物件探し
家賃は収入の3割までって言葉ありますが、
妥当な数字だなと思う事が多いです。
駅が近いだけでも、10分は時間に余裕ができますし。
毎日の積み重ねで何かできるかもしれませんからね……。
俺は、一人で街道沿いを歩き[ セカンタ]の町へ、向かっている。
ファービレジの村から、セカンタの町までは徒歩でも1日も移動すれば届くと聞いている。
セカンタの町への道中は、さほど危険なモンスターは出ないらしい。
移動の1日ってのは、色々荷物を準備しての1日である……。
俺には、アイテムボックスがあるので、装備以外は手ぶらで進めるため、この件は当てはまらないのである。
まぁ、想定の通り、街道沿いに歩いていたら夕方には[セカンタ]の町へ着いた。
すでに、辺りは暗くなり始めている。
早く宿屋を探して、翌日に、この町のギルドへ向かうとしよう。
宿屋を探そうと思っていたら。
町の入り口のそばに宿屋があった。
俺は宿屋に入る。
「いらっしゃい、一人かい?」と、宿屋の店主が訪ねて来た。
「その装備姿を見ると、お兄さん冒険者かい?」
前の村で購入できる最高装備をしているから、そう見られても仕方ないか。
「いや、俺は商人だ。この街に商売しに来た」
「へぇ、そうかい。商人さん、今日はウチに泊まるかい素泊まりで一泊70ゴールドだよ」
前の村より20ゴールド高いか、素泊まりでって事は食事が出ないのか。
残念だ……。明日はギルドを探すついでに、明日は他の宿屋も探そう。
「あぁ、一泊するよ」
70ゴールドを店主に渡した。
「二階の201号室だよ、そこの階段上がって左手の所さ」と言われて、鍵を渡された。
201号室へ入り、部屋で防具や装備を外しアイテムボックスへ入れた。
そして、食事を取ることにした。
今日は、ハンバーガーとコーラとポテトを全て[異世界取引]で、出来合いの物を取り出した。
明日は、この町のギルドを探すつもりだ。
正直な所、村での俺の生活を思い出すと余裕がなさすぎた。
商売に力を入れるとしても、多少は息抜きが欲しいと考えていた。
レベル3だが、レベル上げて取引アイテムを増やすか……。
あっ、そういえば。
異世界転生してから、すでに一ヶ月経ってるので俺が楽しみにしている[コミックスの発売日]、だったのを思い出した。
商売を始める前に、レベル上げが急務となってしまった。
俺は楽しむ為に、生きるんだ!! 冒険がしたいわけじゃない。
ハンバーガー等のジャンクフードは、たまに食べる分には良いが毎日食べると飽きるので、明日は普通に料理を食べようと思いながら食事を済ませた。
備え付けの桶に、ウォーターの魔法で水を入れタオルを濡らし体を拭いて寝ることにした。
前の村でも、そうだったが宿屋に風呂はないのか? この世界……。
それは今後の課題って事で、今日は寝てしまおう。
朝から歩き通しで疲れていたこともあって、すぐに眠れた。
朝か……。
そういえば16歳の身体だったな、思ったより疲れが残っていない。
前の身体だったら、あれだけの移動してたら。
翌日、筋肉痛で動けない所だったぞ、それとも、この世界が特殊なのか?
