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奇襲

レオル城内にあるカルレーン騎士団本部まで出頭した俺は訓練を続ける兵士らを見て驚く。

既に二千人も出撃している現状で訓練を続けていると言うことは新規に徴兵された軍だろう。

まだロットンさんらに招集の話が来ていない事を考えると屯田兵のような者達のはずだ。

動きも高レベルという訳ではないもののそれなりに訓練された者達ではある。


俺は、兵士たちの訓練を横目で見ながら、俺自身きちんと動けるかどうか怪しいと感じた。

強さや反応能力と動きを合わせる事は同じではない、命令でどれくらいするかが分からないといけない。

何をするかは流石に命令そのもので分かるが、基準が分からないと突撃しすぎて孤立なんて事になりかねない。

それ故に、命令による行動をどの程度するかというのは案外重要となる。

実際訓練である程度慣れればどうということのないことではあるが。


やはり、レオルの城は戦のための城だけあって無骨で頑健な印象を受ける。

ほとんど大理石で削りだされたものを組み上げたものだ。

壁も全て50㎝以上の分厚さがあり多少化け物が暴れたくらいでは壊れないだろう。

無骨という言葉に相応しい城だと感じさせた。


中庭を伺う廊下を通り過ぎ、別棟になっている騎士団本部へと向かう。

ドリアス・ノイ・カルレーン伯爵が座し、ロバレフ・トリワーズ男爵が政務を取る主城とは別に存在する建物。

流石に、主城と比べれば小さいが、かなりの規模の建物だ。

元の世界で言うところの学校くらいの規模はありそうだ。

普通に4、500人くらいは寝られる程度には大きい。



「カンクウ殿とリーセ殿はここでお待ちください」

「えぇー、にいにといっしょにいく!」

「リーセ殿、広和殿のお仕事の邪魔をしてはなりませぬよ」

「でもー」

「大丈夫でありますよ。会議は一時もあれば終わりましょう。

 その後に同行させていただくよう頼めばよろしい」

「我ら、カルレーン伯爵領軍第八大隊、第三中隊も賛同致します!」

「リーセ殿を全力で護衛しますぞ!」

「中隊員の総意でありますれば! ご安心くだされ!」


なんだかえらい人気だな……。

この国の大隊は300人程度だと聞いている。

日本の歩兵大隊の半分程度だ、中隊が3つで大隊となるのは同じだから……。

100人もリーセのファンが……、おかしい……リーセに話しかけた人数は数人のはずだ……。

もしかして、以前からファンが……、まさかな……こいつらが大げさに言っているだけだろう。


建物の中に入り、三階に案内される。

俺が通されたのは、会議室といっていいだろう大きなテーブルに数人が座っており、荒い感じだが地図があった。

まだ性格な図面を作れるだけの精度が確保できないのだろう。

もっとも、魔法等のある世界だ、ヒューマンだけが出来ない可能性もあるが。


「ヒロカズ・モロヤ殿をお連れしました!」

「うむ、入れ」


中にいたのは、筋骨隆々な中年親父と、ハゲた爺さんと、2mはある大男と紫髪をショートにした美少女だ。

4人しかいないのは、恐らく既に応援の兵1500を出してしまっているため、ここに残る兵が少ないからだろう。

恐らく訓練をしていた数が300程度、休憩が300、兵站の管理でもう300、他にもしている事があるだろう。

おおよそ1000前後といったところか、それにしても会議ならもう少しいてもいいとも思う。

だが、この場では美少女は違和感が大きい。


「お呼びにより参上しました。諸屋広和もろやひろかず、いえヒロカズ・モロヤです」

「よく来た、モロヤ殿。席についてくれ」

「は」


しかし、大会の関係者が呼ばれたのかと思ったが、俺だけとは……。

イチルや鈴原青葉なんかもいておかしくないと思っていたが。

どうやら、俺が呼ばれたのはどちらかというとラミリーズの件が評価されての事らしい。

それならば、確かに俺が一人呼ばれた理由もわかるが、

