3羽
ことのはじまりはなんだったろう。
そう、遡ればあの結婚式だ。あそこから私の運命はあさっての方向にねじまがりはじめた気がする。
私には婚約者がいた。5歳年上の許婚ルパート。侯爵家の嫡男である彼は、子爵家の娘にすぎない自分にはもったいない相手だったが、彼の家であるギルバード侯爵家は商才に溢れる貴族として有名であり、財力、権力は公爵家に匹敵するとも言われている家だった。
そんな一流貴族の嫡男とみそっかすの子爵家の娘である私が婚約などできたのは、ギルバード家の当主が子爵家の所領を静養地として大層気に入ってくれていたからだった。
個人的には山と畑しかない素朴というより不便な我が故郷だったが、侯爵家当主レオナルドさまはその景色をみて「素晴らしい…。」と熱い涙を流されていた。正直、田舎モノの感覚としては理解しがたい。
そんな幸運な縁あって私はルパートの婚約者になることができたのだ。
ルパートは子供のころからかなりの美形で、幼い時から社交界にデビューする日を貴婦人たちから心待ちにされていた。武芸にも優れ、なんとローレシアン討伐軍の小隊長を務めあげ勲章を授与された。読書ぐらいしか趣味のない、さして美人でもない(宰相が言う傾国の美女はただの嫌味である。)地味な私には重ね重ね不釣合いな人だったが、それなりに時間を重ね親しくなっていたつもりだった。
挙式するとなったのは、私が19歳のとき。本来なら15歳になったときに結婚するはずだったのだが、ローレシアンとの戦いに参加した彼は3年間帰ってこなかった。
戦いが終わり帰ってくると、今度は溜まりに溜まった嫡子としての仕事に追われそれが1年、計4年を経てやっと結婚することになったのだ。
バタンッ
私とルパートの結婚式会場となった教会、入り口の木製の扉が突然大きな音をたてて開かれた。
「その結婚まってください!」
姿を表したのは、ピンク色の髪をツインテールにした小柄で可愛らしい美少女だった。
私はその名を知っていた。
「リリーナ!なぜここに!」
タキシード姿を着て隣にいたルパートは、驚いた声で彼女の名を呼ぶ。
彼女の名前はリリーナ。ローレシアンとの戦いで、ルパートの部隊を援護し、傷ついた兵士たちを癒し支えたラマーナの聖女の一人だ。
彼女はその瞳に何かやたら熱いものを灯しながら、その目に涙を浮かべていた。
「ごめん、ルパート。あなたのこと諦めようとおもったけど。けど、そんなこと無理だった!私、やっぱりあなたのことが好き!」
「リリーナ!!」
彼女の熱がルパートのほうに伝わり、ルパートの中で何かが燃え上がる。
二人の瞳が合わさり、その何かを伝え合うのが私にも見えた。
「ごめんなさい、マリアさん!でも私にとってルパートはとっても大切な人なの!」
そして今度はその熱い瞳が私をサーチして捉える。
「いや…あの…まあ…それは仕方ないっちゃ仕方ないんですけど…。」
そのやたら強いめぢからに私はたじろく。
実はなんとなく知ってた。ルパートの友人として彼女を紹介されたことあるし、二人が付き合ってるかもしれないというのも噂でなんとなく耳に入ってきてたのだ。
結婚式前に友人と話して、「駆け落ちしちゃったりしてねー。」「あははははー。」とか冗談で言い合ったりもした。まあそれでも結婚すれば落ち着くだろうと思っていたのだ。
まさか本当に駆け落ちなどあるとは思ってなかったが。
だが、それよりも。
「あの…もう結婚式終わっちゃったんですけど…。」
誓いの言葉も、指輪の交換も口付けも…。司祭からの祝福も賜っていた。結婚に必要なことはすべてやってしまった。ブーケは前に取り合って事故があったらしく、くじびきにしてくださいという要請だった。本日の日程はつつがなく終了しました。
