11 幕間3
【魔女】
著しく濃密な魔力を内包して誕生する者。
濃度の高い魔力は通常【術師】が使用する【術式】では許容範囲を超え、正常に作用しない事が多い。
その為、独自の【術】を構築している。
【攻撃性の高い術】や【持続性の必要な術】に適している模様。
未だ理由は解明されていないが【魔女】が誕生するのはごく稀である上、女性でしか誕生しない。
それ故に【魔女】と呼ばれている。
―――誰だ、こんな資料を回覧したヤツは・・・―――
トウカ国、警備・警ら隊 隊長室で、隊長であるグリーン・ホーソンの眉間に深い深~い、しわが寄った。
建国してまだ100年も経たないトウカ国に、世界的にも数が少ない【魔女】が初めて定住する。
国の治安を守る隊員に、事前の知識としてこの資料が回覧されたらしいのだが・・・。
「ぶっ。コレはひどいな。珍獣扱いだ」
『この国に遊学に来た』というが、アチコチとふらふらしてるようにしか見えない【術師】ブッドレアが、ピンクのうさぎのぬいぐるみと左手を繋いで隊長室に入ってくる。
「ああ。こんな中途半端な情報なら、無い方がましだ。
『【魔女】の一撃は、山をも崩す』だの『怒りを買って、一夜にして街が廃墟になった』だの、根も葉もない噂に踊らされて、未知のモノに対する恐怖心で判断力が鈍ったようだ。
・・・精神面がまだまだ脆弱だな。鍛錬を増やすか」
グリーンは、その鍛えられた身体を椅子の背に預けながら嘆息した。
「あらら、かわいそうに。グリーン、程ほどにしてやれよ~。
それはそうと、【魔女】殿の自宅に行ってきたぞ」
このつかみどころのない【術師】と何故か馬が合ったグリーンは翌日が休みだった為、たまたま二人で飲み明かしていた。そこへ今朝のあの乱闘騒ぎだ。
大きな魔力が動いている事を察知した為ブッドレアが同行してくれたのだが、相当に幸運なめぐり合わせだったようだ。
国の【術師】不在の今、ブッドレアがいなければ【魔女】への対応が後手後手に回るところだった。
「あぁ。助かる。で?どうだった?警ら隊員達の言うところの『危険物』はあったのか?」
「あった、あった。相当な『危険物』が。ほい、コレ」
そういってブッドレアは、ぷら~んぷら~んと手に提げていたぬいぐるみを無造作に机の上に置いた。
―――この可愛らしいぬいぐるみが?―――
疑問が顔に表れて、グリーンの片眉がくんっと上がる。
「このうさちゃん、強烈な【呪い】がかかってるぞ。
とりあえず一番厄介そうな【衰弱の呪い】は【解除】しといたが、むやみやたらに触らないでくれよ。
一応【封印】はしてるけど、結構複雑な【呪い】だから発動したらすぐに【解除】は無理だ」
「そうか、どこに保管するべきか・・・。
事情聴取の最中の【魔女】殿に保管をさせるわけにはいかない。
取り扱えるだろう城付きの【術師】は、国境の砦に行ってる。
かといって、【呪い】に全く不慣れな警備隊で保管するのは、不安要素しかない・・・まいったな」
「流石に、俺の泊まっている宿に置いとくのもマズイぞ。
そうだな、このうさちゃん、俺の方で処分してかまわないなら安全な場所があるが・・・どうする?」
「処分というと?」
「ヨクカ国に友人がいるんだ。そこなら、ヤツも【術師】で【呪い】の扱いにも慣れてるし、ヤツ以外に滅多に人も来ないから、安全なんだが・・・。
何せ研究バカでな。間違いなく【分析】して、【呪いの解除】もしたがるだろうな。
それでもいいなら、コッチで引き受けるが」
「処分していいかどうかは【魔女】殿の了承が必要だが、・・・それが一番安全そうだな。
わかった、すぐにでも確認を取ろう。
これまでの聴取では、昔の研究の名残で【魔女】殿も【呪いの解除】をしようとしていたらしいから、処分までおそらく頼む事になるだろう」
「りょーかい。じゃ、俺の使い魔鳥で運べるよう、がっちり【封印】と【縮小】をかけとかないとな。
あ、そうだ。【魔女】殿の自宅に行った時に、彼女の妹と広場周辺のちびっ子達に捕まって【魔女】殿へ伝言を頼まれてたんだ。伝えといてくれるか?」
「・・・かまわないが」
「妹のルテアちゃんからは『そこで、たっぷり反省させてもらって下さい』。
んで、ちびっ子達からは『【魔女】さん。あの趣味の悪い銅像、ぶっ壊してくれてありがとー』だと。
広場が使えなくなった事より、銅像を壊した感謝の方が勝ってるってどんだけ嫌われてたんだよ、あの銅像」
げらげら、と大爆笑をしながらブッドレアが部屋を出て行こうとする。
グリーンは、その背に向かって声をかけた。
「ブッドレア。本当に助かった。礼を言う。この騒ぎが収まったら、飲みなおそう」
「ああ。次こそ、飲みつぶしてやる」
にんまりと笑って、今度こそ部屋を出て行った。
二日後、被害のあった広場に今回の事の経緯が張り出された。
『先日、この広場にて起きた一件についてここに報告する。
<経緯>
【魔女】宅へ警ら隊が巡回した際、同宅で【呪いのぬいぐみ】が発見された。
調査の結果【呪いのぬいぐるみ】は研究の為の物で、わが国にとって何ら害意の無いものであった。
しかし、警ら隊及び警備隊はその場で事情を伺う事をせず強制連行をしようとした為、大乱闘を招き広場に多大な損害を与える結果となった。
<原因>
警ら・警備隊
事前の【魔女】根も葉もない噂に踊らされ、冷静な判断ができないまま【力】で解決しようとした事。
【魔女】
魔力のコントロールを失い、感情のおもむくまま被害を拡大した事。
<処分>
警ら・警備隊
広場の修繕、整備(業者は一切利用しない)。
要望があればその都度、指示してこきつかってくれ(←手書きで加えられている)。
【魔女】
城外の水路工事の補助。
爆破作業になるので、危ないから見に行かないように(←コレも手書き)
トウカ国 警ら・警備隊 隊長グリーン・ホーソン』
2週間弱という時間をかけて(かかって)、関係者面々は<処分>という名のお勤めを果たした。
近隣住民には、広場は綺麗になる、水路の工事が予定より早く進む、で大変好評であったという。
【呪いのうさちゃん】製造・出荷編、しゅ~りょ~。