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脱出

「これは……」

「へぇ、随分変わっちゃったな。

 流石に1000年にもなるともう以前の景色が殆ど残ってないや」

「いや、これはそういう問題じゃないだろう……」

「そうかな?」

「ああ……何故なら……」


俺は視界に映る光景を焼付け、隣にいるピンク髪のゴスロリ魔王に向き直る。

どこかとぼけた感じで俺を見返す彼女はわざとなのか本気なのかわからない。

精神年齢いくつだよと思いはしたがあえて言わない事にしよう、命は惜しい。

それよりも、今重要なのは……。


「なんでこの迷宮自体が空を飛んでるんだよッ!!!」

「いやー、本当になんでだろね?」


そう、この迷宮は巨大な塔型の飛行物体だったのだ……。

迷宮の外に出てみると、そこには空しかなかった。

いや、下を見ると海もある。

だが、空と海以外はこの飛行物体しかないという有り様だった……。


「こんなんで、人里とかに辿り着けるのかね……」

「さあ、ボクにはわかんないや。

 ……でも多分大丈夫じゃないかな」

「どういう事だ?」

「海なら、海洋族もいるはずだし」

「海洋族?」

「正確には、海の神ラポトーンの眷属だよ。

 いろいろな種族がいるけど、半分くらいは交渉可能だと思うよ?」

「へぇ……」


とはいえ、その海洋族とやらがいるのかどうかも今の段階ではわからない。

それに、ここから落下すれば無事では済まないだろう。

墜落死で1回、後は深くまで潜り込んでしまい水の圧力で4回死ねば流石に終わりだ。

ヴァーディエンテにまた抱えてもらいながら下りるしかないな。


「ヴァーディエンテ」

「駄目、ここから降りるのは無理みたい」

「え?」


俺は思わずヴァーディエンテを見る。

すると、彼女は足元から石を拾ってひょいと投げる。

だが、石の速度は恐ろしい程に加速しまっすぐ100mほど飛んだ。

しかし、そこでカキンっという音と共に跳ね返る。

明らかに何かに当ってはじき返された音だ。

良く見れば、下にはかなりの土や石等が溜まっている。

バリアのようなものが、迷宮全体を覆っていると言う事だろう。

つまり……。


「まだ牢獄の中ってことか」

「うん」

「しかし、こんな迷宮に封じただけじゃなく迷宮を空に飛ばして、バリアで覆うね……。

 どれだけ用心深いんだか……」

「恐らく神達の仕掛けだね、魔王を封じて魔神の眷属を弱らせたかったんだと思う」

「この世界の神様はみみっちぃんだな……」

「本来の力を持っていればボクなんか相手じゃないと思うけど、彼らも弱ってるからね」


苦笑するように言うヴァーディエンテが笑う。

だが、こうなると手詰まりだ。


「どうにか出る方法はないのか?」

「ん……ちょっと待ってね」


口元に人差し指をくっつけて、ヴァーディエンテは周囲を見回す。

暫く考え込んでいたようだったが、ためつすがめつ一か所を食い入るようにながめる。

やがて、納得したようにうなずいた。


「なるほどなるほど。流石は神の呪法、とてもじゃないが破るのは無理そうだ」

「無理なのか、さっきから眺めたのは何かあるのかと思ったが……」

「うん、破る方法はないけど一応抜ける方法はあるみたい」

「ほう……」


破ると抜けるの違いはわからない、何となく呪法の抜け道でも探すのかとは思ったが。

そんな考えヲしている間にも、ヴァーディエンテは色々と動きまわっていた。

今はアイテムボックスから何やら色々と取り出している。


「一体どうしたんだ?」

「うん、結界に小さな綻びがあるみたい。魔力を維持するための循環起点の真下は通れる。

 でも、魔力を限りなく低くしないといけないから、レベル1に持っていく必要がある」

「なっ!?」


そりゃ色々無茶があるな。

レベルを1にする手段もだが、1じゃ飛べないんじゃないか?

