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エドワードの朝は早い。

日の出と共に起きると、家のすぐ近くにある泉とその周辺を歩く。

泉から立ち上る魔力を受けながら、周辺に何か異変がないか目を配る。

少し離れた場所に傷ついた足を休めている狼が見える。

チラリとこちらに視線をやるが、興味なさ気にそっぽを向いた。

いつもと変わらぬ風景。今日も異変は見当たらず、ゆっくりと泉を後にした。

そんなエドワードの背後で、泉の水面がゆらり、と揺れていた。


家に戻ると裏手にある薬草園の手入れ。

糸の切れた風船のような友人『ブッドレア』が、旅先から持ち帰る土産達が生き生きと根付いている。

おかげで通常なら、手に入りにくい貴重な薬草もすぐ側にわんさかと生えている。

たまに、自分で勝手に移動する薬草(根っこを足代わりにして移動しているのを見た)や、間違って根っこを踏むと噛み付いてくる木(木なのに噛まれた後は、何故か歯型がついていた)もいるが、おおむね役立っているので良しとする。

水と肥料をやり、元気のない薬草を日当たりの良い場所に植え替えてやる。

ぱんぱん。

手についた土を払って家に入る。


家の中からは優しい甘い香りが、ふんわりと漂っている。

なにやら楽しげな菫とフジの攻防戦が聞こえてきた。

「フジはん。そんな急いで食べんでも・・・。あ、それはアカン。フジはんには、カロリー過多!」

「おはよう。菫」

「あ、エドはん。おはよう。エドはんも止めたって。フジはんがウチらの朝ごはんまで食べようとしはるねん」

「フジ。お前、そんなに食ったら重くて飛べなくなるぞ」

「あはははははぁ~。自分の身体が重くて飛べへんって・・・それはカッコ悪いで~」

菫が屈託なく笑う。

ぬいぐるみには表情筋が無い故に、顔の表情は動かない。だが、耳は楽しげにぴこぴこしてる。

「もうすぐ朝ごはん出来るし、ちょっと待っててな~」

「ゆっくり用意してくれ。俺は珈琲を淹れよう」


―――――牛乳1カップに卵1個。お好みでお砂糖入れて、硬くなったパンをひたす~。

「よしっ。昨日の晩に仕込んでおいたパン、やわやわに浸ってる」

―――――バターを入れて~、弱火でじっくり、じ~っくり、焦げ目がつくまで焼いたら完成!

「さ!召し上がれ!フレンチトースト!!」



共同生活も3日目ともなると、ピンクの白いふりふりワンピースを着たうさぎがすっかり馴染んで生活していた。

手際よくご飯をつくり、ゆっくりとたわいも無い会話をしながら朝食をとる。

「エドはんの淹れてくれはるお茶とか珈琲って、ホンマ美味しいわぁ。食べモンにはあんなに無頓着やのに・・・」

「ん?ああ。研究の合い間に飲むからな。不味かったらモチベーションが下がるだろう?気がついたら自然と上達していた」

それが二人の日常になっていた。


朝食が終わるとエドワードは菫を抱きかかえ(始めは抱えられての移動に菫も抵抗したが、諸事情で却下された)、地下にある研究室へと移動する。

一番奥に位置する仮眠室で眠っている、菫の元の身体の健康状態を確認する。

「呼吸も安定してるし、血色も問題無いな。良い冬眠状態だ」

―――・・・冬眠って、ウチはクマか!どっちかっていうと、エドはんの方がクマっぽいやん!!―――

抱えられた腕の中で、菫が心の中で激しくツッコミを入れているが、そんな事にはお構いなしでエドワードは菫をつれて移動。

360度壁一面に大きな書架が設置され、大量の資料に囲まれいる大きな部屋に入る。

そこでエドワードは、菫にかかっている【呪い】を解除するための研究を、菫は膨大な資料の中から【異世界】の記述がないか、元の世界に戻る手がかりがないかを調べていた。


「ん?」

何か音が聞こえた気がして、菫は顔をあげた。

「エドはん、今、玄関の方で音がせんかった?・・・って聞こえてへんな・・・」

エドワードに確認しようとするが、研究に没頭して周りの事は全く見えなくなってしまっている。

「しゃぁないなぁ・・・。一人でアレ登るか・・・」

おそらく訪問者であろう、音のした玄関に行くには地下にある研究室の階段を登らなければならない。

エドワードに抱えてもらっている時は問題ないのだが、今の菫の短い手足で階段を登るとなると・・・。

「よいせ。よいせっと」

階段に手をかけ、身体をほぼ真横にしてギリギリ足をひっかけ、反動をつけて一段一段登る。

ころんころんとして、後ろからみるとものすごく微笑ましい光景だ。

そう。これが移動手段において『却下された諸事情』になる。

「・・・道のり、遠いわ・・・」

それでも、菫は頑張って玄関を目指した。

エドワードの研究室は、「司馬遼太郎記念館」をイメージしてます。

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