第6話『……もう……良いよ、どうだって……』
次の日、いつもの様に登校していると、後ろから何者かの気配が勢いよくやって来ることに気づいた私。やや警戒気味に歩いていると背中を強く押され、私は怠惰な目で振り向く。そこには当然の様に輝一の姿が。
「よっ! 日佐亜! 良い天気だな!」
まるで友達にでも会ったかのような挨拶をしてきた輝一。
何なのよ、こいつ……。急に背中押すって……びっくりしたじゃない。
私は輝一の言葉に仕方なく応答。
「あぁ~あ、今日も雨になってくれれば良かったんだけどな。そうすれば、どこかのバカ面を見ずに済んだのに……」
「……?……誰のこと?」
お前のことだよ!
私は呆れて溜息を付き、輝一を無視して歩き始めた。すると、輝一はそんな私に追跡し始めた。相当、私のことが気に入ったらしい。
「日佐亜……何か冷たいな」
いつものことでしょ。
私は昨日のような面倒事はスルーしたいので、輝一の言葉もスルーした。しかし、このストーカーは昨日のリーダー格とは比べ物にならないほどのしつこさだった。
「そういえば、お前のことがクラスで話題になってたよな」
話の話題が、私の馬鹿にされていた一シーンですか……。傷つけたいのか好かれたいのかどっちなのか……。
「あいつらは本当にムカつくやつらだ……。お前があそこまで言ったのは、俺を守るためなんだろ? ありがとな、日佐亜」
輝一は笑顔でそうお礼をした。
本当に馬鹿は馬鹿のままだ。あれは本心だし、守ったつもりもない。ただ偶然守られただけだし、むしろ殴られれば良かった。
そんなことを考えていたら気持ちがどんどん沈んでいった。これ以上続けると体調不良になりそうだから、私はポケットからウォークマンを取り出し、イヤホンを両耳につけた。
ウォークマン、それはボッチ七道具の一つ。両耳を塞ぎ、己の心に音という名のスピリットを滲みこませることによって、外の鬱陶しい世界をシャットアウト。自分だけの世界に入り込めるという秘密道具なのだ!
音量を普段の1.2倍くらい上げて聞いていた。さすがにこれなら輝一の声は入らない。そうして私は輝一のストーカーから逃れて無事に学校へと着いたのだった。
だけど、学校へ行っても状況はさほど変わらなかった。輝一の件以来、私は女子たちから敵視されるようになった。教室のボッチ席に座った私。机の中の本を取り出し読もうとしたが、開いた本の中には落書きが施されていた。ほとんど悪口などが書き込まれている。私は呆れて小さく溜息を吐き、そして机に突っ伏して眠ることにした。
輝一のせいでこっちは大迷惑。恨みを買われてご覧のとおり。最悪……。
そんな私に喧しい声が響いた。声を聞くだけで誰か分かる。その人物は輝一。
「日佐亜! 何で無視すんだよ?! 俺に何か恨みでもあんのか? おい、反応しろよ?」
ムカつく~! 反応すれば絶対に面倒事になる。けど、このまま何も言わなければ、このイライラをどうすればいいのか。それに、輝一の声を聴き続けなきゃいけない……。もぉ~! どうにでもなれ!
頭にきていた私は机から顔を上げ、輝一を細い目で睨みつけた。輝一はビクッと体を震わせた。
「恨み? ……あるよ、恨みなら」
「んだよ、あんのか? 聞かせろよ、俺の何が悪いか? じゃねぇと落ち着かねぇぜ」
私は輝一の襟元を掴み、耳元に呟いた。
「……二度と話しかけないで……。今にでも……あなたをぶん殴ってしまいそうだから」
らしくない表現で日佐亜は呟いた。これには黙ってはいられない輝一。
「んだよ! お前が手を出すってのか? 俺、お前をほとんど知らねぇけど。……だったら、殴れよ! お前が憂さ晴らしできんだったらそれでも良い。だから、俺と友達になれ!」
明らかに上から口調で輝一はそう叫ぶ。何か日佐亜に気でもあるのだろうか。でなければ、ここまで執着する必要もない。
日佐亜は右拳を握りしめて少しだけ上げたが、やはり殴れる訳もなく、日佐亜はその拳を机に打ち付けた。
「……もう……良いよ、どうだって……」
それだけ呟いた後、日佐亜は教室を出て行った。周りの女子が少し嘲笑うような顔で見送っていた。輝一はそんな様子を無言で眺めていた。