朝から、こんな事を考えていても仕方ない。
起きよう。
普段着に着替え、町のギルドへ向かうことにした。
宿屋の入り口で、店主に止められた。
「お客さん、昨日着てた装備はどうしたんだい」
ああ、宿を出るのに装備がないから。忘れ物したと思われたのかな。
「ああ、俺のバッグは特別製でね」と、言葉を濁してバッグを叩いた。
俺は、普段から空っぽのバッグをいつも肩に掛けている。
アイテムボックスから直接取り出すよりは、バッグから出してるように見せた方が自然に見えるからだ。
「お客さん。マジックバッグの持ち主かい、若いのにやり手の商人なんだねぇ」と、なんか勝手に勘違いしてくれた……。
「ま、まぁね。ギルドに用があるんだが、この町のギルドは何処にある?」
「あぁ、それなら。この通りをまっすぐ行って突き当たりの入り口建物がギルドだよ」と、ギルドの場所を教えてもらった。
「そ、そうか。ありがとう……。
少ないがこれを……」と言って、10ゴールドをチップとして店主に渡した。
「世話になった礼だ、また世話になるかもしれないからな」と、チップを渡しておけば。悪い印象は持たれないであろう。
そのまま宿屋を後にした。
朝早いというのに人がそれなりにいる、村とは違い住んでいる人口が違うのだろう。
周りの様子を見ながら、ギルドへ歩いて行くことにした。
この道は大通りの一つで、道の途中に交差点が何本かあった。
MAPを確認してみると、町の入り口からギルドまでの道は、この町の中央通りみたいな感じである。
道の途中に、酒場や道具屋などがあった。
武器屋と防具屋は、この通りには無いみたいだ。
あとで町を散策してみるかな等と考えながら歩いてるうちにギルドに到着した。
村のギルドと比べると規模が違うなと、思いつつ建物内へ入って行く……。
この町のギルドは酒場との併設ではなく、純粋にギルド施設のみでこの大きさみたいだ。
受付の場所も多いし人間も多い、村だと受付は2箇所だったのに6箇所は稼働しているみたいだ。
ギルドの様子を伺うようにして見ている俺に、見知らぬ女性から声をかけられた。
「あの、ギルドをご利用の方ですか?」
案内の女性のようである。
「はい、そうです」
「どのような、ご用件でしょう」
「この町で商売をしにきました。あとこれを……」
俺は村のギルドからもらった紹介状を出す。
紹介状を見て、(押印を見て)
「ファービレジのギルドからの紹介状ですね」と、案内の女性が言った。
案内の女性は受付の状態を確認し、
「1~6番までの受付がほぼ並んでますので、ギルドからの紹介案件ですので、7番の受付を開けますので7番の受付に並び下さい」と、案内の女性に誘導を受けた。
7番の受付に、移動し待っていたら……。
隣の、列から
「おいおい、にーちゃん。
そこは開いてないぜ? 見えてないのか?」と、皮肉めいた言葉を飛ばしてきた冒険者がいた。
「あぁ、俺はよそのギルドからの紹介でな。
ここで待てと言われたんだよ」と、冒険者に伝えた。
ファービレジのギルド(小さな村)の紹介とか細かい事は言わないでおこう……。
少し、周りがざわついた……。
あんな、ナリでVIP待遇かよ貴族か……? 等と、いろんな声が聞こえてくる。
いろんな憶測が飛び交っている中、7番の受付が開いた。
「お待たせしました、ギルド長のマルコです、紹介状を渡して貰えるかな」
おいおい、ギルド長が直々に出てきたぞ……。とか、そんな感じで周りがざわついてる。
「初めまして、商人の二階堂 始です」
ギルド証を提示し紹介状を手渡した。
紹介状をギルド長が読み、なにか頷いたような仕草をしている。
「つまり、ハジメ君はこの町で商売がしたいという事かな」
「大まかにいうとそうなりますね」
「少し込み入った話になりそうだから。場所を移そうか」
それは、困る……。騒ぎの中心が俺なのだ。
ここでアピールしておけば、今後これだけの人数がお客さんになる可能性があるのだ。
個室に動けば騒ぎが落ち着いてしまう。
「大丈夫です、こちらで話して頂いて結構ですよ……。
