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別に出会いなんか無くて良い  作者: 星野夜
一学期
6/15

第5話『あの変態ストーカーが金魚の糞のようにしつこく付き纏ってきた件ですか?』

 そして次の日になると、輝一と私の話題で教室が盛り上がっていた。私は気まずい空気を気にせずにいつも通り、無言で教室へと入る。そして窓側一番後ろのボッチ席へと座って本を読み始めた。そして案の定、そこへ一人の人物がやって来る。もうお分かりでしょうけど…彼の名前は輝一、鈴川輝一。

「日佐亜! 今日こそ認めさせてやるからな!」

 朝から煩いなー。どうしたら朝からそんなにバカ騒ぎできるのかしら。

 私はちょっと腹立っているが、関わると面倒だから無視して本を読み続ける。

「お前、まだ諦めてねぇのかよ? 精が出ますねぇ、輝一さんは~」

 とある男子Aがそうはやし立てる。他の男子生徒も同じように続けてはやしている。

 あぁ~あ、こうなると本当に面倒。……構わないでくれるかな、本当に。

 私はそんな事を思い、小さく溜息を吐いた。その直後だった。輝一が突然叫びだしたのだ。

「うるせぇぞ、どアホ! 俺はなぁ、一度決めた獲物は死んでも捕まえんのが筋なんだよ!だから、俺はぜってぇ諦めねぇ!」

 バカバカしい……もう付き合ってられないね。人を勝手に獲物扱いして、その上、恥までかかせて……入学から一週間もかかってないのに、もうこれだよ……。これだから近頃のリア充予備軍は……。

 私は本を閉じ、ひっそりと眠りぬ老けることにした。その間、輝一VS男子生徒の言い合いが勃発。あまりの煩さに眠れやしない。すると、急に聞き覚えのある声が言い合いの中を割った。

「まぁ、皆さん……日佐亜さんをそう攻めないでください……。彼女はただ独りが好きなだけなんです。それを輝一さんがしつこくまとわりついて…でも、輝一さんも本当はただ、友達になりたいだけなんです。だから、そんな純粋な思いを……馬鹿にしないでください」

 その震えていて今にも消えそうな声は紫乃野の声だった。私は少し顔を上げて紫乃野を見る。紫乃野は直立不動でそう訴えかけていたが、良く見ると手が震えている。勇気を出して放った言葉なのだろう。ボッチの才を持つ紫乃野にしては頑張った方だ。

 輝一は素直にそう答えられて少し恥ずかしそうにしていた。

「輝一が純粋? ま、一理はあるか……純粋馬鹿! ははははははっ!」

 男子生徒のほとんどが大爆笑。紫乃野はそれを黙って見ていた。私も寝たふりで黙って見つめていた。

「だが……そいつは純粋って言えんのか? そこで伸びてるどこぞのボッチさんは?」

 私の事だろう。ムカつく言い方して……末代まで呪ってやろうか。

 友達思いの紫乃野ちゃんはどうにか言い返す。

「純粋です! 純粋に独りになりたいと思ってるじゃないですか!」

「はぁ? バッカじゃねぇの?」

 男子は笑い続けていた。紫乃野は目に涙を浮かべ、必死で堪えていた。

 この子はちょっと純粋すぎるのよね。何も、ここまで言わなくたって良いのに……。それに私なんかはしょっちゅう笑い話になるもんですから、慣れてるのに……。わざわざ、ここまでしなくても……目立たなくしたかったんだけどな。

 輝一は泣きそうな紫乃野をかばう。輝一も変態ストーカーではあるものの、一応友達思いな良い所はある。男子にはやし立てられた健気な少女を守ろうとしている。

「お前ら、それはさすがに言いすぎってもんだろうが! こいつは日佐亜の事を思って言ってくれてんのに!」

「馬鹿は馬鹿だな、やはり。そもそも、あの枯れ木みてぇなもんを守るメリット?そんなもんがあんのか?」

 枯れ木……まぁ、ユーモアとしては良い方かも。確かに枯れてるようなもんだしね。だけど、失礼極まりないんじゃない?