俺はラザニエル・ロアス準男爵にとって敵対関係にあるロバレフ・トリワーズ男爵のシンパと知っているはずだ。

それでも呼んだのは器が大きいのか、それとも何らかの嫌がらせか。

何にせよ、話を聞かないことにはどうしようもない。


「さて、自己紹介からさせて頂きましょう。

 私はカルレーン騎士団、副団長バロット・アードエル」


筋骨隆々な中年親父は、洗練された動きで自己紹介をする。

貴族かどうかはわからないが、礼儀作法を習った人間のようだ。

見た目に反して教養は高そうだな。


「ワシは次席参謀のジャウバ・マルトルじゃ。よろしくの」


ハゲ頭の老人が俺に言う、だがその目は俺を疑っているのがわかる程に険しい。

次席参謀、つまりはここの参謀長と考えていいのだろう。

主席参謀は準男爵についていったはずだろうからな。


「第一大隊長、コムド・ベールハルド」


無口そうな大男は本当に名前の紹介だけをして口をつぐむ。

その表情を読むことは出来ない、まるで彫刻のように表情を変えないからだ。

副団長も大概筋肉質だったが、こちらも体格に見合う筋肉を引っさげている。

恐らく、その強さで大隊長に出世したのだろう。


「第二大隊長、アリラ・ファドナム。第三大隊の長はこの場にいないから変わって教えておくわ。

 第三大隊長はリッガ・ナタフ。魔法が使えるらしいわ」

「らしい?」

「使ったところは見た事がないからね。ま、眉唾だけど戦闘力も指揮力もそこそこあるわよ。

 私の方が上だけどね」


俺自身の自己紹介は省略した、そもそも俺を呼んだ時点で皆俺の事は知っているはずだからだ。

それに、あまり時間をかけていてもいい事はない。

視線を副団長バロットに向ける。それだけで、向こうは察してくれたらしい。


「モロヤ殿に来てもらったのは他でもない。

 ラミリーズの件で、ロアス閣下は大変モロヤ殿を認めておられる」

「なるほど、だが……」

「うむ、戦争を経験していないと指揮等できはせんであろう。

 だが、我らとは別の視点を持っているかもしれぬ故、参謀として招いたのだ」

「なるほど、俺を随分と買ってくれてるみたいですね」

「あくまで参考程度じゃがの」


どちらにしろ言いたいことはつまり、一般的な軍の知識の外の話をしろという事か。

そういえば、地図が置かれているんだったな……。


「レオルに残っている軍は全部で1千という事で間違いないですか?」

「ああ、防衛に回すには少ないが、砦が突破されてたとしても一週間やそこらは耐えられるはずだ。

 その頃には、国軍の先遣隊1万が来ているだろう。そういう意味では心配ない」

「先遣隊は一週間後に来るのですね?」

「ここは、いわゆる最重要防衛地点じゃ、今編成している2万はともかく、常備軍の1万は駆けつけるじゃろう。

 王都の常備軍は1万5千じゃが全てを動かす訳にはいかんでの」


副団長バロットの話を次席参謀の爺さんがフォローする。

今まではそれで問題なかったのだろう、例え敵が国境砦を抜いても、城塞都市レオルがある。

それに、レオル内にしたところで1千の軍とは別に臨時徴用すれば4、5千は集まるだろう。

何せレオルの人口は10万人、かなり無理をすれば2万以上集める事も可能だろう。

ただし、その場合は勝っても復興が大変になるだろうが……。


「臨時徴用はしないんですか?」

「訓練している時間がない、それに城塞を抜くのは10倍でも早々出来ない事だ」

「敵軍の総数は?」

「3万5千と言われている。だがこのうち2万はヒューマンの奴隷だ、まともに動かない。

 実質1万5千といっていいだろう」

「ヒューマンの奴隷……」


農業奴隷だけではなく、戦争奴隷にも使っているのか……。

確かに、一度は世界の半分以上を支配したというのだから奴隷人口はかなりのものだろう。

しかし……、今まで直接奴隷が働かされている所は見た事がない。

数が多い劣等種族に対する行動なのだ、元の世界の昔の差別と比べて遜色ない、いや上回るかもしれない。

