黒い穴に飲まれて。
それは、大穴だった。
深夜コンビニに買い物に行った帰りの事。
歩道の真ん中に、真っ黒な穴が開いたのだ。
しかも、俺の真下に突然発生した。
咄嗟に俺は宙をかく、空を飛ぼうとしたというよりは掴まる所を探したつもりだったが。
俺の手は何を掴む事も出来ず、そのまま落下していった……。
ちょ、えっ!?
待ってくれッ!?
悲劇は重なるっていうが、なんで今なんだッ!?
初恋の幼馴染が結婚しちまったと思ってたら、出来ちゃった婚だって分かって沈んでたってのにっ!?
哲夫の野郎!! いつの間にか仲良くなったと思ったら結婚しますって。
真夜にいつ仕込んだってんだッ!?
しかも真昼なんて安直な名前つけやがって!!
って、愚痴ってる場合じゃねぇ!?
お~~ち~~る~~~~~!?
ドシンッ!! という音と共に俺は盛大に尻もちをつく。
尾てい骨に響く強烈な刺激に、暫く悶絶する羽目になった。
死ななくてよかったとは思うが、痛みでほとんど考える事もできなかった。
暫くして、痛みが引いてきてようやく冷静な思考が戻ってくる。
最初に思ったことは、この程度で済むほど落下は短くなかった筈だということだ。
夢でもなければ説明がつかない事が多い、しかし、痛みがそれを否定している。
俺は頭がこんがらがり複雑な思考を諦めた、現状把握だけをすることにする。
夢か真かはそのうちわかるだろうと放り投げた。
おっと、突然そんな事を言われてもお前誰だって話だ。
もしも聞いてくれているような既得な人がいるのなら語っておこう。
俺の名は諸屋広和、ニックネームはヒロ。
22歳、三流一歩手前の大学を卒業し、中小企業に就職したばかりの至ってノーマルな男だ。
実際目立つ所もなく、雑学をひけらかして周囲から引かれる事がある程度の存在感だ。
コンビニへ寄ったのも、仕事の帰りに夜食を食うためだ。
お陰で、落下の衝撃で弁当が飛んでいってしまった。
折角、今日は牛丼弁当を2つ買って得盛りだぜ!と意気込んでいたっていうのに。
まあ、元より衝撃で飛びだしたりしにくいように、セロテープで張り付けてあるため中身は無事だった。
それを拾い上げようとして、ふと気付く、視界になにやら妙な物が映り込んでいる。
「なんだ?」
俺は、弁当を拾い上げながらそれに視線を移す。
そこには、青い半透明な色合いのバーがあり文字がかかれていた。
[牛丼 HP10%回復]
は?
思わず俺は、視界に映ったものに目を疑い手で触れようとする。
しかし、それに触れたつもりが、すり抜けてしまう。
俺は暫く焦ってそれを繰り返した、だが、はっとそんな事をしていても仕方ない事にきづく。
俺は周囲の状況を探る事にした。
少し薄暗い、しかし、虹色のように明滅する光がぼうっと空間を浮かび上がらせていた。
100m四方はありそうな空間だ。
人工の部屋のように見えるが、中央の祭壇のような場所を除き目立つ物はない……事もなかった。
正確には俺の視界にはなにも映っていないようなところに表示が現れている。
ウィンドウとでも言うべきそれは、色々な個所に特殊なものがある事を表示している。
先ず、この部屋の表示を見てみる。
[失われた迷宮 最下層 異界の間]
とあった、異界の間? それはどういう事だ?
俺がここに来たのはそれに関係があるのか? いや、無いはずがないな。
どうにかして、ここの事が分かれば帰れるのじゃないかと詳しく部屋を調べ回った。
その中で色々なものをついでに失敬したが、まあそれは置いて貰おう。
石碑等には、俺の読めない字ばかり書かれていたが、不思議と頭の中に入ってきた。
内容はこうだ、この部屋は異界からエネルギーを受けて不死の種を作り出すための施設らしい。
不死の種は1000年に一度、この部屋が異界に繋がる時、そのエネルギーを受けて精製されるとか。
「つまりは、それが今日で異界からのエネルギーだけじゃなくて俺まで送って来てしまったってことか。
だとすればまずいな……」
そう、1000年に一度だけしか繋がらないのだ、しかも今この部屋にはそんな穴はない。
さっき散々部屋を探して無かったのだから考えられるのは異界に繋がる時間はもう終わっていると言う事だ。
そして、次は1000年後って……アホかーーーーッ!!!!!
