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「異世界からの訪問者・・・いや、迷い人か。
エド、お前は何を根拠に彼女が異世界の人間だと判断したんだ?」
「菫には、全く魔力が無い。この世界で『魔力を全く保有しない人間』なんて見た事も聞いた事もないからな」
「全く無いの?確かにありえないわね」
「・・・なるほど。それで【呪い】に対する抵抗力が全くないのか。で?どうすんだ?【呪い】の方は、ロサちゃんと摺り合わせをちゃんとすれば問題なく【解除】できるだろうが、異世界ってのは手の出しようがないぜ」
「俺より、お前の方が何か知ってるかと思ったんだが・・・な」
「さすがに俺も異世界ってのは未知の領域だぞ。
ロサちゃんは、魔女のネットワークで聞いた事はないか?」
「私も初めて聞いたわ、こんな話。一応、他の魔女にも聞いてみるけど期待はしないでね・・・」
互いの状況を確認しあった後、術師2人と魔女とで討論を重ねるが結論はなかなかでない。
話題の当人は
「ウチが詳細聞いても理解できひんし、ご飯の用意してるわ」
と言って、キッチンにこもってしまった。
『自分の事なのに、それでいいのか?』と、ブッドレアもロサも思ったが、エドワードがあっさりと了承したので、しぶしぶ納得した。
3人が結構熱く討論を交わしている時、菫は・・・
―――――薄力粉に卵にだし汁を混ぜて、どろっとした生地を作る。
長芋かベーキングパウダーがあれば、ふわふわに仕上がるのにぃ。
―――――粗みじんに切ったキャベツを投入して、まぜまぜまぜまぜ。
キャベツを投入したら速攻焼く。水気が出てまうから~。
―――――熱したフライパンに、どかんと乗せる。上にお肉やイカ等、具材をしきつめる。
豚バラ肉のブタ玉が一番好き~。
―――――片面が焼けたらひっくりかえして、反対側も焼く。
押さえたりせずに、形を整えるだけ。優しく優しく~。
―――――焼けたら、ソースにマヨネーズ、鰹節をお好きにトッピング!
青海苔が欲しいけど、無くてもよし。特に今回は女性のお客様もいるし。
「さ!召し上がれ!お好み焼き!!」
「すぐには結論、出ぇへんやろし、そろそろ一旦止めた方がえぇかな」
菫は3人を呼んだ。
「ご飯にしませんかぁ?」
「「「する」」」
じゅわわわわぁ~。
「ブタ玉とイカ玉と両方入れたミックス。コッチはねぎを大量投入した、ねぎ焼き。食べる?」
ソースの焦げる香りに3人のテンションが一気に上がる。
「食う!」
「ちょっとソレ、一口でいいわ。味見ちょうだい」
「菫も座って食べないとなくなるぞ」
お好み焼きパーティ開幕。
怒涛のパーティの後、菫は一人外に出た。
夜になると、しんとした冷たい空気があたりを満たす。
真っ暗な夜空には降ってきそうな程、星が瞬いている。
「星に手が届きそうや」
そうつぶやいて、菫は夜空をじっと見上げた。
「菫?」
後ろから、エドワードの心配そうな声がかかる。
「なぁ、エドはん。ウチ、元の世界に帰れると思う?」
お好み焼きを焼いている間、考えてた事を言葉にする。
「ホントは、解っててん。ごっつ難しい事なんやろなって。
今までは『【呪い】を解いてもらって、元の身体に戻る事が先』って答えを出すのを避けてたんやけど、そろそろこの問題にもちゃんと向き合わなアカンのやろなぁ」
そう言って菫は、後ろを振り返った。
―――あぁ、もぉ。エドはんが、そんなつらそうな顔せんといて・・・。エドはんの優しさに付け込むような事、言うてしまうで?頼ってしもても、えぇ?―――
「力、貸してもらえるやろか?・・・帰れるにしても、帰れないにしても」
「勿論!俺の力の及ぶ限り」
打てば響くように、エドワードが答える。
「おおきに。ホンマおおきに。・・・この世界に来て、出会えたのがエドはんで、ホンマよかった」
うつむき加減になりながら菫が言うと、エドワードが優しく頭を撫でてくれる。
二人は寄り添って、満天の星空を見上げた。