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婚約破棄されたので王都を出ましたが、なぜか辺境都市を立て直し、王都より発展しています。  作者: はねださら


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第46話 成功の副作用

 朝の城門前に、馬車が二台並んでいた。


 どちらも王都の紋章ではない。

 だが、装いは整っている。


 視察団。


 最近、増えた。


「リュネア都市運用の視察を希望する」


 使者は礼儀正しく頭を下げ、形式的な書状を差し出した。


 エリアナは受け取らない。


 受け取るのは、ガイウスだ。


「受け付けは商人会へ回せ」


「ですが、こちらは“設計者”に——」


「設計者はいない」


 ガイウスの声は短い。


「この街は運用中だ。見たいなら見ろ。説明が欲しいなら担当に聞け」


 使者は戸惑った顔をしたが、引き下がった。


 城門が閉まる。


 エリアナは、門の内側で静かに息を吐いた。


 王都から戻って以来、こういう訪問が続いている。


 王都で導入された制度は、周辺都市にも波及した。

 そして、その“起点”として、リュネアが参照される。


 参照されるのは、街の仕組みのはずだった。


 けれど——


「あなたに話を聞きたい」


 その言葉は、いつも自分に向けられる。


 執務室に入ると、机の上に書状が三通置かれていた。


 都市同盟から。

 近隣領から。

 どこかの商団から。


 文面は似ている。


 助言を。

 設計を。

 制度化を。


 エリアナは、指先で封蝋に触れた。


 重い。


 重いのは、紙ではない。


 期待だ。


 午前の定例会議。


 商人会の代表、倉庫責任者、巡回兵の副官、ミーナ。

 必要な顔ぶれが揃う。


 議題は小さい。


 南区の搬入枠の微調整。

 新しく増えた視察団への対応。

 予備倉庫の管理担当。


 以前なら、議論は素早く回った。


 今日も、回る。


 だが——


「……エリアナさん、どう思います?」


 倉庫責任者が、自然に言った。


 その瞬間、空気がわずかに止まる。


 視線が集まる。


 悪意ではない。

 期待でもない。


 ただ、習慣だ。


 “中心に聞く”という習慣。


 エリアナは、一拍遅れて答えた。


「……担当で決めてください」


 口に出してから、自分の喉が乾くのが分かった。


 言葉が遅れたことが、嫌だった。


 迷ったわけではない。

 ただ、反射で答えかけた。


 そういう自分がいたことが、怖い。


「担当、ですか」


 倉庫責任者が頷く。


「なら、今月は枠を一割増やして試します。問題が出たら戻す」


 決まった。


 議論は動いた。


 だが、動く前に、視線が自分に寄った。


 それが、問題だった。


 会議が終わり、ミーナが片付けをしながら小声で言う。


「お姉さん、最近……聞かれるね」


「……そうね」


「嫌?」


「嫌じゃない」


 エリアナは正直に答えた。


「でも、良くない」


 ミーナは首を傾げる。


「どうして?」


 エリアナは、窓の外を見た。


 街はいつも通り動いている。


 なのに——


「成功すると、人は中心を作りたがるの」


 ミーナは、理解できない顔をした。


 当然だ。


 中心がある方が、楽だから。


 責任を渡せるから。


 午後。


 商人会から報告が上がる。


 視察団が市場で「設計者はどこだ」と聞き回っている、と。


 ガイウスが苦笑した。


「面倒だな」


「はい」


「放っておけ」


「はい」


 短い返事をしながら、エリアナの胸の奥は静かに波立っていた。


 放っておけばいい。


 それは正しい。


 だが、放っておくには——


 自分が、目立ちすぎている。


 夜。


 執務室の灯りを落とす前に、エリアナは記録帳を開いた。


 新しい頁に、短く書く。


 ——《成功の副作用:中心化》


 筆を止める。


 王妃にはなれなかった。


 けれど今、別の形で“中心”に戻されかけている。


 それは、望んだ勝利ではない。


 むしろ——


 失敗の匂いがした。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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