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  作者: やすたね
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船岡山

 ここを中心線にして京が作られたのだと、イガキに聞いてしまって式子は心底残念に思った。もっともっと道が続くと思って、もっともっと高いと思って、もっともっと大きいと思っていたのに。


「山ちがうやん」


不満をそのまま口にだす。満天の星空の下、イガキはちょっとだけおかしそうに喉の奥で低く笑いながら、

「たしかに、山というよりは岡だね。これは」

式子の頭をくしゃくしゃと撫でた。子供扱いするなと怒ってみても、当のイガキにはどこを吹く風。ぽんぽんと掌で頭を叩かれる。ふくれっ面でイガキを見上げる。恨めしげな目で彼を睨めつけてみる。

そんな態度をとってはみても、正直にいってしまえば、イガキに頭を撫でられるのは結構好きだったりする。しかしただ恥ずかしいのだ、なんとなく。

「でもイガキ、なんでここきたん?」

 照れ隠しにイガキに問うてみて、でもイガキは返事なんか返してくれないで、

「見てご覧」

 ただこう言った。

 松の木と戯れていた式子が振り向いて、イガキのほうに駆け寄った。イガキの指差すほうを眺めてみても、木が邪魔をしてよく見えない。

イガキを見上げても、彼は式子を抱き上げて、彼の目に映る風景を彼女に見せてくれる気は毛頭ないらしい。自分ばかりがずっと先の何かを見て口元にいつもの笑みを湛えている。仕方がないから適当なベンチに上った。

「……」

 眼下にはひっくり返して散らかしたたくさんの宝石で作られた箱庭。色とりどりにキラキラ光る。綺麗、と小さく感嘆して、それからイガキのほうに視線を移す。

「これは?」

 星って、下にもあったん? 式子の顔も輝いている。

「違うよ。京だよ。式子が生まれ育った」

 星は空にあるもので、決して地上にあるのものではないんだよ。あからさまに不満を顔に出した式子をなだめるように、イガキはそっと付け足した。


 京とはこんなものなのか。思わずため息が零れる。式子が生まれ育って、まだ端から端まで行ったこともなかったのに。もっともっと広いものだと思っていたのに。終りなどなく、どこまでも、どこまでも広がっているものだと思っていたのに。それはこんな小さな岡に登れば一望できるほど狭いものだったらしい。確かにとても綺麗だけれど。でも――。

「がっかりした?」

「少ぉし」

 素直でいいね、とイガキが笑う。それからおもむろにポケットからタバコを一本取り出して、それに火をつけた。小さい小さい宝石がもう一個、増えた。式子はそれが一番綺麗だと思ったけれど、でもやっぱり照れくさくてそれをイガキに伝えるのはやめにした。


 夜の船岡山は鎧武者とか女の人とか、いろんな人がいて結構にぎやかだ。そのことをイガキに伝えたら、まぁ、ここは葬場だったしね。戦もあったし、とか、とっても簡単に答えられてしまった。どうやらそんなもんらしい。

「思い入れが強いと残るもんなんだよ」

「思い入れ?」

「うん。思い入れ」

「思い入れってなに?」

 んー。困った顔でイガキが笑う。

「簡単に言えば、執着することかな」

 余計わからへん。シュウチャクってなに、と式子が問えば、例えば、イガキは少し考え込むように一呼吸置いた。ややあってから、式子の飴みたいに。そう言って悪戯っぽく笑う。式子はふてくされたほうにそっぽを向いた。

 イガキは笑って、ゴメン、と一言。式子の頭をぐりぐり撫でた。

「で、満足した?」

「んー」

 まあまあかな。大人ぶってそう言う式子の頭を軽く小突く。痛いやん。式子が小さく抗議の声を上げた。

イガキはぽりぽり頭を掻いて、タバコを咥えたまま、それからまたいつものように手を差し出す。

「帰ろうか」

 なんかごまかされたような気もしなくもないけれど、とりあえず式子はイガキの優しくて落ち着くその手を握り返した。


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