第1章 : 01 - 始終島
「……これでよし」
地球とは別に存在する、もう一つの世界アプリケーションワールド。
その世界の中心にあると伝えられている巨大な丸い島。
名は――始終島。
だけど少年は、その島の名前を知らない。
四つの区域に分けられた島。
それぞれのエリアにそびえ立つのが、東西南北に位置する4つのシンボルタワー。
そのエリアの支配者を戦いで決める為の選別システム。
システムにより選ばれたモノが、王となる。
十六本のシンボルタワーに、四つのエリアの四体の王。
「……ごめんなさい。そして、おやすみなさい」
黒髪金眼の少年は、自ら建てた”お墓”に深く深く頭を下げる。
見渡す限りの緑で囲まれた森林エリア。
少年ことマレ=グランの周りに立つ鮮やかで美しい木々たちは、マレを見守っているかのように枝を小さく靡かせている。
背後に見えるのは森林エリアにそびえ立つ四つの内の一つのシンボルタワー。
「いってきます」
下げていた顔を上げて言った。
目の前にある”お墓”の中には、初めてアプリケーションワールドに来たときに少しだけだが共に過ご した仲間たちが眠っている。
――自分の過信が殺した、仲間たちが。
テッラとクリーン。
短い間だけど、楽しかった、ありがとうございます、おやすみなさい、ごめんなさい、そして、もう一度――行ってきます。
テッラとクリーン、ニ体と過ごした時間を否定しないために少年は前へと進む。
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同時刻。
砂漠エリアの中央に経たれた巨大な城。
その地下。
一体の少女と、その相棒が佇んでいた。
砂漠の王、紀之川愛心とラートだ。
周囲から自分たちを襲うと駆ける数百体のプロモン。
だけどニ体は、眉一つ動かさず微笑んでいた。
「王の首! 討ち取ったり!」
数体の素早いプロモンが愛心に爪を振り上げた瞬間、ラートが吠える。
獅子の咆哮!
その凄まじい叫び声は衝撃を生み、近づくプロモンを容赦なく吹き飛ばす。
「ラート」
「承知」
名前を呟かれ、返事を返す。
ニ体の会話はこれだけ成立する――。
刹那、ラートが消える。
と同時に強烈な暴風が、プロモン達を次々に襲う。
――烈風っ!――
風となりラートの猛攻に手も足も出ずプロモン達は全滅した。
「……つまんないな」
その場にあるのは、佇むニ体の影と、数百もある遺体。
「せっかく自分以外の人に出会えたのに、なんで殺っちゃったんだろう」
愛心は一人呟く、
「生かせておいて、リベンジして来るのを待てば良かった。アタシのバーカ」
彼女は知らない。少年ことマレが再びこの世界に降り立ったことを。
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窓も扉も換気口もない。真っ白な壁に真っ白な床と全てが白一色に染められた部屋。
白い部屋の中に少女は居た。
腰まで届く真っ白な髪に、白い瞳。
真っ白なワンピースをした、白い少女が。
「もうすぐです……」
彼女は、目の前にある四つの映像を見つめていた。
空中に表示された画面、エアーディスプレイに開かれた四つの映像。
一つ、マレが映し出されたモノ。
一つ、愛心が映し出されたモノ。
一つ、3人の少年少女が映し出されたモノ。
最後の一つが――。
「ごめんなさいです――。マレ、愛心」
四つめの画面に書かれた数値と、異物の映像。
それを見据えて、口元を吊り上げ呟く、
「もうすぐなのです」