何せ、純粋に同じ種族じゃないのだから、哀れみ等ほとんど抱かないだろう。

同じ人種でも、宗教が関わるだけで人殺しを聖戦に出来るのだ他種族なら尚更だろう。


「彼らは1割以上の死者が出れば瓦解する。再編するのに3日やそこらはかかるしな。

 死者が増えれば進軍は極端に遅くなるだろう、奴らの欠点はそこだ」

「ワシらはその間に国軍を迎え入れ、逆襲に出れば良いという訳じゃ」


なるほど、今まではそれで上手くいっていたのだろう。

俺としては、奴隷の軍を無視して突撃してくる可能性が怖いが。

しかし、2万もの数となれば迂回も難しいのかもしれない。

となると、怖いのは別働隊か。


「別働隊が出てくる事は考えられませんか?」

「ありうるだろう。しかし、国境砦を迂回する事はできんよ」

「迂回できない?」

「国境砦の西にはセンデバル大森林、フェアリーやエルフといった風の神の眷属がいる。

 彼らは大森林に入り込む者に対してはヒューマン、妖精の差別無く襲ってくる。

 そして、東にはラグアド山脈がある、あそこにはドラゴンが多数生息しておる。

 山脈全体が縄張りのようなものだから、入れば生きて出られんよ」


(そう言えば、1000年前のドラゴンの国があの近辺だった気がするね)

あー、滅ぼしたんですか。

(まあね、でも全滅させたわけじゃないよ? ボクとエンシェントカオスドラゴンの戦いの巻き添えだから)

……なるほどね。


ティアが魔王だった頃のドラゴンの国の一部が残って山脈に入る事を制限しているということか。

となれば当然、誰も入る事ができない。

つまり、迂回の心配がないということ……。


「だが空を飛ぶ種族なら少しやばいかもしれないが、そのあたりはどうなんです?」

「居る事はいるが、ごく少数だ。彼らは海の神ラボトーンの眷属だからな」

「なるほど、なら防衛に問題は……ん? 海の神の眷属……。

 そう言えば、彼らは海というか水の中を移動するのは得意だろう」

「そうなるが、どうしたんだ?」

「いや何、上水道はどこから引いているのかと思いまして」

「当然ラグアド山脈からだ、センデバル大森林や北方の王都なんかは海に面しているからな。

 南方も高さ的にはこちらの方が高い、この辺はラグアド山脈の麓といっていい場所だからな」

「なるほど……」


なら心配ないのだろうか?

今まで、状況の説明を受けていたのだが、彼らにとっては当たり前の事なのだろう。

彼らの目は俺に対する期待を失っているように見える。

別にその事がどうという訳ではないが、何かひっかかった。

俺はふと思う、ドラゴンの住むラグアド山脈、しかし水路にまでいるわけではない。

ならば……。


「そろそろ終わりかの? 時間の無駄じゃったの」


ハゲ老人の次席参謀殿は俺に対して興味を失ったように席を立った。

別に俺としても、無理をしてまで聞いて欲しいわけではないし、そもそも状況を完全に把握したとは言い難い。

だが、捨て台詞というわけでもないが、言っておきたいことはできた。


「レドニア公国内のセドニア湖から地下水の通り道を移動しラグドア山脈の地下水源へ抜ける事は?」

「何を……」

「セドニア湖の水もラグドア山脈から来ているはずですよね?」

「それは……」

「なら、可能性が……」

(来たよ!)

「何!?」


突然、ドォォォン!! という爆発音のようなものが聞こえ騎士団宿舎が大きく揺れる。

俺は慌てて外を見る。

それは、レオル城の水を張り巡らせた堀の中から出現していた。

いや、元々水はあまり張っていなかったはず、何故なら元々海の神の眷属との戦いの砦だからだ。

しかし、上水道の水を決壊させたならありうる……。


「敵襲だーーー!!!」


騎士団員が駆け込んでくるのを俺は遠い事のように聞いていた……。

ギリギリで間に合った……、前回敵軍の兵力がおかしかったので調整しておきました。

大変申し訳ありませんorz

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