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「術式・展開」
エドワードは、即座に術式を発動させる。
「【分析】」
一本の糸でつないだ数珠玉のように連なった文字が、数式が、床に倒れこんでしまった女性の周りを一回転する。
「【分離】」
ソレは緩くカーブしながら、それは机上にあるうさぎのぬいぐるみにまで伸びていく。
「【固定】」
起点と終点が繋がり、女性とうさぎをその輪の中心にメビウスの輪のごとく八の字を描きながら流れ続ける。
「【連結】」
しゅるん。とソレは女性とうさぎの中に納まっていった。
馴染みの薄い他国の呪いの術式にてこずりながらも、己の中にある魔力をふりしぼり安定化させると大きなため息をついた。
「・・・これでしばらくは大丈夫だろう。しかし、ありえないだろうが・・・」
自分の家にいきなり現れた黒髪の(彼からすれば)小柄な女性。
【呪い】のかかっているぬいぐるみに無防備に手を触れ、これまでに見たこともないほどあっさりと【呪い】を受けていた。
エドワードの住むヨクカ国では【呪い】は禁忌とされている為、その知識と対応はあまり知られていない。
咄嗟に防御反応ができなかったとしても、普通ある程度自信の魔力で【呪い】跳ね除けようとを抵抗をするはず。
なのにこの女性は【呪い】を全てすんなり受けてしまったのだ。
「わからん。本人に事情を聞くしかないか」
明るい茶色の髪をガシガシとかきながら、床にドッカリと胡坐をかいて座り込んだ。
ふわ~ん、と珈琲の香りが部屋をただよう。
―――ああ、今日は一回も珈琲を飲んでへん。カフェオレ飲みたいわ―――
菫の意識は、ふわふわとした気分で浮上する。
と、いきなり風景が目に飛び込んできた。
床に胡坐をかいてマグカップで(おそらく)珈琲を飲みながら、またしても書類を読んでいるデカイ男。
その横で床に寝ている自分。
―――え~っと。ちょっと落ち着こうな、自分。たしか公園にいたはずがいつの間にか森をさまよってて、白い鳩に案内してもろた家に勝手にお邪魔して、ピンクのうさぎがいて、男の人がドアで頭を打ってて・・・―――
「あ~。さっきの頭打ってた人やん!」
ビシっと指差してしまった。
が、おかしい。何かがおかしい。
「え?え?えぇぇぇ~???なんで?なんでウチが床に寝てるん?・・・っていうか、ナニ コノ ピンク ノ タオルキジ ミタイノ・・・」
菫は、呆然と自分の手を見る。
右手。左手。ピンクの気持ちよさそうなタオル生地の手。
立ち上がろうとして、バランスを崩して尻餅をついてしまう。
もにょん。
お尻が全然痛くない。それどころか、えらく弾力感がある。
「何がどうなってんのん・・・」
「ああ、意識が戻ったか?」
エドワードが、顔をあげてその灰褐色の瞳で菫を射抜く。
―――ああ、ええ声してはるなぁ―――
全く緊迫感のない考えが、菫の頭をよぎった。