反転衝動
あれ?
ここはどこだ? 俺は気を失って倒れたよな。
この雰囲気どこかで、見覚えがある。
久しぶりの感覚だが、これは女神様の啓示なのか?
あれは、教会に行かないと起きないはずでは……?
俺が倒れて教会へ運ばれたとか、そういった所だろうか、詳しくはわからない。
解っているのは、今からノルン様と会うということだ。
町を守る為とはいえ、蘇生させたとはいえ、たくさんの人を殺してしまった。
ここで女神に処分されても、俺は文句は言えない立場なのだろう。
一人で色々と納得させていた。
ここに来てしまえば逃げようがない、現状を受け入れよう……。
そんな、人の気も知らず……。
のほほんとした面持ちで、現れる女神様だった。
「お久しぶりですね、二階堂さん」
「そうですね、ノルン様。本当は会う予定なかったんですけど、色々とあって倒れてしまいました」
「そういえば二階堂さん、よく反転衝動治りましたね?」
「反転……衝動?」
「二階堂さんが悪い事した時に、メッセージが出ませんでしたか?」
「善行値と悪行値の相殺って言葉が出た。あと死人の声が聞こえてきた」
「その後に、何か出ませんでしたか?」
「レベル40になったから、相殺を終了するとかなんとか」
「ふーん、そうなんだ。良かったですね二階堂さん、魔王にならずに済んで……」
「今まで、善行値を積んでたからそれで、反転衝動が抑えられてたのかなぁ」
等と、意味のわからない事を言い始めた。
「ちょっとまって、ノルン様。
魔王とか急すぎて、意味がわからない」
「二階堂さんは、無事回避できたから教えてあげますね。
本来、[魔法使い]のギフト持ちは、勇者になるか魔王になるかの二択です。
二階堂さんはレベル40まで、本番禁止等の注意を受けたんじゃないですか?」
「それは、スミス神父から出された目標です」
「スミス神父は、私の啓示を受けた教会内の人間から、情報を聞いて貴方に伝えたんですよ」
「もしですよ、反転衝動とやらに負けていたら?」
「えっ? セカンタの町に魔王出現と各教会に啓示を出すだけですね。
それに二階堂さんは、反転せず皆を守りきったじゃないですか?」
「あー、それなんですけど。
あの後兵士達を[レイズ]で蘇らせたんですけど、それでレベル39に落ちたんですけど?
何故、先程の反転衝動が起きなかったのか聞きたいです」
「それは、貴方がレベル40になった際に、悪行値による反転衝動の鍵を外せたからですよ。
ちなみに鍵はもう一つあります、解りますよね二階堂さんなら。
その鍵は、まだ外れてませんので気をつけて下さいね」
指に輪っかを作り、もう片方の指で突き刺す動作をノルン様にみせた。
「コレを40まで、自重できなければ魔王コースだったのか……」
「だいたい[魔法使い]持ちの子は、すぐ力に溺れて私の啓示を、無視して魔王化するんだけどね。
二階堂さんみたいなセクハラ男が、無事と言うのが不思議だわ」
「セクハラしても、私は商人だ。約束は守りますよ……」
レベル40まで俺は、貞操帯つけるべきかもしれない。
ノルン様が顔を真っ赤にし始めた。
「二階堂さん、この場所で変な事を考えないでください」
「ノルン様二つ程、聞いていいですか?」
「良いですよ、聞いてあげましょう」
「一つ目は、今回の件で私に処罰は?」
「ありませんよ」
「二つ目は、こうなるのはわかってたんですか?」
「私は、運命の女神です。
今後の事も見通してますよ、色々と不本意なこともありますけど」
「不本意?」
「いいえ、なんでもないです気にしないでください。
それはそうと、今回はセクハラが少ないようですが?