だったら落下、連続死亡コンボで俺は駄目じゃないか。


「ステータスとか見えるのか?」

「ボクは闇魔法をかなりのレベルまで習得してるからね、相手の能力を見抜く魔法もあるよ」

「そうなのか……」

「因みにボクはレベル1になっても魔王の特性として基礎能力が高いから抜けられない」

「しかし、俺一人じゃ落下して終わりだ」

「うん、だからちょっと裏技を使わないとね♪」

「……裏技?」


ヴァーディエンテはアイテムボックスから出したアイテムを地面に配置し、何種類かに分類している。

そして、一通り分類し終えてから俺にまた向き直った。


「出来た、先ず最初にマスターにはスキルも含めて全てレベル1になってもらうよ。

 でも、永遠にってわけじゃないから安心して、能力から考えて100年ほどで封印は解けるから」


100年っていうのは老化しなくなったと言っても長いな、折角そうそう死なない身体になったっていうのに。

レベル1じゃいつ殺されるか分からないじゃないか……。

しかし、それはそれとして気になる事もある。


「封印?」

「そう、この封印は幾つかの条件があって初めて成立する。

 先ず、受ける者が了承している事、使う者も同等に近い位の強さである事。

 そして、受ける者が封印を施される間、動かない事」 

「微動だにしないなんて無理だが」

「動かないっていっても、半径1mの範囲から出なければ大丈夫だよ。1時間もかからないし」


それでもそれなりに時間はかかるんだな。

まあしかし、そちらはいいとして問題点は2つ残るな。

俺がそういう視線で彼女を見ると、分かっていると言う風に頷く。


「ボクも裏技を使ってついていくよ。

 でも流石にこのままは無理だから戦力としては期待しないでね」

「それはいいが……」

「死なないように落下する方法もあるから安心して!」

「なら任せる」

「うん♪」


とは言ったものの、彼女は魔王だ。

クラス表示と彼女の言葉だけではあるが、それでもヴァーディエンテの強さは知っている。

そして、俺は彼女を信頼するだけの材料を持っていない。

有り体に言えば騙されている可能性を否定できない。

だから、条件を付加する必要があった。


「ヴァーディエンテ、君が俺の使徒である以上、直接的な反抗は出来ない事は知っている。

 しかし、全面的に信頼というわけにも行かない」

「それはそうだね、ボクとマスターは会って1日たっただけだし」

「だから、お前の名前をつける。魔王としてじゃなく俺の使徒としての名前をな」

「え?」

「そうだな、ティアナリアとしよう。通称はティアだ」

「ティエナリア、ボクの名前……うん、ありがとう♪」


そう……。

定義付けをするために名前をつけるというのは昔から人間がして来たこと。

彼女のステータスを見て名前がティアナリア・ヴァーディエンテとなっている事を確認する。

名前が変わったと言うことはパラメーターである、使徒も本当だということだ。

だから、俺を裏切る可能性はごく低いと考えていい。


「じゃあ、ティアやってくれ」

「うん! じゃあ最初にボクの魔力を君に注ぐね」

「は?」

「じっとしてて」

「ああ……」


真剣な表情で言ったティアは魔法陣を光を使って形成、その後近づいてくる。

そして、背伸びをして俺の頬に顔を寄せる。

ピンク髪のゴスロリ幼女が俺の頬に口付けする様はどうにも照れるものだった。

だがその口づけにより、魔力が注がれたのも事実らしい。

俺の頬から少し陽炎のような光がたっていた。


「次はレベルを1にするね」

「頼む」


彼女は頷くと俺の回りで祈ったり何かを光で書いたりしながら魔法陣を更に大きくする。

だんだんと力が抜けていくのを感じる。

それからずっと俺はただ立っているだけだったが、仕方ないだろう。

そして、1時間ほど時間が過ぎた頃。


「終わったよ」

「ああ……」


俺は自分自身をためつすがめつ見て特に変化がないことを確認した。

装備はティアの持っていた魔法のかかっていない革の装備とナイフだけだ。

海で鉄製の装備とかだと溺れる可能性が高いから仕方ない。

一応、落下後掴まるための丸太まで用意してある。

なんだか周到すぎる気がしなくもないが、

彼女の持っていたアイテムの多さを思えばあっても不思議ではない。


「アイテムボックスも通過させるために封印するね」

「頼む」

「こっちは簡単なものでいいから時間かかんないよ」


その言葉通りアイテムボックスはタダの鞄にしか見えなくなる。

封印された収納空間は10年もすればなんとかなるらしい。

どっちも解除するのに時間がかかるのは正直困るが、

ティアが付いて来ても封印をとく事が出来る状態ではないとの事。

つまり、封印解除出来る者がいなくなるということだ。

一応、金が必要になった時のためにいくらか外に出してあるが……。


「マスターの能力を封じている封印が解かれるには100年かかる。

 それくらい強力な封印でないと封じきれなかったからだけど、

 あのままの強さで外に出たら神に目をつけられる。

 そういう意味もあるんだよ、だから封印を解除する時はよく考えてね。

 それと、封印の印が胸の中央に出てると思うから、見つからないようにしてね」

「封印の印……わかった覚えておく」


念のためステータスを確認しておくことにする。



名前 諸屋広和もろやひろかず

種族 人間  クラス ドラゴンスレイヤー

Lv 1   加護  なし

HP31/31

MP 8/ 8

筋力  18   耐久  17

魔力  15   器用度 16

素早さ 18   抵抗値 19

スキルポイント 0

スキル

不老不死Lv1(一日に1回数死亡をキャンセルする。(残1)

