story.1 「微笑む青年。」
「うがああ!上手くいかないっ」
そう叫ぶと、あたしは頭をわしゃわしゃとかいて、机に突っ伏した。
―あたし、リディオ・ウェイカー、16歳。
魔法によってバランスがとれている世界、「ディアルス」の大魔法都市「ルシア」に住んでいます。
今は、学校で、魔法の課題をしている最中なのですが―。
「もー、なんでこんな初歩的な魔法が使えないの…。」
我ながら、自分に呆れる。
既に課題を済ませている人はたくさん居て、まだ取り組んでいる人のが少ないくらいだ。
「リディオ、手伝おうか?」
さらっとベビーピンクの髪を揺らしながら
こそっと耳打ちをする友達の「リズ・アラン」。
手伝ってもらえるのは嬉しいけど…。
でも、これは自分でやらなくちゃいけない。
というか、これくらい自分でできなきゃ、魔法使いになんてなれないと思う。
「大丈夫だよ。ありがと。」
リズは私の声を聞いて、「うん」と頷いた。
さて、頑張らないといけない。
私は、目の前の石に、気を集中させた。
深く深呼吸をすると、石の周りに青く輝く魔方陣が現れる。
魔方陣でゆっくり包んで…。
ここからだ。
魔法陣から雷を発生させて、石を割る。
「…落ち着け。そのまま、そのまま…」
―パリンッ。
「やったっ」
思わず口に出してしまった。
でも、何度目だか、やっと成功だ。
石は、雷の魔法によって、真ん中で綺麗に割れた。
「はぁ~。やっとだよ…。」
成功はしたし、嬉しい、けど。嬉しくない。
私には、やっぱり魔法使いとしての才能がないんだなあ。
ショックだ、地味に。
授業が終わった帰り道。
あたしはリズと途中で別れ、家までの道のりを歩いていた。
近くには、小川があり、おちかけている夕日が川に反射して、まばゆい光が生まれていた。
「……。」
思わず息を飲んで、それを見つめる。
川の方に視線を移すと、なにやら人がいるようだった。
…男の人っぽい。
「…あ。」
ふと、目が合う。
すると、男の人が、ちょいちょいと手招きする。
「えーと。あたし?」
急に呼ばれたので、よく分からないが、とりあえず行く事にする。
「こんにちは。」
そばまで行くと、その男の人は、へにゃりと笑った。
「あ、はい。こんにちは…。」
挨拶を返すと、男の人は、川の方を向き、
「―君は、ルシアが好きかい?」
と聞いた。
いきなり突拍子もない事を聞かれたから驚きつつも、
「え、まぁ一応…。いい国だと思います。」
と正直な意見を述べる。
すると、男の人の目がぱあっと輝いた。
「本当!嬉しいよ!そう言ってもらえると、俺も統治のしがいがあるってもんだ。」
「そうですか……って、え?」
今、なんとおっしゃいました。
「統治の、しがいが、ある?」
「うん。俺、もっともっとルシアをいい国にしたいなあ。」
うんうんと頷く男の人。
…まさかとは、思うけど。
私の脳裏に一人の名前が浮かんだ。
―ロイ・ジェイダル。
ルシアの「魔法者」として、ルシアを統治している人。
顔はあたしも見たことないけど、温厚な人だと聞いたことがある。
まさかこの人が…いやそんな馬鹿な。
ルシアの魔法者なんて、そんな偉いお方がこんな場所にいるわけがない。
…でも、一応。
「あの…もしかして、ロイ様でしょうか?」
「うん。そうだよ。」
即答された。
「ロ、ロイ様でしたか。申し訳ありません、そうとは知らず…。」
驚きをぐっと堪え、
できるだけ失礼のないように言葉を紡ぐ。
「そんなかしこまらなくていいよ。それに俺、君に謝られるような事された覚えないし。」
ロイ様は、あたしの頭をぽんっと撫でると、
「誰かと話したい気分だったから、君がいてくれて助かったよ。縁があったらまた会おう。」
ふわりと微笑み、ロイ様は去っていく。
「…まさか、本当にロイ様だったんだ。」
こんな場所で、魔法者と会話できるなんて…。
下の草むらに目を向けると、
「…ん?」
何やら赤い本が置いてあった。
昔のものらしく、表紙が色褪せている。
「もしかして、ロイ様、の?」
だとしたらどうしよう。
すごく大事な物なんじゃ…。
あたしはとりあえず、その本を拾った。
―その本が、あたしの運命を変えるなんて、この時は思いもしなかった。