心を入れ替えましたか?」
「流石に次のセクハラは、許してもらえないだろうなと思いまして自重してます。
本当は、セクハラして女神様が赤くなってるところ、見たいんですけどね」
可愛いしな……。
「可愛いだなんて」と言って、勝手に人の心の声を読んで赤くなっている。
「すいません、聞こうかどうか迷ったんですけど。聞かせてください」
「どうぞ……」
「ノルン様、貴方は私達の敵なんですか?」
「いいえ、敵でもありませんし、味方でもありませんよ。
私は貴方達の運命を、示すだけの女神ですから。
結果的に、味方と感じる場合もあるでしょうし、敵と感じる事もあるでしょうね」
「そうですか、それなら出来れば味方でいて下さいね。
今の姿のノルン様を攻撃する事なんて、できそうにありませんから」
「ちなみに、二階堂さんの好みは?」
「あと1歳程下ですね……」と、即答した。
「それにあわせておけば、二階堂さんは敵にならないと言う事ですね」
「ほんと、勘弁して下さいよ。
ノルン様には、感謝してるんですから……。
日本にいた時は、運命って言葉は好きじゃなかったけど。
ここでの出会いも、ある意味運命なんだなと考えると、良い言葉に思えるようになりましたから」
「二階堂さん、名残惜しいですが、あちらにお帰りなさい。
もう2日も経ってるんです、貴方の家族が待ってますよ」
「えっ? 2日!?そんなに?」
「二階堂さん、またお会いしましょうね」と、ノルン様が言った。
その後、視界が溶けていくように真っ白になっていった。
……。
…………。
ハッ!!
いつもの天井。
ここは、俺の寝室か……。
皆が、俺のベッドの周りに、塞ぎこむようにして寝ている。
「みんな、おはよう」
全員が、俺が起きたことに気づいて、飛び込むようにして抱きついてきた。
全員の頭を撫でてやった。
「みんな、心配かけてごめんね。もう大丈夫だから」
「ハジメさんが、2日も起きなかったから、みんな心配したんですよ……」
エミリーは、少しグズりながら話してくれた。
シェリーは、声にならない声で泣いて、俺に抱きついてる。
キャリーは、涙を流していながらも気丈に振る舞っていた。
あれ、みんな泣いてる。
一番最後に出会った、アリアもか?
「みんな、泣かないでよ。
可愛い顔が台無しだよ」
「起きた途端に、そう言うこと言うんですね」
「お兄さんらしいですね」
「お兄ちゃん、もう無理しちゃダメ」
「ご主人様、お加減はよろしいのですか?」
「うん、大丈夫だよアリア。
みんな、聞いてもらえるかな。
2日前、魔力の使いすぎで軽く死にかけてたんだと思う。
それで、女神様に会ってきたよ……」
「えっ、ノルン様ですか?」と、エミリーが言ってきた。
「久しぶりに、あった気がしたよ。
そこで今回の事を色々聞いたんだ」
みんなに、女神と話をした内容を話した。
「お兄さん、魔王になってたかもしれなかったんですね」
「そういえば、歴代の魔王も嫁の数が多かったらしいですよ」
と、エミリーが言ってきた。
「お兄ちゃん、悪い人なの?」
「どうだろう? それを考えるのは君達に任せるよ」
「お兄さん、レベル40まで上がらないで、本番すると魔王になるんですよね?」
「その時は女神様が、この町に魔王が現れたって、連絡出すらしいよ。
なので、レベル40までは今まで通りでお願いします」
「無理しないように、レベル40まで急いであげて下さいね。お兄さん」
「善処します」
「お兄さんの善処は、やりませんって聞こえるんですよねー」
ぎくっ!!バレテーラ。
と、罰が悪いところに、救いの声が……。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんを虐めたらダメ」
「ダメだってよ、キャリー。
まぁ、その件は保留させて下さい。
無理したら、またエミリーに怒られちゃうからさ」
「そうですよ、あまり無理させたらダメです。
ハジメさん、働きすぎなんですから」
「ごめんなさーい」と、キャリーに軽く謝られた。
自分もキャリーの気持ちがわかるし、許してあげた。
「それで、話を戻すんだけど。
町の防衛の件は、どうなった?」
「今回の責任は、ボルグ様が全て引き受けるという事で、全て決着がつきましたよ」と、エミリーが教えてくれた。
「サドタの街の兵士達は?」
「怪我人もいませんし、今日の朝方、全て引き上げましたよ」
「うちの町の、ギルド長、副町長は?」
「なんども、お兄ちゃんの様子見に来てたよー」
「そっか、従業員のみんなと、この町のお偉方にも挨拶しとかないとな」
俺は2日間眠りっぱなしで、少し臭うな、風呂に入りたい……。
「ごめん、ちょっとお風呂入りたいからさ。
みんな解散してくれるかい?」
「ダメです」と即答された。
「みんなで、入りましょう。
ハジメさんが倒れてるって事で、2日間工事止まってますから。
三号店のもともとある施設は、修理済みなので使えますよ」
その後、私は四人に介助されるような形で、お風呂に入ったのであった。
体調がイマイチだった為、やましいことはありませんでした。