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前書き 短編のつもりが全く収まりきらなかったので、連載になりました。
よろしければ、お付き合い下さいませ。
そこには、もともと大きな池があった。
その池の周りに桜や梅、ツツジやすもも、果てはクヌギの木など、たくさんの樹木が隆盛を競っていた。
人の手が入り、周りが住宅街になってもその豊かな自然は残され、大きな公園となっていった。
そんな公園内は、今日も春の日差しが燦々とふりそそぎ、周りの木々で羽を休めている鳥の鳴き声が静かな公園にやさしく響いている。
カチャン。カチャン。
一定のリズムで瓶と瓶が触れ合う音が、鳥の鳴き声の合間に入り込む。
ゴトン。
「アカン。久々にやってしもた。重すぎるわ」
河上 菫は、持参のエコバッグを地面に置いて、池のすぐそばにある公園のベンチに座り込んだ。
「え~っと、酢に醤油に味噌、ソースにマヨネーズ、ケチャップも買ったな。よし。調味料系はクリアしたし・・・、いっぺん帰ろ。これ以上は無理。持てへんわ」
スーパーの特売品を目的どおりに買い込んで、重たいもののホクホク気分で、手に持った缶コーヒーを開けてベンチで一息をつく。
「はぁ~」
春の優しい風が、くせっけのあるボブカットの黒髪を揺らしていく。コーヒーを飲みながら空を見上げると、雲一つ無い青空が広がっている。
菫は、目を細め深い青色の空をしばらく眺めていた。
チュン。チュン。
数羽のスズメが、目の前をちょん、ちょんっと跳ねて移動している。
ごそごそと買い物袋から食パンをとりだして、小さくちぎってスズメの近くまで放ってやる。
「ふふ。かわい~」
小さな身体をちょんちょんっと移動させてパン屑をつつきだしたスズメをみて、菫は柔らかく微笑んだ。
パタパタパタ。
足元で戯れていたスズメが一斉に飛び立つのを見て、菫は重い腰をあげた。
「さて。帰りますか」
空き缶を近くのゴミ箱に捨て、買い物袋を手にして歩き出す。
そんな菫の視界の端に、一瞬池が目に入る。
その池から靄のようなものが起ちあがっているのが見えた気がしたのだ。
「ん?なんや、今の?」
一歩進んだものの、何かがひっかかって振り返ってみてみるが、そこには変わらぬ池があるだけ。
「気のせい・・・?」
気を取り直して歩き出そうとするが、何か違和感がぬぐいされない。
「あれ?何かおかしい??」
周りを見渡すと、木、池。足元には、可憐な野草が気持ちよさそうに風に揺られている。
さっきと変わらない風景。
「最近、仕事が忙しかったし疲れてんのかなぁ?」
独りごちてようやく歩き出す。
菫は気がつかない。さっきまで座っていたベンチが、空き缶を捨てたゴミ箱が、そこに無い事を。
【池を振り返った】その行為が今までの生活を一変する瞬間だったとは、気がつく事は無かった。
てくてくてくてく。前後確認。左右確認。上下確認。考え中。考え中。・・・(諦めて)てくてくてくてく。
「・・・・・・出口はどこやぁぁぁぁ~!」
公園のベンチから立ち上がり、さて帰ろうと歩き出したはいいが、どこまで行っても出口にたどりつけない。周りの景色も、いつも見ている公園とは違う様相になってきている。
【公園】というよりか【深い森】になっているのだ。
「どないしよ・・・」
手には重い荷物。陽も傾きはじめ、ため息をこらえ茜色の空を仰ぎ見る。
ガァー。グァー。グゲェー。
「え?えぇ!?」
菫が空を見た時、初めは「カラスかな?」と思うような鳴き声が段々と物騒なと鳴き声と音量にかわり、大きな鳥の影が上空を横切った。
そう。まるでアラビアンナイトに出てくるロック鳥みたいな巨大な鳥が、だ。
真上に向けていた首を、カクン。と元に戻し、しばし呆然とする。
「ココ、どこやねん・・・。もぉ泣きそうやわ」