魔法のケーキ
「残りのケーキも食べちゃってください!」
と 言って アリスはカウンターに行き 鼻歌を歌いながらショーケースを磨き始めた。
「フンフフン♪」
見てると和むような少女だなと思った。見てるとつい口元が緩む。
「そう言えば キミ名前なんて言うの?」
と 俺の名前を聞いてきた。
「侑李。神田侑李」
「侑李君か~・・・」
なんてつぶやきながら ショーケースをきれいにしていた。
すると とびらのベルがカランカランとなった。客かな。
その音で アリスもドアの方を向いた。でも ドアを開けたのは まだ客とは呼べないような
小さな男の子だった。でもその子は泣いていて 目を片手でこすっていた。
「あれれ?どうしたの?大丈夫?」
と アリスは優しく言った。
「ママが・・・ママがいなくなっちゃった・・・ヒック・・・」
と 泣きながら男の子は言った。
「君 お名前は?」
「ハル・・・」
と ハル君は小さな声で言った。
「ハル君!ケーキ食べる?美味しいよ!」
アリスは言った。泣き止まない小さな子供にはいい手かもしれない。
ハル君を俺の向かいの席に座らせ アリスは ショートケーキを用意した。
「はいどうぞ!」
「ありがとう・・・」
と言って まだちゃんとできていない持ち方でフォークを持ち ケーキを一口食べた。
「美味しい!これ美味しいよ!」
と たちまちハル君は笑顔になった。
「よかったぁ!」
と さっきと同じ すごくうれしそうな笑顔で言った。
するとまた とびらのベルは カランカランとなった。
「ハル!」
と呼んだ女の人は ハルの母親だろうか。
「ママ!」
と ハルもその人に飛びついた。
「よかったね!ハルくん!」
と アリスは またあの笑顔で言った。
「本当にありがとうございました!」
母親は頭を下げ 店を出ていった。
「お前すげぇな」
本当に思った。あんなに泣いていた小さな子供を笑顔にさせる。ましてや母親とはぐれた
子供だ。普通じゃマネできるようなことじゃない。
「私のケーキは 魔法のケーキだから!」
と 笑顔で言い 俺と子供が食べ終わった皿を片づけた。
「俺・・・そろそろ帰るわ・・・」
アリスのケーキを食べて ちょっぴり気力が戻った俺は 帰る気になれた。するとアリスは
「また・・・来てね!」
と言った。
「ああ。またなアリス」
「またね侑李君!」
俺は 店を出た。