これといって隠すこともありませんので」と、想定外の反応を見せた俺にギルド長が困惑した表情を見せる。
「そうか、今騒がしい状態なんで取引に不向きだと思うが。
君がそういうのならここでいいだろう。
それで、この紹介状に書いてある。
コーラという飲み物はどんなものなんだ?」と、ギルド長が聞いてきた。
内心は、待ってましたという感じだ。
この流れならさりげなく、商品の紹介ができる。
「あっ、試しに飲んでみます?」と、言って、アイテムボックスから500mlℓのコーラを取り出しバックから商品を取り出したように見せる。
そして、キャップを開けて受付の台へコーラを置いた。
「コレがコーラです。是非お試しください」
ギルド長が凄く困惑した表情をしている。
「この黒い液体、泡が出たりしてるが本当に美味しいのか?」
こ、この人もか……。
異世界の人達は、同じ反応を見せてくれるから面白いな。
「あぁ、マルコさん。それなら私が先に半分飲みますんで。
コップを二つご用意していただけますか?」
「あぁ、わかった……」と言って、ほかのギルド職員にコップを持って来させた。
コップ二つにコーラを注ぎ分け、片方のコーラを一気に飲み込む。
「ね? 大丈夫でしょ……」
「毒はないみたいだが……」
「ファービレジのギルド長は、毎日と言っていいくらい買いに来てましたよ」
と、面識があるであろう人物の実体験を織り交ぜていく。
「そうか、毒もないみたいだし飲んでみるか」とギルド長は言って、コーラを口に入れる。
「甘い、そして、この泡の弾けるこの感じがたまらないな」
そして、ギルド長はコーラを一気に飲み干した。
「もっと、在庫は無いのかい? ハジメ君」と、聞いて来た。
「すいません、コレも商売なんで」と、言って断った。
「ただ、お店で出すもう一個の商品なら在庫ありますよ」
アイテムボックスから、ハンバーガーを取り出し受付に置いた。
「ハンバーガーです。紙の包みを外してから、そのまま手で掴んで召し上がりください」
ハンバーガーを食べた、ギルド長は「これは、普通に美味いな」と、言葉を残した。
「ハンバーガーとコーラの組み合わせの相性がいいので、
販売する場所をギルドに、紹介して貰おうと思って来ました」
酒場の併設タイプのギルドじゃないし、ギルド前で露店は少し厳しいかな。
「ファービレジのギルド長の紹介という事もあるし、ギルド前のギルド所有の二階建ての空き物件を貸し出そうと思う」
「いかほどの価格で、貸し出していただけます?」
ギルド長が悩み始めた。
「そうだな月3000ゴールドで……。
いや、君のお店がギルドへの貢献してくれる事に期待して、2000ゴールドで貸し出そう」
「先にすいません。物件を見せてもらってもいいですか?」
流石に有料かぁ……仕方ないよな。
一階を販売スペースにして、二階を住居にすれば宿屋代が浮くと考えればなんとかなるか。
ギルド長に連れられて、ギルド前の空き物件に着いた。
物件自体は、それほど古くはなく、十分にしっかりとした建物だ。
中に入ってみると。スペースは広く何もない状態だった。
二階も同様に何もなかった。
改装をする必要もないし、テーブルと椅子をおけば店としてやっていけそうだ。
ギルド前の好条件だし。よし、気に入った。
「ここを借ります、お店向けに改築なんかはしてもいいですかね?」
「あぁ、構わないよ。それじゃ、書類なんかを用意するから、ギルドへ戻ろうか」
「はい、そうですね」
ギルドへ入り受付の席に着いた。
書類に目を通して、サインした。
そして、前もって二ヶ月分の家賃を支払っておいた。
「家賃二ヶ月分、先に払っときますね……」と言って、4000ゴールドをギルド長に渡した。
これで、[セカンタ]の町に新しい拠点ができた。
最後に、お礼としてマルコさんにコーラを一本渡した。
受付から離れる前に、ギルドにいる皆に聞こえるように言った。
「ギルド前の建物に、お店を出店する予定だ。
オープン当日には、ドリンクを一杯無料で振る舞う予定なので是非ご来店下さい」
俺は、ギルドにいる皆から注目を集めて、ギルドを去って行った。