普通こういうのは、誓いの言葉の前に颯爽と現れるものではないだろうか…。
だが、私の小さな違和感など、熱く恋の炎を燃やす二人には特に気にならないことだったらしい。
ガシッと熱く手を握られたので振り向いてみれば、やたら間近に炎を灯した瞳のまま器用に涙を流すルパートの顔があった。ちょっと暑苦しくて引く。
「すまない、マリア!俺は…おれはリリーナの事が…!」
感極まって言葉が続かないみたいだ。
「いや…うん…わかったけど。できれば誓いの言葉が終わる前に来てくれればよかったなぁとか…そもそも結婚式前に言えば良かったんじゃないかなとか…だめですかね…あはは…。」
私の細やかな抗議など、豪快に恋の道をひた走る彼らの耳には届かないらしい。
「俺は、俺はリリーナと共に行く!リリーナ!着いてきてくれるか!?」
「ルパートとならどこへだっていけるよ!」
燃え上がった身麗しいカップルは互いを見つめあいながら、教会の外へ飛び出そうと走っていく。もうみんな見守るしかできない。だって別世界だもん。
「待て!ルパート!そんなことは私が許さんぞ!」
だが、一人その行く手を阻むものがいた。ギルバード家当主レオナルドさまだ。いつの間に用意したのか片手には鋭く光を放つ剣を持ち構えている。
「父さん!」
ルパートもいつのま用意したのか腰の剣を引き抜く。少なくとも結婚式中はそんなもの持ってなかった。
「父さんどいてくれ!いくら父さんといえども、邪魔するなら容赦できない!」
悲壮な顔で剣を父に向けるルパート。リリーナはそれを祈るように見守る。
「笑わせてくれるわ若造が!貴様に剣を教えたのは誰だと思う!」
「確かに剣は父さんに習った。だが俺は今日こそ父さんを越えてみせる!」
なんでこの人たちはこんなに燃えてるのだろう。
「老骨とは言えまだまだお前などに負けはせん!いくぞ!」
そう言って侯爵さまは剣を振りかぶって飛び掛り。
「ぐはっ」
途中で倒れた。
「すまない父さん!こんなこともあろうかと痺れ薬を朝食に仕込んでおいたんだ!」
「恋の道は肉親にも非情なのね…。」
戦いの無情さに涙を流すリリーナ。
「いや!そんな準備する時間あるなら普通に婚約解消しようよ!なんでそこだけ用意周到なのかな!?私まちがってるかな!」
さすがに私は切れる。
「マリア…。」
あ、やっと反応してくれた。
「すまない、君のことを愛してなかったわけじゃない。ただ俺の中でリリーナが一番大切な人だっただけなんだ。」
だめだ、こいつ話が通じなねぇ…。
「行きましょうルパート!」
「そうだね!二人だけの新たなる道へ!」
脱力感に襲われた私は、手を繋いできらきら光を発しながら去っていく花婿とその恋人をただただ見送った。
後に残されたのは花嫁姿の私と、ぴくぴくと痙攣するレオナルドさま、茫然とする参列者たち。そして脂汗を流しながら成り行きを見守っていた父さまが司祭に問いかける。
「あのぉ…こういった場合、離婚することになるんでしょうか…。結婚成立してなかったことに出来ませんかねぇ…。」
離婚暦が付くと貴族社会では、嫁ぐときの条件がさらに厳しくなる。
私も不安になって司祭を見る。
司祭はぽかんとしていた表情を一変させ、荘厳な顔つきになると静かに両手を上空に掲げた。
ごくりっ
教会に集まったみんなが息を呑む。
ばってん
「アウトー!」
手を頭上で交差させた司祭の声が高々と教会に響き渡り、私の家族たちが失意の体勢で床に膝をつく。
なんかもうどうでも良くなってきた。
そんな訳で私は、結婚して10分ぐらいでばついちになった。
いろいろ終わったあとで友人がぽんっと肩を叩いてなぐさめるように言ってくれた。