とっくに死んでるじゃねぇか……。
絶望した俺は崩れ落ちるように座り込む。
すると、自分の身体に視線を向けたせいか、ウィンドウが立ちあがった。
正直そんな気分でもなかったが、気を紛らわせるために開いてみる。
そこには、俺のステータスとでも言うべきものが書かれていた。
名前 諸屋広和
種族 人間 クラス 来訪者
Lv 1 加護 なし
HP18/22
MP 2/ 6
筋力 9 耐久 10
知力 13 器用度 14
素早さ 11 抵抗値 12
スキルポイント 0
スキル なし
武器 なし
防具 ポリエステルの服
アイテム 牛丼2、ファ○タグレープ(500ml)、不死の雫、成長の種(極)
天性の種(極)、技の種(極)、正逆の雫、可能性の雫
お金 7200円
ポリエステルの服って……まあ否定はしないが、一応スカジャンなのに……。
まあ仕方ない、何にしろこの能力値が高いのか低いのかは基準がないので正直わからない。
だが、高いとは思えないな……Lv1だし……。
しかし、さっき拾った物のほうはどうにも凶悪なラインナップ臭い。
不死の雫は言うまでも無い、1000年かけて1粒だけという超レアなものだ。
アイテムデータでは確かな事は書かれていないが、不老にはなるが不死のほうは不完全らしい。
成長の種(極)はこの種を飲んだ後の戦闘で得られる経験が10倍になるらしい。
天性の種(極)は飲んだ後、一日の間レベルUP時の能力成長が3倍になるとか。
技の種(極)は飲んだ後の戦闘で得られるスキルポイントが10倍になるそうだ。
正逆の雫は飲んだ後1日の間、傷を受ける状況で回復し、回復する状況で傷を受けるようになるとか。
可能性の雫は起こりえる可能性が0でない限り1度だけ起こす事が出来るらしい。
ふと可能性の雫を飲んで異世界への穴をあける事は出来ないかと考える。
だが、飲む前に分かってしまった。
出来ない時は事前にわかるようだった。
正直あまりうれしくない……。
いつまでも呆けていても仕方ないので、俺は牛丼を食べる事にした。
2つ目を食べようか迷ったが取りあえず置いておく、この先が不安だったからだ。
この部屋には水がないのでファ○タは飲むしかない。
ペットボトルで持ってきたのは幸いだった、状況次第では水筒代わりに使えるだろう。
「しかし、このままじゃ不味いな……」
飲み終わって一息ついた俺は、状況を再確認してみる事にした。
一つ目、ここは俺の夢の世界である可能性。
黒い穴に落ちたと思ったのは実は交通事故で昏睡状態にある。
実はこれが一番説得力がある。
逆に本当に俺がRPGっぽい世界に入り込んだ可能性もゼロじゃない。
当面どうしようと、夢か現実かを知る術はない、一応頬をつねったら痛かったが。
まあ、それくらいで現実と認めるにはここはおかしな事が多すぎるのも事実だ。
二つ目、この部屋が最下層であると言う事。
不死の種なんて凄まじくレアそうなものがある洞窟の最下層と言う事は、上層に行く方法が問題になる。
いつまでも人のいなさそうな場所にいる訳にはいかないが……。
この部屋を出たらどのくらい危険かが想像つかない……。
現状において、異界への穴が発生するのは千年後、正直考えるだけ馬鹿らしい。
となると、ここを出て別の方法を探すしかない訳だが……。
2つ目がネックになってくるわけだ。
現状持っているもので何とかするしかないが……、取りあえず一度出口を確認してみるしかない。
「といっても、このでかい扉だろなやっぱ……他に出口はなさそうだ」
この部屋の一角、祭壇から直線上にある10m四方はありそうな大きい扉が出入り口のようだ。
他の出入り口は見当たらなかった。
しかし、あんなの俺の力で開く物だろうか?
