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港町ラポル

陸の商人には小粒銀を2つ渡す事で乗船の許可をもらった。

50km程度の船旅なので2~3時間だからだろう。

波の向きにもよるので一概にそうとも言えないが。

ただ、手慣れているようなので大きな誤差はないはずだ。


しかし、商人の種族がサテュロスだったのにはびっくりした。

RPG等に出てくる事の少ない種族だからだ。

下半身が山羊というのは幾つかの神話に出てくるがこちらはギリシャ神話だ。

他の神話との共通は牧羊と自然、豊穣の化身である事。

だがサテュロスは欲情の塊であるともされた。

浮気の塊ゼウスが主神であるギリシャ神話なので仕方ないかもしれないが。


商人が買い付けに行ったのを確認し、ニースにどんな人物か聞いてみた。

予想通りというか、つがいにはなっていないそうだが関係は多いとか。

来るのは週一なのに4、5人に手を出しているという噂だった。

幸いな事にニースに近付こうとすると例のサハギン3人組が阻むので今の所問題ないらしい。

ステータス的にもニースの方が強いので多分大丈夫だろう。

もっとも、下半身がタコな種族なのでどういう風に子を成しているのか不思議だったが。


「それじゃ、ホントにありがとね!」

「いや、こちらこそ。助かったよ。あのままじゃ溺れ死にだった」

「お互い様だよ。……それからこれ、あげる!」


そういってニースが取り出したのは笛だった。

何かの骨を削り出したオカリナのようだが、片手分の大きさもない小さいものだった。

指穴も2つしかない。


「それを吹けば人魚には伝わるから。それに人魚に認められた証にもなるよ。

 流石に30リベール以上離れると難しいけど」

「ありがとう、でもいいのか?貴重なものじゃ?」

「ううん、気にしないで。それじゃ幸運な旅路を♪」

「ありがとう。じゃあ行くよ」


こんな短期間ではあったが、ニースと友達になれたのは嬉しい事だ。

友人が元々少ない俺だからな……。

ともあれ、案内された船室で休む事にする。

どうせ、買付けを含めても夜までには大陸に着くはずだ。

俺は周囲に生物がいない事を確認してから呼びかける。


「ティア、いるんだろ?」

(うん、いるよ~♪)

「さっきボナギと言い争いをした後辺りからいなかったがどうしたんだ?」

(戦闘中はボクがいないほうが良いと思ってね)

「いないほうがいい?」

(今のボクはマスターの脳に間借りしてる、

 そしてこの姿の維持にはマスターの魔力を使ってるんだよ。

 だから戦闘中には負担になるからね)

「なるほど……」


本来なら俺じゃ彼女の維持をし続けるなんて出来ないんだろう。

スキル不老不死のお陰でどうにかそう言った事も可能になっていると言う事だ。

スキルといえばレベル1に戻ってからスキルポイントを振って無いな。

45ポイントか……なら不老不死をレベル2にしておこう。

30消費するから残り15か飛影剣のレベルも上げられるが……。

飛距離と共に消費MPも増えるから暫く置いておいた方がいいな。

とりあえずこれで1分にHPMPが2づつ回復するようになった。

ティアの維持もしやすくなるだろう。


「それから今、加護なしって馬鹿にされたが、簡単に見分けがつく物なのか?」

(うーん、それに関しては分からない、魔法を使った様子もなかったし)

「そうか……そっちは保留だな……。

 なら、加護なしと加護ありの差ってなんだ?」

(そうだね先ずは神が持つ属性への適正と耐性。

 後、神ごとにクラスに応じたスキルを覚えられる)

「俺みたいに武器や防具で覚えるのはまれなのか?」

(うん、そうだね。飛影剣はかなり便利でしょ?

 飛距離の割にMP消費も少ないし威力の減少もない、複数攻撃も出来るしね。

 伝説級以上の武器からのラーニングは強力なのが多いんだ。

 滅多に付与されるものじゃないけどね、作成難度が跳ね上がるから)

「なるほど……」


つまり、加護のある奴はレベルが上がればスキルを覚えていく。

だが、無い奴はスキルを覚えないと言う事か。

支配者の剣に感謝だな、便利なスキルを覚えさせてくれた。

そんな会話をしている間にも時間は過ぎ、船は出港した。

しかし、俺は部屋から出ない事にする。

加護なしが差別対象になる理由はなんとなくわかる。

どの神にも属していないという点と弱者であるという点がその理由だろう。

歴史背景までは分からないが……。

そうである以上、俺が外に出れば差別をしようとする輩が必ずいる。

この船だけでも20人は乗っている、下手な事をして海に放り出されたくはない。


もっとも、それからティアと話をしている間に船は大陸の港まで着いていたようだ。

実感としては2時間と少しくらいといったところか。

お約束で沈められたり、海賊船に動きを止められたりしなくてよかった。


「さて、降りるとするか。

 ティアも見つからないほうがいいだろうから、暫くは」

(うん、休憩してるよ)


