表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

第1章:はじまりの視線

これは、

壊れていく瞬間を、ただ静かに見つめる物語。


触れていないはずなのに、

確かに心が揺らいでいく。


言葉にならない感情が、

少しずつ形を持ち始めて、


気づいたときにはもう、

元の自分には戻れなくなっている。


これは恋なのか、それとも――


まだ名前のつかない、

もっと曖昧で、危ういものなのかもしれない。


ただひとつだけ、確かなことがある。


それは、

“壊れるのは、わたしのほう”だということ。


どうか最後まで、見届けてほしい。

ここ…壊して……


そんな言葉が、ふと心の奥から零れた。


自分でも驚くくらい自然に、まるでずっと前からそこにあった感情みたいに。


ずっと気づかないふりをしていただけで、本当は、最初からここにあったのかもしれない。


静かに、確かに。

わたしの奥で、息を潜めながら。


気づいたときにはもう、胸の奥に深く根を張っていて、わたしの中の何かを、ゆっくりと侵食していた。


逃げる隙なんて、最初からなかったみたいに。


言葉にした瞬間、自分の中の何かが、確かに揺れた。


小さく、でも確実に。


取り返しのつかない方向へ、静かに傾いていく感覚。


音もなく、崩れていくような。


形を保っていたはずの“わたし”が、少しずつほどけていく。


あなたに見つめられるたびに、胸の奥がゆっくりとほどけていく。


固く結んでいたはずの何かが、するりと解けていくみたいに。


ほどけてはいけないものまで、ほどけてしまうような気がして。


それなのに。


止めようとする気持ちよりも、このままでいたいと思ってしまう自分がいる。


それは痛みではなく、どこか甘くて、逃れられない感覚だった。


じんわりと広がって、心の奥を満たしていくような、優しいのに、逃げ場のない感触。


苦しいはずなのに、どこか心地よくて。


拒まなきゃいけないはずなのに、なぜか、望んでしまう。


触れてもいないのに、言葉を交わしたわけでもないのに。


ただ視線が重なる、それだけで――


少しずつ、自分じゃなくなっていく気がした。


輪郭が、曖昧になっていく。


境界が、ほどけていく。


どこまでが“わたし”で、どこからが“あなた”なのか、わからなくなっていく。


溶け合うみたいに、境目が消えていく。


最初は、怖かった。


どうしてこんなふうになるのか、わからなくて。

どうしてこんなにも、抗えないのかも。


何度も目を逸らそうとした。


見ないようにすれば、きっと元に戻れると思ったから。


何度も、逃げようとした。


この感情ごと、なかったことにしようとした。


でも、そのたびに。


気づけばまた、あなたを見てしまっている。


探してしまっている。


無意識に、求めてしまっている。


抗うたびに、深くなる。


逃げるほど、近づいてくる。


距離はちゃんとあるのに、ちゃんと離れているはずなのに。


その瞳だけが、まっすぐにこちらへ伸びてきて、まるで見えない糸みたいに、わたしを引き寄せてくる。


絡め取られるように。


ほどけないように。


逃がさないように。


優しくもなく、強引でもなく、ただ抗えないかたちで。


静かに、確実に。


気づけば、逃げ場をなくしていた。


ねぇ。


どうしてそんなふうに見るの?


優しくもないのに、冷たくもない。


ただ静かに、確かに、こちらを捉えて離さないその視線。


揺らぐこともなく、迷うこともなく、ただ“わたし”だけを見ている。


まるで、何もかも見透かされているみたいで。


わたしの奥にある、まだ言葉にならない感情まで、全部、知っているかのように。


隠していたはずのものまで、すべて見つけられてしまうような。


触れられていないのに、一番深いところまで届いてくる。


だけど、不思議と嫌じゃない。


怖いはずなのに。


壊れてしまいそうなのに。


むしろ――


その中に沈んでいきたくなる。


深く、もっと深く。


戻れなくなるくらいまで。


逃げるよりも、委ねてしまいたくなる。


考えることをやめて、全部を預けてしまいたくなる。


壊れてしまうかもしれないのに。


自分が自分でいられなくなるかもしれないのに。


それでも、その瞬間がこんなにも甘く感じてしまうなんて。


どうかしてる。


でも、もう。


その“どうかしてる自分”すら、嫌いじゃなくなってきている。


本当は、わかってる。


このまま進めば、きっと元には戻れないってこと。


今までのわたしじゃ、いられなくなるってことも。


何も変わらない日常に戻ることは、もうできなくなるってことも。


全部、わかってる。


わかっているのに。


それでも――


目を逸らせない。


逸らしたくない。


あなたの瞳に映る自分を、最後まで見届けたくて。


壊れていく過程も、崩れていく瞬間も、全部、ちゃんと感じていたい。


ねぇ。


ちゃんと見てて。


わたしが、少しずつ崩れていくところも。


平気な顔をしていられなくなる瞬間も。


心の奥を隠せなくなる、その一瞬も。


どうしようもなくなってしまう、その先まで。


全部。


あなたに見ていてほしいの。


逃げないで。


目を逸らさないで。


最後まで、わたしを見て。


壊れていくのが、わたしでもいいなら。


それでも、あなたがそこにいてくれるなら。


きっと、この気持ちはもう止められない。


止めたくない。


むしろ――


もっと深く、沈んでいきたい。


あなたの瞳の奥へ。


どこまでも。


ねぇ――


ここ…壊して……


その言葉の意味に気づいたとき、もう戻れないところまで来ているのだと知った。


それは恐怖じゃなかった。


むしろ、静かな確信だった。


選ばれたような、逃げられないような、でもどこか、満たされるような。


この先に何があるのかはわからない。


でも、きっと。


あなたの瞳の中に、その答えがある気がして。


それでもいいと、思ってしまった。


壊れていくことも、変わってしまうことも。


全部、受け入れてしまえるくらいに。


わたしはもう――


あなたに、囚われている。


抜け出せない。


抜け出したくもない。


このまま、どこまでも。


沈んでいく。


崩れていく。


それでもいい。


最後まで。


その瞳に、見つめられたままで――。

ここまで読んでくれて、ありがとう。


きっとこの物語は、

まだ“はじまり”にすぎない。


壊れていくことは、

終わりじゃなくて――


変わっていくこと。


そして、

もう戻れないということ。


それでも、その先にあるものを

知りたいと思ってしまうのは、


きっと、もう抗えないから。


次はきっと、

もう少し近くなる。


視線だけじゃなく、

存在そのものが重なっていく。


そのとき、わたしは――


どうなってしまうのだろう。


もしよかったら、

この先も見ていてほしい。


壊れていく、その続きまで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