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「菫、おいで」

二人でサンドイッチを食べた後、泉を見入る菫をエドワードは倒木に座って呼んだ。

近づいてきた菫をひょいと、抱き上げて膝の上に座らせる。

「静かに泉を見ててご覧。今日は条件がいいから見れるかもしれない」

正面には、きらきらと光を乱反射している泉。

―――何が見れるんやろ?―――

好奇心を刺激され、菫はおとなしく待った。


ゆらり。

泉の水面が揺れると、薄く靄がかかり始めた。

それはゆっくりと広がっていき、その中に何かが見え始めた。

よく見ようと菫は思わず身を乗り出してしまい、転げ落ちそうになる。

が、予想していたかの様に、エドワードがしっかりと菫を抱えなおした。

その間にも靄はゆらりと広がり・・・二人の眼前に荒涼とした砂漠をうつし出した。

水平線まで続く砂漠。砂以外に何も見当たらない。

風にあおられて砂が舞い、流麗な風紋が広大な砂漠の表面に描かれていく。

熱く、熱せられた風が吹いてきそうだ。

ゆらり。

水面が揺れ、その光景は瞬く間に消えていってしまった。


「・・・何やったん、今の・・・」

呆然と菫がつぶやいた。

「晴れている事。風が凪いでいる事。陽が中天にある事。

他にも色々条件はあるのだろうが、俺が知っている限りでは最低この3つの条件が揃った時に現れる現象だ。

もともとこの泉には、濃厚な魔力が常に湧き出ている。

おそらく・・・推測でしかないが、菫のいた異世界にも魔力・・・いや、魔力という概念がなかったな。濃厚なエネルギーが湧き出ている、同じような場所があるんじゃないかと思う」


「ということは、この場所とウチのいた世界と繋がってるかもしれんって事?」

「・・・そうとも言いがたい。さっき見た光景は、菫が居た場所にあったものか?」

「近くにはあんな砂漠は無かったわ」

「現れる光景もいつも同じものでは無いんだ。緑があふれる場所だったり、廃墟だったり、空の中だった時もある。菫から異世界の話を聞いたとき、この泉が接点ではないかと思ったんだが・・・」

「当らずといえども遠からず・・・ってところ?」


「すまん。俺が異世界について、知識があればこんなに菫を不安にさせる事もなかった」

そう言って、エドワードがうなだれてしまった。

―――え?そんなんエドはんが悪いんちゃうし!だから、しょぼ~んとせんといて~。

何かクマさんが、でっかい身体で項垂れてるみたいで・・・ちょっと可愛いやん。はっ!コレが噂に聞く『ギャップ萌え』?・・・なかなかえぇかも・・・―――

・・・ただ今、思考が暴走中ですのでしばらくお待ち下さい・・・


「エ、エドはん。そんなん気にせんといて?ウチ、そんなに不安ちゃうし。

エドはんもフジはんも側にいてくれるし、大丈夫!」

先ほど興奮の名残で、ちょっと声が震えているのはご愛嬌。

「だが今朝はフジの事を説明した後でも、元気がなかっただろう?

だから、不安にさせているのかと・・・」

「え?今朝?・・・あ~、今朝、ね・・・」

何やら明々後日の方向を向いて、両耳をぴくぴくさせている。

「・・・怒らんといてな?じつは、昨日の夢に・・・白いご飯が出てきてん。ほんで、白いご飯が食べたいなぁって思ったら、何や切なく(せつのお)なってしもて・・・。

食い意地がはってて、ホンマごめんなさいぃぃぃぃ」

へにょ~ん。

菫の両耳がぺたこんと、おじぎをしている。


「・・・しろいごはん・・・。ぶっ、くくくくくく。・・・いや、それならいいんだ。くくくく」

「だって、しゃぁないやん。こっち来てからパンやらパスタやらでお米食べてへんねんもん!」

「じゃあ、今度その『お米』を探そう。俺は食べた事がないからな。

・・・ああ、向こうの木にフジがいたぞ。フジ!帰るぞ。お前の好きな木の実も持ってきたから・・・」

バサバサバサ~。

即座にフジが飛んできて、エドワードの手のひらに乗せた木の実をつつく。

「フジはんって、ホンマ食べるの好きやな~」

「菫も負けてないと思うぞ・・・くくくく」

「むぅぅぅぅ~」

エドワードは吹っ切れたかの様に、菫はむくれて、フジはご機嫌で、家に戻っていった。

今朝のしょんぼりした雰囲気は、どこにも残っていなかった。




自覚はあった。『心配をかけてしまった』という自覚は。

この『小さなピクニック』も自分を元気付けようと、誘ってくれはったのもわかった。

だから言えへんかった。

『家族揃って白いご飯を食べた夢を見たから、切のおなった』なんて。

あんなに優しい人を哀しませる事なんてできひん。

あの人を哀しませる、そう思っただけでこんなに胸が痛くなるなんて・・・。

深く考えん方がええ。

・・・今は、まだ。

望郷の想い、それは白いごはん~編、しゅ~りょ~。

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