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「あ、ありえねぇ。この家に何が起こったんだ・・・」

3週間程一緒に旅をしてようやっと目的地の家にだどりついた途端、呆然として立ち竦んだ男、ブッドレアをロサは胡乱げに見た。

旅の間、同行者のロサを振り回して、振り回して、振り回し倒したくせに、普通の家の前で何に驚いているのだろう?と。

その2人の目の前の家からは、先ほどから良い匂いが漂ってくる。

それはもぅ、食欲中枢を刺激しまくる匂いが。

ロサの記憶の中にこんな美味しそうな匂いはなかった。

―――そういえば、お昼を食べ損なったわ―――

ちょびっとだけ、ロサは切なくなった。


「い、いかん。呆けている場合じゃないな!原因を究明せねば!!」

気をとりなおして握りこぶしで気勢を上げるブッドレアに、ロサはとりあえず水を差してみた。

「別に、人が住んでいる家から良い匂いがしてきたっておかしくないじゃない。何を大騒ぎしてるのよ」

「コレは大問題だ!家主のエドワードは『食べれたら何でも一緒』などとほざくヤツなんだ。そんなヤツ

の家から、こんな俺の知らない良い匂いがするなんて、許される事じゃない!」


ばぁ~んっっっ。

勢いのままにブッドレアがドアを開けると、そこには・・・。

エドワードの口に合うかどうかお試し品を食べてもらおうと、お好み焼きを乗せた皿を手に突然の訪問者に驚き固まる菫。

ピンクのぬいぐるみが自力で動いている事より、その手にしている茶色い物体が美味しそうな匂いの正体だとわかり、今まで見た事も食べた事もない食料を、アレは何だ?と脳内検索をしているブッドレア。

ぬいぐるみのうさぎが動く、という予想以上の可愛らしさに『ぬいぐるみが自力で動く』商品を造ったら売れるかしら?と商売人のような思考をフル回転させているロサ。

・・・三者三様の理由で固まってしまった。


「あ~・・・まさか、エド・・・ぢゃないよな・・・」

とりあえず、フリーズから一番先に解凍されたのはブッドレアだった。

「・・・人違いです。・・・失礼ですが、どちら様で?」

警戒心丸出しの、大人の女性の声で返ってきた。

「おっと、これは失礼。ここの家主の友人で、ブッドレア・ダウディー。この家の関係者ならエドワードから話、聞いてない?」

「いえ、全く、一言も」

『切り捨て御免!』とばかりに一刀両断。

「・・・エド、扱いがひでぇよ。しかし、困ったなぁ。おぉそうだ!俺が【呪いのうさちゃん】をエドに送ったんだ。ほら、友人だから保管を頼んだんだ。これでどぉ?」

「・・・ちょっと、余計に怪しいわよ、ソレ。嫌がらせした様に聞こえるわよ」

横から小声でロサの注意が入る。


このままでは、らちがあかないと踏んで菫が言った。

「・・・家主に確認をしてまいりますので、少々お待ち下さい」

「おっ。そうしてもらえると助かるよ。・・・で?君は一体?」

菫は、急に矛先が自分に向いたのでどうしようか?と考えて

「・・・ワタクシではお答え出来かねますので、詳細は担当者までお問い合わせ下さい」

煙に巻いてしまえ、とばかりにビジネスモードで返してみた。

「ふ~ん、じゃぁ。・・・お~い、そこの怖え(ツラ)した担当者!説明を要求する」

ならば、とブッドレアはいつの間にか菫の後ろに立った男に回答を求めた。

エドワードは、眉間にしわを寄せながら不機嫌そうに言う。

「ブッドレア、遅い。何をしていた」

「ひでぇなぁ。これでも『シムルグ』を乗り継いで急いで帰ってきたんだぜ?」

「そのわりには、大荷物だな」

ブッドレアがいう所の『土産』達が玄関先を占領している。

旅先で見つけた、珍しい薬草(これは役に立つから良し)や珍味(ほとんどブッドレアが自分で食べるから意味無し)、術式関連の書籍(大歓迎。しかし保管場所が足りなくて困る)等々が。

旅先から帰ってきたら、毎回ブッドレアは土産を披露する為だけに玄関先で全部を広げるのだ。


「エドはん。『シムルグ』って何?」

わからない事があればすぐその場でエドワードに聞く習慣がついてしまった菫は、ちょいちょいっとエドワードの服の裾をひっぱり質問した。

「ああ。菫が来た時に『ありえへん程大きな鳥を見た』と言っていただろう?・・・たしかロック鳥とか言って。『シムルグ』という鳥なんだが、人を5~6人背中に乗せて長距離を短時間で移動できるんだ」

険しかった目元を和らげて、エドワードが答える。

「ああ、あのでっかい鳥!飛行機みたいなもんか。やっぱすごいな、異世界は」

ブッドレアとロサをそっちのけに親しげに会話をする様子を見て、ブッドレアは驚きに目を見張った。

エドワードは、さっきまでの不機嫌はドコに行った!という具合だし、うさぎに至ってはさっきまでのしゃちほこばった態度は何だったの?という話し方になっている。

「・・・エド。事情も聞きたいし、入っていいか?」

「ああ、そうだな。そちらの客人の方もどうぞ」

そうして、ようやくブッドレアとロサは家に入れた。

お好み焼きのソースの焦げる匂いは、たまらん!

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