魚沼さん、やってくる。
『魚沼さん、引っ越してくる』
――ンポーン――
「う――?」
とある日曜日。
――ピンポーンピンポーン――
「あんだよ、うるっさいな――はいはい、今出ますよー」
眠い中で起きた私は、躊躇いなくドアを開けた。
――名状しがたい、なんかツルンとしたトカゲ男が立っていた。
「あ、起してしまい申し訳ありません、隣に越してきた者です。引越しのご挨拶にきました」
――目が、なんかつぶら。
「――んん?」
「――あの、なんでしょう、いきなりメンチ切られる覚えは――」
「――いや、トカゲ?」
「あ、いえ、正確にはゲッコー属のククルズゥ支族、ハルゥン・うおぬま・ククルズゥと申します」
「あ、ども、ご丁寧に。徹夜明けで眠いので、後でこちらから伺います」
「はい、申し訳ありません。失礼します」
がちゃん。
「――あー、寝よ寝よ――」
バフッとベットに飛び込んで、ふと思う。
「――なんだよ、トカゲって!?」
「――おい、そこのアンタ」
「はい?」
やっぱり目がつぶら。ってバカ。
「おま、リザードマンなのに、魚沼て?」
「ん? ああ、父が結婚して婿に入りましたので、義母の名字も名乗らせていただいております」
「あ、そう」
「ええ、はい」
「あの――変な事聞いていいか?」
「なんです?」
「私、仕事のし過ぎで狂ったかな?」
「いや、知りませんよ……」
うん、引かせて御免よ、トカゲ。
世界は平和に見えるのに、我が家の隣室に、唐突にリザードマンが越してきた。
――メッチャいい天気なのに、自分のオツムが危険域なのかー、とか、ベランダで思った。
『秋田さん、友人と飯を食う』
「ありえないわ、あんた」
「いや、マジでそんな事が世界では起きてたのか――怖いわ――」
友人とご飯を食べ、『あたまがいけないかも知れない』といったら、世間はもっと訳が分からなかった。
なんだよ、異世界がやってきたって。
「何日ニュース見てないのよあんた」
「原稿とかに掛かりっきりだったからなー、2――いや、3週間、テレビもネットも断ってたから――」
「世捨て人か!! 檻の中の類人猿だっても少し世間気にするわ!!」
やめろ、やめてくれ、人をダメ人間みたいに。
「というか、喜ばんのね、秋田。そういうの好きなのに」
「いや、専門はUFOですので私――」
あんなツルンとしたつぶらな瞳のレプティリアン、逆に引くわ。
「ふー、食った食った。満足満足、ごちね、秋田」
「庄内、あんた、たまには奢ってよ」
「あんたが落ちぶれたら奢るわ、んじゃね」
「あ」
「お。魚沼」
「呼び捨てですか――いいですけど」
「なあ、聞いていい?」
「今度はなんです?」
「シリウスBかオリオン」
「え? なんです?」
「イルミナティー↑?」
「――いや、秋田さん、寝ましょうよ、ちゃんと」
「いや、多分正常だから、今は」
通じなかった事に、世代なのか種族なのか、はたまた趣味の違いなのか、ちょっと泣いた。




