第47話 決めないという選択
翌日の定例会議は、いつもより長引いた。
議題は些細なものだった。
南区の倉庫増設に伴う人員配置。
視察団対応の担当割り振り。
新規商団の受け入れ基準。
どれも、以前なら十分で決まっていた。
だが今日は、違う。
「……エリアナさんは?」
また、自然に視線が集まる。
意識的ではない。
ただ、効率を求めた結果だ。
彼女が言えば早い。
彼女がまとめれば揉めない。
それを皆が知っている。
エリアナは、ゆっくりと息を吸った。
「私は、決めません」
静かな声だった。
空気が止まる。
「担当で議論してください」
倉庫責任者が戸惑う。
「ですが、最終確認は——」
「不要です」
言葉を重ねる。
「私は記録だけします」
ざわめきは起きない。
だが、違和感はある。
議論は、少しだけぎこちなく進む。
意見がぶつかる。
譲歩が遅い。
沈黙が増える。
時間がかかる。
けれど。
「……なら、試験的に二枠増やします」
「反対は?」
「なし」
決まった。
以前より、遅い。
だが、確かに彼らの言葉で決まった。
会議後、ガイウスが廊下で待っていた。
「随分と時間がかかったな」
「ええ」
「楽じゃなかっただろう」
「はい」
正直に答える。
「お前がまとめれば、半分で終わる」
「分かっています」
ガイウスは、壁にもたれたまま言う。
「それでもやらないのか」
エリアナは、少しだけ考えた。
「やれば、また戻ります」
「どこに」
「中心に」
短い沈黙。
「……楽だぞ」
ガイウスが、静かに言う。
「皆が頼り、感謝する」
「はい」
「お前は必要とされる」
その言葉は、甘い。
だが、重い。
「必要とされることは、悪いことではない」
「ええ」
「だが」
エリアナは、窓の外を見た。
「必要とされ続けることは、構造を弱くします」
ガイウスは、口元をわずかに歪める。
「理屈だな」
「理屈です」
「感情は?」
一瞬、言葉が詰まる。
「……少し、怖いです」
「何が」
「楽な方に流れる自分が」
ガイウスは、何も言わなかった。
否定もしない。
慰めもしない。
ただ、事実として受け取る。
午後、ミーナが書類を持ってくる。
「この件、どうする?」
「あなたはどう思う?」
ミーナは、驚いた顔をする。
「え?」
「どう思う?」
「……私は、今は増やさない方がいいと思う」
「理由は?」
「人がまだ慣れてない」
エリアナは、ゆっくり頷いた。
「では、その案で」
「確認しなくていいの?」
「あなたが決めたなら、いい」
ミーナは、少しだけ胸を張った。
小さな変化。
だが、確かな変化。
夜。
記録帳に、また一行。
——《発言縮小:継続》
成功の副作用は、まだ消えていない。
だが、対処は始まっている。
王妃にはなれなかった。
けれど今、私は——
“決めない”という選択をしている。
それは、以前よりも難しい決断だった。
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