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王妃にはなれませんでしたが、婚約破棄後に街を立て直したら評価が逆転しました  作者: 花守いとは


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第7話 誰も悪くない、という不具合

 王都の会議は、珍しく長引いていた。


「……で、結論は?」


 王太子レオンハルトが問いかけても、誰も即答しない。


 重臣たちは互いに視線を交わし、書類に目を落とし、また顔を上げる。その繰り返しだった。


「北部の穀物輸送ですが」


 財務官が口を開いた。


「予定より遅れています」


「理由は?」


「……調整中です」


 調整。

 その言葉が、このところ頻繁に使われるようになっていた。


「誰が調整している?」


 宰相が問い返す。


「それは……」


 財務官は、言葉を濁した。


 かつてなら、このやり取りはここで止まらなかった。

 誰かが自然と補足し、数字を整理し、代替案を出した。


 ――だが、今は違う。


「次の議題に移ろう」


 レオンハルトがそう言うと、誰も異論を出さなかった。


 だが、会議室に漂う空気は、確実に重くなっている。


 会議後、宰相が小さくため息をついた。


「最近、決まらぬな」


「人手不足でしょうか」


「いや……」


 宰相は首を振る。


「人はいる。能力もある。だが、噛み合っていない」


 その原因に、誰もが薄々気づいていた。


 だが、口には出さない。


 ――エリアナ・フォルツ。


 彼女の名は、意識的に避けられていた。


 数日後。


 王宮の廊下で、レオンハルトは足を止めた。


「……これは何だ」


 差し出された報告書を見て、眉をひそめる。


「地方都市リュネアの税収報告です」


「増えている?」


「はい。安定しています」


 それは、本来なら喜ばしい報告だった。


 だが、同時に別の書類が目に入る。


「こちらは、王都近郊の流通報告……減っているな」


「原因は、まだ特定できていません」


 レオンハルトは、報告書を机に置いた。


 不思議だった。


 大きな失策はない。

 誰かが怠けているわけでもない。

 それなのに、歯車がずれていく。


「……以前は」


 彼は、独り言のように呟いた。


「こういう数字は、もっと早く整っていた気がする」


 その夜、王太子妃候補セレナが訪ねてきた。


「お疲れのようですね」


「少しな」


 セレナは、柔らかな笑みを浮かべる。


「皆、頑張っています。ただ、意見が多くて」


「悪いことではない」


「ええ。でも……」


 彼女は言葉を選んだ。


「以前は、自然と話がまとまっていたような気がします」


 レオンハルトは、返事ができなかった。


 それは、彼自身が感じていた違和感でもあったからだ。


 ――誰がまとめていたのか。


 答えは、分かっている。


 数日後、宰相が意を決したように言った。


「殿下。フォルツ嬢に、連絡を取っては」


 レオンハルトは、わずかに目を伏せた。


「……今さら、戻れと?」


「補佐としてでも」


 沈黙が落ちる。


「彼女は、王妃には向いていなかった」


 レオンハルトは、そう言った。


「だが……」


 言葉が続かない。


 王妃には向いていなかった。

 だが、王都を回すには、確かに向いていた。


 その事実が、今になって重くのしかかる。


「連絡は、取ってみます」


 宰相の言葉に、レオンハルトは頷いた。


 だが、心のどこかで分かっていた。


 ――もう、同じ場所にはいない、と。


 その頃、リュネアでは。


 市場の灯りが、以前より長く点いていた。

 人々は立ち止まり、話し、笑い、明日の予定を語っている。


 執務室で、エリアナは書類に目を通していた。


「王都からの連絡です」


 ガイウスが、短く告げる。


「……そうですか」


 彼女は、表情を変えなかった。


「読むか?」


「後で」


 机の上には、街の今週の流通表がある。

 住民の生活に直結する数字だ。


「ここは、私が決める場所ではありません」


 いつもの言葉。


 だが、もう誰もそれを否定しない。


 王都は、誰も悪くないまま、少しずつ不具合を増やしていく。


 そしてリュネアは、

 誰かが静かに整え続けることで、確実に前に進んでいた。


 王妃にはなれなかった女は、

 今、確かに“必要とされる場所”にいる。

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