「まあ、処女捧げなかっただけ良かったじゃん。」
それはフォローになっていない。
***
それから一年ぐらいたった頃。
こんこんこんと自室のドアがノックされ、返事をするまもなく母さまが入ってきた。
「もう、マリア。たまには外に出ないと、体悪くするわよ。」
うちは大した家系じゃないので母さまはちょっと裕福な庶民の出だ。着てるものはそれなりのものだが、行動は貴族らしいところがなくおばさんじみている。
今も侍女に任せることなく、私の部屋のカーテンを自分でぱっぱとあけていく。
正午の太陽の光が差し込んできた。
「まぶしい…。」
私が文句を呟くと、眉をひそめて小言を言ってきた。
「引きこもってるからそんな風に感じるのよ。ちょっと散歩でもしてきなさい。」
あれから私は引きこもりになっていた。別にルパートが駆け落ちしたことはそれほどショックではなかった。彼らの行動があまりにもぶっとびすぎていたから。ただ趣味の読書以外は花嫁修業に費やしてきた自分の人生やら、結婚式で許婚に逃げられた外聞の悪さやらいろんなことがあって、ここ一年はほとんど外出もせず怠惰に過ごしていた。
手に入れた書庫から持ってきた本を開いてベッドに座ってる私をみて、母さまはため息を吐くとぽんっと右手に持っていたアルバムの束を私のベッドの上に置いた。
「侯爵さまがお見合い相手を探してくれたから良さそうな人見繕っておきなさい。もうすぐ20歳でしょ。本当に貰い手がなくなっちゃうわよ。」
私はそれを見ていやそうに眉をしかめる。
「もう結婚はいいでしょ。侯爵家にぶっといパイプ作ってあげたんだから。」
ルパートの駆け落ち事件から一週間後、呆然と故郷に戻った私たち家族に侯爵家から招待状が送られてきた。内容は私の婚姻の件でお詫びをしたいということだった。
みそっかす子爵家の私たちにとって、侯爵家嫡子との婚約というのは千載一遇のチャンスだった。その話が破談になったからには、何らかの補填がほしいのは確かだった。だが同時に相手は侯爵家、馬鹿な要求などをして機嫌を損ねると我が家なんてあっという間に没落してしまう。
結局相手の出方に添い、手に入れられるものだけでも確保しようというのが我が家全員一致の意見だった。
そして家族とともにたどり着いた侯爵家の門、何度か訪れたことがあるが私たちの家とはまるで違う。まわりに広大な庭が広がり、その中心にまるでお城みたいな大きさの綺麗な家が建っている。
案内役の老齢の執事に連れられ、石畳の道を歩く。だんだんと緊張してきた。
そして家の前まで来ると、執事についてきていた侍女が豪勢な装飾がされた扉を両側から開ける。
扉の向こうの光景を見た瞬間、私たち家族は固まった。
「「「「「「「「マリアベルさま、この度は本当に申し訳ありませんでした」」」」」」」
そこには侍女や使用人、侯爵家にいる人間の全員が集まって一斉に土下座していた。
一番前にいるのは当主のレオナルドさまとその妻エレナさまだ。周りには侯爵家の家族や親類が。もちろんみんな土下座している。
「………」
私たち家族は絶句するしかなかった。侯爵という身分の人に土下座され気の弱い父さまが青い顔をして倒れそうになってるのを、母さまが支えている。
そのまま30秒ほど頭を床につけていた侯爵は、立ち上がると熱い涙をながしながら私の手を握り締めてきた。
「マリアくん、本当にすまない。不肖の息子がかけた迷惑を、いったいどう君にお詫びしたらいいのか。謝っても謝りきれない。」
「い…いえ…。」
やりすぎです。なんてとてもじゃないが言えない。
「あなた、気持ちはわかるけど、こんな場所で話すなんて失礼ですわよ。ちゃんと客間に案内しなければ。」
「ああ、そうだな。君たち来てくれたまえ。客間でじっくり話そう。」