ティアが消えたのを確認し、俺は船を出る。

かなり大規模な港なのだろう活気のある喧騒が聞こえてくる。

サテュロスの商人に挨拶をして、船から降りる。

桟橋も6本くらいある大きめの港町のようだ。

筋骨隆々のトロル(森の巨人)やサイクロプス(単眼の巨人)が目立つ。

どちらもだいたい4m~5mくらいか、人間の3倍近い。

しかし、トロルもサイクロプスも海にはあまりいないタイプなんだが。

トロルは森妖精の一種なので森にいる事が多いし、

(ただ国ごとに伝承が違っている、小人の場合もある。共通するのは醜悪な事)

サイクロプスは元ネタのキュクロプスが鍛冶師なので山岳に住む。

まあRPGにおいてはだが。

余裕が出来たら話を聞いてみるのもいいかもしれない。


ただ、気になる事があった。

青い肌をした小柄なおっさんが多いと思ったらブッカブーという種族だった。

イギリスのほうの港町で知られた妖精だっけか。

大漁祈願などをする時に拝んだとも、まあ細かいことは知らないが。

しかし、ヒューマンも沢山いた。

ざっと視界に収まる範囲で全体の四分の一くらいがヒューマンだ。

しかし、そのほとんどが奴隷というクラスで表示されていた。

更に彼らにも加護がない、ここにいるヒューマンは全員加護なしだった。

俺を見るなりボナギが加護なしと言ったのもうなずける。

少なくともこの近辺のヒューマンは全員加護なしなんだろう。


もしかしたら、俺は人類と敵対的な種族の町に来てしまったのかもしれない。

しかし、こそこそするのも逃げるのも逆に目立つ。

もっとも、服装の時点で悪目立ちしているのは否めない。

だが服を買うのも難しいかもしれない。

この街は港町の御多分に漏れず桟橋の近くには市場や倉庫街がある。

その先は繁華街になっており、周辺に住宅街が散らばっている。

港周辺はまだ色々な種族が入り乱れているせいか、あまり目立たずに済んでいる。

ただ、繁華街に行くのは不味い、住宅街はもっての外だろう。

となると、自然繁華街の裏街、即ち飲み屋街へと向かう事になる。


「不味いな……せめてこの街の情報があれば……。

 直ぐに町から逃げ出す事も出来るだろうが……」


おのぼりさん過ぎる俺では、この街の状況はさっぱりわからない。

ただ、種族名が人間ではなくヒューマンだったので俺とは違うのかもしれない。

それでも、よく似た種族が奴隷にされているのがうれしいはずもない。


「ティア……これはどういう事だ?」

(ボクにもわからない。この1000年の内に何があったのか。

 だけど、この街でヒューマンは奴隷として扱うのが普通のようだね。

 そして、マスターもヒューマンとして見られる可能性が高い。

 出来るだけ急いで離れたほうがいい、この町から)

「そうだな……」


やはり情報収集は後回しにしてでも町から出るべきだな。

ただ、活気のある港町だけに喧騒もかなりのものだ。

港からは離れたものの、繁華街か住宅街を抜けないと町から出られない。

捕まれば俺も奴隷にされるかもしれない。

流石にそれはごめんだ。


「おう? なんだありゃ? 加護なしが勝手に出歩いてんぞ?」


リザードマンか、俺の事を既に奴隷か何かとして見ているようだ。

ここで対応を誤れば追われる身になりかねない。

町の外に出るまで旨く誤魔化す方法はないものか?

