだ到着していないのかな?
僕がそわそわしていると、先生はリモコンを手にして口を開く。
「そしたら、改めて娘を紹介するよ。」
画面がつくと、そこには昨日と同じように娘さんが映っていた。
「いや、先生・・・。」
「彼女がミアだ。生まれてからは・・・半年ぐらいかな。」
「半年って、赤子じゃないですか。どう見ても10歳は越えていますよ!」
「ミアはこの画面から出ることはできないし、物に触れることもできない。」
「へ?」
「私の娘は、人間じゃない。」
「それって。」
「彼女の世話を、君に頼みたい。」
目の前にあるのは数字の羅列、あるいは連続した記号を電子的な媒介を通して私たちの良く知る姿に具現化したものである。
50インチの画面越しに怪訝な顔をしている彼女は、時折瞬きをしながらこちらを見つめている。