レオナルドさまは流した熱い涙をぬぐいながら、使用人に檄を飛ばす。
「最高級のお茶と茶菓子を準備せよ!我が侯爵家総力をもってもてなせ!手を抜いたものは明日の朝日を見れぬと知れ!」
「いえ…そんな風に歓待されましても…。」
とびだしてきた物騒な言葉に青くなって小声で言う父。だがレオナルド様の耳に入った様子はない。
そのまま大量の執事と侍女にぞろぞろ連れられて客間へと通された。
侯爵家夫妻と、私たち家族は向かい合うように座った。
「さて、今回の息子の蛮行を止めきれず、マリアくんには非常に申し訳ないことをした。改めて謝罪をさせてくれ。」
「いいえ。あまりお気になさらないでください。侯爵さまのせいではないですし、ルパートにも事情があったのだと思います。」
ルパートに共感するところなどまったくないが、侯爵さまにここまでされてこれ以上文句を言えるはずもない。
レオナルドさまは私の言葉を聞くと、目頭を押さえ呻く。
「くぅ、なんといういい子なんだ。それをあいつは…。」
「あなた…ちょっと…。」
侯爵夫人にたしなめられ、レオナルドさまはハンカチで涙をぬぐい視線を戻した。
「ああ…、すまない。今回の件で、マリアくんや子爵家に多大な迷惑をかけてしまった。それについて我が家からできるだけの補償をしたいと思う。」
それを聞いてほっとする。あれだけ壮大な謝罪をされたのだ。こちらからは何も言えない状態だった。もともと幸運で転がり込んできた結婚話とはいえ、うちとしてはちょっとぐらい得しときたいというのがみみっちい本音だった。
「まず我が家が所有するクルーデ金鉱を譲渡しようと思う。」
「ぶほっ」
紅茶を含んでいた父さまが、あわてて右を向いてそれを噴き出す。
クルーデ金鉱は世界第3位の産出量を誇る金鉱だ。その価値たるや、何千億は軽く越す。補償とかとは異次元の話である。
「ごほっごほっごほっ」
咳き込んで何も言えない父さまにかわり私があわてて断りを入れる。
「い、いえ、そんなものとてもじゃないですが」
受け取れません。と言おうとすると。
「わかっているとも!こんなものじゃ君の受けた痛みをぬぐい去ることはできないってことは。もちろん、これだけで済ますつもりなど毛頭ない!これは、君たち家族に迷惑をかけたお詫びだと思ってくれ。」
熱くこぶしを握りしめた侯爵の叫びにかき消される。
いえ…もう離婚の補償とかいうレベルじゃないので受け取れないという話なんですけど…。
「今回君は息子のせいで、未来の侯爵夫人という立場を失ってしまった。」
そういえばそうだったと思いながら、私は落ち着こうと紅茶を一口含み。
「だから君が良ければ、私の妻として迎え侯爵夫人になってもらおうと思う!」
「ぶほっ」
噴き出した。
「ごほっごほっごほっ」
「確かに年の差はある。だが私なりに精一杯、君に満足して貰える夫となるよう勤めるつもりだ!」
立ち上がり握りこぶしを作りながら、大きな声で宣言する
「ちょ…ちょっと待ってください。奥様はどうなるんですか。」
私は青くなりながら侯爵夫人のほうを見る。おしどり夫婦として有名な侯爵夫妻の絆に私のせいでひびがはいったら、一生罪悪感に襲われ、周りから後ろ指を差されかねない。
すると侯爵夫人は、侯爵とまったく同じ格好ですくっと立ち上がる。
「大丈夫よ!私もあなたの侍女になって精一杯サポートするわ!あなたを立派な侯爵夫人にしてみせる!」
「絶対にやめてください!」
使命感に燃え上がる侯爵夫婦に、身分の差も忘れて私は叫んだ。
ばたんっ
私の叫びとほぼ同時に、客間の扉が開いた。
「そうです!さすがにマリアさまとレオナルドさまではお年が離れすぎです。」
