15
「エドはん!エドはん!!エドはん!!!
おかしいって。アレ絶対おかしい!」
ぷるぷると震える手で、菫が指差す方向には悠然と歩いている・・・薬草。
見た目は正しく『にら』。
青々とした細い葉が幾重にも折り重なって、わさわさと茂っている。
が、自力で土の中から根っこを『どっこいしょ』と引っ張り出し、『よいせこらせ』と日当たりの良い場所に自力で移動しているのだ。
しかも、10束ほどが一斉に。それはもぅ、わっさわっさと。
「菫、アレはああいった生態なんだ。
案外、貴重な薬草なんだぞ。活血作用があって、使い勝手のいい薬草なんだ。
ただ栽培しようにも、勝手に移動するから一定の場所で育てる事ができなくてな。
ここは風土が合っているのかもしれん。この薬草園の中でぐるぐる場所を変えるだけで、違う場所に移動する気配はないようだ」
エドワードが未だまだぷるぷるしながら薬草を凝視している菫の頭を、ぽふぽふと宥めながら言った。
菫が『薬草園の手入れを手伝いたい』と言い出したのは、昨日の夕食の時だった。
取り扱いの難しい薬草もある為、『自分と一緒なら』とエドワードは了承した。
小さい身体で、アッチにぱたぱたと駆けていき雑草を抜いて、コッチにころころと転がりそうになりながら水を撒く。実に楽しそうに。
「エドはん。このハーブ、摘んでも良い?」
かと思えば、料理に使えそうなハーブを見つけて期待に満ち溢れた雰囲気でエドワードに訴えかけてくる。
「その辺りのは構わない。あ、菫、足元に気をつけろ。罠があるぞ」
「へ?罠?」
どべしっ。
注意を受けた途端、足元にあった草と草を結んで仕掛けられてあった罠(草結び)に足をとられ、おもいっきり転んでしまった。
「な、何で罠なんかが仕掛けてあるねん!」
「菫のすぐ側に花が咲いているだろう?その花を摘まれない為の自衛手段の一つなんだ」
エドワードは笑いを押し殺し、菫を抱え起しながら説明する。
「・・・あなどりがたし、異世界・・・」
そうつぶやくとエドワードに抱きかかえられたまま、菫はガックリと肩を落とした。
―――――魚は皮目に切り目を入れて塩・こしょうをし、薄力粉をまぶす。皮目からパリっと両面焼き、取り出しておく。
前は、鯛で作ってんな~。アレは美味しかった~。
―――――薄切りにした、玉ねぎとセロリを炒め、魚を戻し入れる。
結局、今日はハーブは収穫できひんかった。
―――――牛乳、コンソメスープ、パセリの茎やセロリ葉っぱを入れて弱火で15分ほど煮る。
タイムにローズマリー、バジルにレモングラスもあったし、次は採るで~!
―――――仕上げにバターを加え塩コショウで味を調え、パセリを散らす。
「さ!召し上がれ!白身魚のミルク煮!!」
二人で夕食を食べながら、エドワードはふと思いついた事を聞いた。
「菫。『薬草園の手伝い』というより『新しい食材の発掘』の方が正しくないか?」
「・・・今日も美味しく出来上がったわ!エドはん。ウチは食後にエドはんの淹れてくれた珈琲が飲みたいです!」
菫の、かなりの力技な話のそらし方に笑いがこみ上げる。
「くくく。了解した」
―――菫といると、いつも笑っている気がするな・・・―――
エドワードは、そんな日常がとても好ましく思えた。
ある日の出来事。薬草園にて。でした~。