試しに押したり引いたりしてみたがびくともしない。
だがふと思った、スライドさせたらどうだろうと。
すると不思議な事にかなり力を入れた時、50cmほど横にスライドした。
だが、それは扉周りの壁がもろくなっていたせいだったらしく、扉は大きくかしぎ、倒れていく……。
「なっ!?」
俺はズゥゥンと巨大な音を立てて倒れた扉に殆ど目もくれなかった。
だって……その先から見えるのは明らかに今振り向きましたという、巨大な顔だったから。
「どっ……ドラゴンッ!?」
そう、10mはありそうな扉が開いて現れたのはその10mの扉よりも更に大きなドラゴンの顔。
あまりに大きすぎるため、この部屋に入る事は出来ないだろうが、だからと言って油断出来る相手じゃない。
ブレスを部屋に撃ちこまれれば終わりだろう……。
俺は咄嗟にステータスを確認する。
名前 グロウエルモ
種族 エンシェント・カオスドラゴン クラス 殲滅者
Lv 30000 加護 原初の混沌
HP 97300000/97300000
MP 11000000/11000000
筋力 193404 耐久 178993
魔力 186343 器用度 1211
素早さ1373 抵抗値 235747
スキル 物理耐性Lv99、カオスブレスLv99、超回復Lv99、魔法耐性Lv99
武器 なし
防具 なし
アイテム 支配者の剣
…………え?
なにこれ?
勝ち目があるとか無いとか、そんなレベルの話じゃない……。
レベル差以上に種族差なのか能力値の差がどうにもならないレベルになってる……。
勝つ以前に、逃げるどころか一瞬先生き残る未来が見えない……。
「これはどうしようもない……」
扉から横っ跳びにはなれ壁を背にして暫く待つ、扉の向こう側が明るくなる、まずい!
俺は咄嗟に不死の種を口に放り込む。
ドラゴンに背を向けるように注意した。
アイテム類や弁当類を燃やされるわけにはいかない。
可能な限り部屋の隅まで行ったものの、ブレスと思しき光の奔流は、部屋の大部分を覆い尽くす。
「ギャァァァアッ!?!?」
身体が焼けただれる……、いや骨まで炎にあぶられる……。
俺はただ、悲鳴を上げ続ける事しかできない。
気絶すらできない……、いっそ殺してくれと何度も思うはめになった……。
だが、不死の種は俺が殆ど炭化しているにも拘らず俺を生かし続ける。
そしてドラゴンのブレスがようやく終わった。
しかし、俺は身動きどころの話じゃなかった。
体の大部分が炭化し、そうでない所も火傷水ぶくれ、痛みで動きが取れないし、身体もまともに動かない。
とっさに自分のステータスを確認する。
名前 諸屋広和
種族 人間 クラス 来訪者
Lv 1 加護 なし
HP 1/22
MP 1/ 6
筋力 9 耐久 10
魔力 13 器用度 14
素早さ 11 抵抗値 12
スキルポイント 0
スキル
不老不死Lv1(一日に1回数死亡をキャンセルする。(残0)
HP、MPを1分に1回復する。老化停止、毒、病気無効)
武器 なし
防具 服の残骸
アイテム 牛丼、ファ○タグレープ(300ml)、成長の種(極)、天性の種(極)
技の種(極)、正逆の雫、可能性の雫
お金 7200円
なるほど、確かに不完全な不老不死のようだ。
無茶苦茶強力なスキルのようではあるが、現状においては気休め程度にしかならないな。
なにせ、既に死亡キャンセルは使ってしまっている。
幸い、ドラゴンのほうは俺が死んだと思ったのか興味が失せたらしく、扉から離れて行ったようだ。
足音でしか判断できないので何とも言えないが。
兎に角、俺に出来る事は一日待って死亡キャンセルが出来る状態に戻す事だ。
22分でHPは全開し、傷や火傷、炭化した所まで綺麗に消えるという化け物っぷりに自分でも呆れつつ、
俺は祭壇の裏側まで歩いて行った。
ブレス攻撃が来れば正直どうしようもないが、多少なりともマシだろう。
ドラゴンが俺の死を疑っていない事を祈りつつ、横になって眠りについた……。
はじめまして、黒い鳩というものです。
この作品は勢いで作った作品ですw
なので、いろいろ問題点はあるかと思いますが、出来るだけ楽しい作品にできればと考えています。
よろしくお願いしますね♪