「やっぱり夫婦は年が近いほうがいいに決まっている!」
現れたのは私たちより一年前に結婚した、侯爵家次男ジュラートさまとその妻エリーさまだ。
「ルパートさまが失踪された以上、侯爵家を継ぐのはこのジュラート!」
「ジュラートならルパートさまよりマリアベルさまにお年が近い!」
「「ここは私たちが離婚を!」」
「それも絶対に絶対にやめてください!」
ぜぇ…ぜぇ…。
息の会った会話で離婚を申し出てくるジュラート夫妻にまたも叫ばさせられた。遠慮していると侯爵家ゆかりの夫婦が離婚しかねない。心労と叫びすぎで息が切れた。
「くぅ、確かに誰かと代わりに結婚してすむ問題ではなかった。」
「私たちが浅はかだったわね。」
「おいたわしいわ、マリアベルさま。机に臥せてしまわれて、やはり心の傷が…。」
突っ込みつかれただけです…。
「父上、マリアさまへのお詫びは、心の傷が回復なさった後にすべきかと。」
「うむ、確かに急ぎすぎたかもしれん…。」
状況認識は食い違ってるが、どうにか思いとどまってくれて、私もほっとひと息をついた。
「マリアくんへのお詫びは後日たくさんさせて頂こう。」
どっちかっていうと何もして欲しく無くなってきてるんですが…。
「今回の件で、我が侯爵家とあなたがた子爵家の間にできるはずだった繋がりがなくなってしまった。」
そう、実際ルパートとの事件での被害はそれくらいだった。下級貴族としては自分たちの地位を守る上でも、さらに栄えていく上でも上級貴族との繋がりは重要なことだった。
「そこでだ。」
レオナルドさまは視線を次男のジュラートに向ける。ジュラートはそれを受け取りこくりと頷く。
「このジュラート。侯爵家当主の継承権を放棄します。」
「なっ…。」
高らかな宣言に、再び私と父母の顔が青くなる。まだ何かやるつもりですか。
「そこでだ。リングくん。」
次に矛先が向いたのは、巻き込まれたくないとソファーの端で小さくなり気配を消そうとがんばっていた弟だった。
「は…はい…。」
自分に話題が向けられ青くなりながら返事を返す弟に。レオナルドはさまはにこにこと爆弾発言をぶちかます。
「どうだね。うちに婿養子に来て侯爵の地位を継がないかね。」
「ぶほっ」
お茶など口に含んでないはずだが、口から水分を噴き出し器用に咳き込む弟。
「ごほっごほっごほっ」
だが侯爵はまったく気にしてない。
「残念だがうちにはもう息子がいなくてね。私とジュラートがマリアくんに断わられた以上、血縁をつなぐ事ができない。君が良ければ長女のフィーナと結婚して侯爵の地位を継いでほしい。」
「い…いえ、僕は…。」
子爵家なら留学中の兄が継ぐから問題ないが、小心者のうちの家系がそんな話を受け入れられるはずがなかった、はずだったのだが。
「どれ、フィーナ!」
ぽんぽんっとレオナルドさまが手を打ち鳴らすと、「はーい」と可愛らしい声が聞こえドアが開かれた。
現れたのはふわふわした感じの可愛らしい美少女。亜麻色の髪は緩やかなウェーブを描き背に広がり、大きなつぶらな瞳は夢を見るようぽやっとしている。
「ギルバード家長女のフィーナと言いますはじめまして。」
その可憐な笑顔を見て弟の頬が赤みを帯びる。弟は家族以外の女に免疫がなかった。おまけにフィーナは弟の理想を体現したような女の子だった。
「フィーナ、こちらがマリアベルくんの弟のリングくんだ。近い将来お前と結婚しこの伯爵家を継ぐのだ。ご挨拶しなさい。l」
「え、僕にはちょっと荷が重いので辞退させてい」
あわてて断わろうとする弟だったが。
「まあ!不束者ですがよろしくお願いします!一緒にがんばりましょうリングさま!」
最後まで言う前に手を握られ、フィーナの笑顔を間近で見せられ。
