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着いたのは、小さな村だった。

その村の中をエドワードはすたすたと迷い無く歩いて、一軒の店に入る。

カランコロン。

扉を開けるとカウベルが、可愛らしく来客を告げた。


店の中にいた穏やかそうな老人が、一瞬珍しいモノを見たかの様に驚いて目を見張ったがすぐに柔和な微笑で来客(エドワードとその腕に抱えられて、店の中をきょろきょろ見ているピンクのうさぎのぬいぐるみ)に対応した。

「・・・おや、おめずらしい。いらっしゃい、エドワード師。」

店内には、食料品から日用品、何やらわけのわからない置物、奥の方には衣服も置いているようだ。

「急に来てすまない、ロウバイ。頼んでいたモノが見つかった、と連絡が来たので確認に来たんだ」

「そんなにお急ぎでしたか?師にしては、珍しいモノを頼まれるとは思っておりましたが・・・」

「ん・・・まぁ・・」

言葉を濁しつつ、エドワードは菫に視線をやる。

つられて、ロウバイもエドワードの腕の中にちんまりと収まって、店の中を見わたしているピンクのうさぎのぬいぐるみを見る。

―――・・・これはこれは。久々に面白そうな気配がしますな・・・―――

表情は柔らかく微笑みながら、内心はにんまり笑いながら、ロウバイは尋ねた。


「お連れ様を紹介していただけますかな?エドワード師」

「ああ、彼女は『菫』だ。事情があって、今は我が家に滞在してもらっている」

―――彼女。菫。エドワード師の家に滞在。ふむ。これは益々興味深い―――

ロウバイは情報を頭に入れながらも、表面上は穏やかに、にこやかに。

「そうですか。菫さん、この村で商いをしております、ロウバイと申します。エドワード師の元にいらっしゃるなら、お会いする機会も多いかと思います。どうぞよろしくお願い致します」

「こちらこそ、よろしゅうお願いします」

そんなロウバイの心中を全く気が付かないまま、菫は挨拶を交わした。

「エドワード師、商品は倉庫の方に保管しておりますので、一緒に来ていただけますかな?」

「わかった。重さもあるだろうから俺が運ぼう。菫はここで待っていてくれるか?」


たしったしったしったしっ。

「わふ」

店の奥から足音も軽やかに、トウが二人に挨拶にきた。

「トウ、いいところに。菫は何もない所でもすぐ転ぶから、彼女の面倒を見ていてくれるか?。店内で転んで、陳列している商品に突っ込んだら大変だからな」

「ひどいわ、エドはん。・・・確かによぉ転ぶけど。ウチ、おとなしゅうこの不思議な置物、眺めてるから!」

そう言ってエドワードはトウに話しかけ、菫は自分の目線の高さにある(ガラスの球体の中に万華鏡のようにくるくると光がまわっている、スノードームの様な)置物を指差した。

「わかった。おとなしく待っていてくれ」

エドワードは笑いながら菫とトウの頭を均等に撫でると、ロウバイと倉庫に向かった。


じぃ~。

したしたしたした。

ぐわしっっ。

むぎゅ。

ぐぇ。

わふ。

むふ。

エドワードとロウバイが倉庫から戻ってくると、5歳になるロウバイの孫娘『ソシン』に現在進行形で抱き潰されている菫と、その横でそんな二人を尻尾を振りながら見てるだけ(・・・・・)のトウがいた。

「これこれ、ソシンや。お客様を潰してはいかんぞ」

そんな3者を見て、ロウバイはにこやかに孫娘に注意していた。


小さな女の子の熱烈な愛情表現から、ようやく開放された菫の証言を元に検証してみると・・・

じぃ~。

ピンクのまるっこい後姿を物陰から見つめる熱い視線。

したしたしたした。

菫はトウと共にくるくると光が瞬いているガラスの球体に見入っていて、忍び寄る足音に気が付かない。

ぐわしっっ。

いきなり、後ろから強烈なホールドが。

むぎゅ。

―――潰れる~。出る~。何かが、出てしまう~―――

ぐぇ。

と、菫。

わふ。

と、トウ。尻尾をふりふり。(←エドワードに言われた通り見てる(・・・)。)

むふ。

と、ソシン。会心の笑みを浮かべながら。

という次第であった模様。


今は、仲良く互いの小さな手を繋いで『何が出てくるのだろう?』と、わくわくしたと4つの目で・・・(トウも入れて)6つの目でコチラを見ている。

エドワードは、倉庫から持ってきた袋を開けた。

「菫、見てくれ。コレでいいか?」

ぱらぱら。

一握り、袋から取り出したモノを菫に見せる。

「え?お米!お米や~!!精米までしてあるやん!すごい!こんなトコで出会えるなんて!」

その場でぴょんこぴょんこ、と跳ねて全身で喜ぶ。

手を繋いでいるソシンも、わけがわからないまま、きゃっきゃと一緒に楽しそうに跳ねている。

「でもエドはん『米』は食べた事ないって言うてはったのに・・・」

「ロウバイに確認したら、入手経路があるという話だったんでな。入荷してもらったんだ」

「わざわざ取り寄せてくれはったん?」

「菫が夢にまでみた『白いご飯』を食べてみたくてな。じゃぁ、ロウバイ、今後はこの『米』も配達に入れてくれ。今日は、この1袋を持って帰る事にしよう」

「エドはん、おおきに。ホンマ嬉しい!」

菫の喜びようを見て、悪戯が成功した少年のようにエドワードが笑う。

「手間をかけたな、ロウバイ」

「なんのなんの。こんなにお客様に喜んでいただけると、コチラとして手配のしがいがありますな」

にこにこにこにこ。

小さな村の小さな店に笑顔が溢れた。


帰り道、雨はあがっていた。

水の匂い。緑の匂い。雨に濡れた土の匂い。

「エドはん。今日は何食べたい?好きなモン作るで?」

「ん?菫の作ってくれるものは、美味いから何でもいいぞ。あぁ、でも『白いご飯』は食べてみたいな」

自然の香りに包まれながら、二人で家路に着いた。

【補足】「師」は「術師」の尊称という事で。

「お医者さん=先生」と同じ感じで、お願いします。


ミッション【お米を入手せよ!】編、しゅ~りょ~。

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