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別に出会いなんか無くて良い  作者: 星野夜
一学期
14/15

第13話『恋の疾患に取り憑かれて前もしっかり見えてない愚鈍者ばかりね、女子高生って』

 教室はいつまでたってもうるさい。うるさくて耳障りで、とにかくストレスが溜まりに溜まるよ、全く。どうして毎日毎日同じように騒ぎ立てれるのかしら、パリピ族性愚者たちは。そう思いながら、一時間目が始まるまでボッチ席で独り、毎日毎日同じように窓から吹き抜ける心地の良いそよ風に吹かれながら眠る。のは私の妄想というか切望。結局目の前に、

「日佐亜! おぉぉぉぉぉ……はよぅっなっ! おい!」

 ガソリンスタンドで働けるレベルの、言うなればビルでも爆破した時のような轟音が耳元から響き渡り、鼓膜を震わす。というか、完全に鼓膜を破りにきてるよ。

「うるっ……さいなぁ、もう……。 何? 何ですか? 眠ってる女の子を襲うのは楽しいですか、輝一さん?」

「その言い方はねぇだろ、なぁ、おい」

 とにかくそこからデリカシーなし男の戯言を延々と聞かされていた。もちろん、私は窓の外から見える樹木の枝に止まる可愛げな声でさえずる小鳥を見つめてた。目の前の鬱陶しいさえずりさえなきゃ、いや、正確には私にとっての耳障りな音源かっこクラスでざわめく青春症候群に苛まされる惨めでかわいそうな救いようのない者たちの飛び交う雑音さえなきゃ、今日は素晴らしい朝だったんだろうなー。というか、絶対に高校生活では叶わない願いだ。

「おっはよー、日佐亜!」

 あー、また一人増えたよ……紫乃野……。

「……あ、うん、おはよ」

 一応、嫌いではないので一瞥して反応だけはする。紫乃野、完全に友達扱いしてるじゃん……。はぁあ……これだから、人とは話をしたくないんだよね。


 三年前の今頃。そう、中学一年の春。地獄の小学校生活、誰からも声をかけられず、記憶にも残らず、いじめっ子になぶられ、そのいじめっ子たちの記憶にも残らず、救いの教師ですら、

「あれ? えっと、名前なんだったっけ?」

 と、小笑いで尋ねられる始末。いや、私どれだけ影薄いのよ? もはや、影もないんじゃないの? つまり浮遊霊なのでは? なんて思ったり……例え話ね。幽霊なんて信じないし。

 そんな地獄の小学校生活を終え、中学はクラスメイトの誰もいかない未知なる地を選ぶ。新しい人生を始めよう、中学校生活を。中学では友人もできて、楽しく充実する。そう信じて。勇気を出して声をかけた。で、マークされたわけね。イジメ対象者登録完了。ワンクリックで自動登録。もちろん無料。あとは役員があなたをイジメに参ります。あっそうですか。なら声かけなんてしないほうがいいと、その時、私は心に誓ったのさ。人に話しかける、つまりそれは人の時間を割くこと。時間は進むだけで戻らない。私が誰かに話しかければ、その誰かの時間を削ることになる。なら、話しかけるわけないし、必要ないし、自分の時間を大切にしようと思う。だから人には話しかけない。


 それこそが自己防衛であり、社会的生存率を高めるためのプログラム。のはず……なのに、なぜ、今こんなにも目線が集中するのかしら。背後から猛獣のような女子集団の冷ややかな視線圧を感じるんですが……。輝一には興味ないって言ったでしょ。しつこい人は嫌われるよ?

「あら? 朝から何戯れてるのかしら? 日佐亜さん、紫乃野さん……と、輝一さ、ん……」

 背後からの冷たい声。いや、輝一の名前呼ぶ時だけ小声になるとこね。はい、振り向かずとも分かってますよ。また増えた……はぁ、七華さーん……。

 振り向かない私にムスっとした七華が、あの騒音創造機とは違って、耳元に軽く声をかける。

「あなたのせいで、下等女子生徒からマークされてるんですけど。どうするのよ、これ?」

 あ、そっか。輝一と七華を繋げようとしたんだったね。どうでも良すぎて記憶の箱から抹消してたのを記憶の墓から掘り出してきましたよ。あの破裂音製造物は女子生徒に人気のアイテムだったわね。ひょっとして、背後の猛獣の視線は私……じゃなくて、七華へ?

