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第零話 : そして刻は動き始める

初投稿となります、よろしくお願いします。

 体格の良い初老の男が豪勢な造りの建物から外へ出る。明らかに堅気ではない男は何時もの習慣からか人気のない道を選んで歩く。


「くそっ、もうこんな時間か」


 こんなご時世だからか、男が若かった頃ではあり得ない量の取り引きをすることとなる。

 所謂違法ドラッグ。復興しかけているとはいえ、現在の日本は法が機能しているとは言い難い。

 街中は国防軍で溢れかえっているが、彼らがこの男を引き止めることはない。何故なら彼らは現在そこに意識を割くほどの余裕が無いからだ。


 肌寒い中、何時にも増して明るい月が男を照らす。お前の悪事は見ているぞ、とそんなことを言われているような気がして、男は無意識に足を早めた。


 男は良いことがあれば、その分どこかで悪いことが起こり天秤が釣り合うように世の中は出来ていると考える人間だ。そんな彼はここのところ運が良すぎた。


「何もなければ良いのだがな……」


 人通りの無い道を選んだことを後悔し始める男。幸い家まではそう遠くは無い。


 男は今拳銃を懐に忍ばせてはいるものの、たかが拳銃では身を守るには足りないことを男はよくわかっている。


 その原因は遡るとおよそ半世紀前にあった。後に世界革命とまで言われた出来事。


 それまで空想の中でしかなかった異なるルールで世界が流れる、いわゆる異世界との空間接続が何の因果か偶然起こってしまった。


 たった数秒の出来事。しかしそれが原因で世界の調和は崩れ、大規模な地震、異常気象、原因不明のパンデミック。ありとあらゆる災いが地球に住まう生物へと降り注いだ。


 然れど悪いことばかりではなかった。未知の元素の発見、これまでの理論を根底から覆すような発見。何らかの研究に携わるものであればまず間違いなく無視などできない変化があった。何より、この偶然の事象は生物の進化を促した。能力者ユーザーと呼ばれる人間が現れたのはそれから八年後のことであった。


 治安の悪化は仕方のないことだったのかもしれない。能力者ユーザーの持つ異能の前には程度に差こそあれ、銃火器で武装したくらいでは太刀打ちできないことも多い。まして犯罪の対象となる一般市民には抵抗できる余地などほとんど残されていないのだから。


 国の取った対策は簡単だった。目には目を、歯には歯を。やがて各国は能力者ユーザーによる特殊部隊の編成に乗り出した。能力者ユーザーの管理。それはどの国においても最優先事項だった。

 故に違法ドラッグの問題や、企業と反社会組織の癒着が摘発されることはほとんどない。


 日本という国が、以前と同じまで立ち直るにはまだまだ時間を要しているのだ。


「ん?」


 人に会いたいのか会いたくないのか、曖昧なまま家へと向かう男の視線に、動く影が映る。

 徐々に近づいてくる影はよく見ると人間の様だった。


 嫌な汗が滲み出るが男は尚も感情を押し込み、堂々と歩みを進める。


 すれ違うその瞬間、初老の男は首に違和感を感じる。そして熱さを感じたと同時にごとりと首が地に落ちる。残された身体からは血が噴き出した。

 すれ違った人間は何事も無かったかのように歩いていくが、その手には少しだけ血がついた大振りのナイフが握られていた。


 初老の男は自分が死んだことにさえ気づかずにこの世を去った。



 ナイフの血をポケットティッシュで拭うと、ナイフを懐に仕舞い込み、携帯を取り出した。


「ボクだ。ターゲットは処理した。今から帰還する」


「了解、できるだけ戦闘は避けること」


「わかってるよ」


 今しがたマフィアの人間を一人切り殺しても、ほんの僅かも感情を揺るがすことなくそう答え、電話を切るとスタスタと歩いて行く。

 そして途中見つけた指名手配書に自分の名前と顔写真が載っているのを見つける。


「また上がっちゃってるよ……」


 元特殊作戦軍中将。反社会組織、アンノウン首領、空閑(くが)りん。危険度SSS。生死を問わず捕縛に成功した者には4億6000万円の懸賞金を与える。

 能力者(ユーザー)であり、空間干渉系能力保持者。

 発見した際は速やかにその場を離れ、国防軍へご一報ください。



 その文面を見て、空閑は溜息を吐く。そして片付けたナイフを再び取り出すと後方へ思い切り投げつけた。呻き声が聞こえたのを確認して、空閑は先ほどの番号へと電話をかけ、


「ごめん、ちょっとだけ遅くなるかも」


 と言ってすぐに電話を切る。獰猛な笑みを浮かべ、敵意ある視線の数を数え始めると、隠れても無駄だと悟ったのか、軍服に身を包んだ青年が暗闇から姿を現す。


「空閑鈴だな。念のため聞くが大人しく捕まるつもりはないか?」


「だって捕まったら死刑かモルモットじゃないか。生憎だけどやり残したことがあるんだ」


「そうか、ならば力づくで従ってもらおうか。国防軍特殊作戦軍中佐、第八大隊長、東条(とうじょう)(じん)……参る!」


「そこそこのが来たね。さて、ちょっと現役の腕を見せてもらおうかな」


 空閑が左手を突き出すと闇一色の世界が蠢いた。

 辺り一面が宇宙のような空間に変わり、依然として隠れていた数人の姿が明らかになる。

 東条仁が言葉を失う姿を見て、鈴はケタケタと嗤う。


 逃げる事すら叶わない、悪夢が始まった。


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