オバケなんてないさ
「オバケなんているわけないじゃん。常識的に考えたって、おかしくない?」
深夜。家の近くのファミレスにて。
俺が幼いころにオバケが怖くて電気をつけてないと寝ることができなかったという話をすると、こんな遅い時間まで付きあってくれている彼女はそう言った。
「わかってるさ、今は。オバケがいるなんて信じてないよ。でも当時は怖くて仕方なかったんだよ。お前だってそうだったろ?」
彼女は、うーんと考える素振りをみせた。
「どうだったかなー……。たしかに当時はそういうオバケとか妖怪とか信じてた気もするけど。でも電気をつけてないと寝れないみたいなのはないかな。それはキミがおかしいよ」
「そうかなー……?」
なんにせよ怖かったのだ。暗闇のどこかから得体のしれないものが出てきた時に、真っ暗だったらどうする?相手がどこにいるかもわからないままならば逃げることもおぼつかない。
だから最低限の光は必要なんだ。
俺は彼女に暗闇の中での、最低限の光の必要性を説いた。
「ふーん」
あまり興味のなさそうな相槌を打たれた。やっぱり通じないのか。
「でもさでもさ、そういう確認するための光、ってことなら私、今つけて寝たいかも」
「え、なんで?オバケなんていないって言ってたじゃん」
俺が反論すると、彼女は人差し指を立てて左右にチッチッチと振った。効果音付きで。
「そういう問題じゃないんだよ。私は常識を盲信しているわけじゃないからね。オバケだって常識的にいないけど、もしもいたら面白いじゃない。見れるものなら、見てみたいところ」
結局のところ、いると思ってるのかいないと思っているのかはっきりしないな。
「例えばさ、オバケなんていないとするじゃない。だから家で一人でいる時に背後に視線を感じたとしても、何もいるはずはないから振り向いたって大丈夫なわけでしょ?だから私は振り向く。そんでもって、もしオバケがいるとしたらね。そしたらオバケを見ることができてラッキーじゃない?これ、両方とも損をしない気がする」
「もしオバケがいたとしたら、ヤバイだろ。どうするんだよ」
「そんなの殺されるくらいでしょ。そんなの超常現象に対する代償なら、命くらいあげるわよ」
どうかなー……。俺はそうは思わないけど。
「だから私はオバケがいると思ったら確認する。だって見たいから。だから私がいきなりいなくなったり死んだりしたら、オバケのせいだと思っていいよ」
彼女が冗談めかしてそう言うのを、俺は笑って聞いていた。
俺は彼女がそう言っていたのを思い出す。
あの話をしたのは何年前だっただろう。最近はめっきり会うことはなくなっていた。
一ヶ月前に彼女が亡くなったという話を聞いた。まだ二十代後半だった。
死因は心臓発作だったらしい。彼女の近親者は、若くしての死に悲しんでいたと聞く。
でも俺達みたいな若者がそんな簡単に心臓発作になるのだろうか。
そう。
きっと、彼女はオバケを見ることができたのだろう。
深夜に一人でいた時に、きっと背中に視線を感じたのだろう。
そして振り向いた。そこにはオバケがいたんだと思う。
望んでいた超常現象を目の当たりにした彼女はさぞ嬉しかったのだろうと思う。
そんな彼女を少し羨ましく思った俺は、この部屋には自分一人しかいないはずなのにさっきから感じている背中への視線に対し、振り返るのかを悩んでいるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
羽栗明日です。
オバケ、見てみたいですよね。
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