「……ひとまず、ここで話はちょっとね。昼休みに図書室へとおいでくださいませ、お嬢様」

「あ、あら、そう。それなら……良いわ」

 なんか、ちょっと動揺した? ひょっとして、私が反抗するのをお望みで? 受け身側ですか、ひょっとしてお嬢様? というか……あの後、輝一と七華はどうなったのかしら? 輝一が私の前にしつこく現れるのを見るに、失敗したか……いや、失恋ということだから普通はあんなに恥ずかしげにすることもないか。ということは……普通に、告ってないだけじゃない! 七華! せっかくのバックアップを無駄にするというわけ? これでも当社USBメモリ容量を凌駕し、お値段もお安くなっております。この機会にお買い求めください。お値段は無料! ね? お安いでしょう? そもそも学校で金かけて人助けとか……そんな闇稼ぎはしないわよ。


 昼休み。ボッチの聖域である図書室は相変わらずの心地の良い静寂に包まれ、生命装置は存在しない……いや、一人だけ。図書室くんがいる、それだけ。あの小動物系男子の存在感のなさは以前の私に似てるわね。罵倒の意味で笑。

 私はもちろん、話しかけることなくスルー。何やら読書に夢中な模様。そのまま図書室奥の安定の席へ。いつも通りのカフェオレを片隅にそよ風の吹く窓辺で小説に目を向ける。このままずっとこうして小説を読んでたいのだが、今日は、

「失礼するわよ」

 お嬢様がくるからねー……。って何で騒音発生源と紫乃野までいるのよ?

 私は読んでた小説を閉じ、カフェオレを一口飲む。

「……単刀直入に言うから。今そこにいる騒音発生機のせいで七華が敵対象になってるのよね」

 棒読みで輝一を指差し言う私。

「俺か?! 何で、俺?!」

「ごほんっ……私的にあなたは眼中にないんですが、何やらクラスメイトの青春真っ只中の女子どもは輝一の彼女になりたがってるのよ」

「はぁ? ……それだけか?」

「それだけで、女子って簡単に嫉妬する単純脳なのよ。いや、ごめんなさいね。男性脳してる私だから、そう思うだけよ。恋の疾患に取り憑かれて前もしっかり見えてない愚鈍者ばかりね、女子高生って。いいえ、男子もですけどね」

 って紫乃野は? ……あれ? あの子、普通に読書してない? 聞く気ゼロじゃない? まぁ、関係ないとは思うけれど、少しぐらい耳を傾けてくれないかしら? せっかく話してあげてるのにさ。

 私は小さくため息を吐いて黙る。すると、腕を組んで難しい顔をしてた嬢王様が言った。

「じゃあ、クラス中の醜き争いを繰り広げる雌豚たちを黙らせれば良いのよね?」

「……お嬢様、ずいぶんとえげつない考えしますね、うん。腹の底真っ黒ワロタ。いや、知ってたけど」

「うるさいわね。それが手っ取り早――」

「いや、私にもっと良い考えがある」

「良い考え?」

 そう、とても良い考えだよ。あははは! 素晴らしくて笑いがこみ上げてくるのを抑えるので必死だよ。あはははははっ! ……キャラ崩壊甚だしいな、私。さて、放課後が楽しみだよ、騒音発生装置とお嬢様。……ってアニメできそうね。『騒音発生装置とお嬢様』毎週月曜夜二五時放送。いや、誰が見るのかしら? 誰得?

 そして私はカフェオレを飲みながら、優雅な読書に明け暮れることにした。


 放課後、縛り付けられた拘束ゴホンッ……校則から抜け出し、生徒たちは晴れやかな顔で下校、もしくは部活動へと臨む。私はもちろん、まだ部活動は決めておらず、俗に言う帰宅部なのでこのまま颯爽と帰らせてもらうのだが、今日はちょっとイベントごとがあるのでいつもより長めに教室という鳥かごに残る。鳥かごとは言うものの、私は鳥っていうキャラではないですが。私は時が来るのをボッチ席で静かにそよ風を浴びて読書しながらただただ待つ。

「あら、輝一さん? あなた、怠惰ですね」

 その声は七華。っていうか、それはネタ発言だからやめてあげてぇ!


「喧嘩するのよ、二人で」

「え?」「はぁ?」

 二人でハモるな。

「破局……というか、仲を悪く見せるのよ。すれば、対象はズレる」

 私に、ね。はぁ……。


「ナンダヨ? ドウイウイミダヨ、ソレ?」

 輝一、あんたガチガチじゃないのよ?! 緊張丸出しか?! コミュ症か?! いつも恥ずかしいぐらい馬鹿してるのに、なぜ、こういう時だけ完全棒読みなのよ?! 演技バレバレだから!

