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クルゥ。

「はと?鳩やぁ~」

途方にくれて地面に座り込み、数時間前にスズメにあげていた食パンの残りをかみしめていた菫が顔をあげると、目の前の木に止まった白い鳥がちょこん、と首を傾げながら深い紫の瞳でコチラを見ていた。

「あ。食べる?」

驚かさないように木の根元近くへちぎったパンを少しおいてみる。

白い鳥はしばらく訝しげにしていたが、興味を持ったのか地面に降りてパンをつつきだした。

どうやら気に入ったらしく、置いたパンを綺麗に食べてしまう。

首を前後にふりふり、歩み寄ってきて『もっとくれ』とばかりに、ジーっとコチラをみつめてきた。

「あー、ごめんなぁ。さすがにこの先どうなるかわからんから、食料は貴重やねん。コレでよかったら食べる?」

と言って、菫は自分の食べさしのパンの耳を差し出す。


パサパサパサ。

しばらく間近で菫を見つめていた白い鳥は、地面から飛び立ち少し離れた木に止まった。

「行ってしまうん?」

菫が名残惜しげに白い鳥を見てると再び飛び立ち、またしても隣の木に止まりコチラをみつめてくる。

繰り返すこと数回。

―――ついて来いって事やろか?―――

既に周りは薄暗いし、心細くもなっている。

「ウチ、ついてってもえぇの?行くあてもないし、ついてくで?」

幸いにも白い鳥はその薄暗さの中でもはっきりと見え、しっかりと先導してくれるようだ。

「ま、なるようにしかならんし、頼むなぁ」

【碁で負けたら将棋で勝て】を座右の銘にしている菫は、ついていく事にした。


「家や!しかも灯りがついてる!!」

視界が開けた場所にポツンとその家はあった。

専用の出入り口なのだろう。白い鳥は小さい窓から家の中に入ってしまう。

とりあえず、ドアをノックしてみる。

トントントン。

「すいませーん。どなたかいらっしゃいませんかぁ?」

しーん。反応無。

ドンドンドン。キィ~。

「すみま・・・って開くんかい!」

力を込めてドアを叩くと、あっさり開いてしまい思わず一人ツッコミをしてしまう始末。

「ま、開いたもんはしゃーないな」

危険を感じた時にはすばやく逃走ができるように、重い荷物はドアの横に置いて家の中に踏み込んだ。


「おじゃましまぁ~す。どなたかいらっしゃいませんかぁ?」

外見は平屋建の山小屋風だったのに、家の中はずいぶんと広い。

大きなリビング。その奥には使い勝手のよさそうなキッチンが見える。

右手にはドアが開けっぱなしの、本に囲まれた書斎。

何より目をひくのは、入って真正面に位置する大きな頑丈そうな扉。

ざっと、家の中を見渡しても誰もいない。

菫は、とりあず真正面の3mはあるであろう扉に手をかけてみた。

「・・・お、重っ。アカン、動かへんわ」


クルックゥ。

本に囲まれた書斎の方から、案内をしてくれた白い鳥の鳴き声が聞こえる。

「鳩さん。そっちにいてるん?」

なるべく周りのモノに手を触れないようにしながら、書斎を覗いてみる。

いた。窓に面した大きな書斎机の端っこのほうに白い鳥がちょこんと乗っている。

「すごいなこの部屋。本だらけやん。・・・【ヨクカ国術式系譜】【ヨクカ国術式相互作用】【術式展望考察】ヨクカ国?術式?何のこっちゃ。ウチが知らんだけで、ヨクカ国って国があった・・・なーんて事はないわなぁ。はぁ、まいったなぁ」


視線を書斎机に移すと、机の上には何枚もの書類が置いてあり、その書類には化学式のようなモノがビッシリと書き込まれている。

何か理解できる文字は無いか、と書類を目で追っていくと、ふりっふりの白ワンピースを着た可愛らしいピンクのうさぎのぬいぐるみに遭遇した。

「うわぁ。めっちゃ違和感」

うさぎをためつすがめつ眺めていると後ろの方から、バリトンボイスが近づいて来た。

人がいたのか!と驚いて振り返った菫は、ガタイの良い男が手に持った書類をめくりながら書斎にやってくる姿を目に捉える。

男は書類に目を落としてブツブツ呟いているので、菫には未だ気がついていない。


「・・・この術式をパスにすれば、反動を抑えられるのか。おもしろ(ゴンっ)・・・」

そのものすごくデカイ男は、何かあった時のために逃げ道を確保しようとわたわたしている菫の目の前で、半開きの扉に頭をぶつけていた。

―――普通、ソレにぶつかる?―――

逃げ道を探していた事も忘れ、菫はあきれた眼差しで男を見てしまう。

「っつぅ。・・・誰だ!」

緊張感が緩んだ瞬間にいきなり突き刺すようなするどい眼差しをむけられ、菫は動揺した。

「え?あ?ご、ごめんなさい。あの、ノックはしたんですけど、扉が開いたんで・・・」

知らず後ずさりをして書斎机にぶつかる。

あ、と思った時には既にバランスを崩し、すぐ後ろにいたうさぎのぬいぐるみの胴体に手を突いてしまった。

むにゅっ。

「しまっ・・・」

バリトンボイスが遠くで聞こえた気がしたが、やわらかい感触を手に感じた途端、菫の意識はブツっと途切れてしまった。

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