「ある! 日佐亜と友好関係を築けるだろ!」

 それはアンタ固定でしょうが。

「それに! 俺はあまり争いごとは好きじゃねぇ! だから平和であるためのメリットなんだよ!」

 ナニコレ? ……このドラマの一シーンみたいなのは? 痛い痛い痛い、痛くて仕方ない。これが青春の一ページという奴かな? 浮かれてますね、皆さん。

「そうか、俺は争いが大好きだけどなぁ!」

 一人の男子生徒が輝一に殴りかかろうとした。その時、私は咄嗟に立ち上がった。椅子がガタンと音を立て、そして教室中の生徒全員が私に注目する。普段、あまり動かない私が動けば当然の事だった。私は殴りかかろうとしていた男子生徒を据えた目つきで睨みつけ、

「どいつもこいつも……高校デビューで浮かれて……これが青春の疾患とやらですか?  あなたがたはそのような暇潰しがあって良いですね、羨ましいですよ。さ、早くそこに突っ立ってる変態ストーカーをぶちのめしてけりつけてください。そうすれば、晴れて私は自由の身。それにあなたはストレス発散ができる。万々歳じゃないですかー。そうやっていつまでも醜く争っていると良いですよ。そんな狂った趣味には付き合いきれないんで、ちょっと一眠りしてきます」

 私はらしくない表現でついそう言ってしまうと、颯爽と教室を出て行った。皆、そんな私を黙って見送っていく。輝一もそれを見ていた。今回は口出ししてしまったが、次回からは絶対に関わらないと誓うのであった。


 しかし、この答えが間違いだったみたい。私は女子にマークされてしまったようです。

 その成果は早速現れた。放課後、私が一人、図書室で本を読んでいた時の事。背後から誰かの足音がするなと意識だけを張っていた私の周りに三人程度の女子組。良くあるあのベタパターンだね。ここまで忠実に再現されているとさすがに笑いが込み上げてくるけど、そこは落ち着かせて、私は細い目つきで女子組を睨む。

「あら? これはこれは日佐亜さん、こんな所でお静かに読書中ですか」

 リーダー格の女子が一人、そう呟く。

 私はそんな言葉にはうろたえず、冷静に本に目を向けて呟き返す。

「これはこれはとあるどこぞのお国の嬢王様。あなた様が私のような愚民族の名前を覚えていらっしゃるほどの記憶力があるとは思いもしませんでしたー」

 と、適当に愚弄して起きましたw。

 すると、二人の子分が喚き出しました。何か言ってるのだろうけど特に気にする程の事じゃないので、ほとんど聞き流していました。

 リーダー格は言います。

「日佐亜さん? ……昼休みの件について、お覚えですよね?」

「あの変態ストーカーが金魚の糞のようにしつこく付き纏ってきた件ですか?」

 さすがに輝一を好きになる人なんていないだろうと考えていた私。しかし、

「そうよ、あの輝一さんの件よ」

 リーダー格がそう言ったので、私は内面だけで驚いた。彼女はズバリ、輝一に好意を持っている。

 ありえない、人としても女としても……。まぁ、私は女語るほど落ちぶれちゃいないけどね。そもそも、あのデリカシー無し男とデートだなんてまずないね。考えるだけでゾッとするぐらい。

 私は本から目を離さず、相手を嘲罵するように呟いた。

「そもそもあれよね。あんな下品な男を好きになる女なんていないですよね。いるとしたら欲求不満の肉食系女子かモノ好き腐れ女子ぐらいですもんね。輝一の件ではどうもすいませんでした。彼があそこまで私に追求してくるとは思いもしませんでしたから。つい、口が走ってしまいまして」

 リーダー格の女子生徒が輝一に好意を持っている事を理解した上でわざわざそう呟く。頭にきたのか、リーダー格の女子が急に罵声を浴びせ始めた。

「分かってないのはあなたでしょ! 惨めにゴキブリのような生活をしてるあなたに、輝一さんの素晴らしさが理解できるわけがないですもの! 腐れ女子なのはあなたの方でしょう?」