「あら? 輝一さん。あなたじゃ、わたくしに釣り合わない、そう言っているのですよ? 鈍感でお気づきじゃないあなたのために、親切に私から申し上げてるのですよ、輝一さん」

 さすがお嬢様。綺麗な口調がなお腹立たしい。氏ねばいいのにゴホッ、本音が。とにかく、その波に乗って、

「ナンダカシラナイガオマエキライダ」

 乗れてないし! って紫乃野、笑い堪えるの必死じゃない。机に顔埋めても肩が揺れて笑ってるのバレバレだよ? はぁ、何この状況――あれ? でもほぼ全員目がクギ付けになってるじゃない。

 輝一と七華の喧嘩? に、女子生徒以外に男子までも注目を集めてる。なんか、収拾つかなくなってきたような……。

「嫌い? あなたのような下等種属に私を嫌う権利はありませんことよ? お分かり? ドゥーユーアンダースタンド?」

「エイゴワカリマセン。ワタシニホンジンナノデニホンゴシカシャベレマセン」

 その日本人がなぜ外人みたいにカタコトなんだよ、輝一! は、つい突っ込みが出てしまう。心の中でね。現実では、


 クールに澄まし顔で最後部窓側席にただ独り、窓から吹き込む春のそよ風に黒髪をなびかせながら、机に置いたカフェオレを飲みながら、小説の世界にただただのめり込む。その姿は立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花÷100ぐらいすればようやく私になるとお世辞が出るくらいかな。……なぜに私は自蔑してるのかしら?


 とにかく、この状況、もう手がつけられないわね。黒板の前で堂々と喧嘩する二人に皆の注目が集まるこの隙を狙って、こっそりと抜け出し、

「ガシリ」

 後ろの扉から抜け出し、図書室へと向かおうとする私の肩を誰かが引き止める。というか、効果音自分で発音してない?

「……な、何、かしら、紫乃野?」

「うふふ、もう少し、見ていこうよ、ね?」

 出たな、闇紫乃野! ちなみにRPGでは出現率が二千五百分の一という低確率。何やら私には闇紫乃野を出現させるスキルがついてるのかしら? しかし、紫乃野の弱点は知ってる。

「……ねぇ、紫乃野。このあと、暇? 私とカフェにでも、どう?」

 その一言で、闇紫乃野は目を見開き、数秒間驚愕の表情で硬直、後に目を輝かせて何度も首を上下させる。そう、闇紫乃野の消滅、紫乃野の復旧作業を終えた。普段、『お友達? え? なにそれまずそうね?』なんてキャラの私が、ボッチで友達がいない紫乃野にこんな言葉をかければ、まぁ、一瞬で私の虜に……私ってそういうところ酷いわね。私は紫乃野の手を引いて教室を出てった。輝一と七華をほっておいて。


「どうしたの? ねぇ、日佐亜? あの、ちょっと恥ずかしいなぁ……」

 手を握られてることに対し、照れを見せる紫乃野。大丈夫、一線を超えてないし、超えるつもりもないし、そもそも私はそっち系じゃないし、これはあくまで、闇紫乃野を押さえ込むためであり、

「日佐亜! どこいくんだよ?! なぁ!」

 輝一の声が廊下に響く。廊下を歩く生徒たちの目線が一斉に私と輝一へ。はぁ……誰か、あのストーカーをどうか、

「輝一くん、ちょっといい、かな?」

 輝一の前に現れたのは図書室の守護者、ひ弱そうな細身をした小動物な草食系男子。そう、通称図書室くん。いつも世話になってるよ、間接的にね。けど、一体彼はあのデリカシーなし男に何のようがあるのだろう? すごい怯えてるように見えるんだけど……。ま、いっか。今のうちに逃げよう、うん。

「そうそう、紫乃野。私は猫舌だから冷たいカフェオレでお願いね」

「あれぇ? 私おごり? あはは、まぁ、いっか! 行っこー♪」

 今度は紫乃野が私を引っ張り、私はありがた迷惑的な表情でついていくことにした。そのあと、輝一と図書室くんがどうなったかは謎。あの金魚の糞のようにしつこい変態ストーカーがついてこなかったのを思うと、長めな用事だったのだろうけど、興味ないね。腹黒お嬢様は……まぁ、あれはほっとけばいいや。めんどくさいし。

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