「が…がんばります!」
真っ赤な顔で叫んだ。
「はっはっは、良かった良かった。」
ぱちぱちぱち
侯爵家のみんながほっとしたような笑顔で拍手する。私も他人事なのでとりあえず拍手しといた。父さまと母さまも侯爵家に逆らう気などないので拍手。
こうしてフィーナの笑顔にノックアウトされ心神喪失状態だった弟を置いて、みんなに祝福されながら我が家から未来の侯爵が誕生した。
その後の話し合いで金鉱の件はなんとか断わったが、世界第四位の銀鉱やらウェルスト地方の香辛料の独占交易権、魔法特許などが(半場無理やり)譲渡され、子爵家は一気にお金持ちになった。
帰り際に「困った事があったら何でも言ってくれ。我が家が総力をかけて解決しよう。」と言われ、私は今後、絶対侯爵家の人間には何も相談しないようにしなければと心に誓った。
そして、この親にしてあの子あり、私はルパートは間違いなくこの人たちの家族だと確信した。
こうしてここ一年で侯爵家の後継者を出し、おおきな資産を手に入れた我が子爵家はかつてない隆盛を誇るようになったが、それに反して父さまはげっそりやせ細った。侯爵家との間にできた巨大なコネクションから、隙あらば巨額の資産が送られてきて断わるのに心労を強いられているからだ。
ギルバード侯爵領では『マリアベルさまはこんなに健気で良い子伝説』などというものが伝播され、私がまるで偉人のごとく扱われているという。その中には古代の宗教と結びつき私を崇拝するマリア教なる良く分からないものまで出来たという。
侯爵家によると離婚によって下がった私の評判を回復する計画の一環らしい。もう絶対侯爵領には行かない!
そんな活動が子爵領にも伝播してきていて、離婚したことの噂も相まって私は極めて外に出たくない状況になっていた。
私が本好きだと聞いて侯爵家がプレゼントしてくれた最新の本が常に補給される書庫はありがたかったが、私のひきこもりにも拍車をかけた。
部屋の掃除を終えた母さまは、ベッドの上で変わらず本を読む私を一度あきれたように見ると、ため息をつき出て行った。
ぱっかぱっかぱっか、ひひーん
本に集中していた私の耳に早馬の足跡が聞こえた。なんだろう、と思ったが私への用事ではないだろうと思ってまた本に集中しようとしたところ。
「マリア!ちょっとマリアー!」
ばたばたと母さまが足跡を響かせながら私の部屋にかけてきた。扉をばたんと開けて入ってきた母は、珍しく満面の笑顔だった。
「あんた、これこれ!」
私宛てってことはまた侯爵家からのお見合いの誘いか。うんざりしながら、差し出してきた封筒を受け取るとそれは侯爵家からではなく、なんと王宮からの書状だった。
「なにこれ…。」
田舎の貴族の娘である私には王家に知り合いなどいなかった。不安になって尋ねてみるが、母さまはにこにこして知ってるみたいなのに答えてくれない。
仕方なく便箋を丁寧に空けると、中には一枚の書状が入っていた。
ながながと続くまどろっこしい文章を読み飛ばしていくと最後にこう書かれていた。
『子爵家令嬢マリアベルさまを我が国の公妾として招致します。』
「はぁ?」
意味がわからず、ついに顔を歪ませる私に母さまははしゃいだように答える。
「実はね。一ヶ月前に、王宮が公妾を募集してたのよ。それでまず書類選考するってことだったんだけど。それにあなたの資料を送ってみの。」
「それで…。」
「受かっちゃったみたいね。」
「アイドルのオーディションかー!」
私の突っ込みが子爵家の中に木霊した。
何故か3羽にして誰特の過去編突入。
一度書いただけだと会話とかうまくつなげられないので、後で時間があるとき修正していきます。すいません(ノд`)
実は2羽も修正しています。