そうだ、確か彼らは俺が加護なしかどうか確認して言っている訳じゃない。

単にヒューマンのようだからそう言っているはずだ。


「加護なし? 本気で言っているのか?」

「なんだ、テメー。奴隷の分際で偉そうに」

「良く見てみろ!」


俺は、飛影剣を弱めにして空に飛ばす。

スキルは加護の賜物だと思っている奴ならこれで誤魔化せるはず……。


「なっ、そりゃ……」

「飛影剣の錆びになりたいならお相手するぜ?」

「ちっ……紛らわしい見た目してんじゃねーよ」


どうにか誤魔化せたようだ……。

正直冷汗ものだったがな……。

何せこいつが認めてくれなければ周りで見てる奴らも参加しかねない。

袋叩きは勘弁してほしかった。


とりあえず現在見える範囲での証明くらいは出来たと思っていいだろう。

しかし、町を出るにはまだまだ厳しい。


「へぇ、やるねぇ。ロドーさんを引かせるなんて」

「誰だ?」


俺が振り向くとそこには、子供と見まがうような姿の男がいた。

顔が大人で身体は子供、しかし足はでかい。

某ファンタジー小説の草分けの主人公種族ホ●ットのようだ。

ステータスで確認する限り、ハーフリングと表記されているが。


名前 パンキー・ラックル

種族 ハーフリング クラス 冒険家

Lv 12   加護  風神の息吹

HP 69/69

MP 41/41

筋力  31   耐久  29

魔力  42   器用度 58

素早さ 63   抵抗値 47

スキル 

サバイバル技術Lv3

シーフ技術Lv1

精霊魔法Lv1

武器  ダガー(4)

防具  革の鎧

アイテム サバイバルキット、干し肉*3

お金 2148D(ドラス



素早さと器用度がやはり高い。

それにダガーは恐らく投擲用だろう。

さっきのリザードマンより油断出来ない。

こいつは何者だ?


「オイラはパンキー、冒険家さ。

 いろんな所に行って、いろんな事を知りお宝をゲットする。

 それがオイラの生き方ってね」

「それでその冒険家様が何用なんだ?」

「キミが面白そうだったからね、ちょっとだけ手助けしてあげようと思ってね」

「手助け?」


パンキーと名乗った小男は、どこか無邪気に笑っている。

しかし、俺は警戒を解く事が出来ないでいた。

周りの事もあるが、この小男は油断のならない奴の様な気がする。

俺に声をかけたのもだが、スキルも能力もかなりのもののようだ。


「ラポルから出たいと思ってるんでしょ?」

「ラポル?」

「この町の名だよ、サージニア大陸最南端の港町ラポル。

 レドニア公国の第二都市でもある」

「ッ!」

「やっぱりね、町の名前も知らないなんて。普通じゃなさそうだ」


迂闊! 前後の文から町の名前だと十分読みとれるのに。

思わず聞いてしまった迂闊さを自分で呪いたい気分だ……。

この大陸の者ではないと証明してしまったも同然じゃないか……。


「ま、ロドーさんとのやりとりだけでも十分怪しかったけどね」

「……それで?」

「ちょっと案内したい所があるんだ。

 そこでならきっと君の疑問にも答えてくれるんじゃないかな?」

「俺の疑問?」

「何故ヒューマンが加護なしで奴隷やってるのか、とかね?」

「ッ!」

「さ、御代は見ての御帰りだよ~♪」


俺は正直自分の不利を悟った。

情報不足がどうしても痛い、そして、この小男はそれを狙い撃ちしてくる。

俺がここで断るとどうなるか、考えるまでもない。

通報されただけで、俺の立場は最悪になるのだから。

俺は仕方なく、パンキーの後を突いて行く事になった……。



名前 諸屋広和もろやひろかず

種族 人間  クラス ドラゴンスレイヤー

Lv 6   加護  なし

HP 71/71

MP 28/28

筋力  39   耐久  37

魔力  34   器用度 29

素早さ 38   抵抗値 40

スキルポイント 15

スキル

不老不死Lv2(一日に1回数死亡をキャンセルする。(残1)

HP、MPを1分に2回復する。老化停止、毒、病気無効)

飛影剣Lv1(MPを3消費し5m先まで斬撃を飛ばす。威力は通常と同じ)

支配者の威圧Lv1(殺さず倒したモンスターを支配する、Lvで成功率変動)

魔法耐性Lv1(魔法によるダメージを50%の確率で9割にする)

状態異常耐性Lv1(全状態異常を3%の確率で無効化、30%の確率で軽減)

武器  鉄のナイフ[威力7]+[筋力39]=攻撃力46

防具  革の鎧 [強度5]+[耐久37]=防御力42

アイテム 水(500ml)、小粒銀*3、オカリナ、アイテムボックス

お金 7200円

ブッカブーというのはイギリスのコーンウォール地方の伝承です。

妖精の一種で本来は姿の見えないものらしいです。

ただ、ゴブリンの一種であるらしく、いたずら好きな側面もあったとか。

嵐を操るとか海の実を司るという伝承もあります、漁師達は魚を供えて大漁祈願をしたと言う話です。

また、天候を操るという話もあり農夫が豊作祈願をしたという話もあります。


つまり、日本の八百万の神々のように良い側面と悪い側面をもった当時の神の一種であったと考えられます。

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