第49話 降りる宣言
翌朝の会議は、いつもより人が多かった。
商人会の代表。
倉庫責任者。
巡回兵の副官。
各区のまとめ役。
特別な議題があると、皆が察している。
エリアナは、席に着かず、立ったまま口を開いた。
「本日は、報告ではありません」
静かな声。
「宣言です」
ざわめきは起きない。
ただ、視線が集まる。
だが、それは確認の視線だ。
依存の視線ではない。
「本日をもって、私の最終確認権限を外します」
空気が、わずかに張る。
「今後、決裁は合議体で完結させてください」
ミーナが息を飲む。
「でも、それは……」
「必要ありません」
エリアナは穏やかに言う。
「昨日、確認しました」
倉庫の件。
自分がいなくても、街は回った。
「私の承認は、不要です」
沈黙。
反対は出ない。
不安も、強くはない。
ロルフが、腕を組んだまま言う。
「最初から、そういう街だ」
短い言葉。
だが、重い。
ガイウスは、口元をわずかに上げる。
「記録は?」
「残します」
エリアナは、机の端に置いた記録帳に触れる。
「設計の履歴は必要です」
「だが、決定は残さない」
「はい」
ミーナが、ゆっくりと頷く。
「……分かった」
その一言で、十分だった。
会議は、いつも通り次の議題へ移る。
南区の人員配置。
視察団の受け入れ日程。
誰も、彼女に確認を求めない。
それが答えだった。
午後。
執務室の机を整理する。
不要になった決裁印を、箱に入れる。
重みが消える。
ガイウスが、扉にもたれて言う。
「肩書が減ったな」
「ええ」
「怖くないか」
少し考えてから、答える。
「少しだけ」
「それでもか」
「それでも」
ガイウスは、それ以上聞かない。
夜。
記録帳を開く。
新しい頁に、ゆっくりと書く。
——《自分を外す》
それが、最後の設計。
王妃にはなれなかった。
けれど私は、
中心から降りることを選んだ。
それは敗北ではない。
完成だった。
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