HP、MPを1分に1回復する。老化停止、毒、病気無効)

飛影剣Lv1(MPを3消費し5m先まで斬撃を飛ばす。威力は通常と同じ)

支配者の威圧Lv1(殺さず倒したモンスターを支配する、Lvで成功率変動)

魔法耐性Lv1(魔法によるダメージを50%の確率で9割にする)

状態異常耐性Lv1(全状態異常を3%の確率で無効化、30%の確率で軽減)

武器  鉄のナイフ[威力7]+[筋力18]=攻撃力25

防具  革の鎧 [強度5]+[耐久17]=防御力22

アイテム 水(500ml)、小粒銀*5、アイテムボックス

お金 7200円



ん?

なんだか能力値が以前レベル1だった時より高くなっている気が……。

クラスの恩恵だろうか。

まあ、ドラゴンスレイヤーだしそういう事もあるか。

それと、装備こそなくなっているが装備で得られたスキルはなくなっていない。

同じレベル1でもかなり違う強さを持っているといってもいいだろう。

それは正直ありがたい。


「準備はできた?」

「ああ、頼む」


その時、ティアの表情に不穏なものを感じた。

満面の笑みなんてどう考えてもオカシイ……。


「ちょっ、待って……」

「レッツ・ゴーーーーー!!!」


その言葉と共に、俺はティアに投げ飛ばされた。

真上に向かって……。


「待てって言っただろーーー!?」


狙ったのかどうか知らないが、確かにバリアがあると思しき場所を通りぬけ、除々に減速。

バリアの上を滑るような感じで落下を開始する。


「ギャーーー!?!? やっぱ俺を殺す気かーーーー!??!」


俺は全力の叫びも虚しく落下していくのだった……。


「おーちーるー!!!?」


俺は落下していた、それはもう容赦なく空に浮かぶ塔のてっぺんから。

はっきりとは分からないが、横面に雲がかかっていたりしたので1km近い高度だろう……。

そんな所から落ちたら生き残るのは不可能に決まっている!

いくら下が海っていっても一定速度を越えるとコンクリートよりも固くなるそうだしな……。

そんな事を考えていられる余裕があったのも最初だけ。

もう頭のなかは真っ白だ。


「死ぬーーー!!」

(落ち着いてマスター)

「落ち着けったって、落ちてる! 落下してる! 海面が近づいてるぅぅぅ!!」

(大丈夫だから!! 死なないように出来るから落ち着いて!!)

「これが落ち着いていられるかー!!」

(落ち着けって言ってるだろ!! ソチン野郎が!!!)

「はい、すみません」

(ふう、落ち着いたみたいだね。マスター聞こえてる?)

「ああ、聞こえてるが……」

(なら、先ずマスター、ボクに魔力を貸してくれる?)

「魔力を貸す?」

(そう、考えるだけでいいよ)


ふむ、と俺は意識をして周辺を見回す。

すると、俺の目の前に小さな妖精がいた。

15cmあるかないかのフィギュアサイズ。

羽が生えているが、ピンク髪とゴスロリドレスは確かにティアだった。


(やっと気がついたね)

「ティア……どうやって……」

(それもいいけど、このままだと死んじゃうよ?)

「おっと、そうだな。魔力をってことはMPか貸与なんて出来るのか?」

(ボクに渡すと思えばそれでいけるはずだよ)

「わかった……」


目の前の小さいティアにMPを送り込むイメージをしてみた。

すると、小さな光がティアに向かっていく。

妖精のようなティアを魔力が覆った。


(それじゃいくよー!)

「のわーッ!?!?」


それでも減速しきれず海面に衝突。

水中深く突っ込んだ、魔力の壁は衝突時に霧散したらしくおもいっきり水を飲んだ。

持っていた丸太も手放してしまった上、上下の感覚すら失った俺は水中でただ流れに身を任せる。

泳ごうにも四肢共にかなりの痛撃をもらったらしく動かせない。

それに、内蔵にもダメージが行ったのか喉から熱いものがこみ上げてくる。

それでも暫くはもがいていたのだが、朦朧とし始めた思考はもうどうしようもなかった。


凄い勢いで沈んで行く中、俺は意識を保つことができなくなった……。

またまたレベル1に。

ここからは、いっきにレベルアップってわけにはいかないんですが。

何せ敵との対比が出来ないレベル差ですしね(汗

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