 それに追従して、子分たちが「そうだそうだ」と、まるでダチョウ倶楽部の「押すな押すな」のネタのように言い始めた。鬱陶しいたらありゃしない。

 私はすぐに諦め、読書に集中することにした。別に張り合ったところで利益はないし、それに、口喧嘩で勝ってしまったら=輝一が好き的なムードになるので絶対にDo Not Touch。

 それを見た子分の一人が、私の読んでいた本を腕で弾き飛ばした。私の手から離れていった本が宙を舞い、そして床へと不時着して転がった。表紙を上にして止まる。私はそれを無言で眺め、そして子分の一人を蔑視した。

「もしかして本を飛ばされてムカついているのかしら~? そんだけで?」

 リーダー格が高らかに笑い始め、それにつられて子分たちも笑う。まるで操り人形だ。可哀想に。

 私はそんなことを思いながら、席をた立ち、落ちた本を拾おうと手を伸ばすが、再び、もう一人の子分がその本をどこかへと蹴飛ばした。本は地面をスライドして奥へと行ってしまった。

「それでは、日佐亜さん。次動けばどうなるのか、分かってて?」

 リーダー格は伸ばした手を止めた状態の私を見下して、操り人形のような子分を引き連れて帰っていく。私は遠くへ飛んでいった本に目をやり、そして一息吐くと、誰かさんへと呟く。

「……惨めな王女様……」

 どうやら、この時の私はなぜか珍しく頭に血が昇っていたのだろう。争いが嫌いなのにも関わらず、なぜかムキになってしまっていた。

 案の定、三人組は足を止め、こちらへと戻ってきた。この後どうなることやら。私は理解していたし、逃げようとも思ったけど、引き金を引いてしまった以上、後片付けは自分でしなければならないので。

「あなた、今なんて言ったのかしら?」

 ガン飛ばしながらリーダー格が迫る。

 そういえば、以前にもこんなことがあったなー。ボッチな私は人と関わるのが苦手で、それ故に関わった人間とはすぐにギクシャクしてしまう。今回もそうかもしれない。はぁ~あ、世の中生きづらいな……。

 その場しのぎに適当なことでも言おう……。

「お嬢様、図書室ではお静かにお願いします」

「あなた、さっきから何を言ってるのかさっぱりだわ。私たちに喧嘩を売ってる訳?」

 ……いやいや、そんな一文にもならない商売する訳なかろうがな。お宅はアホでしょうか?

「別に……ただ見知らぬ人とはやっぱり話すべきじゃなかったぁ~って。あ……でも、話しかけてきたのはそっちでしたね」

 その直後、私は蹴りを入れられて床に倒れた。腰辺りに一撃。久々のダメージに不覚にも少し動揺してしまった。

 そうやってすぐに手を出すんだからもぉ~。

「あんたはそこで惨めに這いずってれば良いのよ!」

 そして三人組は帰っていった。私は無表情でそれを見送る。やっと面倒事を終えられたとホッと一息。立ち上がって服を叩いて塵を落とした。

「だ、大丈夫……? 痛くなかった?」

 一人の男子生徒が私に話しかけてきた。

 ……珍しいタイプの男子だ。ひ弱そうな感じを醸し出していて、優しそうな顔立ち。ひょろっとした体型から想像するに、草食系の比較的落ち着いた男子生徒かな。

 私は一言、

「全然……」

 そう呟いた。

「なら良かった。あんなことするもんじゃないよ。君は綺麗で可愛いんだし、地面に這いずくばってちゃ台無しじゃないか。……あんな連中、気にすることないよ。これからも、これに懲りずに図書室へと来て欲しいな」

 男子生徒は笑顔でそう言った。

 綺麗で……可愛いって……お世辞にも程があるでしょ。そんな訳ないし……それに、付いてくるのは輝一だけだったしね。

 私はその男子生徒に呆れて小さく溜息を吐いた。

「……別に……気にしてないし、それに…ボッチな私には図書室が付き物だから」

「ボッチ?」

「……そうですが?」

「それの割には話せてますね」

 この生徒……面倒だな。適当に済ませよぉ~っと。

 私は面倒なので適当に終わらせることにした。

「……あ、そうですか……。でもボッチには変わりないので。それでは」

 私は本当に適当に答えて逃げるように去っていった。

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