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さわさわさわさわ。

朝、菫が目覚めると細やかな音と共に雨が降っていた。

一面、霧が立ち込めた様な雨、霧雨が。

キッチンの窓から、雨に濡れてしっとりした佇まいが見える。

寝過ごした事もあって、今日はエドワードの薬草園の手伝いをパスして、朝食の準備にとりかかった。


―――――薄力粉と水を1:1で合わせ、とろ~んとした固さにする。

流石に、パンもパスタも飽きてきたわ。

―――――フライパンに生地を入れて焼き色がついたらひっくり返して、ハムとチーズをのせる。

・・・お好み焼き作ろっかなぁ。エドはんソース系、大丈夫やろか?

―――――反対面も焼き色がついたらレタスの乗せて、半分に折って完成!

今度、聞いてみよっと。

「さ!召し上がれ!ブリトー!!」


朝食時に、エドワードがいきなり宣言した。

「そうだ、菫。今日は、これから出かけるぞ」

「え?今日?雨降ってんのに?」

菫は思わず外を確認して言った。

「ん?たいしてキツイ雨じゃないからな。出かける用意ができたら声をかけてくれ」

エドワードは、悪戯をたくらんでいそうな笑顔で言う。

―――な、何あのやんちゃそうな顔。何たくらんではるんやろ?―――

少し慄きながらも菫は、後片付けをさっさとすませた。


「雨が降ってるからな」

そう言ってエドワードは菫を右腕に抱きかかえ

「術式【遮水】」

術式を発動させた。

しゅるしゅる、と文字や数式がエドワードと菫の周りを一回転して消えた。

「さて、行くぞ」

菫が初めてまともに見た術式に驚いて目を丸くしていたが、エドワードは全く気にせずにドアを開けて外に出る。何も手にもたず、菫を抱きかかえただけで。

―――え?傘も何も無し?濡れ・・・てへん?―――

不思議に思った菫は、ずんずんと歩いていくエドワードを見上げた。

するとエドワード身体に触れそうになると、雨が弾かれてつっーと滑って行くのだ。

まるで、透明な球体が身体の周りを覆っているかのように。


「すごい。すごい!何コレ。面白い(おもろい)!」

腕の中から歓声が上がり、エドワードは菫を見下ろした。

興奮しているのだろう、両耳がぴこぴこ動いているし、目がキラキラしている気がする。

「何かお気に召すものでも?」

何がそんなに気に入ったのだろう?とエドワードは問いかけてみる。

「エドはん!すごいなコレ!傘いらずやん!

それに、雨が降ってくる様がよぉ見える!何や楽しいわ」

首を真上に上げて(両耳がエドワードの胸にあたって、くしゃっとなっているが気にしていない)雨の降ってくる様を見て喜んでいる。

正直、エドワードにとっては雨の時にいつも使っている術であったし、『傘とは何だ?』という疑問もあったが、菫の楽しげな雰囲気を壊したくなかったので

「そうか。それはよかった」

と言うに留めた。


空から水が滴ってきては、手前で弾かれ周りをすべり落ちていく。

頭上付近では、小さな水達が溜まり、大きな水滴となる。

その水滴を通して周りを見ると、ゆらりゆらりと木々が歪んで見えて、いつもとは違う風景に思わず見とれてしまう。見方を変えるとこんなに違って見えるのか、と。

そんな風景を飽きることなく菫は見て楽しんだ。

―――別に特別な事をしているわけやないのに、エドはんと歩いてるだけやのに、すごい楽しい―――

そう思いながら。


だからエドワードが、すたこら1時間程歩いて目的地に着いた時にようやっと

「菫、着いたぞ」

「へ?ドコに?」

今日の目的地を聞きそびれていた事を思い出したのだった。

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